今日も元気にメゼポルタ広場からお届けします。【完結】   作:沙希斗

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「おじいちゃんと一緒(未来編)」その二。

前回の話を読んだ友人に「ハナはカイと結婚する予定だ」と言われたので、前回の話はパラレルワールドになってしまいました。
なんでも、「カイが好きだからこそハンターにまでなって【ココット村】まで追い掛けた」んだそうな。
(第一話参照)

私としてはアレクとハナの組み合わせの方が合うと思ってたんですがねぇ……。

クエストでは喧嘩ばかりしているようですが、喧嘩する程仲が良いという事で(笑)


おじいちゃんと一緒2(未来編)

 

 

 

 【ドンドルマ】の一角に、大きな家があった。

 それは【豪邸】とまではいかなかったが、それなりに目立つ家であった。

 といっても金持ちのハンターや商人などがあちらの一角、こちらの一角とそういう家や豪邸などを構えているので、大きな家自体はこの【街】では珍しいものではなかった。

 ただその家が【大老殿】に隣接しているように建てられているにもかかわらず、何かの施設のような特別なものではなくて一般的な家だったので、少し場違いな雰囲気を纏っていた。

 

 その家から男が出て来ると、取り分け女性達が羨望の眼差しで見上げ、黄色い声を上げる。それはハンターに限らず全ての女性達が同じ反応を見せるものであったのだが、やはりハンターを中心としたファンが多かった。

 

 なぜなら彼はハンター専門の雑誌である、【月刊・狩りに生きる】の専属モデルだったからである。

 

 なんでも若い頃に【メゼポルタ広場】でスカウトされ、狩りの合間に務めるようになったんだとか。でも彼はどちらかというとハンターでありながら狩り自体にはあまり本腰を入れないタイプだったため、今では狩りよりモデルを務める事の方が多いのだそうな。

 そのギャラを元手に、ハナと結婚した機に家を構える事となり、ハナが【大長老】の孫娘という事もあって、【大老殿】の隣に構える事になったのだという。

 

 わざわざ新しく家を建てなくとも【大老殿】に住めば良いようなものなのだが、「せっかく結婚したんだから」と、ハナが別居を望んだらしい。

(豪邸でないのはハナが一般家庭の家に住みたかったからなんだとか)

 といっても【大老殿】は目と鼻の先なので、何かにつけて行き来はしているようだ。

(【大長老】は大き過ぎて一般的な家には入れないため、彼がハナの家に行く事は出来なかったが)

 

 男が【メゼポルタ広場】を歩こうものなら人だかりが出来てしまうのと、モデルの仕事が専ら自宅の庭先や居間、【大老殿】の部屋の一つを使う事が多いため、彼自身は滅多に広場には出て来ない。

 なので熱心なファンは彼が家から出る所を見計らって、彼が出て来るや否や黄色い声を掛けたりしていた。

 

 家は【大老殿】に向かう大階段からは外れているが、下位ハンターはそもそも大階段を上る資格が無いし、上位ハンターでも【守護兵団(ガーディアンズ)】の厳しい目が光っていて彼らの家には入れないようになっているので、そういう意味では彼ら夫婦は【ドンドルマ】一の警護を受けている事になる。

 

 

 

 さて。今日も大階段下の黄色い声に迎えられて家を出た彼は、にこやかに手を振って答えつつ、(感激のあまり気絶する女性もいて苦笑しながら)【大老殿】に向かった。

 これは彼が【大長老】の親戚だというので特別扱いされている訳でもなく、実際に上位ハンターだからである。

 狩りに本腰ではない彼ではあったが、しっかりと上位の資格は持っているのだ。

 

 この日はモデルではなく狩りに行くようで、仕事部屋ではなく【謁見室】に向かった。

 【大長老】とにこやかに挨拶を交わして先に来ていたハナとも会話を弾ませていると、「遅くなりました」と言いながらゴツイ鎧を着た大男が入って来た。

 

 兜は脱いで小脇に抱えている。見る限りでは初老の顔立ちをしている。

 

「よぉカイ! 元気にしてたかぁ?」

 大男は彼を見るなり野太い声でそう言った。

「ベナぁ♪」

 嬉しそうにハナが駆け寄り、大木のような体にしがみつく。それをニコニコしながら受け止めた大男は、屈んで頭をポンポンした。

 結婚してもこの二人の絆は変わらないので、夫であるカイには何の嫉妬心も無く、むしろこちらも幸せな気分になって微笑みながら見ていた。

 

 ただ【大長老】は、少し複雑な気持ちで微笑んでいた。

 

「人気者に会うのは苦労するなぁカイよ。広場に出歩けないではないか」

 そんな事を言われて苦笑いするカイ。でも事実なので仕方がない。

 

「さて、今日はどの様な御用向きですかな?」

 

 冗談めかして言うベナトールに、「息子をね、ハンターデビューさせようと思ってるんだ」とカイは切り出した。

「ほぉ、いくつになった?」

「今年で十二かな」

「もうそんなになるのか……!」

「【片手剣】はもう扱わせてるんだよ。まだまだだが、大分慣れて来たようなんでね」

「といっても、【採取】を中心に教えて欲しいの。昔私があなたに習った時みたいに」

「なるほど」

「まさか二代に渡って【教官】をするようになるとはのぉ、ベナトールよ?」

「感慨深いものがありますな。【大長老】様」

「呼んで来るね」

 

 

 ハナが息子を呼んで来て、「ほら、挨拶しなさい」と促すと、男の子はたじろいで後ろに下がってしまった。

 ベナトールは褐色の大男だし、筋肉隆々なので威圧感があり、恐怖を覚えたのだろう。

 

 そういや幼い頃にもよく泣かれていたっけな。

 ベナトールは苦笑した。

 

 彼本人は別に子供が苦手という訳ではないのだが、外見で怖がられるので近付かない方が良いのではと考えている。

「しょうがないわねぇ……」

 ハナは困った顔をして笑っている。

 

 困っているのはこっちの方だ。こんなに怯えた顔で見られては、連れて行けないではないか。

 

 彼がそう思っていると、「仕方ない。オレも一緒に行くよ」とカイが溜息を付きつつ言った。

「あ、じゃあ私も♪」

「おいおい、ピクニックに行くのではないのだぞ?」

「良いじゃない。私達にとってはピクニックみたいなもんだし」

「そんな悠長な事で良いのか? 一応行先は【モンスター】が蔓延る【密林】なのだぞ?」

「採取に行くだけなら危ない【モンスター】はいないでしょ。せいぜい【ランポス】とか【ヤオザミ】あたりぐらいじゃない? 出て来るの」

「そうかもしれんが、そいつらだってチビ助にとっては相当な恐怖のはずだが?」

「そのための【教官】でしょ? それに三人も付くんだからこれ程安全な事はないと思うけど?」

「まあなぁ……」

 

「という事で決まりね。行くわよカイ」

「待ちなさい、竜車の準備が――」

 

「行くの分かってんのになんでサッサと準備してなかったのよ」

「オレ達が行く事は決まってなかっただろう?」

「決まって無くても用意はしとくものでしょう? ベナにははじめから頼むつもりでいたんだから。まったく要領悪いわねぇ」

 

 そんな夫婦のやり取りを、大男と巨大な竜人族は苦笑いして見ていた。

 

 

 

 【密林】に着いた一行は、後はベナトールに任せて事を進める事にした。

 竜車の中で喋ったりしていたので、その頃には多少は彼に、子供が慣れたからである。

 ちなみに彼は今、いつものゴツイ鎧ではなく薄い軽装備に着替えており、上半身に至ってはインナースーツだったりする。理由は「楽だから」という事だそうな。

 まあ彼にとっては裸でもこなせるからなのだろう。

 

「ホレ、ここを探ってみろ」

 ベナトールは採取ポイントに子供を連れて行き、実際に採取させてどこで何が採れるかを学ばせた。

 

 《4》で【ピッケル】を渡し、採掘させて何が取れるかを教えていた時の事。

 突然砂浜が盛り上がり、中から突き上げながら出て来たものがいた。

 

 【ヤオザミ】である。

 

 子供がそれに巻き込まれ、驚いた顔で尻餅を付いた。

「二人共手を出すなよ」

 夫婦に声を掛け、どうするか見る。

 

 案の定追いかけ回されているのを、「こらお前は何を装備している? それを使わんか」と焚き付ける。

 それに答えて一応【片手剣】を構えた子供だったが、逆にどつかれて泣きべそをかいている。

「ホレ頑張れ。動きは素早いが止まる事が必ずある。そこを狙うのだ」

 

 言われた通りにやってはみたが、上手く行かないでいる。

 

「飛び掛かりながら切った方が自分の体重を乗せられるぞ。俗に言う『ジャンプ斬り』と言う奴だな。【片手剣】特有の攻撃方法だ」

 しかし飛び上がったが故に、逆に攻撃が当たらずに見当違いの所に着地してしまっている。

「目標との距離をちゃんと見んからそういう事になるのだ。相手の動きをよく『見ろ』」

 

 そんなふうに色々言われながらも苦戦していた男の子は、それでもようやく仕留める事に成功した。ただしその頃にはもう体中傷だらけになっていたが。

 

「ようやった。偉いぞ」

 ベナトールはぜぇぜぇと息を切らしている男の子の前にしゃがみ込み、優しく笑って頭をポンポンした。

 そして、ポーチから【回復薬】を取り出して手当てしてやった。

 

「今のお前にとってはちときつかろうが、このようなものは簡単に蹴散らすぐらいにならねばならん。なぁに、お前ならすぐに出来るようになる」

 男の子は喘ぎながらも頷いた。

 

「怖くなったか?」

 そう聞くベナトールに、「ううん」と横に首を振る男の子。

 

「そうか、流石にカイの倅だ」

 そう言って彼は二人を見、三人で微笑んだ。

男の子も嬉しそうに笑った。

 

 

 一エリアごとに採取、採掘場所を教えながら回っていた一行が、次に到着したのは《7》であった。

 

 案の定、【ランポス】が群れているのが見える。

 

「こいつはちと危険だからな。手を出すなよ」

 そう言ったベナトールが群れの只中にわざと入り、自分だけに注意を引き付ける。

 敵の存在にたちまち賑やかに鳴き交わし始めた【ランポス】に、なんと彼は武器を出さずに向かって行った。

 

 囲まれ、四方八方から飛び掛かって来る【ランポス】を簡単に躱しながら、近付くものをあるいは絞殺し、あるいは拳を腹に叩き付けながら殲滅させていく。

 

 その鮮やかな手口に目を真ん丸にしていた男の子は、しばらく呆気に取られた様子だったが腰から【片手剣】を引き抜いた。

 

「やめなさいっ!」

 

 鋭い制止の声で振り向いたベナトールの目に、飛び掛かりつつ入って来る男の子が映る。

 狙った一匹に今度は距離を誤らずに一撃を加えられたようだが、相手は怯んだだけで即座に噛み付こうとした。

 

「馬鹿者来るな!」

 言い放ちながら後ろからその首を引っ掴み、そのままへし折るベナトール。その後ろから飛び掛かろうとしたもう一匹の腹に、子供を押し退けつつ拳を叩き込む。

 

 思わずよろけてしまった男の子に、体勢を整える間も無く二匹が飛び付いた。

 

「きゃあっ!」

「危ないっ!」

 夫婦の悲鳴が交差する。ベナトールは男の子を抱え込み、背中で攻撃を受けた。

 

「危ないから来るなと言ったろう?」

 鎌のような【ランポス】の足爪をまともに背中で受けながら、静かに諫めるベナトール。

 

「おじいちゃん、背中……」

 狼狽し、声を震わす男の子に、「なぁに、大した事は無い」と振り向き、二匹を退治する。

 

 その背中には二ヶ所の大きな切り傷が出来ている。が、傷の長さの割には血は殆ど出ていなかった。

 

「【ランポス】はお前にはまだ早い。それが分かっただろう?」

 素手だけで全滅させたベナトールに言われ、男の子は「ごめんなさいっ!」と怪我をさせた事を謝った。

「こんなもの唾付けときゃ治る。【回復薬】すらいらんわ」

「相変わらず豪快ねぇ、背中じゃ唾は届かないわよ?」

 ハナはわざとそう言って笑っている。

 

 彼はそれに答えてニヤリと笑った。




友人との会話の中で、「カイはイケメンだから『月刊・狩りに生きる』のモデルをやってるんじゃないか」と話していた事がありまして、それを採用いたしました。
それと「結婚したらハナの尻に敷かれるんじゃないか」という事で、こんな話になりました。

ベナトールは化け物なので、未来でジジイになっても豪快そのものです(笑)

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