今日も元気にメゼポルタ広場からお届けします。【完結】   作:沙希斗

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「モンスター闘技大会」があって「モンスター」をペット化出来るのなら王族貴族は狩りに使うのではないか? と考えて、こんな話が出来ました。


王族の嗜み

 

 

 

 【ギルドマスター】から【緊急クエスト】の依頼を受けた四人は、【森丘】に来ていた。

 

 なんでも近々【アルコリス地方(森丘として一部が狩場になっている所)】で王族貴族が【レウス狩り】を行うとの事で、その前に危険な【モンスター】である【イャンガルルガ】がいた場合の討伐(イャンガルルガはその地域に生息している訳ではなく、ただ闘う相手を求めて各地を彷徨うだけのモンスターであるため)もしくは撃退や、狩りを行う際に縄張りを追われる可能性のある【リオス科】の保護をする必要性が出て来たため、各上位ハンターに緊急依頼が出たのだ。

 

 【レウス狩り】といっても【リオレウス】を狩る訳ではなく、遥か東方の国で実際に行われているという【鷹狩り】のように、飼い馴らされた【リオレウス】を使って狩りを行う事を言う。

 

 王族貴族の嗜みとして、昔から行われている行事だそうな。

 

 

 

 【シルクフォーレの森】を探索し終えて危険な【モンスター】や保護対象がいないのを確認した四人は、【シルトン丘陵】に差し掛かった。

 よく【リオス科】の巣がある事の多い《5》に向かおうとした時、【リオス科】の威嚇の声が聞こえた。

 中に入ってみると、卵を抱えた【リオレイア】を護るように立ちはだかった【リオレウス】が、もう一頭の【リオレウス】を睨み付けて吠えている所だった。

 

「縄張り争いかな?」

「そうかもな」

「いや、もしかしたら今ある卵を潰して【レイア】を奪おうとしているのかもしれん」

 

 自分の子孫を残すために、今ある卵や雛を殺して代わりに自分が交尾を行う行為は、自然界では珍しい事ではない。

 大抵は雄のいない時を見計らって行うものなのだが、この雄はどうやら卵を潰す前に、帰って来た雄に見付かったらしい。

 お互いに威嚇し合っていた雄は、やがて間合いを取り合うように、相手を見据えながらゆっくりと回り始めた。

 一触即発の雰囲気に、手を出せないでいる四人。

 

 と、アレクトロがはぐれ雄と思われる方に、違和感があるのに気が付いた。

 翼の付け根に、目立つように装飾の付いたベルトが巻かれてあったからである。

 

「あいつ、飼われてんじゃねぇのか?」

「なに?」

「よく見てみな、翼の付け根」

「ホントだ。あのベルト、随分立派な装飾が施されてるね」

「なんか紋章付いてねぇか?」

「どれどれ……」

 

 よく観察していたベナトールは、驚いたように言った。

 

「オイあれ、王族の紋章だぞ!?」

「なんだって!?」

「じゃ、じゃああの【レウス】、王族のペットって事!?」

 ハナがそう言った矢先、【リオレイア】を護っていた方が怒りの咆哮を上げた。

「ちょっ、ちょっと! 止めた方が良いんじゃないの!?」

「だな! お前らちょっと待て!!」

 

 間に割って入ったアレクトロは、今まさに飛び掛からんとしている二頭に向けて、ある周波数で吠えた。

 意表を突かれたように急停止した二頭は、お互いに目をぱちくりしながらアレクトロを見ている。

 

 アレクトロが二頭と()()()()()()()と、《4》から入る入り口が急に騒がしくなった。

 

「ここにいたのかレーヴェ、探したぞ」

「でで殿下! (つがい)がおります、危のうございます!」

「ハンターがおるではないか。あの者らが狩るつもりでいたのであろう」

「それでも近付けば巻き込まれます! どうか御止まり下さいませ!」

 

 新たな侵入者に、今度は【リオレイア】が警戒の声を上げた。

『母さん! 静まってくれ』

 そんなような意味の声を掛けたアレクトロは、【彼女】が静まったのを確認して入って来た者を見た。

 

 やはり王族と近衛兵のようである。

 

「どうした? 畏まらずともさっさと狩りを続けるが()い」

 番に背を向けて兜を脱ぎ、片膝を付いている四人に声を掛ける王族。

「いいえ殿下、この番は狩りの対象ではありませんので……」

「んん? その声はベナトールか!?」

「――はっ!」

(おもて)を上げよ。他の者もだ。――おぉ見知った顔がおるな」

 

「お、覚えて頂き光栄でございますっ!」

 アレクトロは更に畏まった。

 

「随分勇ましい御姿ですな。【レウス狩り】が始まるのはまだ先だと聞いておりますが……」

「その前にな、ちと下見をしようと思ったのだよ」

 

 飼い馴らした【リオレウス】の顎を撫でながら、王族は言った。

 

「時に、随分とそこの番は大人しいようだが、そうなるようにそなたらが仕組んだのか?」

「仕組んだと言いましょうか、この者が話し合ったと言いましょうか……」

 ベナトールがアレクトロを示して言う言葉に、「どういう事だ?」と怪訝な表情の王族。

ベナトールが説明すると、「ほぉ、面白い」と興味を示した王族は、「どれ、話してみよ」とアレクトロを促した。

 

 アレクトロは緊張してギクシャクしながら立ち上がり、番の方を向いて一言二言鳴いた。

 それに答える二頭。

 

「なんと言ったのだ?」

「もももう少し大人しくしていろと……」

 それを聞いて、王族は愉快そうに笑った。

「さて、邪魔したようだから帰るぞ。来いレーヴェ」

 【レーヴェ】は短く鳴くと、王族の後を付いて行った。

『【レウス狩り】頑張れよ!』

 アレクトロが声を掛けると【レーヴェ】は首をこちらに向け、嬉しそうに鳴いた。

 

 

 王族と近衛兵が去って静かになったので、アレクトロは再び二頭と話し合った。【レウス狩り】の狩場になる可能性があったので、巻き込まれないように一時的に他の場所に移動してもらう必要があったためだ。

 といっても適当な場所に移せばそこにいる【モンスター】の縄張りを侵してしまうため、【レウス狩り】が終るまで親子共々【モンスター闘技大会】を管理するペット飼育場に預ける事にした。

 巣が空くと他の【モンスター】に乗っ取られる可能性はあったのだが、【レウス狩り】では大勢の人間と【リオレウス】が入るため、縄張りに入ってまで巣を乗っ取るものはいないだろうとの判断だった。

 

 と、話し合いの最中に慌てふためていて走り込んで来た者がいた。

「すす、助太刀を頼みたい!!」

 先程の近衛兵である。

 

「どうした!?」

「【シルクフォーレの森】で見えない【モンスター】に遭遇した! 【レーヴェ】が対応しているが、重傷を負った上に毒に侵されている。死なせてしまっては殿下に申し訳が立たん!」

「【リオレウス】がそこまでやられるなんて……! そんなに強い【モンスター】がいる気配は無かったはずなのに」

「今『見えない【モンスター】』と言ったよな?」

「あぁ。見えないのに攻撃されたり回復系のアイテムが盗まれたりするんだ。近衛兵の仲間もやられた」

「それって……!」

「【オオナズチ】だ。手強いから気を付けて狩るぞお前ら!!」

「了解!!」

 

 案内されて駆け付けると、《9》で【レーヴェ】が苦戦していた。

 《9》は通路状の地形になっていて狭いので、【彼】には余計に闘いにくい事だろう。

 

「殿下は!?」

「なんとか安全な所に避難していただいた」

「そうか。良かった……!」

「オッサン! 安心してる場合じゃねぇぞ。ハナ!!」

「了解!!」

 

 ハナがスキルを活かして近衛兵と【レーヴェ】を回復させ、取り敢えず近衛兵を逃がす。

 

『レーヴェ! こっちに来い!!』

 声を掛けて比較的広い《3》に通じる出口に【彼】を誘導させ、気配で【オオナズチ】も突進して来たのを感じて、【大剣】をかざしてガードする。

 見えないが、怒っている様子で吐息に声帯麻痺毒のガスが交ざっているので、それを目安に攻撃する。

 飛び上がりつつ吐き出す毒ガスは、それぞれで解毒したりハナに解毒してもらったりしながら対処した。

 

 時に【レーヴェ】の攻撃に巻き込まれつつ(笑)も、まずは角をベナトールが破壊し、続いて少し経ってから尻尾をカイが切り落とした。 

 これで相手は姿を消す事が出来なくなったので、【レーヴェ】も含めた全員で集中攻撃する。

 途中でアレクトロがブレスを食らって会話出来なくなったが、それぞれで判断して連携出来ていたのでまったく問題無かった。

 

 

「やはり、命と命のやり取りは素晴らしいな!」

 どこかで隠れて見ていたのか、討伐して剥ぎ取っていると王族がやって来た。

「そなたらの活躍で命拾いしたわ。レーヴェも死なずに済んだ。礼を言おうぞ」

 

「有難き幸せにございます」

 四人は足元にひれ伏した。

 

「やはり近衛兵では【モンスター】相手では役に立たんな。狩りの場合はハンターを雇うとするよ」

 苦笑いした王族に、近衛兵はその場で首を掻き切りそうな程の悲愴な表情をした。

 

「そんな顔をするな。そなたらにはいつも命を預けておるではないか。今回は相手が悪かっただけだ」

「おお、恐れ入りまするぅ」

「【モンスター】相手に私を護りたいならば、そなたらもハンターの資格を持たねばならんかもなぁ」

 意地悪そうな顔をする王族。

「そそ、その時は是非ともご指導をっ!!」

 足元にしがみ付きそうな勢いで言う近衛兵に、ベナトールは困った顔をした。

 

 

 

「オッサン、もう【教官】に就いた方が良いんじゃねぇのか?」

「……。寝言は寝てから言え」

「ダメっ! あたし以外の【教官】なんて、ぜっっったいに許さないんだからっ!」

「やっぱやめといた方がいいな。オッサンが【教官】だったら死人が出そうだ」

「案外教える時は優しいのかもしれないよぉ? こう見えて」

「あたしが教わった時は、けっこう優しかったわよカイ。こう見えて」

「へぇ、こう見えて意外なのな」

「……。お前ら『人は見掛けによらない』という言葉は知ってるか?」 

 

 

 王族と別れた後そんな事を話しながら【街】に帰ったら、【ギルドマスター】に呼び出されて「ようやった! 殿下が大変お喜びになられて特別に報酬を賜ったぞ」と、依頼されてないのに多めの【金銀卵】を貰った。

 いつも金策に困っているカイが大喜びしているのを見て、ゼニーに余裕のあるベナトールが、自分の分を全部譲る。

 

「ありがとう♪ 『人は見掛けによらない』ってホントだねぇ。こう見えて」

「意外に優しいとこあんだよなぁ、こう見えて」

「あら、いつもあたしには優しいわよ? こう見えて」

「お前らなぁ……」

 

 面白がってわざとやっているのがバレバレなのが可笑しくて、ケラケラ笑う三人。

 ベナトールはそんな三人に苦笑いした。




「レーヴェ(レーベ)Löwe」というのはドイツ語で「ライオン」と言う意味だそうです。
「リオレウス」と言う名前が「ライオン王」と言うような意味だと聞いたので、この名前にしました。

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