今日も元気にメゼポルタ広場からお届けします。【完結】   作:沙希斗

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ふと思い付いて書いた未来編。

しょうもない話になったのに、少し長いです。


おじいちゃんと一緒(未来編)

 

 

 

 ハンターとしての基本を【教官】にみっちり教え込まれ、【訓練所】を卒業した僕は、少しでも早く一人前になりたくて、自分に出来る依頼があるならなるべく受けてフィールドを駆け回っていた。

 【教官】が付いてくれるのはHR1の間だけなので、それ以降は一人でなんとかするしかなくなるのだ。

(つまりHR2になると卒業扱いになる)

 

 HR2あたりで狩る事が出来る【モンスター】は、ドス系と【イャンクック】ぐらいなんだけど、取り分け僕は【ドスファンゴ】【ドスガレオス】【イャンクック】に苦戦しまくっていた。

 

 【訓練所】で知り合った仲間も(飛び抜けた才能の持ち主以外は)似たり寄ったりで、だから僕は先輩方に付いてもらいながら、どうにか立ち回りを覚えようと四苦八苦していた。

 

 そんな中、久しぶりに【あの人】と出会った。

 

 

「よぉ小僧、久しぶりだなぁ!」

 ハンターになってから会った時には朧気な記憶しかなかった様子の【あの人】は、今度はちゃんと覚えてくれていた様子で向こうから声を掛けてくれた。

「べべベナトールさん!?」

 急に声を掛けられたのと、憧れの人にまた会えたのとでビックリし、素っ頓狂な声を上げてしまう。

 

 そんな僕を見て、彼は可笑しそうに笑った。

 

「元気にしてたかぁ?」

「はい! お陰様で」

「まだ死んでなかったのは、何よりだ」

 そんな事を言われてどんな顔をして良いか分からずにいる僕を、嬉しそうな目で見ながら屈み、頭をポンポンしてくれる。

 

 照れ臭くて赤くなっていると、「おいそこのジジイ!」と言う声がした。

 

「ガキ相手に虐めてんじゃねぇぞ」

 

 ムッとした表情で振り向くベナトールさん。

 でも本気で怒ってはいないようで、腕を組んでニヤニヤ笑っている相手に向かってこう言った。

 

「相変わらず口の悪い奴だ。虐めるなぞと人聞きの悪い事を抜かすな。見ていれば分かるだろうが」

 そうして、「しばらくぶりじゃねぇかアレクよ」と言った。

 

 相手は青い髪の目立つ、彼と同じ褐色の肌をしているおじさんだった。

 彼には劣るけど、この人もかなりの筋肉がある体付きをしている。

 そして横にはおばさんと呼ぶのは失礼な程の、綺麗な女の人がいた。

 二人共立派な甲冑を身に付けているとこを見ると、どうやらこの人達もハンターらしい。

 

「あぁ、二人で【剛種】に行った以来だな。腰はもう良いのか?」

「馬鹿にするな。あれは不可抗力じゃなくてたまたま腰にダメージをだな……」

「避け損ねたのはあんただろうが。動き鈍ってんだから無理すんなって言っただろ? いい加減自覚しやがれ」

 

 彼は唸ったけど返事はしなかった。自分でも分かっているのだろう。

 

「もぅアレク! あんまりベナを虐めないであげて。こう見えて意外に傷付きやすいんだから」

「……。ハナよ。その言い方の方が傷付くんだが?」

 

 GRを制覇した最高ランクの人に向かって「ベナ」なんて呼んでるこの人って、どんな偉い人なんだろう!?

 

「……ほらぁ、この子が引いてるでしょぉ? あなた達のせいですからねっ!?」

「いや思いっきしお前のせいだと思うぞ」

「うむ」

「なんでそうなるのよぉ!」

「まぁまぁ落ち着けハナよ。ますます小僧が引いておるぞ?」

 

 今度は「ハナ」と呼ばれた女の人が唸った。会話からして三人共仲が良さそうに見えるんだけど、狩り仲間なんだろうか。

 

「そういえば坊や、この人知ってるの?」

「ハナ、確かにまだガキだが、『坊や』と呼ぶのはちと可哀想だと思うぜ?」

 不思議そうに聞いて来たハナさんに、「アレク」と呼ばれたおじさんが突っ込んだ。

 

 ありがとおじさん。一応区別してくれて。

 

「アラごめんなさいね。じゃあどうしようかしら……。ボク?」

「いやそれも変わんねぇから」

 

 そんなやり取りを無視し、ベナトールさんが発言した。

 

「ホレ昔、【街】に数頭の【クシャルダオラ】が襲って来た事があったろう」

「あぁ、【錆クシャ】迎撃した時か? 【古龍】が【街】を襲う事はそんな珍しい事じゃねぇけども、あの時はやたら数が多かったよな。だから印象深かったよ」

「そうその時の話だ。それで俺は小さな小僧を助けて医務室送りになったんだが――」

「しばらく動けなかったんだよねぇベナ。ベッドに縛り付けられてさ」

「動けば骨がずれるんだから、あの場合は仕方ねぇだろ」

 

「そそそんな大怪我だったんですかあぁ!?」

「全身複雑骨折。と言っても、この人の場合は三日目で結束バンドが取れたがな」

「ごごごめんなさいっ! 僕のせいでそんな酷い怪我させてたなんて知りませんでしたっ!!」

「そんな土下座までして謝る必要はない。俺は当たり前の事をしたまでだ」

「そうだよな。俺だってそうしたもんな。当時同じ立場だったら」

 

「って、そう言う事は、あの時ベナが助けた男の子が、あなたって事!?」

「あ、はい。そういう事です」

「へぇ~~~っ。偶然の出会いってあるものなのねぇ~~~!」

「そうかお前らは偶然になるのか。俺は二度目だがな」

「三度目ですよ、ベナトールさん」

「いやハンターになってから、という意味でだよ」

 

「やっぱハンターなのかお前。【ルーキー】シリーズ着てるから、もしやとは思ったんだがな」

「はい。見ての通りに【訓練所】を出たばかりのルーキーです」

 

「あの当時に一度だけ、両親に連れられて医務室に来た事があってな。……まぁ一度だけだったのは俺がそれきり会わなかったからという理由があるのだが……。とにかくその時に『ハンターになる!』と宣言されたのだよ。そうしたらその通りになりやがったんで、正直たまげたわ」

「なるほど、根性あるじゃねぇか」

「どっちみち憧れていましたからね、ハンターには」

「【教官】厳しかったろ?」

「はい、凄く……」

 

 そんな会話が弾んでいた中、ベナトールさんが急に真面目な顔を作り、確信を突くみたいにして、こう言った。

 

「ところで小僧よ。顔が暗かったようだが、何か悩みでもあるのか?」

 

 GRになったら人の心まで読めるようになるのだろうか!?

 

「はい。実は立ち回りの事で悩んでおりまして……」

 心底驚いたけど、僕は素直に答えた。

 

「ふむ。HRは?」

「まだ2です」

「なるほどな。卒業して【教官】が付かなくなるのはちと辛かろう?」

「はい。苦手な【モンスター】がいて、いつも苦戦してるんです」 

「苦手って、【イャンクック】とか?」

「そいつもそうですけど、【ドスガレオス】とか【ドスファンゴ】とか……」

「まぁ、誰もが通る道だわな」

「だなぁ、俺も【訓練所】では【ドスファンゴ】には泣かされたもんだ」

「あなたがですかぁ!?」

「そこまで驚かんでも……。俺は完璧な人間ではないぞ? 今でもヘマをする事はある」

 

「たまに【クーラードリンク】とか忘れるよな。この前なんか――」

「それ以上抜かすと【ノリコネバッタ】で口塞ぐぞアレクトロ」

「虫を潰して塞ぐなんて可哀想。せめて【ネンチャク草】にしてあげて」

「そういう問題じゃねぇと思うんだが。ってか止めろよ!」

 

 ホントに仲良いんだな、この人達って。

 

「……ゴホン。どれ、見てやろうか?」

 空気を変えるように咳払いしながら言った言葉に、僕は驚いてしまった。

 

 だって、だって憧れてる人に「見てやろうか」って言われたんだよ? 聞き間違いじゃないよね!?

 

「ほほ本当ですかっ!?」

「うむ。嫌でなければ、だが」

「嫌なもんですかっ! むしろ感激ですっ! あなたに、あなたにどんなに憧れてそれを目標にしていたか……! その方に見ていただけるなんて、これ以上の嬉しさはありませんっっ!」

「大袈裟ねぇ、なにも泣かなくてもいいじゃない」

「それ程嬉しい事なんだろ。気持ち分かるぜぇ? 男なら惚れるもんなぁ」

「ですよねっ!?」

 

「やだアレク、あなたやっぱりホモだったのぉ!?」

「『やっぱり』って何だよおめぇ、ホモならお前の体に興味なんか湧かねぇだろ? 昨夜だってぐぇっ!?」

「ひ、人前で何恥ずかしい事言ってんのよぉっ!?」

 

 あらら真っ赤になっちゃった。可愛い人だなこの人。おばさんだけど。

 

「相変わらず仲良いのぉお前ら」

「まぁ託された身としては、あんたの代わりに護らにゃならんからな。アッチの方もぐほぉっ!?」

「だからやめてって言ってるでしょおっ!?」

 

 ハンターの力で思い切り肘鉄食らわされて、よく死なないねおじさん。そのための筋肉なのか?

 

「託したと言っても同行中は譲らんつもりだがな」

「その点は弁えてるさ。あんたの護りには敵わん」

 

 ハナさんって、よっぽど大事な人なんだねぇ。

 

「よし小僧。何から行く?」

「なら、【ドスファンゴ】でお願いしますっ!」

「武器は? 【片手剣】か?」

「いえ、【双剣】で」

「ふむ。承知した」

「爺さん、【ドスファンゴ】ならうちのガキも連れてってくんねぇかな?」

 

 え? んじゃこの人達夫婦なの!?

 どうりでイチャイチャしてるわけだ。肘鉄を何度も食らわされるのが愛情表現だというのはちょっと変わってる気がするけど。

 

「いくつになった?」

「十二だな」

「もうそんなになるのか……!」

「まだ早いんじゃないの?」

「『見せる』ぐらいならそろそろ良い頃だろ。【片手剣】の扱いには慣れてきたんだし」

「そうねぇ……」

「どうしても心配だと言うなら俺も付いてってやるから。あぁ俺と離れたくねぇってんならその分夜にぐぉっ!?」

「行ってらっしゃい♪」

「おめぇなぁ、満面の笑みで肘鉄かますんじゃねぇよぉ」

 

 ホント頑丈な人だねこの人。てか日常的になってるみたいなのがむしろ凄い。僕ならとっくにアバラが折れるか内臓破裂してるぞ!?

 

 

 少ししてハナさんが呼んで来た男の子は、栗色の髪に褐色の肌、薄茶色の目をしていた。

 

 肌の色だけアレクさんに似たみたいだな。目の色は両方の遺伝子が交ざったのか?

 

「ほれ挨拶しろ。この人に会うのは初めてだろう?」

「兄ちゃん、よろしくな」

「うん初めまして。よろしく」

 

 ためらいもせずに手を差し出されてこっちの方が戸惑いながら握り返す。

 物怖じしないんだね。大人でもたじろぐ迫力のある、ベナトールさんで慣れているからなのかな? 

 

「んじゃ行って来るわ。留守番頼む」

「行ってらっしゃい。二人共気を付けてね」

「お出掛けのチューをぐぇ!?」

「あんたはこれで充分よっ」

「つれねぇなぁ、ならその分夜にぐほっ!?」

「さっさと行って来なさいっ!」

「へいへい」

 

 ……仲が良い事で。

 

 

 

「じいちゃん、今日はどこ行くの?」

 

 竜車に揺られながらの道すがら、男の子が聞いた。

 

「【密林】だ」

「なぁんだ、【密林】なら父ちゃんといつも行ってるよ」

 

 ベナトールさんは男の子に目線を合わせ、ゆっくりと噛んで含めるように話し始めた。

 

「同じ【密林】でもな、今日はちいっとばかし危険な所に踏み込むのだ。今まで採取に出かけていた所は怖いのは【ランポス】とか【ヤオザミ】ぐらいだったろう? 今日はもう少し奥のな、【ドスファンゴ】がいるエリアに入る事になる」

「【ドスファンゴ】って、【ブルファンゴ】の親玉なんだよね?」

「そうだよく知ってるな。【ブルファンゴ】には会った事あるのか?」

「うん。でっかくて早くてしつこいんだよアイツ。【片手剣】じゃ中々倒せなくて困ったよ」

 

「【ドスファンゴ】はな、それよりもっとデカくて強い」

 

「えぇ!? そんなの勝てっこないよぉ」

「安心しろチビ助。お前は遠くで『見てる』だけで良い。今日は『見る』のがお前の役割だ」

「『見る』だけでいいの?」

「そうだ。だがただ『見る』だけじゃいかんぞ? 相手がどう動くか、戦闘中にどういう攻撃をして来るか、そして闘っているハンターがどう立ち回るかをしっかりと『見て』おく事だ。いつか相手に出来るようにな」

「分かった」

「良い子だチビ助」

 

 優しく笑って頭をポンポンするベナトールさん。二人共兜を着けてないから表情が見えるのは良いんだけど、どれだけ余裕があるんだろこの人達。鎧もかなり軽そうな素材のものに着替えてるし。これだけ甲殻や金属部分が少ない鎧って、相当防御力薄いんじゃないの? そんな裸に毛が生えたみたいな軽装で大丈夫なの!?

 

「さて小僧」

「は、はいっ!」

 

 急に僕に向き直ったベナトールさんは、先程とは打って変わって真剣な表情になっていた。慌てて返事をする僕を見る目は、元々強面だからけっこう怖い。

 

「一切手を出さんから、まずはお前だけで立ち回ってみろ。どうしても危なければ助けてやる」

「わ、分かりました」

「まぁ死ぬ事はねぇだろうが、あまり食らうとダメージもそうだが大きな隙になる。気を付けな」

「は、はい。頑張りますっ!」

「そう気負わずとも良い。緊張は筋肉の硬直を生む。無理かもしれんが今の内になるべくリラックスしておけ」

「はい」

 

 その頃に【密林】に着いたので、僕は大きく深呼吸し、【ドスファンゴ】の縄張りに入って行った。

 

 

 目指す【ドスファンゴ】は《5》にいたんだけど……。

 

「ありゃ【ブルファンゴ】の巣窟になっとるな」

「しゃあねぇな、こいつらは俺らで片付けるか」 

「僕もなるべく参加しますっ」

「お、オレも頑張るっ」

「お前らはなるべく無理せんようにな」

 

 【ブルファンゴ】を片付けている間にも【ドスファンゴ】は突進して来るので、怖いったらない。薄い防具で飛ばされてもへっちゃらな様子の二人を尻目に、僕らはぎゃあぎゃあ言いながら逃げ回ってしまった。

 

 全滅したのを見計らって三人が離れて行ったので、僕は覚悟を決めて【ドスファンゴ】と対峙する。

 白い体躯には迫力があり、それが真っ直ぐに向かって来る様子はけっこう怖い。

 

 突進中は吹っ飛ばされるので逃げながら攻撃するしかないんだけど……。

 

「遅い! さっさと追い掛けんか!」

「はいぃ」

「馬鹿者踏み込み過ぎだ、もう少し手数を考えろ!」

「うぅ……」

「ほらまた飛ばされた。早く避けんか馬鹿者が!」

「す、すいませぇん……」

「避けたらすぐ追い掛けろ。さっさとせんか馬鹿者がぁ!」

 

 腕を組んだまま仁王立ちして怒鳴るベナトールさん。

 【教官】を彷彿とさせる姿に、僕は気圧されっぱなしになった。てか迫力ある分【教官】より怖いんじゃないのか?

 

「じいちゃん怖いよぉ」

 ほら男の子怯えちゃってるじゃん。

 

「戦闘になったら命懸けになるからな。怖くもなる。あいつ見てたら下手こいたら痛い目見るのは分かるだろう?」

「うん」

「だからよく『見て』おくんだ。いつ攻撃すれば安全か、攻撃した後で余裕で避けられるタイミングはどこか、攻撃を食らって跳ね飛ばされても、どの隙に回復すれば安全なのか……」 

「分かった父ちゃん」

 

 僕、もしかして反面教師になっちゃってる?

 

 

 ベナトールさんはどうも、手取り足取り教えるタイプではなく、『死んで覚えろ』タイプらしい。

 だからあまりアドバイスはしてくれないみたいだ。

 でも怒鳴る口の端々にヒントが隠されていて、少しずつだけど立ち回りが分かって来た気がする。

 

 翻弄されるように見えたこの【モンスター】は、早い突進に付いて行けなかっただけで、付いて行けさえすれば攻撃パターンは単純だから、攻撃チャンスはあるんだよね。

 二人の持っている重い武器と違って【双剣】は武器を出したまま走れるんだから、二人の武器より手数が稼げるはずなんだよ。

 

 でも【鬼人化乱舞】をする暇がないなぁ。あれが【双剣】の最大の見せ場なのに。

 

「不満そうだな小僧。見せ場を披露出来なくてつまらんか?」

 

 ニヤニヤしながら人の心を読まないでくれよ。

 

「ならばチャンスを与えてやろうぞ」

 言った途端、彼は腕に思い切り力瘤を作った。つまり()()()()()のだ。

 

「ふんっ!」

 

 次の瞬間振り被り、気合もろとも突進中の【ドスファンゴ】の頭に拳を叩き付けた。

 って、武器使わないの!?

 

 その衝撃で悲鳴と共にひっくり返った【ドスファンゴ】。素手で突進止めた上に気絶させるって、どういう馬鹿力なんだこの人は!?

 

「ホレ乱舞したいなら今の内だぞ」 

 呆気に取られた僕(と男の子)を尻目に、アレクさんは当然のような顔をしている。しかもおまけとばかりに蹴ってるし。その衝撃で【ドスファンゴ】浮いちゃってたし。どれだけ筋力あんだよこの二人。

 

「おい、早くやんねぇと起き上がっちまうぜぇ? 見せ場披露したいんだろう?」

「あ、はい。ごめんなさい」

 

 アレクさんに促されて、僕は【鬼人化】し、乱舞を叩き込んだ。

 

「兄ちゃん、かっけえぇ!」

 キラキラした目で見られて嬉しかったんだけど、完全に与えられた舞台だよねこれ。

 

「今ならお前も攻撃して良いぞ」

「ほんと!? やったあぁっ!」

 

 反対側で嬉しそうに攻撃している男の子。

 二人でやったのが止めになって、【ドスファンゴ】は二度と起き上がらなくなった。

 

「ホレ分け前だ。好きなだけ剥ぎな」

「え? お二人は良いんですか?」

「俺らは素材が有り余ってるからな。遠慮なく取り分全部取って良いぞ」

「本当ですか!? ありがとうございますっ!」

「チビ助。お前も剥ぐ練習しとけ」

「うん分かった」

 

 そうして僕は、今までで一番多い素材を確保出来たのだった。

 

 

 

「お帰り。お疲れさん」

「うむ」

「ハナ。お帰りの抱擁を……」

 

 笑顔で腕を広げたアレクさんを見事にスルーして、ハナさんは男の子に近寄った。

 

「ただいま母ちゃん」

 抱き合った二人を涙目になりそうな表情で見るアレクさん。

 

 こういうのも日常的なんだろうな。ちょっと可哀想だけど。

 

「お帰り、どこも怪我してない?」

「うんっ。凄かったんだよじいちゃん。素手で【ドスファンゴ】殴ったの!」

「下位の【ドスファンゴ】だもんねぇ、そんなの朝飯前よこの人なら」

「そういや前は【ドスランポス】絞殺してたよな。素手で」

 

 それが朝飯前のベナトールさんって、いったい……。

 

「……小僧」

「はいっ!」

「少しは立ち回りが分かったか?」

「は、はい。ありがとうございましたっ!」

「次会う時は、もう少し回避出来るようになってろよ」

「はいっ! 頑張りますっ!」

 

「あいつに対して【鬼人化乱舞】を使いたいなら【痺れ罠】を使うこったな。調合分も持って行けば捕獲しねぇならけっこうな数を叩き込める。そうすりゃかなりのダメージを見込めるぞ」

「勉強になります」

「仲間が麻痺武器ならばなお出来るぞ。あ奴は状態異常にかなり弱い。上手くやれば連続で乱舞が出来るかもしれん。麻痺は他の【モンスター】でも重宝するから、麻痺らせてくれる仲間を一人でも作っておいた方が良いかもしれんぞ。自分が麻痺武器を使わないつもりなのならな」

「分かりました」

 

「じゃ、またな」

「はい。また」

「次会った時はよろしくな」

「兄ちゃん、オレがハンターになったら一緒に狩りしようぜ!」

「うん。ならそれまでにもっと腕を磨いとくよ」

「頑張ってね」

「はい。頑張りますっ!」

 

 ハナさんににこやかに微笑まれて、僕は少しだけドギマギした。

 そして去り際に身を屈ませた彼は、真っ直ぐ僕を見詰めてやっぱりこう言って頭をポンポンした。

 

「死ぬなよ? ルーキー」  




アレクトロとハナが結婚している設定で書いてみました。
やっぱりアレクはオッサンになってもギャグ担当なようです(笑)

初期時代の「フロンティア」で「教官」が付いてくれたのはHR10までだったんですが、今現在はHR1までしか付いてくれません。
なんでも「こんなに長く付く必要は無い」との意見が出たからなんだとか。

初期時代の「教官」は、随分と過保護だったようです(笑)


「ルーキー」シリーズというのは「訓練場」に入った(「入門区」という新人専用の区域に入れた)、もしくはハンター登録をした証として「ハンターズギルド」から与えられる新人に役立つスキルの付いた防具の事です。

※ただしそのシステムが始まった頃の防具なので、今現在は「ホープ」シリーズという防具に置き換わっています。

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