今日も元気にメゼポルタ広場からお届けします。【完結】   作:沙希斗

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「2(ドス)」時代もそうだったんですが、変わりもののイベントとしてやたらと小さいのに物凄く強い個体の出るクエストが配信される事がありました。
PSPでもそうだったので、もしかしたら他の携帯機や「ワールド」でもこんなクエストはあるのかもしれません。


小さな巨人

 

 

 

 変わった【イャンクック】を見掛けたので、調査して欲しい。

 そんな依頼を受けた四人は、【森丘】に来ていた。

 

 なんでもやたら小さかったという事なのだが……。

 

「それって、幼体なんじゃねぇのか?」

「普通はそう思うよな?」

「おう」

「それがよ、風圧とかブレスとかが通常より圧倒的らしいんだよな」

「どういうこったよ? それ」

「さぁ、オレにもよう分からん。とにかく調査して来るわ」

「おう、頑張れよ」

 

 出発前のハンターにそう言って見送ったアレクトロは、「俺らも行こうぜ」と、三人に促した。

 正直【イャンクック】ごとき一人で充分だと思ったのだが、一応名目は調査だし、それならそっちの方を請け負う事が多いオッサンにも来てもらった方が良いと考えた。

 となると、当然のようにハナも付いて来る訳で。

 でもって、カイも付いて来る形になる訳で。

 

 

 【ベースキャンプ】は【シルトン丘陵】に設えてあるので、そっちからまず調査する。

 地図の順番通りに《1》《2》《3》と調べて行き、《4》に差し掛かった時に、【そいつ】はいた。

 

 草原の真ん中に佇んでいる【そいつ】は、遠目ではピンクの点に見えた。

 

 近付くにつれて【イャンクック】だと分かったが、あまりにも小さいので呆気に取られる。

 生まれたての雛かとも思ったが、それならばもう少し翼が未発達なはずだし、そんなに幼い幼体が巣から離れて出歩くはずがない。 

 そもそも幼体が一頭でいるのもおかしいし、親が付いていないのも不自然だ。

 

 なんだ? こいつ……。

 

 明らかに違和感があるその個体に警戒心を抱いたアレクトロが、恐る恐る近付こうとすると、そんな空気を思い切り吹き飛ばすような声が響いた。

 

「か、かんわいぃ~~~♪」

 ハナである。

 

 彼女は目をキラキラさせ、飛び出すハートが周りに見えるかのような仕草で駆け寄った。

「お、おい気を付け――!」

 注意する間も無く、抱きかかえようとした彼女が急に吹っ飛んだ。

 

「きゃあぁっ!!」

「なにっ!?」

 悲鳴と驚愕の声が重なる。

 

 当然真っ先に彼女の元へ駆け付けたのはベナトールである。

 

「おい、何があった!?」

「いたた……。よく分かんないけど、たぶん尻尾で跳ね飛ばされたみたい……」

「気を付けろ馬鹿者。うっかり近付くからそうなるのだ」

 彼女が無事だと知るや、密かに安堵の溜息を付きつつ強い口調で言うベナトール。

 

 だが、無事を確認するまでは狼狽していたのをアレクトロは見抜いている。

 

「だってぇ……」

「いくら可愛くても相手は【モンスター】なのだぞ? 舐めていたら痛い目を見るのは当たり前だろうが。それに【こいつ】は普通の幼体とは明らかにおかしい点がある。それを気付きもせずに警戒心も無く安易に近付くとは何事だ」

「ごめんなさい……」

 

 しょぼんとなったハナに、「ふん」と鼻を鳴らして彼は背を向けた。

 だが、さり気なく彼女を護る位置にいるのはアレクトロにはバレバレである。

 

「ペイント出来ないよぉ」

 そんな声がして振り向くと、カイが一生懸命【ペイントボール】を当てようとして失敗し、何個も無駄にしていた。

 通常サイズより遥かに小さいため、非常に当てにくいのだ。

 

「お、当たった♪」

 何個か目でようやく当てる事に成功し、喜びの声を上げたカイは、直後に青褪めた。

 彼の正面に向いた【イャンクック】が、ブレスを吐いたからである。

 

「うわわっ!?」

 大慌てで回避した彼であるが、着弾したブレスを見て戦慄した。

 通常よりもかなり広範囲に爆発したからである。

 

「なんだこいつ!? いやにブレスがデカくねぇか!?」

「そのようだな……」

 二人の男も驚いていてる。

 

 とにかく攻撃してみようと向かって行くと、相手は飛び退った。

 その風圧がいやに強くて、煽られた者が尻餅を付く。

 飛び退った【イャンクック】は、そのまま真っ直ぐに連続でつつきながら向かって来た。

 

「ぐうっ!!」

 ガードしていたアレクトロは、途中で崩されて食らってしまう。小さ過ぎて致命傷になる頭や胴は免れたが、太腿の肉をごっそり持って行かれて倒れ込みつつ悶えた。

 

 ハナがすかさず【生命の粉塵】をかける。

 

「……さんきゅ……」

 呻きつつ立ち上がったアレクトロは、後は自分で回復した。

 

「たまげた攻撃力だな」

「あぁ、このサイズじゃありえんダメージだ。正直ビビったぜ」

「風圧といいブレスの規模といい、なんか規格外の強さだね、こいつって」

「ふむ、調査の対象になるのも頷けるな」

「どうするよ? このまま野放しにしてたらまずいんじゃねぇのか?」

  

 ベナトールは顎に手を当てて少し考えると、「捕獲するか……」と呟いた。

 

「出来るかな……?」

 自信無さげなカイ。

「まあ駄目元だ。討伐しちまったらしたで良い。捕獲出来たら研究機関が喜ぶだろうと思っただけだ」

「うし。ならなるべく捕獲の方向で頑張るぜお前ら」

「了解~~」

 

 

 それぞれに攻撃を加えようとする四人だったのだが、とにかく小さいのでお互いに干渉し合い、上手く行かない。

 

「オッサン! 吹っ飛ばすんじゃねぇよ!」

「あんたこそ切り上げないでよねっ!」

「ちょ、カイ危ねぇって! 切り払いすんなよ!」

「アレクだって切り払いしないでくれよ!」

 

 そんなふうにぎゃあぎゃあ騒ぎながら攻撃を加えていくと、体力自体はそんなに無かったらしい小さな小さな【イャンクック】は、早々に耳を畳んだ。

 慌てて【痺れ罠】を設置したカイであるが、案の定【捕獲用麻酔玉】を外して焦っている。

 

 アレクトロも加勢したものの……。

 

「ちょ!? 当てられねぇ」

 二人で何発か外して、なんとか罠から脱出される前に当てる事に成功した。

 

 

 後で聞いた話であるが、あまりにも攻撃力が高い個体だったのもあって、医務室送りになったハンターもいたという。

 噂では捕獲に成功した者の中にはペットに出来た者もいたという事だったが、その真相は定かではない。




「フロンティア」では特別サイズのやたらと小さい、もしくはやたらとデッカイ「モンスター」を捕獲出来た者がペットに出来る権利を与えられる事があります。
ので、期間限定のクエストで捕まえたその「モンスター」を、「モンスター闘技大会」に出場させて自慢出来たものでした。

「モンスター闘技大会」自体が(今でもその施設が残っているにもかかわらず)忘れ去られていますので、わざわざペットにするハンターもいなくなってしまいました。

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