今日も元気にメゼポルタ広場からお届けします。【完結】   作:沙希斗

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「予兆」から続く「蘇りし【伝説】」の続き。
文中の「ギルドマスター」のセリフ(一部)は情報サイトなどで調べた依頼文の内容と同じ物です。


紅き怒りは獄炎の中に

 

 

 

 あれからベナトールは、【黒龍】が死に際に見せた片目の表情が、頭から離れないでいる。

 怒りに血走らせ、口惜し気に自分を睨み、血涙を流さんばかりにして死んでいった、あの表情が。

 

『……おのれ、決してこのままでは済まさぬぞ……!』

 そう言われた気がしたのだ。

 

 

 

 そんな折、【ギルドマスター】からの伝令が来た。

 

「なんと恐ろしいことじゃ……!」

 全員を退室させて一対一になった途端、【ギルドマスター】はそう言った。

 

「【黒龍ミラボレアス】が火山地帯の火口付近に潜み、不穏なうめきを放ちつつ、力を蓄えておる」

 

「……。今、なんと言われました!?」

 

「【古龍観測隊】から連絡が来ての、【ラティオ活火山】の火口付近に【黒龍】が飛んで行ったのを見たのじゃそうじゃ」

「それは、本当に【黒龍】で、間違いないのですね?」

「……。あの姿を間違えるはずはなかろう。あの者らは観察のプロなのじゃぞ」

「では、【黒龍】は、我々【ギルドナイト】が犠牲者を出してまでして未然に防げたはずの【災厄】は……。生きて、いたと……?」

「……。そう、なるな……」

 

 流石のベナトールも眩暈がして倒れそうになった。

 

 確かにあの時、息が止まっていたのを確認したのだ。

 剥ぎ取りもし、素材も持ち帰った。

 

 なのに、あの状態でまだ生きていた、と!?

 そしてあの恐ろしい存在と、また向き合えと?

 【ギルドナイト】が即死する程の存在である。あれ以上の力を付けられて、勝てるとでもいうのか。

 

 ……それでも……!

 ベナトールは表情を硬くした。

 

 それでも立ち向かわねばならない。奴は【邪神】。その存在自体が【災厄】なのだ。野放しにして置けばこの世の終末が訪れてしまう。

 

 それだけは、何としても防がねばならない。

 

「【ミナガルデギルド】との話し合いにより、今回は【火山】に近い【ドンドルマギルド】の【ギルドナイト】だけで請け負う事になった。お主にまた負担を掛けるのは心苦しいのじゃが、この悪しき予兆を防ぐのじゃ!」

「承知しました!」

 

 

 

 【ラティオ活火山】は、今日もマグマと噴石を上げ続けている。

 溶岩が至る所に流れ、熱い大地は溶けてない溶岩で黒々としている。

 

 普段狩場になっている場所より火口に近い場所に踏み込んでいるので、さながら灼熱地獄という有様になっている。

 もちろん【クーラードリンク】を飲んでも肌が焼け付く感覚や鎧の中に籠る熱気を防げない程暑いのだが、もはやそんな事などに構っていられない。

 

「人間のいられるとこじゃねぇな」

「まったくだ。サッサと終わらせて【氷結晶】を浮かべた風呂に入りてぇ気分だぜ」

「違ぇねぇが、そう簡単に終わらせてはくれんだろうな」

 

 それぞれが愚痴をこぼしつつも、【黒龍】がいると思われる火口付近を捜している。

 今回もクエスト扱いになっているらしく、ベナトールを入れて四人で来ていた。

 

 と、前方やや遠くの、三角になっている火口の下辺りの大きな溶岩の塊の陰で、何かが動いた。

 

 それは、ゆっくりと頭をもたげたようだった。

 

 唸りながらこちらを見ると、まるで獲物を見付けたかのように舌なめずりし、大きく頭を振りながら吠えた。

 その直後、真っ直ぐこちらに滑空して来た。

 

「来るぞ散れ!」

 ベナトールの声と共に、四人が四方に散る。

 地響きを響かせながら飛び下りて来たものは、やはり【黒龍】だった。

 

 だが、その姿は少し変わっていた。

 

 闇の申し子のように黒々としていた鱗が赤黒くなっており、翼はまるで血液が付着したかのような脈打つ紅蓮色。始めは溶けた溶岩の光が鱗に映ってそうなっているのかと思ったが、そうではなくて、【彼】自身がマグマを取り込んで変身を遂げたかのように、内部から紅い色が滲み出しているのだった。

 

 それは【黒龍】が、怒りのあまりに紅蓮の炎に身を焼いて【紅龍】となったようだった。

 もしくは獄炎の神に変わったか。

 

 なんという……、威圧感だ……!

 

 ゆっくりと睨め付ける【紅龍】を見上げ、ベナトールは初見よりも更にたじろいだ。

 【彼】は自分を憎んでいる。そう思えた。

 それが心臓を鷲掴みにされたような恐怖を生み、息が苦しくなる。

 

 潰れた片目も折れた角も再生している。ただ角の形がおかしく、折れた方が大きい。

 

 もしや、再生する度に強くなるのではあるまいな?

 

 彼はそう思った。あれ程ボロボロだった翼も綺麗になっており、その部分が紅蓮に染まっているのを見ると、まさにマグマの中に身を沈めてそれを取り込んで再生したようにしか見えない。

 

「よ、よし! 展開して撃つぞ!」

「おぉっ!」

 【ライトボウガン】二人が恐怖を跳ねのけるようにして声を掛け合い、左右に展開した。

 

 ちなみに今回の武器構成は、【ライトボウガン】【ランス】【ハンマー】である。

 事前にベナトールから話を聞いた【ギルドナイト】の三人が、【ライトボウガン】などの遠くから攻撃するタイプの方が比較的安全なのと、後ろ脚付近に張り付くのが最も手数を稼ぎやすいという事で、この構成にしたのだった。

 張り付く者が【ランス】なのは、方向転換の際にガードしたりバックステップしたりする事で、少しでもダメージを減らす魂胆なのだろう。

 

 

 以前闘った時のように頭付近で攻撃していたベナトールは、【紅龍】が吠えながら片足を踏み出して踏ん張ったのを見た。

 それを察した【ランス】は上手くバックステップで避けている。

 

 が、【彼】の動作はそれだけでは終わらなかった。

 

 連続してその動作を繰り返したのだ。しかも吠え声に呼応するように、周りに燃える噴石が降り注いだ。

 

 それは、まるで【彼】が火山を操っているかのようだった。

 

「あ、危ねえぇ!」

 離れて攻撃する分【ライトボウガン】が当たりそうになっている。

 噴石は前方にも落ちるのだが、落ちる位置がだいたい決まっているらしく、避けた後は同じ場所には落ちなかった。

 

 と、【紅龍】が飛び上がった。

 

 様子を見ていたベナトールに狙いを定めたらしく、ホバリングしてこちらを向いた。

 空中ブレスを避けるために武器を納め、届かない距離まで走り出そうとして後ろを向いて、愕然とする。

 いつの間にか逃げられない程の狭い地形まで追い詰められていたのだ。

 

 しまっ――!

 脱出が間に合わず、そこにブレスが落ちて来た。

 

「ぐぅあぁ~~~!!!」

 火達磨になって転がり回るベナトール。その様子を楽しむかのように、【紅龍】は近付いて来た。

 

 そして、前脚を大きく振り被った。

 

「させるかあぁっ!!」

 【ランス】が叫び、横から脇腹に突き入れた。

 【紅龍】は短い悲鳴を上げて怯み、身を捩って倒れ込むようにして腹這いになった。

 それに【ランス】が巻き込まれたが、まともに潰される事だけは免れたようだった。

 

 その隙になんとか脱出し、ベナトールは回復した。

 【ランス】も隙を見て回復している。

 

 広い【旧シュレイド城】の屋上と違い、ここは地形が狭く、避け辛い。

 おまけに溶岩の川が流れているので、そこにも近付かないようにして闘わなくてはならない。

 間違って足を突っ込んだりでもしたら、一瞬で骨まで焼けるだろう。

 

 くそ! 厄介な戦場地だぜ……!

 ベナトールは今更ながら、この場所の過酷さが身に染みた。

 

 

 どれぐらい闘っていたのか、【紅龍】の赤味が急に鮮やかになった時である。

「!? かってえぇ!?」

 【ランス】がそう言ったのだ。

 

 見ると、弾かれて火花が散っている。直後に攻撃したベナトールも、弾かれてしまった。

 それからは近接武器ではいくら攻撃しても一切通らなくなってしまった。

 

「もしかして、硬化する……のか?」

 【旧シュレイド城】で闘った時にはこんな現象は見られなかった。

 

 まさか進化した、とでも!?

 

 こうなったら【ライトボウガン】二人に全部任せるしかない。

 文字通り歯が立たないのだ。攻撃出来ないのは悔しいが、二人はどうしようもなかった。

 

「すまん、お前ら任せた」

「了解! その間にじっくり回復しとけよ?」

「弾は足りるのか?」

「分からんが、まあ調合分もたっぷり持って来てるから、どうにかなるだろ」

 

 近接二人は何もしないのは心苦しいので、【ライトボウガン】が闘いやすい位置に【紅龍】を誘ったり、【生命の粉塵】で回復の手助けをしたりした。

 

 だが二人でしか闘えない分、どうしても時間が掛かってしまっている。

 

 ただでさえ過酷な場所なのだ。長引くほどに人間側は暑さにやられ、集中力も切れて不利になっていく。

 

「こいつ……、体力無尽蔵なんじゃねぇのか?」

「まさか、な」

 

 そう言い交わす程、【紅龍】は中々倒れてくれない。

 せめて弱った素振りをしてくれればこちらの士気が上がるのだが、そういう気配も無かった。

 

 

 どうも硬化が解けたらしいという時に近接も参加したのだが、やはり闘っている内に硬化してしまう。

 ベナトールが頭を集中する分再び角と片目が潰れたが、連続で攻撃出来ないからなのか、やはり気絶はしないようだ。 

 それどころか頻繁に飛ぶようになったため、近接ではますます攻撃出来なくなってしまった。

 

 【ライトボウガン】が撃ち落としたりもするのだが、すぐに飛ぼうとしてしまう。

 しかも滑空して遠くまで逃げたりして、時間稼ぎをしているとしか思えない。

 

「おいてめぇ、とうとうチキンになっちまったか?」

「オレら【ギルドナイト】にとうとう恐れを為したようだぜ」

 そう悪態を付いてみるが、時間が掛かっている事には変わりがない。

 

 とうとう全員の【クーラードリンク】が、全部無くなってしまった。

 灼熱の暑さが徐々に体力を削っていく。このままでは確実に全員が死ぬだろう。

 

 だが、それでも四人は攻撃をやめなかった。

 

 相手はただの【モンスター】ではない。【災厄】の化身である【ミラボレアス】なのだ。

 ここで退けば世界の終末が訪れてしまう。

 四人全員が一つの思いだけで命を削って闘っていた。

 

 退く訳にはいかない! と。

 

 そして、死なば諸共とばかりに一斉攻撃した最大のダメージが加わり、とうとう【紅龍】は倒れ伏した。

 精も根も尽き果てた四人は、【紅龍】がもう動かなくなったと見るや、その場に倒れ込んだ。

 

 

  

 気が付いた四人は、ベッドに寝かされていた。

 どうやら気絶して、その間に【ギルドナイト】専用の医務室に運ばれたらしい。

 

 なんでも一定時間が経つと後続の【ギルドナイト】が出撃する手筈になっていたらしく、駆け付けた彼らが救助してくれたとの事。

 

 見回し、四人で並んでいる事を知って、お互いに健闘を称え合う。

 全員包帯だらけだったが、気持ちは晴れ晴れとしていた。

 

「よぉやったのぉ!」

 

 【ギルドマスター】が大喜びしている。後で素材を提供してくれるそうだ。

 しかし、役に立てた事に感謝しつつも、ベナトールはやはり手放しでは喜べないでいた。

 

 【災厄】は、本当に去ったのだろうか?




ベナトールがまともにブレスを食らって即死しなかったのは、それだけ彼の鎧が頑丈だったという事にして置いて下さい(言い訳)

「決戦場」の地形の関係で倒れた「紅龍」が溶岩の川を跨ぐような形になってしまって、剥げなくなった経験はありませんか?
私はよくあります(怒涙)

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