今日も元気にメゼポルタ広場からお届けします。【完結】 作:沙希斗
今年もよろしくお願いします!
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↑今年(正確には去年の十二月二十五日までに)書いた年賀状。
「モンスターハンター」世界で猪と言えば「ファンゴ系」なんですが、一般的じゃないので実在する動物である「バビルサ」を描きました。
今回の話も訓練絡みですが、少しいつもと違うようです。
少し長いです。
アルバストゥルは今、【ミナガルデ】に来ている。
レーヴェの訓練のために殿下に呼び出されたからである。
旅を終えたその足で直接城に行くのは無礼なので、いつも【ゲストハウス】に竜車と大掛かりな荷物は置いて行くのだが、最上位クラスの【エンペラー】の部屋代が高過ぎるのと、余りにも部屋が広過ぎて落ち着かないのとで、ここの所彼は格下の、【ナイト】もしくは【クイーン】クラスの部屋を借りる事にしている。
宛がわれる実際のハンターランクから言えば真ん中あたりのクラスの部屋らしいのだが、上位には違いはないし、部屋の作りも自分が【メゼポルタ広場】で使っていた【マイハウス】と似ていたので、使い勝手が良かったのだ。
【ヴェルド】に行き、訓練のために城に入ると【訓練場】に設えてある兵舎を借りれるのだが、どちらにせよ訓練を終えてもすぐには【ドンドルマ】に帰れない程この【街】は遠いため、帰りの旅支度を整えたりするのにどうしても数日は過ごす事になるのである。
それは、【ヴェルド】に着いた直後の、城に赴く前の出来事だった。
突然【街】の中が騒がしくなったのだ。
何事かと竜車の幌から首を出したアルバストゥルは、御者や道行く人々が、一斉に空を見上げて怯えたように叫び始めたのを見た。
つられて見上げた視界に入ったのは、空を覆い尽くさんばかりの【リオレウス】の群れ。
それらは次々に襲って来た。
始めは【古龍】の群れが襲って来たのかと思った。
【ドンドルマ】ではそういう事がまれに見られるからである。
だが、今【街】を襲っているのは間違いなく【リオレウス】だった。
彼は訳が分からなかった。
通常の【モンスター】は、生態系の範囲内で生活しているものである。開拓地を広げるなどして人間の生活圏内に大型【モンスター】の縄張りが入る事があっても、これ程の群れで一種類のものが襲って来る事はまずない。
なぜならそれぞれに縄張りがあり、人間がその縄張りをいくつも跨ぐ程の範囲を開拓する程、広範囲かつ大規模に手を広げる事は有り得ないからだ。
そしてもし【モンスター】側でそのように縄張りが侵されるような事があったとしても、【モンスター】同士が争うはずで、それによって【人間】が襲われる事は無いはず。
だから【リオレウス】が群れで襲って来たという事自体が異常だといえるのだ。
逃げ惑う人々をかき分けながら、【ミナガルデ】のハンターと共に迎え撃つ。
闘っている内に、相手側の行動に違和感があるのに気が付いた。
どうも攻撃に統率が取れ過ぎているように感じたのだ。ただ群れがランダムに襲って来ているのではないように思えた。
まるで、指揮官でもいて誰かに指図されているかのような。
「空中ブレスよおぉ~~~い!」
その時、街門の外で大声が響いた。
「旋回して囲い込めぇっ! よし撃てえぇ!!」
声と同時に、【街】を囲うように旋回した【リオレウス】の群れが空中からブレスを放つ。
たちまち家々が破壊され、あちこちから炎が上がる。
巻き添えを食った人々やハンターが、次々に死んでいく。
「な……。なんだ、この光景は……?」
まるで戦争じゃないか。【リオレウス】を使った。
よく見ると、全ての【リオレウス】の翼の付け根に、装飾の付いたベルトが巻かれてあった。
「飼われている、というのか? こいつら全部が!?」
じゃあ、――じゃあ俺らが【レウス狩り】の獲物になっているとでも!?
そんな非人道な事があって良いのか!?
【ミナガルデギルド】は何をしている!? ここの【ギルドナイト】は!?
彼は混乱しながらも、とにかくハンター達と協力しながら【街】を護るために闘った。
ハンターの拠点として名高い【街】なのでこちらのハンターの数も多く、従って上位ハンターも大勢いた。
そして彼らの活躍で、一頭、また一頭と【リオレウス】の数が減っていった。
「退け! 退けえぇっ!!」
街門の外で退却の命令が下り、数を減らした【リオレウス】の群れがいなくなった頃には、【街】もハンターも大損害を被っていた。アルバストゥルは無事だったが、瀕死になる程の重症を負わなかったのは奇跡だったといえた。
「無事であったかアレクトロ。心配しておった」
「御心配、感謝致します」
翌日、アルバストゥルは迎えが来たので城に上がった。
鎧の下は包帯だらけで、正直動くのも辛かったのだが、殿下の呼び出しとあらば従わざるを得なかったのだ。
「かなり混乱したであろうな。【街】を攻められて」
「殿下、もしや分かっておられたのですか!?」
「……。父上が、遠征に赴いておる事は知っていような?」
「はい……」
「その遠征先が【東シュレイド】なのだ」
「という事は、もしや――」
「左様。今【西シュレイド王国】と【東シュレイド共和国】は戦争を行っている」
「シュレイド両国の間は、均衡を保たれていると聞きましたが……」
「それは【旧シュレイド王国】を挟んでいるからこそ。だが、そこを越えて【東シュレイド】が領土を拡大して来たのだよ」
「では、城下を攻める程に【東シュレイド】が近付いたと?」
「そういう事だ」
「ですが……。ですが【リオレウス】を使って攻めるとは、まるで俺らが【レウス狩り】の獲物のようではありませんか!」
「奴らも考えたものよな。確かに【人間】が使う火器より【モンスター】のブレスの方が強力だし、【リオレウス】ならば空から自在に攻撃出来るからわざわざ街門を壊す必要も無い。兵も損なわずに済むだろう。訓練次第では【街】の外から命令するだけで攻撃をする事が出来る。自分らはまったくの無傷でな」
「しかし、しかし【モンスター】を兵力とするなど……!」
「戦争とはなアレクトロ、どんな手を使ってでも相手を負かせ、その領土を手中に収める事なのだ。それが例えどれ程非人道的で卑怯な手であったとしてもな」
「…………」
「そこで、だ」
殿下はおもむろに、こう切り出した。
「レーヴェを訓練し、兵力として使えるようにしてもらいたい。実はそのために今回は呼び出したのだ。そなたが来る前に同じ手口で攻め込まれたがな」
「お断り致します」
アルバストゥルはハッキリと即答した。
「【モンスター】は兵器ではございません。ましてやレーヴェは俺の大切な友人です。【彼】はあくまでも自然の理に従って狩りをしているのであって、人間を殺すために狩りをしているのではありません。そしてそうさせる事が、飼われて自由を奪われている、【彼】へのせめてもの償いになるのです」
「……。そなたが断っても、他の者が訓練するだけだ。そなたが訓練した方が、優秀な【兵器】になるだろうと踏んだまで。それに、他の者に訓練させたくないのではないのか? アレクトロよ」
「…………」
「あ奴はあくまでも私の所有物だという事を忘れるな。生かすも殺すも私次第という事もな」
「……。畏まり、ました……」
唇を噛んで引き下がり、ゆっくりとした足取りで【訓練場】に向かう彼の後ろ姿を目で追いながら、殿下は近衛の一人に次のように耳打ちした。
「見付からぬように見張っていろ。怪しい動きをしたら、すぐに殺せ」
「了解致しました」
兵舎で一度休み、治療してから【訓練所】へ。
正面奥からレーヴェが出て来ると、アルバストゥルは苦し気な顔をした。
『アルバ、分かってるよ』
レーヴェは顔を擦り付けながら言った。
『レーヴェ……』
『私だって、人間など殺したくはない。だけど、私は殿下の持ち物だからね。殿下の命令ならば従うしかない』
『レーヴェ、逃げてくれ』
『何を……』
『俺がなんとかする。俺のペットとしてずっと護ってやる。だから――』
『アルバ、例え逃げ果せたとしても、代わりの【レーヴェ】が飼われるだけだ。そいつらを全部君が面倒見れるとでも?』
『矛盾していると俺でも思うよ。だが、だがせめてお前だけでも――』
「貴様、何を突っ立ったまま話している? サッサと訓練せんか!」
見張っている兵の一人がイライラしたように言った。
アルバストゥルは素早く周りを見回した。
通常【モンスター】を放つ【訓練場】には屋根が無い。
それは飛翔能力のあるものを自由に飛び回らせて攻撃出来るようにしてあるためなのだが、だからといって人間が出られるようには出来ていない。
人間がここから出るには、今は閉ざされているたった一つの入り口を、突破するのみ。
兵達は観覧席の二階から様子を見ている。
一階から逃げれば彼らが二階に降りるまでの時間が稼げるかもしれない。
『レーヴェ飛べ!』
そう叫ぶや否や、アルバストゥルは入り口を【大剣】で破壊した。
兵達が驚愕して慌てて一階に降りようとしている。
「そこまでだ」
兵に捕まる前に【訓練場】から出て逃げようとした所で、立派な鎧を着た兵士が立ち塞がった。
明らかに他の兵より格上の鎧を身に付けている。どうやら近衛兵らしい。
「……。私は、お前が怪しい動きをすれば殺せと殿下から命令を受けている。だが、このまま大人しく訓練に戻るというのならば、見逃してやらんでもない」
「く……」
アルバストゥルはじりじりと引き下がった。
「私から逃げられるとでも思っているのか? 愚かな考えはやめる事だな」
いつの間にか、【訓練場】の中まで戻らされている。
「無駄な動きはするなよ? 殺されたくなければな」
その時、レーヴェが吠えた。
ガアアァ~~~!!!
それは、【リオス科】のものが怒りを表す吠え声だった。
近衛兵は突然の事でビク付き、思い切り耳を塞いだ。
『やめろレーヴェ!』
声を掛けたがレーヴェは近衛兵に向かって行った。
「おのれ! 【モンスター】の分際で!!」
立ち直った近衛兵は、腰に帯びていた長剣を抜いて切り掛かった。
人間用の武器で【モンスター】に傷を負わせられるはずもなく、長剣は頭の甲殻に当たって跳ね返された。
その隙にがばりと顎(あぎと)を開くレーヴェ。
が、近衛兵が食い殺される前に、アルバストゥルが【大剣】でガードした。
「貴様……。さてはレーヴェを利用して私を殺そうとしたな?」
「違う!!」
「問答無用だ、死ね!!」
突きを入れる近衛兵に【大剣】をかざしたが、角度が甘くて勢いを殺せず、脇腹を貫通した。
「ぐおっ!!」
しかし狙っていた急所がガードで逸れたので、即死は免れた。
相手は抜かず、そのまま外に斬り払った。
たちまち鮮血が迸る。
「ぐああぁ~~~!!!」
その場に倒れ込み、転げ回るアルバストゥル。
「止めだ!!」
逆手に持ち替えた長剣を、頭上に振り上げる近衛兵。
だがそれが振り下ろされる寸前に、相手は掻っ攫われるようにして消えた。
首を横様に振ったレーヴェが、相手をくわえ込んだのだ。
『……レー……。ころ、すな……!』
レーヴェは聞こえたのか、顎に力を入れる前に、脇に放り投げた。
そして代わりにそっとアルバストゥルをくわえると、【訓練場】から飛び立った。
「逃がすな!!」
「【固定大型弓(バリスタ)】を使え!!」
次々に指令が渡り、飛んで行くレーヴェに向かって【バリスタ】が撃たれる。太い矢がいくつか突き刺さったが、【彼】はそのまま飛んで行った。
その頃、【ミナガルデギルド】からの知らせを受けたと【ギルドマスター】から伝令が来たベナトールは、彼の部屋に赴いた。
「【マスター】」
「おぉベナトールか」
「【西シュレイド王国】と【東シュレイド共和国】との戦争が激しさを増しているというのは本当でしょうか?」
「んむ。どうやらそのようなのじゃ。【ミナガルデ】にも戦火が及ぶようになって来たらしい。ハンターを各地に避難させる必要性が出たとかで、【ドンドルマ】にも避難させられないかと【ミナガルデギルド】から要請が来た」
「【ミナガルデギルド】の施設は移さなくても良いんでしょうかね?」
「本部施設は【ラオシャンロン】の進撃にも耐えうる程頑丈に作られておるでの。人間用の兵器ではビクともしないのだそうじゃ」
「【大長老】様はなんと?」
「出来得る限りは避難させたいそうじゃが、なんせ人数が人数じゃからのぉ。ただでさえ【ドンドルマギルド】に登録しているハンターの数は多いのじゃ。一般人の人口も多い。避難許可が出れば【ミナガルデギルド】に登録しているハンターだけでなく、一般人も戦火を逃れるために押し寄せる事になるじゃろう。じゃからある程度の規制は必要になるじゃろうの。【メゼポルタ広場】では【ワールド】【ランド】などと呼ばれている区画があって、【ワールド】では一区画千人単位、【ランド】では一区画百人単位で収容出来るのじゃが、それでも限度というものがあるからのぉ」
この話は【ドンドルマギルド】に所属しているハンター達にはそれ程関係の無い話だったので、興味のある者のみが【ミナガルデ】やその周囲の町村辺りから流れて来た行商隊などからの話を聞いて、知っているぐらいだった。
「【マスター】!!」
その時、血相を変えて駆け込んで来た者がいた。
「レインではないか、どうしたのじゃ」
「アレクは、アレクは帰って来ていませんか?」
「ここには来てないがの?」
すると、肩で息をしながら彼女は言った。
「アレクは今、【ミナガルデ】に行っているのです。レーヴェの訓練のために」
「なんじゃと!?」
「【ミナガルデ】に戦火が及んでいるとの話を聞きました。無事でいてくれると良いんですが、心配で心配で……」
「くそ! 知らせがもっと早く来ていれば……!」
「分かったすぐに迎えを寄こそう!」
「お願いします……!」
その時、窓の外で地響きのような大きな音がした。
何事かと覗いてみると、血だらけの【リオレウス】が倒れていた。
翼の付け根が輝いているのに気が付いたベナトールがよく見ると、そこには派手な装飾ベルトが巻かれてあった。
そして、王族の紋章が見えた。
「お前、まさかレーヴェか!?」
「れ、レーヴェじゃとぉ!?」
レーヴェは弱々しく鳴き、口を開けた。
牙で傷付けないような位置に、何かがくわえられてあった。
「きゃあっ! アレク!?」
一目見たレインは悲鳴を上げた。
ベナトールはぐったりしている彼を、レーヴェの口から下ろした。
脇腹から出血している。それもかなりの量だ。
「アレク、アレクしっかりしてぇっ!!」
半狂乱になっているレインと共に、とにかく医務室に運ぶ。
彼の命が保証されたと知るや、ベナトールはすぐに引き返してレーヴェの様子を見た。
「こりゃ、酷ぇな……!」
レーヴェはなんとか生きていたが、虫の息になっていた。
体のあちこちに太い矢が刺さっている。これは恐らく【バリスタ】の矢で間違いないだろう。
【バリスタ】は本来【迎撃拠点】で使う専用武器である。【ラオシャンロン】や【シェンガオレン】などの進撃を止められるだけでなく、【飛竜種】よりも飛翔能力の高い【古龍】、【クシャルダオラ】や【テオ・テスカトル】などを撃ち落とす目的でも使われる。
そんな強力な矢を何本もその身に受けながら、レーヴェはここまで飛んで来たというのか。
アルバストゥルを救うために?
とにかくこのままでは死んでしまう。アルバのためにもこいつも助けねばならん。
ベナトールはそう思いつつ渾身の力で矢を引き抜くと、すぐさま【生命の粉塵】をかけた。
傷は深く、持てる分だけでは回復させられない。
ならばと急いで自分の部屋まで引き返し、調合分も持って来た。
それだけじゃなく【回復薬グレート】などのあらゆる回復系も用い、調合しながらかけまくった。
今にも死にそうだったレーヴェはなんとか息を持ち直し、全快とはいかないまでも、容体が安定するまでは回復してくれた。
「後は、アレクに聞くしかねぇだろな……」
ホッと息を付いたベナトールは、レーヴェと話せないのでアルバストゥルの回復を待つ事にした。
このまま置いておく訳にもいかないので、その間は一番広い【闘技場】の飼育施設に預ける事にした。
話せるようになるまで回復したアルバストゥルは、事の顛末を【ギルドマスター】とベナトールに話して聞かせた。
「――なんと……、惨い事をするものじゃて……」
「【東シュレイド】の連中もそうですが、殿下も殿下ですな……」
「じゃがいずれにせよ、レーヴェはもう返せまい。返せば殺されてしまう」
「その事もそうですが、これでアレクは殿下に弓引く者として認識されてしまいました。【ミナガルデ】に行かせれば殺されてしまうでしょう。ですから【ドンドルマギルド】の総力を挙げてでも護らねばなりません」
「そうじゃな。アレクトロよ。そんな訳でしばらく大人しくしておれ。事が済むまで狩りに行く事も許さん。窮屈じゃろうが当分の間【ハンターズギルド】の施設内で生活してもらう。レインに会いたかろうが、出来れば会わん方がええじゃろう。お主の居場所が分かれば何をされるか分からんでな。すまんが堪えてくれ」
「分かりました」
「レインには俺から話して置く」
「分かった。すまんなオッサン」
「ったく、だから王族と絡ませるのは反対だったのだ。まぁお前の特殊能力が悪い方に向かっちまったと思うしかねぇな。ちと運が向いてなかったな」
「じゃが今思えば【訓練士】の話が来た時に乗らなかったのは正解じゃったな。でなければ今頃もっと深入りしていたじゃろうよ。ハンターのままでいてくれて、感謝しておるよアレクトロ」
数日後、案の定『直ちにアレクトロ及びレーヴェを引き渡すように』との命令書が来た。 そこで【ギルドマスター】の命により、嘆願書を持ったベナトールが【西シュレイド王国】に向かう事となった。
【ミナガルデ】に着いた彼は、そのあまりにもの被害の大きさに、沈痛な面持ちになった。
【ミナガルデギルド】の本部は幸いにも無傷な様子だったが、【街】全体が壊滅的な被害を被っている。
あちこちに家を焼け出された人が蹲り、犠牲者の死体がそのまま野晒しになっている区画さえあった。
この【街】には【守護兵団(ガーディアンズ)】はいないため、主にハンターが一般人と協力して復興の手助けをしているようだった。
【リオレウス部隊】は波のように押しては退くを繰り返しているらしく、特に上位ハンターの負担が大きい様子。
厄介な事には、戦火の混乱に応じて悪事を働く不届き者もおり、そういう輩がハンターであると分かった時には処刑されたりしているようだ。
【ミナガルデギルド】の【ギルドマスター】の話を聞いた後、【ヴェルド】に赴いて城に上がったベナトールに、殿下は開口一番こう言った。
「なぜ、アレクトロが来ておらぬ?」
「……。それにつきましては嘆願書を持参致しましたので、何卒御目を通して頂ければ……」
一応目を通した殿下は、「ふむ。そちらの言い分も分からぬではないな」と言った。
「有難きお言葉。恐悦至極に存じます」
「だが事は重大だ。何より私は同じ兵器を求めている。相手が【リオレウス】を使うならば、こちらも使わねば戦いになるまい? 人間の火器では手も足も出ないのだからな」
「殿下、我々はあくまでもハンターでございます。【モンスター】の生態系を自ら崩すような戦いに手助けなぞ出来ません。ましてや自然の理に逆らうなど――」
「そなた城下及び【ミナガルデ】の被害を見て来たであろう? ハンターもかなりの人数が犠牲になっているのが分かったはずだ。これは戦争である。生態系がどうの、自然の理がどうのと言っている間に、犠牲者はどんどん増えるのだ。しかも皮肉な事に、そなたらが大事にしている【モンスター】の手によってな」
「【ミナガルデギルド】は【東シュレイド共和国】に【ギルドナイト】を送り込むそうです。首謀者を処刑し、徐々に【リオレウス部隊】を縮める手筈になっているとか。ですから殿下が【リオレウス部隊】を作る必要性は――」
「その間にどれだけの被害が出ると思っているのだ? それが分かっていながら黙ってされるがままにしておれと? 話にならんな。どちらにせよアレクトロがいようがいまいが【リオレウス部隊】は揃えてある。ただ【東シュレイド共和国】より調整が遅れていたに過ぎん。ちと残念だが、他の者に訓練を任せるまでだ」
そう言うと、殿下はスッと手を上げた。
と、今まで整列していた近衛兵が、ぐるりとベナトールを取り囲んだ。
「アレクトロは私に弓引いた。一番優秀なレーヴェも逆らった罪で殺さねばならん。それを匿うとあらば、【ドンドルマギルド】は反逆の罪で潰さねばならん。その答えとして、まずはそなたの首を刎ね、送り届ける事で返事とする」
「……。【ミナガルデギルド】も【ドンドルマギルド】も、どちらにせよ【ハンターズギルド】は王国とは関係の無い施設です。そしてそれぞれの【街】も、あくまでも国家とは交渉の対象であって、王国の支配下にはありません。それを踏まえてこのような『愚行を冒す』のであれば後悔する事になりますが、それでもよろしいですか?」
物言いは穏やかだが威圧を孕んだ口調に、殿下は思わずたじろいだ。
「……ふ、ふん。このような状況で武器も持たずに何が出来るというのだベナトールよ。一番に首を取った者には【ドンドルマ】を与える。――やれっ!」
雄叫びを上げた近衛兵達が襲い掛からんとしたまさにその時、立ち上がったベナトールの体全体から凄まじい【殺気】が沸き上がった。
途端に怖気付いてたたらを踏む近衛兵を見回し、ベナトールは言った。
「……実力を見誤るな。己の力量を弁えろ。それでも死にたければかかって来い」
何もしていない彼だが数々の戦火を潜り抜けたであろう、そして百戦錬磨の実力が認められているからこそ近衛兵として仕えているであろう者達は、それだけで彼との圧倒的な力の差を知って戦意を消失した。一度も交戦せずとも、勝敗は彼らの目にはハッキリと明らかになっていた。
「丸腰の一人相手に何をしている!? サッサと首を取らんか!」
周りを取り囲んだまま大人しくなった近衛兵に、怒りをぶつける殿下。
「殿下。もう勝負はついております。それとも……」
彼は殿下を真っ直ぐ見据え、臆する事もせずにこう言った。
「代わりに、貴方の首を下さいますか?」
【ドンドルマ】に帰ったベナトールの報告を聞いて、【ギルドマスター】は愉快そうに笑った。
「かっかっかっ! それは、さぞや殿下も恐怖に慄いじゃろうのぉ」
「ちと、やり過ぎましたかね」
「いやいや、我儘なのはあちらの方なのじゃ。これぐらい脅さねば効き目はあるまいて」
「これに懲りて、もう呼び出す事がなくなると有難いのですがね」
「まあ当分の間は大人しくなるじゃろうて」
「ですが、【ミナガルデ】の被害は甚大です。早急に避難させた方がよろしいかと」
「もう知らせが行っておるわい。今頃は続々と各地に受け入れられておるじゃろうよ。こちらにもじきに到着する予定じゃ」
「ならば忙しくなりますね【マスター】」
「【大長老】様もな」
斯くして、晴れて自由の身となったアルバストゥルは、ようやくレインや仲間に会う事が出来た。
(ただし、念のためにこっそりベナトールや護衛がしばらく付いていたのであるが)
レーヴェはベルトを外され、アルバストゥル専用のベルトに付け替えられて彼のペットとなった。
そして時々【レウス狩り】のように一緒に狩りに行ったり、その背に乗せてもらってフィールドを飛ぶ事をお互いに楽しんでいるという。
避難者が到着してしばらくはやや窮屈になった【ドンドルマ】であったが、【ミナガルデ】の【ギルドナイト】の活躍があってか早急に【東シュレイド共和国】の【リオレウス部隊】が収縮したのを機に、各地に散らばっていた者達も全て【ミナガルデ】に帰って行った。
飼われていたものは全て野生に帰されたという。
戦火が退いたように思えた【シュレイド地方】だったが、しかしひっそりと、新たな危機が訪れようとしていた――。
新年早々、なんか嫌な予感……!
「ミナガルデ」で借りられる「ゲストハウス」のランクは、情報サイトで調べました。