今日も元気にメゼポルタ広場からお届けします。【完結】   作:沙希斗

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これは前回の「苦しさの理由(わけ)」の続きのような話になります。

一万字超えはしませんでしたが、少し長いです。


【我が子】との再会

 

 

 

 ある日【ギルドマスター】に呼び出されたベナトールは、そこに案の定とも取れる人物が控えているを見付けて、密かに溜息を付いた。

 

 王族からの使者だったからである。

 

「察しが付いておるようじゃな、ベナトールよ」

「大方は、ですがね」

「では命令書を読み上げます」

 

 ベナトールは使者の足元に片膝を付いて頭を下げた。

 

「【大闘技場】で実験に使った【フルフル】と闘わせる故、【被験者】として最終仕上げを行うように。なお、装備については直々に話す故、【大闘技場】前の謁見室に来るように」

 

「承りましてございます」

「なんと、自ら直々に装備を決めたいと仰っておられるのか!?」

「私はただ【命令書】を持って行くように承っただけですので、内容や殿下の御考えまでは分かりません」

「ふむ……。ご苦労じゃった」

「はっ、ありがとうございます」

「ベナトールよ。あの御方が依頼の常連者だという事は分かっておるじゃろう?」

「はい。恐らく【退屈王子】様かと」

「ならばなるべく機嫌を損なわせぬようにの」

「心得ております」 

 

 

 取り敢えず狩猟に使うアイテムだけ準備して、使者に連れられて【大闘技場】へ向かう。

 ここは本来【モンスター闘技大会】に使うためのものなのだが、調教するハンターも入る事があるのでベナトールも何度も来た事がある。

 

「また会ったなベナトールよ。息災であったか?」

 【謁見室】で声を掛けた王族は、今日も貴婦人方を引き連れていた。

 

「ははっ! 殿下におかれましてもご機嫌麗しく――」

「堅苦しい挨拶は良い。そなたを呼んだのはな、育てた【フルフル】がそなたから出たものだという事もあるのだよ」

「では、共喰いさせて生き残ったものが、俺の【子供】だったと?」

「そういう事だ。でな、私が直々に装備を決める命令書を出したのはな、趣向を面白くしたいがためだ」

「と、仰りますと?」

 

「そなた、得意な武器は何だ?」

 

「【ハンマー】でございますが……」

「では、苦手な武器は?」

「軽い武器、ですかね……」

「ならば【太刀】を使うように。切れ味ゲージは緑のものとする」

「……。畏まりました」

 

「そなたが【ギルドナイト】などではなく、(まこと)に単なるハンターだと言うのであれば、例え苦手な武器であろうとも一通りは使えるはずであろう? それに得意な武器で闘わせるより苦手な武器で闘わせた方が見る者としては面白いではないか? 生き物が己の生を賭して戦う姿や、その肉体の躍動美は、金銀の輝きに値すると言ってよかろう。獲物の血と命をもって、その美しさに私を酔わせた者には、その美に匹敵する報酬を約束しよう。私を楽しませてみよ」

「恐れながら、そのお言葉では『討伐しても良い』と取れるのですが、【モンスター闘技大会】前に討伐してしまっては都合が悪いのではありませんか? 大会前の最終仕上げを行えとの御命令だったのでは……」

 

「これはしたり」

 王族は苦笑いした。

 

「確かにそなたの言う通りだな。つい熱がこもって『命をもって』などと口を滑らせてしまったよ。討伐されては困る。捕獲にしてくれ」

「了解致しました」

「防具はそうだな……。【フルフル】と対峙するのだから、やはり【フルフルシリーズ】にしてもらおうか。ただし頭は外すように」

「……承知致しました」

 

 

 命令通りに装備して【大闘技場】に降り立つ。

 王族と取り巻きの貴婦人方は、闘技場を見下ろすように作られている、観覧席でずらりと取り囲んで座っている。

 正面奥で鎖が巻き上げられた音がし、ゆっくりと白い影が現れた。

 【フルフル】好きの貴婦人方が、嬉しそうに声を弾ませながら談笑している。

 

 デカいな……。

 

 ベナトールは驚いた。通常のサイズより頭二つ分ぐらい上にある。キングサイズと同等、もしくはそれ以上はありそうだ。

 

「どうだ【我が子】との対面は? 随分と大きく育ったであろう」

 王族が自慢気に言う。

「大切に育てて頂いて、光栄の至りでございます」

 ベナトールは王族に向き直って見上げ、深々と頭を下げた。

 

「そんな事をしている場合ではないぞ。ほれ後ろ!」

 丁度王族の席が真後ろであったために、【フルフル】から完全に背を向けた形になっていたベナトールは、動きを読んで躱しつつ対峙した。

 

「ほぉ、やるなぁ」

 感心する王族と取り巻き。

 

 首を伸ばして噛み付こうとしたのを躱したのであるが、対峙しても再び同じように噛み付こうとする。余裕を持って避けるベナトールは、どうも噛み付く事に拘り過ぎなのではないかと思った。

 

「クク、やはり人間の味に飢えておるな」

 含み笑いをしながら、王族は次に衝撃的な言葉を発した。

「なにせ、餌代わりにこやつに死罪の者を処刑させていたのだからな」

 

「……!」

 

「クク、少し顔色が変わったな。どうせ死罪なのだから、一石二鳥ではないか?」

 王族は、楽し気に続ける。

 

「罪人の叫び声の響く様がな、実に耳に心地良いのだよ。大抵は泣き叫びながら丸呑みされるのだがな、中には逃げ惑う内に逃れて牙に捉えられ、体に穴を空けられてもがき苦しんだりだとか、強酸の唾液に溶かされて地獄の苦しみの内に呑まれたりだとかする者もいてなぁ。見ていて実に面白い。良い退屈凌ぎになる」

 

「…………」

 

「そなたはどのくらい持つのであろうなぁベナトールよ? なるべく長く楽しませてくれよ?」

 

 ベナトールは【殺気】を出し掛けて、寸での所で抑えた。反乱と取られかねないからである。

 

 

 呑み込むためにか、まず口だけで攻撃していた【フルフル】は、ベナトールを捉えられないと知るや体全体で圧し掛かって来た。

 これは通常種でもよくやる動作であるが、【我が子】の場合は違っていた。

 体全体に電気を纏わせつつ向かって来たからである。

 

 ほぉ、尻尾の吸着無しでも放電出来るのか。

 ベナトールは面白がって躱しつつ観察している。

 

 通常種ならば尻尾を地面に吸着させ、それをアースとする事によってのみ放電出来る。

 これは全身から放電する時だけでなく、ブレスを吐く時も同様である。

 恐らくこうする事によって自身に必要以上の電気を蓄積させないようにするためなのであろうが、【我が子】はどうやらそれ無しでもある程度は耐えられるようだ。

 

 通常種は脚への攻撃が弱く、ここに攻撃を集中させる事によってよく転ぶ。こいつはどうだとやってみると、簡単に転んだ。

 通常種より発達しているように見えるのだが、脚が弱い事には変わりないようだ。

 

 ならば動きを封じる目的もあるし、脚を狙っていくか。

 

 そう考えた矢先、相手が尻尾を地面に吸着させた。

 そう思うや否や放電が開始された。吸着から放電に移る時間が非常に早い。

 咄嗟に躱して放電終わりを待ち、終る直後に攻撃しようと斬り掛かると、時間差で一呼吸置いて一瞬電撃が放たれた。

 

「ぐおっ!?」

 通常では有り得ない攻撃を受けて、跳ね飛ばされるベナトール。防具が上位強化された【フルフルS】などではなく下位仕様の【フルフルシリーズ】なので、食らうとかなりキツイ。

 

 起き上がると、こちらを向いた【フルフル】が、地面に尻尾を吸着させながらゆっくりと首を反らせた所だった。

 

 バチュンッ!

 

 案の定電気ブレスが襲い掛かり、それを転がって躱す。

 だが三方向に向かうはずのブレスは、なんと五方向に飛んで行った。

 

 おいおい五連かよ。たまげたな。

 

 仕留め損ねたと思ったのか、相手は悔し気に吠えた。

 その耳を劈く大咆哮は、怒り時でもないのに鼓膜を破かんばかりであった。

 

「うるせえぇ!!!」

 

 耳を塞ぐタイミングで躱したベナトールは、まだ首をもたげて叫んでいる相手の脚に連撃を加えた。叫んでいる途中でひっくり返り、もがく【フルフル】に畳みかける。

 

 まだ鼓膜がジンジンしている。これは〈高級耳栓〉どころか〈超高級耳栓〉クラスだなと彼は思った。

 

 【HC(ハードコア)クエスト】に出て来る【特異個体モンスター】は、総じて通常種で通じるスキルより、一段階上のスキルを身に付けなければならない場合が多い。

 【フルフル】の場合は〈高級耳栓〉のスキルが無いと咆哮を防げないので、【特異個体】の場合は〈超高級耳栓〉となる訳だ。

 ついでに余談だが、【リオス科】などに代表される【飛竜種】の【特異個体】の場合、〈風圧(大)無効〉のスキルで済むものが〈龍風圧無効〉まで付けなくてはならない。羽搏きが【古龍種】並みの風圧になってしまうのだ。

 

「……! 流石にこの咆哮だけは慣れぬな」

 王族と取り巻きは両手で長い間耳を押さえた後に、それぞれで顔を合わせて苦笑いした。

 

 何度か斬っている内に、急に立ち止まった相手が頭を下げ、ハァハァと荒い息を吐き始めた。

 よく見ると口の端から電気が漏れている。怒り時に行う仕草である。

 

 【フルフル】という【モンスター】は、このように怒りを素直に大咆哮として表すのではなく、感情を抑えるかのように静かに息遣いだけで表すため、それを知らない者は怒った事に気付かずに、「なんかいつもより手強くなったな~~」などと思いながら強力な攻撃を受けて初めて怒っていたのに気付く、という塩梅になったりする。

 

 感情を抑える点がなんとなく自分に似てる気がして、ベナトールは口の端を持ち上げた。

 

 怒っても素早くなるだけで攻撃方法は変わらないようなのだが、放電の範囲が増えたりブレス途中や終わりに一瞬だけ放電してみたりする様子。それらに気を付けながら攻撃を加えていたベナトールは、正面に踏み出した相手が同時に首を伸ばして噛み付こうとした速さに、付いて行けなくなった。

 

 それは『斬り下がり』の硬直を狙っていたかのような攻撃だった。

 

 横に払いながら下がる【太刀】特有のこの攻撃は、下がった直後にどうしても一瞬だけ硬直してしまう。

 だが攻撃と回避を兼ね備えたものなので大概は相手の攻撃範囲外に逃れており、従っていかに硬直しようとも相手の動きを読めさえしていれば、安全地帯にいる事が出来るのだ。

 

 が、今回は相手が狙っていたかのように攻撃直後に踏み込み、その上に首を伸ばして来たため、硬直が解けても回避が間に合わないタイミングだった。

 

 【太刀】はガード出来ない武器なので、回避が出来なければまともに攻撃を食らってしまう。なので、この場合はまともに体に穴を空けられるはずだった。

 

 上から見ていた王族は、ついにベナトールが致命傷を与えられる瞬間に立ち会うのを見逃すまいと、椅子から体を乗り出して覗き込んだ。

 そして、ベナトールが回避を試みようとする事もせず、焦る様子も見せずに不敵に笑って微動だにしていないのを見て、死を覚悟して受け入れるものだと思った。

 

 が、【フルフル】の口が彼を捉える事はなかった。

 

 彼の体に穴が空く事も無く、なんと逆に【フルフル】の方が、下顎から頬のあたりを切られて悲鳴と共に首を引っ込めたのだ。

 

 見ている者は、何が起こったのか理解出来ずに混乱した。

 今の一瞬でベナトールが何か攻撃をした事は間違いない。が、一切見えなかった。

 

 しかも正面にいたはずの彼は、いつの間にか無傷で顔の横に立っている。という事は攻撃を受ける前に回避したという事になるのだが、彼に回避(転がるかもしくは飛び退くか)する余裕は無く、攻撃を受けるしかなかったはずなのである。

 

「そそそなた、いったい何をした!?」

 驚愕して戦慄(わなな)く指で彼を差す王族に、ベナトールはニヤリと笑った。

 

「なに、簡単な事です。いわゆる『避け斬り』というものでしてね。攻撃を受ける瞬間に避けつつこちらも攻撃を当てる事によって、相手の攻撃を受け流しつつ攻撃に転ずる事が出来るのです」

 そう言われたが、誰も理解出来ないでいた。

 

 

 HR(ハンターランク)より上のSR(スキルランク)やGR(G級ランク)の資格を持つ者には、【ギルドマスター】から今までの攻撃方法とは異なる【型】を伝授される。

 武器には武器種ごとに攻撃方法が異なる独自の【型】が存在し、それは人間が【モンスター】を狩り始めた、いわゆる【モンスターハンター】なるものが誕生したその時から徐々に形を変えながら受け継がれて来たものである。

 

 ハンターの身を安全にし、なおかつ効率的に狩れるように考えられ、何度も練り直されて受け継がれて来たものは、基本的にはHRで使っている、要するに【訓練所】で【教官】に教わる【地ノ型(ちのかた)】と呼ばれる【型】になる。

 

 他のランク帯ではそれに加えてより強力な攻撃の出来る【天ノ型(てんのかた)】【嵐ノ型(らんのかた)】【極ノ型(ごくのかた)】が伝授される訳だが、取り分けGRになって初めて使う事が許される【極ノ型】においては、それこそ使用者が余程鍛えて無ければ逆に筋や骨を痛めるような危険な【型】なのだ。だからうかつに手を出せば体を壊して引退に追い込まれ、それどころか場合によっては二度と立ち上がれなかったり腕を動かせなくなったりしかねない程のものなので、使う側もかなりの覚悟がいるのである。

 

 つまりGR限定なのは、ハンター側がそれ程のものを使えるまでに鍛えられていると【ギルドマスター】が認めている証拠とも言えるのである。

 

 ちなみに【太刀】の『避け斬り』は、【天ノ型】から使える技である。詳しく説明すると、攻撃を受ける直前に見えない程素早く回避しつつ、真上に斬り上げる技になる。

 

 けっこう便利な技で、『避ける』事によってあらゆる攻撃を避けつつ攻撃する事が出来たりする。『斬り下がり』のような大きな移動がないので、その場に張り付きつつ攻撃出来る利点もある。

 通常回避する暇が無い時に、攻撃を当てられなくともただの回避としても使えるため、抜刀状態では大変助かる技なのだ。

 

 ただし紙一重で避ける関係上『避け』に移る無敵時間が通常の回避より短いため、かなりタイミングがシビアである。使いこなせない内は、避けるどころかまともに攻撃を食らってしまう。

 

 

「『避け斬り』が見えないならば、これは見えますかな?」

 次に披露した技は、まるで【ランス】の横ステップのように、斬りつつ横ステップする技だった。

 これは【太刀】でしか使えない【錬気】を錬る事によってのみ使える技で、【錬気斬り】の最中に放たれた【錬気】の勢いを利用して横ステップするものである。

 

 主に踏み込み位置がずれた位置調整に使うとか、抜刀のまま瞬時に攻撃範囲外に出るとかする時などに便利な技だったりする。

 

 『避け斬り』と違って、大きく移動するので同じ場所に張り付くには不利であるが、違う場所に移動して攻撃出来るため、上手く位置調整すると体を攻撃しつつ瞬時に尻尾に移動して狙うなんて事も出来たりするのだ。

 

 技の披露をしつつ攻撃している内に弱って来た様子なので、「では最後に大技を御見せしましょう」と、彼は相手に大きな隙が出来た時に、やや離れた場所からスッと【太刀】の切っ先を相手に向けて構えた。

 

 そのまま顔の横で曲げた腕を思い切り後ろに引き付け、ピタリと静止する。

 

 水面が鏡のように波紋一つ立っていない時のような、張り詰めてはいるが静かな空気に変わっていく。

 

 その雰囲気と静かに立ち上がって行く気迫に、思わず口を閉ざす観覧者。

 

 物音一つしなくなった【大闘技場】で、最大に錬られた【錬気】が、切っ先に徐々に集まって行く。

 

 次の瞬間、彼は大きく前に踏み込みつつ突いた。

 

 切っ先から【錬気】が解放され、刀身が振動しつつ体内を穿つ。

 相手は苦し気に叫ぶと、悶えながらひっくり返り、もがいた。

 

 【嵐ノ型】で使える『貫刺し(通称牙突)』と呼ばれるものである。

 

 これ以上攻撃すると死にかねないので罠を掛けたが、捕獲の要望が無ければもう一度見せても良いと彼は思っていた。

 

 

「いかがでしたかな?」

 苦手な武器を聞いてわざと指定し、防具もいつも着ている上位防具ではない上にかなり防御力が低い下位のものだったにもかかわらず、ベナトールが大した怪我もせずに技の披露までしてクエストクリアしてしまったため、見ている者は全員呆気に取られている。

 

「み、見事であった……」

 王族は、そう言うしかなかった。

 

「光栄でございます」

 ベナトールは畏まって深々と頭を下げた。

 

「仕上がりは、どうだ?」

 気を取り直して問うた王族に、彼はこう答えた。

 

「やはり通常種よりも、かなり強くなっております。攻撃方法も多少違って手強くなっておりました。通常種と同じ戦法では通用しないでしょうな」

「一度跳ね飛ばされていたようだが、そのせいか?」

 

「はい。通常ならば、放電終了直後は絶好の攻撃チャンスなんですがね。まさかあのタイミングで一瞬でしたがもう一度放電が来るとは思いもよりませんでしたよ。狙ってやったのか、それとも自身の電気の蓄積が通常種より大きいがために、放電解放が必要になるのかは分かりませんでしたが……。ですが、ブレスの時にも一瞬放電する事を考えると、後者の方かもしれませんな」

 

「なるほど。よく観察しておるものだな」

「【モンスター】の動きを把握するのはハンターの基本ですからな。そうしないと先読みして攻撃したり、避けたりなど出来ません」

 

 それを聞いて、冗談めかして王族は言った。

 

「そなたがあまりにも簡単に避けるものだから、期待が外れたわ。もう少し致命傷を与えられるなどして血みどろの死闘になるかと思うていたのに」

「御期待に沿えずに申し訳ありません。ですが、こちらも命が掛かっている以上、わざと食らうなどという見世物のような事はしたくはありませんので」

 

「相手が相手だけに、真剣勝負にならざるを得まいな」

 

「どの【モンスター】でもそうです。なにも【我が子】だから特別だったという訳ではありません。我々ハンターは『狩るか狩られるか』の世界に常に身を置いて闘っております。気を抜けば『狩られる』のはこちらの方ですからね」

 

「だから美しいのだよ!」

 王族は恍惚の表情になった。

 

「命と命のやり取り。己の命を賭して闘う様を見るのは、なんと美しい事であろうか!」

「お言葉ですが、【モンスター】はこの世界の『自然の理』に従って生きているだけでございます。それは我々【人間】も同じ事。『自然の理』には逆らえません。我々ハンターはその『自然の理』の中で、あくまでも人間の生態を脅かす場合にだけ【モンスター】を狩っているにすぎません。それ以外で密猟したり生態を脅かす程【モンスター】を狩り続けるような者は粛清の対象になり、そのために【ギルドナイツ】という組織があるのです。ですから退屈凌ぎに狩るためにハンターに依頼するなどという行為は、どうかおやめ下さいませ」

 

「言いおるな()()()()()()が。だが依頼は受けるではないか? 受けるハンターがいるならば、出しても問題なかろう?」

 

「ハンターは依頼を受けて狩猟する職業ですからね。狩猟の依頼があれば、それがどんな内容であれ受ける者はおりましょう。それが密猟ではなく、【ハンターズギルド】が正式に受け付けている依頼ならば尚更です。ですからなるべく遊びのような依頼は受けたくないと申し上げているのです」

 

「……。それは、『そういう依頼は出すな』という、私への命令か?」

 途端に周りが騒ぎ出す。

 

「とんでもございません! もしそう取られられたのであれば、平に平に御容赦頂きたく――」

「報酬は弾んでいるはずだ。金策には人気があると【ギルドマスター】から聞いておる。ならばそのような者にとっては必要な依頼なのではないのか?」

「確かに貴方様から頂ける【金銀卵】の報酬は高く売れ、大変魅力的でございます。それを目当てに依頼を受ける者もおりましょう。ですからなるべく『退屈凌ぎの遊び』としての狩りではなく、生態系を壊さない狩猟としての依頼をして下さいませ」

 

「ふむ……」

 

「【モンスター】にも命がございます。それは我々【人間】の命と何ら変わりはありません。生きとし生けるものの命は、全て等しく同じ重さです。決して蔑ろにして良い訳でもなく、一つとして軽いものはありません。ましてやそれを弄ぶなど以ての外です。どうか、それを御理解下さいますよう」

 

「……分かった」

 

 残念ながら表面だけの返事のだろうなと思いつつ、ベナトールは「ありがとうございます」と、深々と頭を下げた。

 

 

 




「我が子」のモデルは「特異個体フルフル」です。
今回は「フロンティア」専用の攻撃モーションである「型」の説明が入りましたので、少々説明臭くなったかもしれません。


文中に出て来る「退屈王子」というのは、実際に「フロンティア」で依頼を出して来る依頼主です。
そして彼のセリフ「生き物が己の生を賭して戦う姿や、その肉体の躍動美は、金銀の輝きに値すると言ってよかろう。獲物の血と命をもって、その美しさに私を酔わせた者には、その美に匹敵する報酬を約束しよう。私を楽しませてみよ」は依頼文に書かれてある内容です。

彼から貰える「金の卵(売値10000z)」「銀の卵(売値5000z)」は高値で売れるため、特に駆け出しハンターの金策にはランクに合わせて数種ある通称「金銀卵クエスト」は、大変助かるクエストでした。

ただし、今は他にも色々な金策クエストが出て来ましたので、彼の依頼は廃れていき、今では廃止になってしまっているようです。

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