今日も元気にメゼポルタ広場からお届けします。【完結】   作:沙希斗

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「予兆」から続く「紅き怒りは獄炎の中に」の続き。
これで「黒龍伝説」にまつわる話は終わりになります。




祖なるもの

 

 

 

 【黒龍】が復活し、【ラティオ活火山】で【紅龍】と化したものを死に物狂いで撃ち倒す事に成功したベナトール。

 同僚である【ギルドナイト】の力を合わせた結果とはいえ、これ程キツイものはないと正直思った。

 

 あれから世界に災厄が訪れたという話は聞かないので、終末の訪れを未然に防げたと思いたいのだが――。

 

 

 

 そんな疑念が払われない時期に、またしても調査の依頼が舞い込んだ。

 依頼は【古龍観測局】からで、なんでも「【古塔】で当局の文献には一切記録の無い未観測の【生物】が確認された」との事。

 

「ある書物にのみ記されているという【白き龍】に似ている」との事だったのだが……。

 

 そこで、ベナトールは【ギルド資料室】や【古生物図書館】などで調べてみる事にした。

 そこで【祖龍の書】なる書物がかかわりある事を知る。ならばとその文献を探している内に、どうも三つの書物で成り立っているらしいという事を知った。

 そしてある文面に辿り着いた。

 

 伝説、終焉、古龍三書集めし者

 長くも短き休息の末期に

 始まりにして最後の道が開けるであろう。

 

 三つの書物を揃えて読み解く事で、真の姿が現れる、という意味なのだろう。

 その内の一冊が【大老殿】に保管されていると聞き、特別に見せてもらう事に。

 

 それは、【古龍の書】と呼ばれているものだった。

 

 今現在でも確認されている【古龍】を記録してあるだけでなく、それらの祖先にあたる、即ち【ドラゴン族】と呼ばれている大昔の【モンスター】記録も載っていた。【黒龍】に関しても載っていて、【紅龍】の姿もあった。

 

 そこに同じ系列と思われる、よく似た姿の純白の【ドラゴン】がいたのだが、残念ながらあまりにも古い本なためかインクが擦り切れており、鮮明どころかほぼ原形を留めないスケッチになっていた。

(【黒龍】【紅龍】に関しても自分で姿を確認しているから辛うじて分かるという程度だったため、知らない者が見ればどんな【モンスター】かも区別が付かないだろうという程だった)

 

 後の二冊、即ち【伝説の書】【終焉の書】と呼ばれている物は未だ所在が分からず、【ハンターズギルド】でも調査中との事。

 これ以上調べようがないと思ったベナトールは早々に諦め、とにかく【古塔】に向かう事にした。

 

 元から本を漁るような、調べ物は得意ではないのだ。

 

 

 

 【古塔】を調べながら登って行く。

 

 瓦礫と化したがために【ギアノス】などが棲むようになった途中の通路も、水が溜まったがために魚だけでなく【大雷光虫】が湧くようになった場所も、特別に変化はない。

 まれに【火竜】の雄や【古龍】を見掛ける事があるので気を張りながら進んだが、そういう気配は感じられなかった。

 

 だが、今現在の頂上にあたる、上の階が崩れてしまってもうそれ以上登れないという所まで来た時、空気が一変した。

 そこに佇んでいたのは、まさしく【白き龍】としか言えないものだった。

 

 巨大で細長い体躯は【黒龍】と似ているのだが、厳めしい印象のあった背中の棘の部分が柔らかそうな毛になっている。それが鬣のように頭付近から尾の先まで続き、ふさふさと風に靡いている。

 【黒龍】が闇から生まれたかのように漆黒だったのに対し、こちらはまるで光から生まれたかのような純白。いや白よりもむしろ、光そのものと言っても良いほど内側から輝いている。

 

 ベナトールは、見惚れてしまった。

 

 それは【邪神】めいた【黒龍】とは正反対の、あまりにも神々しい姿だった。

 知らず知らずの内にかしづいてしまいそうな、恍惚の内に自ら命を差し出してしまいそうな、威厳に満ちた姿をしていた。

 が、体型は間違いなく【黒龍】のものである。となると、やはりこいつも同じ【邪神】の系統なのだろうか?

 

 と、相手がこちらに気付いた。

 

 惚けた様に見ていたベナトールは、咆哮でハッとなって身構える。

 だが次の瞬間光に包まれて、何も分からなくなった。

 

 

 何やら胸に圧迫を感じて目を開けると、誰かが一生懸命胸を押していた。リズミカルな圧迫を受けている事から、どうやら心臓マッサージが施されているのだと理解した。

 

 という事は、俺はあの時に心臓が止まったのだろうか?

 

 まだボーッとなっている頭で見るともなしに見ていると、どうやら少女であるという事が分かった。

 純白の、いや内側から輝いているような、不思議なドレスを身に纏っている。

 白い肌に白い髪。何から何まで白いその中で、目だけが赤かった。

 

 ……色素欠乏症(アルビノ)の、子供だろうか……?

 

 思考の回らない頭でそんな事を考えていたら、至近距離まで顔が近付いた。

 そして口で口を塞がれ、思い切り息を吹き込まれた。

 

「ぶほぉっ!?」

 それで一気に目が覚め、咳込みつつ上半身を起こす。

 

「良かった、生き返った……!」

 少女は力が抜けたかのように座り込んだ。

 

「……。助けて、くれたのか?」

「うん。だって完全に心臓が止まっていたのだもの」

「感謝する。が、なぜこんな所にいる? ここには奴が――」

 

 言い掛け、見回したが、あの神々し気に光り輝く【ドラゴン】は、どこにも見当たらなかった。

 

 あそこまで馬鹿でかいものが隠れる所も無い【古塔】の天辺で見えなくなるはずがない。なら俺は、夢でも見ていたというのか?

 心臓が止まっていたというのなら、あの世の風景だったのか?

 

「ここに……。輝くばかりの白い龍がいたはずなんだが……。見なかったか?」

 念のために一応聞いてみる。

「ごめんなさい……」

 なぜか少女はそう言って俯いた。

「なぜ、謝る?」

「だって、ビックリしたのだもの。急にあなたが現れて。……それで、それで思わず雷撃を――」

 

 こいつは、何を言っているのだ?

 

「悪気は無かったの。ただビックリしたの。まさか人間が現れるなんて思わなかったから……」

「……。もしや、お前――」

「誰にも言わないで! でないと、来る者皆を排除しなければいけなくなる。私の力は身に染みたでしょう? 雷撃一つで人間は即死するの。あなたはすぐに蘇生出来たから助かっただけ。だから、だからもう私を捜さないで……!」

 

 

 

 【街】に戻ったベナトールは「【古塔】にはそれらしき【生物】はいなかった」と報告したものの、考えあぐねていた。

 

 あのアルビノのような少女は、白い龍の化身なのだろうか?

 

 言動から察するとそう思えたが、ただの他愛のない妄想とも思えなくもない。

 だがあの場所にいて、白い龍が落としたと思われる雷撃で『死んだ』俺を生き返らせてくれたのは確かなのだ。

 そして、分かっていないと蘇生しないだろうとも考えられなくもないのだ。

 

「……不思議な事もあるものだな……」

 

「? 何か言いましたかにゃ?」

「いいや……」

「あ、旦那様、そう言えば伝令が来ておりましたにゃ」

「そうか、なら行って来る」

「行ってらっしゃいませにゃ」

 

 

「【マスター】、お呼びでしょうか」

「おぉベナトールか」

 

 【ギルドマスター】は【黒龍】の時のように人払いさせると、こう言った。

 

「【古塔】での、【祖龍】が見付かったとの報告が来た」

 

「……【祖龍】……」

「左様。『祖なるもの』とも呼ばれている、あらゆる【モンスター】の祖先と言われている【モンスター】じゃ。その外見は純白の【ドラゴン】であるという。お主【白き龍】について調べておったのじゃろう。調査して来い」

「……。しかし、俺が【古塔】に行った時には、何もいませんでしたぜ?」

「その同じ頃にの、【古龍観測隊】の者が頂上で姿を見ておるのじゃよ」

「……。そう、ですか……」

 

「【黒龍】の時と同じように【ギルドナイト】を三人付ける。戦闘になったら討伐して素材を持ち帰って来い。良いな」

 

「……。承知、しました……」

 

 どこか煮え切らないようなベナトールの様子を見て【ギルドマスター】は不審に思ったが、【黒龍】戦が堪えたのだろうと思ったぐらいでそれ程気には留めなかった。

 

 

 

『やはり、また来てしまったのですね……』

 【祖龍】はベナトールを見るなり、そう心に話しかけた。

 

 初めに遇った時には彼は【ギルドナイト】の制服を着ていて、今はハンターとしてのゴツイ装備に身を包んでいるのだが、兜で顔が隠れていても分かるようだった。

 

『なぜ、そっとしておいてくれないのですか?』

 【彼女】の赤い目は悲し気な色を湛えている。

 

 ベナトールは、何も答えられないでいた。

 

 

 ふいに、【彼女】の悲鳴が上がった。

 背後から【弓】が攻撃を開始したらしい。

 

『おのれ人間共よ。速やかにここから立ち去るがいい!』

 【彼女】は吠えると周囲に落雷させた。

 だが【弓】は横転して避けている。

 足元には【双剣】が張り付いて乱舞していた。

 

 近接武器はもしこの相手も硬化してしまったら対処出来なくなるのだが、【双剣】ならば(ダメージがほぼ通らなくなったとしても)乱舞し続けられれば弾かれる事は防げるからである。

 

 なので、今回の武器構成は【弓】二人、【双剣】【ハンマー】だった。

 【ハンマー】でも弾かれる事には変わりないのだが、溜めを中心に攻撃出来れば弾かれにくいのだ。

 

 【彼女】は悲し気にベナトールを見詰めると、前脚を振り上げた。

 だがそれが振り下ろされる前に躱す。

 四つん這いになってブレスを吐くも、難無く回避する。

 その間にも同僚が的確に攻撃していくので、【彼女】は何度も身を反らせて苦しんだ。

 

 そんな様子を、心を鬼にして迎え撃つ。

 彼とて心が痛まぬ訳ではなかった。

 

 初めて会った頃のハナより幼い見た目だった、あどけない【少女】の顔を思い浮かべると、攻撃を躊躇いそうになる。

 ましてや一度『殺した』自分を、不注意だったからと生き返らせてくれた相手なのだ。

 

 だが、それでもベナトールは攻撃の手を緩めなかった。

 なぜなら【彼女】は【黒龍】と同系統の【モンスター】だったからだ。

 つまり【邪神】と同じ。ならば【災厄】になる前に打ち倒さねばならない。

 

 【少女】の時の見た目からして、もしかしたらこの世に生を受けて十年も経っていないのかもしれない。

 だが【竜人族】のように、【ドラゴン】は人間よりも遥かに長い生を生きるはずである。だから自分よりもずっとずっと年上なのかもしれない。

 だがそれでも、見た目の幼さでどうしても判断してしまう。

 

 無意識に辛そうな顔になっているのが自分でも分かった。だが兜で隠れているのを良い事に、同僚にはその気配をお首にも見せてはいなかった。

 

 

 キャオォ~~~!!!

 

 耳を劈くような甲高い咆哮を上げると、【彼女】の目から角にかけて、赤いラインが浮き上がった。

 それと同時に胸辺りがほんのり赤く染まり、紅い雷を帯びるようになった。

 

 どうやら怒ったらしい。

 

 怒り時の【彼女】は神々しさとは程遠い、凄まじい殺気を纏った禍々しい姿だった。

 この姿で初めに出会っていたならば、見惚れる前に【邪神】であると確信しただろうに。

 

 ベナトールはそんな事を考えてしまった。

 

 

 やはり、闘っている内に硬化した。

 

 こうなったら近接はほぼダメージを与えられなくなってしまうので、【弓】二人の活躍を期待するしかない。

 既に翼は破壊してくれているようなので、後はいかに攻撃力の高いものを当てられるかどうかに掛かっているのだが……。

 

 と、【彼女】が飛び上がり、高く上昇した。

 

 もしや【ベルキュロス】のような攻撃を仕掛けて来るのかと思ったがどうもそうではなく、高く高く飛び上がったと思ったら、崩れて柱状に長く残っている、上の階だった外壁の一部の先端にとまった。

 四人が呆気に取られて見上げていると、そこから見下ろした後、まるで啓示を行うかのようにして大きく頭を振りながら何度も吠えた。

 

 直後、四人のいた地面のあちこちに雷が落ちた。

 四人は何も出来ず、ただ逃げ惑うしかなかった。

 

『はっはっはっ! 【神の力】を思い知るが良い!』

 勝ち誇ったような声がベナトールの心に響く。

 

 当たればもちろん即死である。だが運良く誰も犠牲にならずに済んだようだ。

 

 【彼女】はその攻撃が気に入っているのか、それから何度も上昇しては地面全体に落雷させる事を繰り返すようになった。

 地上にいる時よりも広範囲に雷撃を落とせるのと、無傷で攻撃出来るのとで本人も楽なのかもしれなかった。

 だがそのお陰でこちらも雷撃のパターンが読め、誰も当たる事無く安全地帯でやり過ごす事が出来る。

 

 それは良いのだが……。

 

「あれ、どう見ても時間稼ぎだよな?」

「こっちはまったく攻撃出来ねぇもんな」

「分かっててやってんのか、単に自分が傷付くのが嫌なのか、どっちなんだろうな?」

「両方かもな……」

 

 格段に手数が減らされた四人は、そう言って安全地帯から見上げる事しか出来ないでいた。

 

「仕方ねぇ、ダメージ入るかどうか分からんが、試してみるか……」

 痺れを切らせた様子の【弓】が、【しゃがみ撃ち】を試してみる事に。

 

 これは【嵐ノ型(らんのかた)】で使える技で、片膝を付いた状態で【弓】を構え、自身の精神力を乗せて撃ち出す大技である。

 オーラを纏った矢が長い軌跡を引きながら飛んで行く事から、通称【オーラアロー】と呼ばれている。

 

 【弓】の本来の射程距離より何倍も遠くに矢を撃ち出す事が出来る大変強力な技なのだが、精神統一と高い集中力が必要であるために攻撃している間はまったく動く事が出来ないので、そこを狙われれば一巻の終わりという大変危険な技でもある。

 

 二人が片膝を付いて【オーラアロー】を撃つ様は、錬られた【型】が美しさを感じるのと同じで、張り詰めた空気を纏う姿がカッコ良くて見ていて惚れ惚れした。

 

 さて肝心なダメージなのだが、余りにも遠くて届いているかも分からない状態に見えたが、怯んでいるのを見ると効いてはいるようである。

 慌てた様子で降りて来た【彼女】に攻撃されるギリギリまで撃ち続けていた二人は、着地する遥か上で撃ち落とす事に成功したりしていた。

 

 

 硬化中は【弓】に任せ、それが解けたら近接がなるべく大きなダメージを加えるようにして闘った。

 頭を集中するベナトールのせいで、角と片目が潰れてしまっている。

 その痛々しい顔で【彼女】は彼を見詰め続け、ベナトールも【彼女】を見詰めながら闘った。

 

 『二人』は、もう悲し気な顔はしていなかった。

 ただ静かに、お互いの任務を果たすように闘い続けていた。

 

 やがて、【彼女】が断末魔の悲鳴を上げ、ゆっくりと倒れ伏した。

 

『……次は……、【人間】同士で……逢い、ましょう……ね……』 

 最期に彼の心に響いたのは、そんな声だった。

 

「その時に……、俺が【人間】であったならな」

 

 動かなくなった【祖龍】を見て歓声を上げた三人を尻目に、彼はそう声を掛けた。

   

   

 




三つの書物を揃えるための文面は、情報サイトに載っていたものです。

「伝説の書」「終焉の書」に関しては「フロンティア(もしくはMH2)」の世界では古龍迎撃や金獅子討伐で稀に手に入る物ではあるんですが、情報サイトでは「所在は把握されていず、未だにギルドが調査中」となっておりましたので、そちらの方を採用いたしました。

「白いドレスを着た少女」は「フロンティア」世界では存在しない依頼主であり、携帯機で登場するらしいのですが、クエスト内容がどうも「祖龍」の化身が仕向けたような内容だったのもあって、こんな登場の仕方をさせてみました。

なので、今回は不思議な感じの話になりました。

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