今日も元気にメゼポルタ広場からお届けします。【完結】   作:沙希斗

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アルバストゥル、大出世の予感!?

少し長いです。


レーヴェが望む事

 

 

 

 ある朝、目覚める前の微睡(まどろみ)の中で、アルバストゥルは【リオス科】の鳴き声を聞いた。

 最初は夢かと思ったのだが、どうも近くで聞こえる。

 

 【リオス科】が……【街】近くに来るなんざ、聞いた事ねぇんだが……?

 

 まだ寝惚けている頭で考えながら、ゆっくりと目を開ける。

 と、その時ベッドの横にある窓から、にゅうっと【リオレウス】の頭が入って来た。

 

「どぅわあぁっ!?」

 

 一気に目が覚めてベッドから転げ落ちるアルバストゥル。いくら狩り慣れている相手だろうが、いきなり自分の家の窓から首を出されたら誰だってビビるだろう。

 

「アルバどうし――!? きゃあぁっ!!」

 隣で寝ていたレインも同じように悲鳴を上げながら転げ落ち、そのまま凍り付いた。

 

 フィリップに至っては、一メートル程飛び上がった後一目散に家具の陰に隠れた。

 

 慌てて【大剣】を取りに行こうとしたアルバストゥルだったが、ふと【リオレウス】の目に見覚えがあるのに気が付いて動きを止めた。

 野生のものが持つ特有の鋭さがなかったからである。

 

「ああアルバ……」

「大丈夫だ。こいつは飼われてる」

 

 近寄ると震え慄きながらしがみ付いて来たレインに、彼は言った。

 

「……。えっ!?」

「こいつは野生の奴じゃない。つまり誰かのペットだ」

「ぺぺ、ペット!?」

「あぁ。ペットだ」

 

 信じられない言葉を聞いたとでも言いたげな顔をしているレインに、アルバストゥルは説明した。

 

「【街】では【モンスター闘技大会】っつう催し物があってな、狩猟中に捕獲した【モンスター】をペットとして飼い馴らし、闘技大会に出して優劣を決めるんだよ。まあ登録制だからその資格がねぇと飼えないが、中には【亜種】や【ラージャン】なんかのレアものを飼ってるようなすげぇ奴もいるらしいぜ」

 

「へ、へえぇ……。【街】ってやっぱり桁違いな事をするのねぇ……」

「ハンターだけじゃなくて、特に王族や貴族方にはけっこう人気があるらしいぜ。まぁ退屈凌ぎには丁度良いんだろうな」

 

『グワァ、グワァ』

 その時、【リオレウス】が鳴いた。

 

「んん!? お前レーヴェか!?」

 そう聞かれて嬉しそうに答える【リオレウス】。

 念のために首を入れている窓の隙間から外を見て、翼の付け根を確認するアルバストゥル。やはりこの紋章付きの派手な装飾ベルトは、間違いなく以前見た王族の物だ。

 

「れ、レーヴェって!?」

「こいつの名前。こいつこう見えて王族のペットなんだぜ」

「ええぇ~~~!?」

 

 レインの返事はもう悲鳴に近い。

 

「なななんで王族のペットがこんな所にいるのよぉっ!」

「こっちが聞きてぇよ。もしかしておめぇ、城を抜け出して来ちまったんじゃねぇだろな?」

「そそそんな! そんな事したらこの子殺されちゃうんじゃないの!?」

 

『グルル、グワァッ』

 

「え? 違うって?」

『ギャウッ、グルル。ギャウッギャウッ』

「近くに来たからって……。もももしかして殿下も来られてるのかあぁっ!?」

「ちょっとアルバ? さっきから何独り言言ってんの?」

「独り言じゃなくて、こいつと話してんだよ俺は」

「話してるって……。そういえばあなた、初めて会った時も『レイアと話してた』って言ってたわよね? 『【リオス科】限定で会話出来る』とも」

 

「おう。俺な、生まれてから少年期の始めあたりくらいまで、【リオレイア】に育てられてたんだよな。だから【リオス科】の言葉がある程度だが分かんだよ。要するに俺だけの特殊能力ってやつ」

 

 得意気に笑ったアルバストゥルだったが、レインの方はポカンとしている。

 

「おかしな事を言ってるって顔だな。まぁ無理もねぇか」

 彼は苦笑し、そんな彼女に構わずにレーヴェの方に向いた。

 

 レーヴェは【人間】との付き合いが長いせいなのか、【リオス科】の言葉を用いなくともある程度は人間の言葉を理解出来るようだ。

 

 

 【彼】と話して分かった事によると、どうやら今度は【クルブディオス湿地帯(通称沼地)】で【レウス狩り】があるとの事なので、殿下がその下見に訪れたらしい。

 レーヴェを伴って来ているのは、【リオレウス】がいると他の【モンスター】が警戒して近寄らないからなんだとか。

 本来【沼地】には(たまに【リオレイア】が降り立つ事はあっても)【リオス科】は棲まない(棲めない?)【モンスター】ではあるのだが、やはり【飛竜種】の代表格とも言われる程のこの【モンスター】の実力は、【彼】を知らない【沼地】の【モンスター】でも分かるのだろう。

 

「んじゃあよ、こんなとこに来てたらまた探されるんじゃねぇのか? てか、近衛じゃ【モンスター】は太刀打ち出来ねんだから、早く帰らねぇと殿下が危険に晒されるぜ? 余裕こいて俺と話してる暇あんならサッサと帰ってやれよ」

 

『グワァ、ギャウッ』

「お願いがあって来た? 俺にか」

『ギャウッ、グルル……』

「な、なにぃ!?」

「なんて言ったの?」

 

「【レウス狩り】の時に同行して欲しいって……」

 

「ええぇっ!?」

「ちちちと待て! いくらお前が望もうが、【人間】っつうのは手続きとか身分とか仕来りとか色々複雑でややこしいもんがあってだな。直接お前に言われたからっつってホイホイと付いて行く訳にはいかねんだよ。特に王族なら尚更だし、そもそも殿下が望まなければ――」

 

「あ、アルバ、気持ちは分かるけど落ち着いて」

 焦って早口で捲し立てるアルバストゥルに、レインは言った。

 

『グルル……』

「あぁ。分かってるよ。頼むだけ頼んじゃみるが、上手く行かねぇと思うぜ、俺は」

『グルル、グルルゥ』

「ただし言って置く。例え同行許可が下りたとしても、俺一人じゃ無理だぜ」

『ギャウ?』

「身分が違うからな。オッサンなら正式手続きを得れば堂々と近衛隊として護衛に回れるだろうが、俺は殿下のお傍近くで護衛するなんざとても出来やしねぇ。だからどうしても俺と共に狩りをしてぇならば、オッサン直属の配下として行く事になる。まあそれが出来れば、の話だがな」

 

「あの人って、そんなに偉い人だったの?」

 

「あぁそだぜ。何度も王族に会ってるし、王族相手に臆するどころか対等に話が出来るのはハンターの中ではあの人ぐれぇなもんだ。どんだけ胆が据わってんだよって始めは思ったんだがな、【ギルドマスター】が完全にあの人に任せてるし、殿下自身もそれをお許しになってる所を見ると、あの御方も一目置いている存在らしい。今も何かと呼び付けてるみてぇだしな。オッサンは嫌がってるが」

 

「ひゃあぁ、随分凄い人だったのねぇ。紹介された時に只者じゃないとは思ったんだけど……」

 

「だろぉ? でもよ。そんな立場なのになんでか俺ともよく付き合ってくれんだよな。俺としては大変有難い事ではあるんだが」

「それだけあなたが実力があるっていう証拠なんじゃないの? 凄い事じゃないっ♪」

「どうだかなぁ、単にハナがしつけぇのを適当に相手してやってる内にあの人との付き合いも長くなっちまって、その関係で付き合ってくれてるだけだと思うけどなぁ」

 

「例えそうだとしても、邪険な扱いを受けてないのはやり取りを聞いてるだけでも分かるもの。あの人にとって、あなたも大切な仲間の一人なはずよ。しかも仲の良いね」

 

「そうかなぁ……」

「そうよぉ、だってあの人アルバと話す時相棒みたいな顔するのよ? あんな人に認められるなんて誇らしい事なんだから。もっと堂々となさい」

「んな事言ってもなぁ」

 

『ギャウッ、グワゥッ』

 

「なんて言ったの?」

「自信持てとさ」

「ほらレーヴェも分かってるじゃない」

「……まぁとにかくだ。許可が下りるにしてもそうでないにしても色々手続きが必要だから、ちと時間かかるが待つだけ待っといてくれ。その代わり期待はすんなよ?」

 

 レーヴェは頷くと、納得した様子で飛び立って行った。

 

 そしてそれを見て、今まで家具の陰で縮こまって震えていたフィリップが、ようやく恐る恐る出て来たのであった。

 

 

 

 朝食を済ませたアルバストゥルは、「手続きに行って来るわ」と家を出て、まず【ギルドマスター】の元へと赴いた。

 

「――ふむ。レーヴェがそんな事をのぉ……」

 

「殿下を放っぽり出してまでして、わざわざ俺のとこまで訪ねて来てくれましたからねぇ、叶えてやりたいとは思うんですがねぇ……」

「じゃが今の所、殿下からは何も伺ってないしのぉ……」

「でしょうねぇ……」

「……。まあ、その旨だけは伝えて置く。じゃが期待はせん方がええぞい」

「了解しました」

「ベナトールにはもう言うておるのか?」

「いえ、これから彼の部屋に行くつもりでした」

「そうか。一応伝えるだけは伝えておいで」

「そうします」

 

 

「――っつう訳なんだわ」

「――ふむ……」

 

 ベナトールは、腕組みしながら考えている。

 

「まあ、許可が下りれば行ってやらん事もねぇが……。殿下から何も無いなら期待は薄いだろうなぁ」

「だよなぁ……」

「しかし、おめぇも災難だな。王族のペットに気に入られるなんてよ」

「レーヴェが【リオレウス】だからなぁ、違う種類だったら逆に食い殺されてただろうけどなぁ」

「いや【レウス】でも普通の者は食い殺されてんだがな」

「分かってるくせにニヤニヤ笑ってんじゃねぇよ。性格悪い奴だなあんたも」

「クックッ。まあそれもお前の特殊能力なんだから諦めるんだな。それで得してる事もあるんだからな。俺も助かってるしな」

 

 舌打ちしたアルバストゥルを見て、彼は更に愉快そうな顔をした。

 

 

 

 

 殿下から正式に要請が来たとの連絡を受けたのは、【レウス狩り】が催される僅か五日前だった。

 

 なんでも、同行するはずだったGRハンターが【辿異種(てんいしゅ。G級の中でも最強クラスのモンスターの事)】に食い殺されてしまって、急遽ベナトールを要望されたとの事。アレクトロ(アルバストゥル)の同行も、「あの者ならレーヴェと話が通じるからやりやすかろう」と、むしろ喜ばれたのだとか。

 

「きき緊張するなぁ……」

「王族の前だからって必要以上に畏まる必要はないわ。いつも通りに堂々とやってれば良いのよ。頑張って来てね」

「お、おう。行って来るわ」

「行ってらっしゃい♪」

「行ってらっしゃいませにゃ」

 

 

 【クルブディオス湿地帯】に着いた二人は、遠くまで広がる王族貴族の旗印と、彼らが伴う【リオレウス】の数に圧倒された。

 

「殿下、ただいま到着致しました」

 

 二人は地図で言う《4》の高台あたりに構えられた砦(といっても見張り台付きの簡易的なもの)で寛いでいる、王族の前に兜を取った形で片膝を付いた。

 

 ちなみにいつもはスキル関係なくゴツイ鎧を身に付けているベナトールは、この時ばかりは今持ちうる最高峰のスキルと素材を用いたG級のものを身に付けている。勿論【ハンマー】も今自分が作れる最強のG級のものである。

 

 やはり王族貴族の正式な催しとなれば、最高級の敬意を示すのだろう。

 

 アルバストゥルはGRの資格は持っていないので、SRの中で今自分が作れる最高峰の武具を選んでいた。

 

「うむご苦労であった。だが今回はあくまでも【リオレウス】が主役である。そなたら二人は補佐として動くように」

「心得ましてございます」

「【レウス狩り】では一番早く獲物を捕らえた【リオレウス】の飼い主が、その獲物の所有権を得る決まりになっている。だからそうなった時がそなたらの出番となる。存分に働けよ?」

「畏まりました」

 

「――始まったぞ」

 

 【沼地】全体に角笛の音が響き渡り、それを合図に【リオレウス】が飛び立って行く。 

 いよいよ【レウス狩り】が開幕した。

 

 

 高台で全体の戦況を見渡している近衛の一人から、逐一報告が入る。

 今回のターゲットは、上位の【ゲリョス亜種】だそうだ。

 

 待っている間に戦況を見たかったアルバストゥルは、自分も高台に上がって見ていた。

 

 遠くで【リオレウス】の群れが一つの方向に向かって飛んで行っているのが見える。どうやら獲物を見付けたらしい。

 と、その内の一頭が急降下した。【双眼鏡】を覗いていた近衛が、声を上げる。

 

「レーヴェが捕らえたようですっ!」

 

「おぉでかした! そなたら出番だぞ」

「ははっ!」

 

 二人同時に返事して、砦を飛び出す。

 

 向かって行っている間に、他の【リオレウス】の群れは他のターゲットに切り替えるか、その日の狩りを諦めるかの二つのタイプに分かれたようだ。

 

 現場に付くと、レーヴェは上空から火球を吐いて牽制していた。

 だが【ゲリョス亜種】の弱点は火ではなく、逆の水属性なので、怯みはするもののあまり効いてはいないようだ。

 

「ガードしろアレク!」

 そう言われて見えたのは、相手が鶏冠をカチカチと鳴らす姿。

 

 次の瞬間目を焼かんばかりに閃いた閃光を、彼は【大剣】をかざす事で防いだ。

 

『ウキャゥッ!?』

 情けない声と共に地響きがしたので目を開けると、レーヴェが無様に落ちてもがいていた。

 

「おめぇなぁ、目ぇ瞑らねぇからだろ?」

 苦笑して【彼】の視界が戻るまで、護るように動く。

 

 ガード出来ない【ハンマー使い】でありながら当たり前のように回避しているベナトールは、鶏冠を破壊するべく狙っている。

 と、溜めていた彼が大きくジャンプしながら、高い位置にある頭に【ハンマー】を叩き付けた。

 

 そんな技は、【地ノ型(ちのかた)】にはない。

 

「オッサン、そりゃどの【型】だ?」

「【嵐ノ型(らんのかた)】だな」

「随分派手でかっけぇ技だな」

 

「だろ? ただし溜め感覚にムラがあってな。最大の攻撃力を叩き込みたきゃ前もって溜め調整せにゃならんのだよ。で、その感覚を掴むまでがちと難しいのだ。あまり前から溜め始めると最大の力が乗る前に筋力が低下して攻撃力が落ちちまうし、遅いと力が乗り切る前に相手に近付き過ぎちまう。思い通りに使いこなすのに、【マスター】から伝授されてから一月(ひとつき)は掛ったな」

 

「へぇ、難しそうだな」

 

「それはお前にも言えるはずだろう。【大剣】の【嵐ノ型】の溜めも、溜めムラが出来る特殊なもののはずだ」

「まあそうなんだがよ。【大剣】の場合は溜めるタイミングが大体決まっててやりやすいから、伝授されてもすぐにマスター出来たんだよな。【ハンマー】の場合は前もって溜めてから攻撃に移るから、そっちのタイミングの方が難しいと思うぜ」

「まあでも、慣れるまではどの型も同じだと思うがな」

 

「だな。そういや【極ノ型(ごくのかた)】ってのはどんなのだ? オッサンはもう伝授されてるんだろ?」

「見てぇか?」

「おう。是非見せてくれよ」

 

 ベナトールはそれに答え、通常よりは長い間溜めた。

 

 力瘤がはち切れんばかりに盛り上がり、その内腕の血管が切れ飛ぶんじゃないかと思う程、盛り上がって張り詰めている。

 体の周囲で徐々に膨らんでいた紅い闘気が弾けたように見えた次の瞬間、彼はその力を全て解放するように、体が完全に浮くぐらいの勢いで相手に叩き付けた。

 

 いやそれだけじゃない。その場で叩き付けた瞬間にその勢いを利用するように縦回転しながら飛び上がり、高い位置を攻撃しつつ思い切り振り下ろしたのだ。

 つまり二連の叩き付けによる縦攻撃。その勢いは周囲に地響きを起こす程の規模だった。

 

「うはぁ、凄まじいな」

「見て分かる通り、かなりの筋力が必要になる。下手をすれば溜めている段階で筋線維や血管が弾け飛ぶだろうな。だから【GR】じゃねぇと使わせてもらえんのだよ」

「なるほどなぁ……!」

 

 アルバストゥルは、【嵐ノ型】の溜めなんかとは比べ物にならんなと思った。  

 

 ベナトールの活躍で相手の鶏冠が砕け散り、気絶した。

 その隙に視界の戻っていたレーヴェが空中キックをお見舞いする。

 

 【ゲリョス科】は毒を扱う事で有名な【モンスター】ではあるのだが、なぜか自身には毒の耐性が無いようで、毒も効く。だから例に漏れず、この相手も毒った。

 

「でかした!」

「ナイス! レーヴェ」

 

 二人に褒められて、レーヴェは嬉しそうだ。

 

 溜めよう思っていたアルバストゥルは、キックの勢いで相手が飛ばされたため、溜めるのは諦めた。

 【嵐ノ型】の溜めは、【地ノ型】の溜めより筋力がいる分時間がかかるからである。

 

【リオレウス】の空中キックと毒の二重攻撃はかなりのダメージがあるため、相手はもがいて起き上がったものの、ひょろひょろとよろけて再び倒れてしまった。

 

 そして、そのまま動かなくなったのをアルバストゥルは見逃さなかった。

 

 止めを刺そうと思ったのか、そこに向けてレーヴェが低空飛行しながら掴み掛って行く。

「待てレーヴェ! それは――」

 言い掛けたアルバストゥルだったが一瞬遅く、大暴れしながら起きた相手に巻き込まれて、レーヴェは悲鳴を上げながら横倒しになってもがいた。

 

 なんとか立ち上がったレーヴェは、片足を持ち上げている。

 どうやら痛めてしまったらしい。

 

「ばっかだなぁ、【ゲリョス科】は死に真似するって知らなかったのか?」

 アルバストゥルはポーチから【生命の粉塵】を出して治療してやった。

 

 怒った相手が毒を撒き散らせながら走り回り始めた。

 そうなるとレーヴェでは追い付けないので二人で対応する。

 

 無闇やたらに走り回っているように見えるが一応走り方には法則があるので、立ち止まって方向転換するような場所に陣取ったベナトールがタイミング良く【地ノ型】で叩き付け、怯ませた。

 

 そこにすかさず滑り込んだアルバストゥルが、抜刀しながら足元を薙ぎ払ってこかせる。

 倒れてもがいている間に溜め、今度は見事に【嵐ノ型】の溜め振り上げが決まった。

 

 【地ノ型】で背中に背負うように振り被って溜める振り下ろし攻撃は、【嵐ノ型】では斜め下に構えて長く溜め、その場で大きく下から振り上げる斬り上げに変わる。大型武器である【大剣】の長い刀身を活かした攻撃範囲が広がり、振り上げる前側だけではなく、体の反対側に切っ先を落とす背後にまで攻撃判定があるのだ。だから上手くやれば前と後ろを同時に攻撃したりだとか、わざと背後を攻撃するように調節して、寝ている相手の尻尾だけを狙って切っ先だけ当てるなんて事も出来る。

 

 結局、それが止めになって、【ゲリョス亜種】は今度こそ二度と動かなくなった。

 

 ベナトールが、討伐終了の打ち上げ爆弾を空に向けて放つ。色付きの煙を長く引きながら上がって行くそれを見て、遠くでいくつかの歓声が上がった。

 

 

「大儀であった」

 獲物を携えて帰って来た一向に、王族は声を掛けた。

 

「ははっ!」

 二人はレーヴェの傍で兜を脱いで畏まった。

 同じ汗だらけの顔はしているが、ベナトールの息は殆ど乱れていない。

 

「今までで一番早い討伐時間であった。そなたらとレーヴェの相性は、余程良いようだな」

「大変光栄にございます」

 

「特に……。アレクトロ、といったか? そなたにはレーヴェが懐いておる様子。故に、これからも【レウス狩り】の時に同行するように」

 

「ええぇっ!?」

 アルバストゥルは、思わず素っ頓狂な声を上げてしまって、慌てて「御無礼いたしましたっ!!」と平伏した。

 

「なんだ不服か?」

「いいいえっ! とんでもございませんっ!!」

「それだけではない。レーヴェが退屈な様子をしている時には呼び付ける故、訓練の相手などをしてやってくれ」

「かか畏まりましたっ!!」

 

「殿下、恐れながら……」

 その時、ずっと黙っていたベナトールが口を開いた。

 

「なんだベナトール。何かこの者に都合が悪い事でもあるのか?」

 

「この者はあくまでも【ハンター】でございます。野山を駆け回る事を生業としている者です。故に王族貴族の社交場には相応しくありません。あまり、この者をそのような場所に連れて行かないようにして下さいませ。必ず粗相をして貴方様に恥をかかせるような事になります故」

「分かっておる。なにも我らの相手をしろとは言うてはおらぬ。あくまでも【モンスター】を相手とするレーヴェの訓練に呼ぶつもりでいたのだ。それならば支障は無いであろうが?」

 

「……。それでも、あまりこちらとしては御薦めしたくありませんが……」

 

「心配性だなそなたは。城にいる間に、我らがこの者をどうこうするとでも思うているのか? 密かに暗殺するとでも?」

「……。いえ、決してそのような事は……」

「自由の無いレーヴェの退屈を少しでも紛らわせてやりたいだけだ。退屈がいかに辛いかは、私自身がようよう分かっておるのでな」

 

「……。畏まりましてございます」

 ベナトールはまだ言いたそうだったが、引き下がった。

 

 

 

 

「――そう。ベナトールさんそんな事言ってくれたんだ」

 

 褒美として多めの【金銀卵】を賜り、帰って来たアルバストゥルは、迎えたレインにそう言われた。

 

「殿下から直接【レウス狩り】の同行許可とレーヴェの相手を要請されたんだから、大出世として喜んでも良い話ではあるんだが、王族貴族との交流を嫌ってるオッサンとしては、あまり俺をそっち関連に巻き込みたくねぇんだろな」

 

「あなたはどうなのよ?」

 

「俺も窮屈で自由の無い社交場には行きたくねぇなぁ。例えこの先贅沢三昧が出来る程の生活を手に入れようとな」

「でも、殿下はそういう事は分かってらっしゃるんでしょう?」

 

「そうみてぇだけどな。オッサンにも、あくまでも【モンスター】相手として呼び付けてるらしいし。まぁあの人の場合は立場的に、【モンスター】だけ相手にしてりゃ良いっつう訳にはいかねぇらしいけどな」

 

「その内あなたもそうなったりして」

「んな事になったら俺中々帰れなくなっちまうけど、それでも良いのか? 今の要請でも、呼び出し食らったらしばらく帰れなくなるかもしれねぇってのに」

「それは嫌だな……」

「だろ? 俺だって嫌だよレインとあんまし会えなくなっちまうのは」

 

「狩場が遠い時も、何日も帰りを待ってなきゃいけないもんねぇ。その間、どんなに心配か」

「いつもすまんな。そんな思いさせて」

「それは良いのよ。だってそれがあなたの仕事だもの。【村】からずっとそれを見て知ってるもの私。その雄姿に魅かれたんだもの」

「へ? そなの?」

「うんそう。あなたの闘う姿はすっごくカッコ良いんだから。もう惚れ惚れしちゃったの♪」

「なんだよ、俺の顔に惚れたんじゃなかったのかよ」

「残念でしたっ」

 

 いちゃいちゃする二人を見て、傍で見ていたフィリップは呆れるしかなかった。 

 




各ランクに上がるごとに「ギルドマスター」から伝授される攻撃モーション、「型」の説明が入ったので少々説明臭くなりました。

GRとSRの武器はかなり攻撃力が高いため、上位とはいえノーマルの「モンスター」に使えば(特に溜め攻撃は)瞬殺しそうな勢いなんですが、「変種(凄腕ランクから狩れるモンスター)」や「奇種(ノーマルで言う亜種の事)」では一般的には分からないと考え、上位「モンスター」にいたしました。

なのでこの話の「ゲリョス亜種」は、上位にしてはしぶといです(笑)

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