艤装を召喚した時、その部分を服で覆っていた場合……ご想像にお任せします
シャボンディ諸島の事件から三週間後
「注文入ります!! 五番おすすめ六番エビチャーハン!!」
「1番料理あがったぞ!」
「持ってきます!!」
防空棲姫が給士をする。
どーも、知る人が見れば卒倒するであろう光景を作っている俺です。今、海上レストランバラティエで下っ端として無事に働いています。
太陽は東から上り西に沈む。これはワンピ時空でも変わらないようで。シャボンディ諸島から逃げた俺は大雑把にだがひたすら北に向かい続けることができた。
そしてぶち当たったのは、グランドラインの両端に存在するカームベルト(凪の帯)
そこは無風であり、ろくな準備も無しに立ち入ればたちまち巨大な海王類の腹の中に直行する危険地帯。
だがそれは、風を動力にしている帆船だからの話。最低でも20ノット以上は出せる内燃機関持ちで10センチクラスの砲があれば、一週間弱で突破は十分に可能であることを俺は証明した。
カームベルトを超え、その後も丸一日航海を続けていたが、短い休息は挟んでいたとはいえ、ろくに食べなかった空腹感、そしてそれ以上に航海中に蓄積された疲労からくる睡魔に逆らえずいつの間にか寝落ち。そして気が付いたら、バラティエの控室にいた。後から聞いた話では爆睡していたところを流されてきたと勘違いして拾われたらしい。
コック達は心配していたが、そこは防空棲姫クオリティ。特に体に衰弱など異常は見当たらず、いつも通りに動けたし、固形物の食事も滞りなくとれた。
「つまり、ここで働かせてくれと?」
「はい。最低限の接客は経験しています」
「……次の寄港まで下っ端としてこき使ってやる」
「はい! 頑張ります!」
その後、コック長のゼフとの話し合いをした結果、次の寄港までバラティエに置いてもらえることになった。
最早賞金首となって肩身の狭い思いをする羽目になるのは確実。なら情報が浸透していない今のうちに資金調達はできる限りしておきたい。なので期せずして一時的にだが働ける場所を確保できるのは大きかった。
バラティエ側から見ると、俺は見れば船も無く流れ着いた身寄りもない女性。見捨てられなかったのは男としてのプライド故かただのやさしさか。中身が男なので複雑な心境なのだが。
ようやく一息付ける場所を見つけて、あの時のことを心の隅に押しやって、精神も少しは冗談を言えるぐらいには安定してきて、慣れない接客業もだんだんと板についてきた。
だけど休みになれば、これは一時の平穏に過ぎないことという事実はのがれられない事実だって思い返してしまい、どうしても俺の心に影を落とす。
ここから離れた後、どうするか。
逃亡生活を続けることはもう決めた。インペルダウンには絶対行きたくないし天竜人の下にしょっ引かれるのはもっといやだ。ニコ・ロビンのような苦しい生活と天秤にかけたがやっぱり、そのような地獄よりは百倍ましだろう。
悩んでいるのは、もっと別のこと。
「海賊、か……」
原作の象徴である目の前のゴーイングメリー号を見て、つい先日、主人公がここに単身突っ込んできたことはまだ記憶に新しい。
原作に介入するか、否か。すなわち、麦わらの一味になるか、ならないか。
きっとそれは楽しいのだろう。漫画のように騒々しくて、自由で。
でもその裏には絶対、残酷、冷酷さがある。この手を血に濡らす覚悟がいる。そんなもの俺は持ち合わせちゃいない。
どこかで、押しつぶされる。絶対
だからと言って、孤独に逃げ続けるのもまた、辛さに負け破綻するのだろう。
「結局、なんも決められないな、俺……」
棲姫の体になる前からずっと、言われたとおりのことしかせずに、自分から動くことなんてほとんどしてこなかった。何かを成し遂げる気概も無く、ただ流されるだけ。こんなやつのどこに存在価値があるのだろうか?
「い、いや大丈夫。今の俺は防空棲姫だし、何かは絶対できる。多分」
悪い癖だ。とりあえず自分のことを卑下してしまうのは。とりあえずこうしておけば殊勝であると思われるから。そうしてるだけ。心からそう思ったことなんて、片手で足りる。けっこーテンプレな悩みだってこともわかってるが、実際問題悩んでるのだからしょうがない。
それよりも考えることはアレだ。ここが襲われる話の対処を考えるべきだ。
足は倉庫に向かう。掃除道具と一緒に乱雑におかれているのは、対賊用の武器類。
正直、あんまり覚えていない。
サンジが土下座してお別れ。ミホークとゾロが戦う。ミホークが船を三枚に下ろす。サンジがギンに殺されかける。ルフィがドン・何とかを倒して溺れかける。
これぐらいしか覚えてない。
でしゃばっていいのか? 原作を変えてしまったらまずいのでは? でも、優しくしてくれた、世話になったここの人たちが傷つくのは見たくない。
……また話がずれた。できることを考えよう。
まず、迎撃には参加するとして、俺には何ができる。怪力と装甲による制圧。そして砲撃による蹂躙。
だけど艤装は今使いたくない。燃料が逃走で底を突きかけている。弾薬も半分ほど消費した。一応燃料と弾薬はちゃんとした食料を摂取すれば、雀の涙ほどではあるが回復するらしいが、ここで使ってしまえば艤装はしばらく使えなくなるだろう。
サーベルを手に取り、刃を掌に載せて、少し引いてみる。
切れる気配はない。
もっと強く引く。
切れない。
―――大丈夫、怪我はしない
意を決して、思いっきり引く。
サーベルが使い物にならなくなった。対して、うっすらと、皮一枚が少しだけ切れていた。つーか、やっちまったやっべえ。
見つかりにくいように奥にしまって誰にも見られていないのを確認し、足早に倉庫から離れる。
この体は、指折りな防御力があるのははっきりした。尋常じゃない怪力もある。これらを駆使すれば、ある程度までは戦える、はず。
艤装が使えない時は肉弾戦による制圧しかない。だけど殴ったこともない俺にそれができるだろうか? 殴る直前でひるんでしまうようでは、それこそ足手まといにしかならないのではないか?
そうやってうじうじ長い間悩んで、原作も大事だが、やはりコックたちには恩があると、迎撃に参加することだけは決めておいた。
――――――――――――――――
「ルフィさん、あなた一体何回やったら気が済むんですかねぇ……!!!」
主人公と会話できるのは確かに嬉しい。がしかしこういう規則を守らない奴が現実となり、会話するとなると、腹立たしくてしょうがない。やはり二次元は二次元であるべき(確信)。いや逆なんだけどさあ。三次元が二次元にちょっかい掛けてるんだけど。これは俺が慣れるしかないのか?
そんなことよりも何故下っ端の俺が同じ立場のこいつをしかれるのか、コレガワカラナイ。
マジでこいつクビにしてくれゼフさん。その方が店回るから。
「セイキちゃん。ここは俺が厳しく言っておきますので、あなたはテーブルに行ってください」
「頼みました」
うしろからきこえるサンジの怒声を流しつつ注文を聞いていると、不意に窓の太陽光が遮られ巨大なガレオン船がバラティエの進路を遮った。
バラティエの進路を遮った。
直観で悟る。原作が始まったのだ。
ドンクリークが船を奪うと宣言し、コックのバティが食あたり砲弾を彼にぶち込んだ。それの報復にクリークは弾丸の雨を降らせた。
「大丈夫か? セイキちゃん」
「いや、大丈夫。だけど……」
原作の流れどおりなのだろう。この展開は。だが飛び散った血やコック達のうめき声は俺にとって紛れもなく現実だった。
「手当を……しないと」
死が、こんなに近くにある。
ああ、恐ろしい
昨日俺が決めた決意は、あっけなく揺らいでしまった。
もし、俺がこの展開を知っていれば回避できていたと思案してみる。
いやそもそも知らないんだから対処しようがない。バティの行動が突飛すぎた。対処は不可能だった。それに今はこんなことを考えている暇はない。手当を優先しないと。
客観的に見ても俺に止める術は無かった。そのはずなのに、謎の罪悪感が心を蝕んでいた。それが観測者の驕りみたいに思えてまた自己嫌悪に走ってしまう。
なんとかできないかなあ、これ
――――――――――――
クリークの船がミホークに輪切りにされて、その彼にゾロが挑戦する。
誰もかれもが一方的な剣戟を見ている中、濁った心のまま俺はずっとルフィを見ていた。
ゾロの攻撃が全く通じない。仲間が激昂してもそれを抑え、勝負がつくまで堪えて、ずっと目を離さなかった。
最後までゾロの野望の邪魔をせず、見届けた彼の姿は正しく船長なのだろう。
言われたこともやらないほど自由人で、だからこそ仲間の自由を侵さない。
うらやましいな、と思った。やりたいことをすきにやらせる。これは案外難しいことなんだろう。ああゆう部分はずっと俺より優れているな、と素直に羨ましかった。
険しい道だというミホークの言に、アッカンベーで知るかと一蹴し、やりたいことを貫き通すその姿勢を見て、なんかいろいろ考えてた俺が馬鹿みたいに思えてきた。
というか。いろいろ考えこむ思考自体が、この世界にはあってない。多分この考えでは生きていけない。
同時に、この鬱屈した思考も、彼といれば変えられるかもしれないとも思っていた。
ミホークの視線がこちらを捉えるまでは、そう楽観していた。
「三週間ほど前、シャボンディ諸島で天竜人が手首を吹き飛ばされた」
背中に冷たい棒が差し込まれるというのは比喩じゃないというのをどこか遠くで実感した。首元がいやにスースーする。
「その下手人はまるで幽鬼のような白い肌をしていたらしい。そしてその顔は……」
心臓がバクバクする。
「女。まさしくお前みたいなやつだったそうだ」
情報の伝達が、ついにここまで来てしまった。ミホークは俺が犯人だと思っている。
さっき立ち込めた血の臭い、そして死臭を今度は俺が出すんだ。
あ、だめだ。また思考がまとまらない。あの時と同じだ。なんていえばいい? どうごまかす?
だめだ口が上手く動かない。おしまいだ。
「待て。シャボンディ諸島だと? あそこはグランドラインの中にある島だ。こいつは二週間前からここで働いている。どうしてそんな短時間でイーストブルーにたどり着ける?」
「そうだてめえ適当なこと言ってんじゃねえぞ!」
ゼフのあり得ないだろうという否定の意を込めた質問に、周りのコック達が同調して声を上げる。
ごめんなさいたどり着けました。と心の中で否定したが、このまま押し切ってくれと期待して黙って成り行きを見守る。
このままミホークと戦うの俺? 無理無理無理だって(ベーイ)
「ふむ。確かにこの短時間でこのようなところまでたどり着くのは不可能だな。なら私の人違いなのだろう。手配書も似顔絵でしかないから多少人相が他と似通ってしまう時はある。忘れてくれ」
「……え、いや、はあ」
「お詫びの代わりとして、これをやろう」
ミホークは何かの紙を紙飛行機にして俺に飛ばした。
震える手の中に納まったこの紙飛行機を俺は開きたくなかった。だって予想が正しければ、これは……、
「これは……!?」
「……だよなあ」
これは俺の手配書なのだから。
改めて、俺の人生終わりました。
―――――――――――――
余りの狼狽えぶりに、コック達に室内に戻されてしばらく。
覚悟していたけど恐れていた事態。
もう、ここにはいられない。これから数多の理不尽との戦いだ。
日本の最低保証があるそれらに比べれば、底がないこっちの方がひどいのは明らかであるのはわかっていたが、何をしようが一生お尋ね者なのは変わらない。
行くところまで行き、落ちるところまで落ちた。手配書はその結晶。
確かに天竜人の右手吹き飛ばしましたけど! ……インペルダウン行きはないだろ。くそ
追い詰められていた。世界に。権力に。
天竜人の時だって、ぎりぎりまで選択しなかったからこうなった
今もそう、自分がどうしたいかで決めなかったから、ずっとうろたえてばっかり。
多分。これが最後だ。来るところまで来た。三度目の正直このまま座していれば、追い詰められて動くようじゃ、ほんとうに死んでしまう。
考えるだけでまあいいやではだめだ。自分から動かなければいけないんだ。
逃げて逃げて、逃げ続けて、その先に何がある?
一生責め苦を与えてくるのなら、一生それらをはねのけるんだ。
やってやる。やってやろうじゃないか。
どうするべきかではなく。どうしたいかを決めよう。
その為に、今立ち上がる必要があるならば、やるんだ。自分から勝ち取りに。戦う覚悟を決めないといけないんだ。
「なんだお前……っ?! うわあああああ!!」
例えばそう、怪我もいとわず、自分たちの居場所を全力で守る目の前のコックたちのように。
バラティエの甲板上でのクリーク団との戦い。
コックと海賊が入り乱れ、飛び交う怒号。急に、男の悲鳴がドップラー効果付きでそこに混じった。
一回なら無視されるだろう。しかしそれが二回、三回と派手な水しぶきと一緒に響くそれらは否が応にも全員の耳に入り、視線をそちらに向ける。
白い手が海賊の服をつかみ上げ、そのまま無造作に上空に放り投げ、海面に叩き落す。しかもそれが女で片手だ。
海賊たちは若干ひるむも、報復に剣を構え一斉に切りかかるが、そのことごとくは彼女に傷一つつかず、逆にあわせられてつかまれた剣は握力だけで折られ、男たちはボーリングのピンのようにまとめて吹き飛ばされる。
「ば、化け物だああああ!!」
「おいおいおいなんだよそりゃあ!?」
「すっげ~~~~な!! あいつあんなに強かったのかよ?!」
海賊たちは恐慌状態に陥った。コックたちも棲姫の怪力具合に恐れおののきあんぐりと口を開いている。ルフィだけはいつもの調子ではしゃいでいた。
棲姫にとっては予想通り。しかしながら初めて体験する類の視線に若干気恥ずかしさを感じていたが。
海賊たちの士気は衰え、彼女を避けるように後ずさる。
しかしそれは許されないことだと、新たに甲板に上がってきた男が反撃とばかりにコックのバティとカルネ二人を殴り飛ばした。
「バティ! カルネ! 無事か!」
ゼフが叫ぶ。それをかき消すように、大男は大きな嘲笑を上げる。曰く、鉄壁。だから無敵だと。倒れた二人にコックたちが駆け寄る中、その言葉に彼女は反応した。
「……じゃあそれ、試していいか?」
「ああいいとも、俺は過去61回の死闘を全て無傷で勝ってきた男だ」
無敵とおだてれば、一発ぐらい殴らせてくれるかな、と軽い気持ちだったのだが、まさかの大当たりと彼女は思わず失笑する。
尚も鉄板男は自分の勝利を疑わず高らかに謳う。これまで血の一滴も流したことがないと。無傷こその強さの証だと。
「まあ、ちょっと手加減して……」
その鉄板男の目の前に棲姫はこれまた無造作に拳を振りかぶる。男を軽々と放り投げ、剣を握りつぶした彼女には確信があった。この程度の鉄板なら、ぶち抜けると。
ドン、と円盤が爆発した。鉄板は砕け、拳がそのまま腹に突き刺さる。与えた運動エネルギーはしっかりと内臓に到達し、鉄板男パールは膝から崩れ落ち悶絶。
「うわっ!?なんで鉄が砕けるんだよ!くそ!」
ただの鉄メッキだったのか、それとも不純物が多かったのか、現代の鉄板を想像していた彼女は円盤が砕け散るという発想が無かったらしく。細かな破片が目を襲い、涙と共に目をこすっている。
海賊たちは恐怖した。もはやこいつにかなう奴は誰一人いないのではないかと。そして周りの状況を危険とも思わないその態度がグランドラインのトラウマを思い起こさせる。
だがそれこそが隙だということに気付くものもいた。
「そこまでだ」
「あ、ギンてめえ!」
サンジが気が付いた時には、ゼフが人質に取られていた。ようやく目のごみが取れた棲姫も遅まきながら状況を理解する。
折れるどころか、粉砕された士気。だが首一枚でつながった。
海賊たちとの戦いはまだ続く。
―――――――――――――
「船を降りろ? やなこった」
別に、楽勝気分でいたわけではない。寧ろ焦っていた。目つぶしされるとは思っていなくて。運よくすぐに目のごみが取れたと思えばこの状況。
どーみても戦犯ですハイ。マジすみません。
いや、あのほらあるじゃない? 自分以外が質問された時はすぐに答えわかるけど自分の番だと答えられないやつ。想像してもらうと今の心情はわかると思うんすよ、ハイ。具体的に言うと、やばいと分かってるけどテンパる程混乱してない。
というか、ギンって原作でもこんなことしたの? マジでどうしよう?
「ギン、その銃俺に向けろ」
「サンジさん、なんで」
サンジは頑なにギンの提案を蹴る。ギンはその意図がわからずただただ困惑する。
「そんなに死にたきゃ殺してやるよ、いぶし銀に」
そのやり取りを黙って聞いていたら、いつの間にか鉄板男が復活していた。
「やっべ流石に力抜きすぎた」
「動くなよ。店長の頭吹き飛ばされたくなかったらな」
うわ、むっちゃゲスな笑い方してる。こいつ嬲る気満々だな。
原作でサンジがボロボロになっていた理由がこいつのせいだと理解した。
勝ち誇ったように、ゲスな笑顔で脅しの条文を追加する鉄板。ふざけるなとも思いつつも、ゼフさんが撃たれるのは何としてでも避けなければならない。
只の真珠の殴打なら、大丈夫なはず。多分
それでも思わず顔を歪めてしまった。
「待てよ。無抵抗の女を殴ろうなんざ男の風上にも置けねえ野郎だ。こいよ。俺が相手になってやる」
―――やった、殴られずに済む、と悪魔が囁いて、
―――いやダメだろ。と理性がそれを嗜めようとして、
数瞬、黙ってしまって、全然足が動かなくなってしまって
どっちつかずのままサンジに前を譲ってしまって、
―――いいじゃないか、彼がやってくれると言ったのだから
―――俺がやったことだ。俺が受けるべきだ。
「超天然! パールプレゼントォ!」
サンジが殴られるまで、ずっと黙ってみていた。
派手にふっとばされて、頭から、口から大量に血を流している。
それでも尚、ルフィには手を出すなと厳命して、何もせずにただ柵にもたれて座り込んでいて、
―――馬鹿か俺は! さっき自分で決めたことも守れない阿呆なのか!
ゼフさんに怒鳴っているサンジに鉄板男がゆっくりと近づく。
行け! 行くんだ!! 行け!!!
「セイキちゃん?! 何してるんだ!?」
「パ~~ル、クロ~~~~~ズ!!!」
「ッ!」
ああくそ、
全っ然、痛くねえじゃねえか。
「な、何ィ?!」
まるで子供に殴られるように、軽い力で叩かれているような感触しかしなかった。
鉄板男はありえないとばかりに、再び殴り掛かってくる。なんども、なんども―――
だがその火力ではカスダメさえも入らない。こいつの攻撃では、この体に傷一つ入らない事を俺は確信し始めていた。
「うおおおおサービスパールいぶし銀プレゼントぉ!!!」
鉄板男は三メートルほど飛び上がって、頭の真珠を下にして落ちてくる。衝突の寸前、少し膝を伸ばした。
手の平で頭頂部を少し強くたたかれるぐらいの衝撃。伸びた膝はそれを吸収できず、だからこそそのままの衝撃が鉄板男に返跳ね返る。
前面は砕けたとはいえ、体には多数の重い鉄板を取り付けた状態でのダイビングに鉄板男の頭は耐えきれず、そのまま崩れ落ちた。
視線をギンに移す。引き金はまだ引かれてない。
うん、ちょっと調子乗った。ゼフさん人質にとられてるの一瞬忘れた。ごめん。
「セイキちゃん。大丈夫なのか?」
「ちょっと視界揺れてるけど、大丈夫ですよ」
笑いかける俺と対照的に、クリーク団の視線は恐怖に彩られていた。パールが遮二無二殴ってなお無傷。最早自分たちでは逆立ちしても勝てない相手がいる。それでもまだ士気が崩壊していないのはギンが人質を取っているから。
「それ以上近づくなよ」
――――――――――――――――――――
……下手に動けん
奇妙な悶着状態の中、俺は原作をなんとなく思い出していた
原作では、ボロボロのサンジとギンが一騎打ちをした後、ギンはサンジを殺せずクリークとルフィの一騎打ち。でルフィの勝利。
この状況を動かす案は思いついた。でもそれはとても自分勝手でなもので。自分からそれをしていいのかと躊躇してしまう。
サンジの過去は知っている。ルフィとクリークの力関係もわかっている。そして俺が異物であることも感じている。でもこれは逃げなのではないか。危険を二人に押し付けるだけなのではないか? その意識のせいでなかなか口に出せないでいた。
「セイキちゃん、後は俺らでカタつけます」
「え? でも……」
「これ以上レディに活躍されたら俺たちの立つ瀬がない。大丈夫ですよ。必ず勝ちます」
「そーだぞ! クリークは俺がぶっ飛ばす!」
「てめーは引っ込んでろ雑用!」
自分の悩みを見透かしたようにフォローを入れるサンジに背中を押されて、後から多分何もわかっていないだろうルフィに叩かれるように決意が固まった。心配するな、と満面の笑みで笑い、何の気負いもなく勝利を宣言したルフィに苦笑した。
「「後は任せとけ(してください)」」
「……了解。まかせました」
これは逃げなのかどうかわからない。でも、確実にゼフさんが救えるならば、やる価値はある。
「ゼフさんから離れるなら、俺はもう戦わない」
ギンの顔色が変わった。
意外にもコック達からヤジが飛ぶことはなかった。
そもそもとして、どうして俺がギンを攻撃できないか? それはゼフさんが人質にとられているから。じゃあどうしてギンはゼフを人質にとり続けるのか? それはそれ以外に勝ち筋が無いから。つまり俺を力づくで倒せる見込みが限りなく低いから、搦め手を使わざる得ない。
ならば、クリーク団に搦め手以外の勝ち筋を与えれば、状況は変わる。
「……いいぜ、乗ってやる」
「ドン!?」
「ギン。人質から離れろ」
ドンの命令により、解放されたゼフさんは何事もなくコック達によって室内に消えていった。
「じゃあ、バラティエは任せます」
「頭を上げてくださいセイキちゃん。元々これは俺らの領分。すぐに終わらせて飯にしましょう」
「おう、まかせろ!」
ゼフさんの後を追って、俺もレストランに入る。
原作は勝っていた。だから大丈夫、そう俺は思いこもうとした。でももし俺のせいで負けてしまったら? 不安で胸が張り裂けそうだ。
そうなったとき、俺はこの人たちになんと詫びればいい?
本当にこれでよかったのだろうか。何か致命的な間違いを犯してしまったような気がして。今からでも加勢に戻った方がいいのではと思ってしまう。
「何辛気臭い顔してんだ阿呆」
最初、それが激励だと気付けなかった。
「ただの給士がこの店守ろうなんて思いあがるなよ。あのクソガキも言っただろう。ここを守るのは
必死に噛み砕いて、ようやくそれがゼフさんなりの気遣いだと分かった。
少しだけ、心に平穏が戻ってきた。
戦いの結果は、原作と少し違って、
サンジvsギンとルフィvsクリークはどちらもこちらの勝利で終わった。
俺は勢いよく室内を飛び出し、サンジの後を追って海に落ちたルフィを助けに向かった。
――――――――――――――――――――
「この手配書はお前だと。そう言ったんだな。セイキ」
「はい。ゼフさん。今まで黙っててすみませんでした」
「……」
「その、もうここにはいられません。他の人達に迷惑がかかってしまいます」
「……」
「今までお世話になりました」
「これから、どうするつもりだ」
「何処かに逃げようと思いましたけど、サンジさん、いやルフィについて行こうと思います」
「そうか……給料だ。もってけ」
「え、……あ、ありがとうございます」
「サンジのこと、よろしく頼む」
「……、はい! 頑張ります!」