今日も元気にメゼポルタ広場からお届けします。【完結】   作:沙希斗

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「東シュレイド共和国」の連中が、またよからぬ事を企てているようです。

二万字を超えてしまったので、二回に分けます。
(それでも一話が一万字を超えているので長いです)


東シュレイド共和国の陰謀(1)

 

 

 

 【ミナガルデギルド】の【ギルドマスター】の元に、ある報告書が来ていた。

 それは、噂の真相を確かめるべく【東シュレイド共和国】に派遣していた【ギルドナイト】からのものだった。

 伝書鷹が持って来た文書には、こう書かれてあった。

 

 『やはり【東シュレイド】近辺で何百頭もの【モンスター】が密猟されているようです。その中でも取り分け【飛竜種】及び【古龍種】の数が多い事が分かりました。

 その近辺を狩場にしているハンターや近くの村付きハンターに聞いて回りましたが、彼らがこれ程の数を狩猟した形跡はありませんでした。

 狩猟の巻き添えになったと思われる小型【モンスター】の屍を調べてみましたが、どうもハンターが使っている武器で殺されたのではないようです。

 首都である【リーヴェル】に共和国の軍隊が集まっている事からして、そして近辺の狩場に彼らが出没している事からして、どうも共和国が【モンスター】の大量密猟にかかわっていると思えてなりません。

 【リーヴェル】に潜んで引き続き調査を続行します』

 

 

「ふむ……」

 【ギルドマスター】は読み上げた後、パイプの火を点けて文書を燃やしながら、「どう思うね?」と彼しかいないはずの部屋で言った。

 

「相手がハンターならば問答無用で処刑に向かいますが、相手が軍隊ですからねぇ……」

 

「だが、数百頭ともなると生態系が壊れるのは免れんぞ。しかもその中に【古龍種】も交じっているとの事ではないか。【古龍種】には解明されていない謎が多く、未だに生態系すら分かっていないものも多い。研究の段階なのに滅ぼされてしまっては、元も子もないのではないか? それに元々数が少なく滅多に見掛けないものも多いのだ。そんな彼らをただ何もせずに傍観して滅ぼしてしまうような事は、ハンターとして許してはならない事なのでは? 我々ハンターは、自然界のバランスブレイカーとしての役割も担っている訳だし」

 

「そのバランスを壊す者を粛清する任務を与えられているのが我ら【ギルドナイツ】なのだしな」

 

 誰もいないはずの暗がりで、何人かの声がする。

 

「では、各自で【東シュレイド】近辺の狩場に赴き、軍隊であるならばよく調べた上で場合によっては処刑してくれるか。通常任務は単独が基本だが、相手が相手だけにチームで行っても構わん」

 

「了解しました!」

「畏まりました!」

 敬礼した気配を残して、声の主達が消えた。

 

「正直、【国】とは諍いを起こしたくはないんじゃがのぉ……」

 一人残った【ギルドマスター】は、そう言って溜息を付いた。

 

 

 

 【メタペ湿密林(ミナガルデハンターの間ではジャングル、それ以外のハンターの間で旧密林と呼ばれている所)】は、【テロス密林】よりも木々の密度が濃く、視界が非常に悪い。

 それは【湿密林】という地名の通りに非常に湿度が高く、大型のシダ類なども多く茂っているからである。

 

「チッ、こんなに湿度が高いなら焼き払う事も出来んな……!」

 長剣で草木を切り払いつつ、彼らは道を作りながら突き進んでいた。

 

「隊長! 前方に水場が見えます!」

「そうか。ならば一時休憩としようか」

 すでに汗だくだった全員は、取り敢えず休憩がてら喉を潤す事にした。

 

 と、水筒を持って水場に近付いた隊員の一人が、悲鳴と共に水中に消えた。

 

「何!?」

「何があった!?」

 ざわつく彼らの目の前で、水が赤く染まっていく。

 

 遅れて浮かんで来たのは、隊員のものであった腕の一部だった。

 

「うわあぁっ!?」

「ひいぃっ!?」

 思わず後ずさった何人かを狙うように、いきなり巨大な魚と思われるものの上半身が水を割って飛び出し、横薙ぎに水鉄砲を食らわせた。

 

「ぎゃああぁっ!!!」

 悲鳴が次々に上がり、当たった者から順番に両断されていく。

 その勢いは凄まじく、並んでいた何人かが纏めて切り裂かれていった。

 

 胴体が、腕が、脚が、散乱していく。

 

「うわあぁ~~~!!!」

 瞬きが出来るかどうかという程の間にそれらを見せ付けられた隊員達は、一斉に逃げ出した。

 

「逃げるな! 構えぇっ!!」

 隊長の号令が飛ぶ。

 

 それでも逃げ出す隊員もいたが、命令に従った者はビシッと整列し、全員銃を構えた。

 

「撃てえぇっ!!」

 号令と共に水場に乱射される。

 

 水中に潜った相手だったが水中でも当たったらしく、勢いよく水から飛び出した。

 上陸して打ち上げられた魚のようにビタンビタンと跳ねているものは、大きな胸ビレと脚を持つ、とてつもなく巨大な魚の姿をしていた。 

 

 密集していた何人かが、その巨体に圧し潰されている。

 

「たた隊長、こ、これは……!?」

「【ガノトトス】だ! 全員退避! 下がって撃てぇっ!!」

 

 隊員達は遠巻きに囲み、一斉射撃を始めた。

 

 しかし多少血飛沫は上がるものの【ガノトトス】には微々たる事のようで、落ち着いた様子で立ち上がるや否や息を吸い、水ブレスを吐き出した。

 

 直線に飛んだブレスは正面にいた者全ての胴を貫通して即死させた。敵わぬと思った隊長は退却を命じたが、相手はそれを追い掛けるように胴を滑らせながら突進して来、更なる犠牲者を増やした。

 

「荷車隊が到着しましたぁっ!」

 その時遅れていた荷車隊が到着した。

 

「よし! 大砲用意!!」

「了解!!」

 荷車に積まれていた大砲が【ガノトトス】に向けられる。

 

「撃てぇっ!!」

 轟音と共に持って来た全ての大砲から砲弾が発射され、流石の相手もひっくり返った。

 

「よし、畳み込めぇっ!!」

 砲弾を撃つのは時間がかかるため、穴の開いた傷口を狙って射撃が開始される。

 悲鳴を上げた【ガノトトス】は悶えながらもブレスで応戦し、砲弾の準備をしていた何人かも犠牲になった。

 

 

 砲弾が有効だという事が分かっていたから前衛隊から遅れるのを知りつつ大砲を持って来たのだが、弱らせるより前に犠牲者はどんどん増えていく。

 それに歯噛みしつつも成体【モンスター】、取り分け【飛竜種】の素材を大量に集める事は【リーヴェル大統領】の命令なので、彼らはかくのごとく、多大な犠牲を払いながらも効率の悪い討伐を強いられていた。

 

 ハンターを雇う方が遥かに効率が良いのは分かっているのだが、密猟は彼らにとって違反であり、罪を犯せば厳しく処罰されるとあって雇われる者は皆無に等しいため、自分達でやるしかないのだ。

 

「あ~あ~、たかが【ガノトトス】一頭に派手にやらかしてくれちゃって。そこら中砲弾の跡だらけじゃないのよ」

 

 その時飄々としたような声がして振り向いた隊長は、狩場にまったく相応しくないようなデザインの布製に見える服を身に付けた、声からして青年と思われる者が近くに立っているのに気が付いた。幅広の羽根付き帽子を目深に被っていて目元が見えない。

 

「そうは言うが【ガノトトス】だぞ? 【モンスター】だぞ!? 並みの武器が通用するわけ――」

「まあ、素人が【モンスター】に敵うわけないもんねぇ」

 

 そう言って憶する事すらせずに進み出た青年は、腰の後ろに二振りの剣を帯びていた。

 抜き身のままのその剣は、一本が緑色に光る斬る事に特化した物、もう一本は青く光る突く事に特化した物になっている。

 

「おいお前! 鎧すら着けずに何を――」

「まぁ黙って見てなって。……あ、後で話があるから『生きてろ』よ、隊長さん」

 こちらを向いてニッと笑った青年は、瞬く間にスピードを上げて【ガノトトス】に肉迫した。

 

 【ガノトトス】はそれを見て、タックルをかました。

 

「オイお前っ! 危な――」

 それを見た隊長以下全員は、虫けらのようにただ潰される彼を想像して目を覆った。 

 

「そんなもの想定済みだよ~~」

 彼は馬鹿にしたように言うとひらりと躱し、即座に剣を両手で抜くと、頭上で交差させた。

 

 ジャリイィ~~~ン!

 

 刃が擦れ合った音がした直後、彼の足元から紅い闘気が立ち上がる。

 間髪入れずに足元に滑り込み、両手で流れるように切り刻んでいく。

 

 その動きたるや見えない程で、そしてまるで舞っているかのように見えた。

 

 その攻撃を受けただけで、短い悲鳴を上げて【ガノトトス】が横倒しになる。

 彼は立ち上がろうともがく相手に畳みかけ、更に舞うような動きで腹を切り刻んだ。

 

 立ち上がって攻撃しようとしても優雅な動きでひらりひらりと躱されながら攻撃された【ガノトトス】は、とうとう相手に一撃も加えられずに倒れ伏し、そのまま動かなくなった。

 

 見事な立ち回りに攻撃するのも忘れて呆けた様に見ていた隊員達は、あれだけの犠牲者を出して苦労して闘っていた相手を、しかも銃や大砲などではなく()()()()()()()()()()()倒してしまった彼に、ただ呆気に取られている。

 

 

「おお前、お前、何なんだ……!?」

「ばばば化け物……!?」

「化け物呼ばわりは酷いなぁ、こんなのハンターなら容易い事なんだよ?」

 

「……。お前、ハンターなのか?」

 鮮やかな立ち回りに恐怖さえ感じていた隊長は、ごくりと唾を飲み込みながら言った。

 

「う~~ん。まぁそうとも言えるし、そうでないとも言えるかな」

「なら、密猟者か?」

「その質問ならば、『否』だな」

「では何者だ?」

 

「……。こんな話聞いた事ない? 『行き過ぎた密猟をしたハンターは粛清の対象になって処刑される』って」

「いきなり何を――」

 

「つまりだね、ハンターにとって【密猟】とはそれ程罪が深い訳なんだよ。それは【ハンターズギルド】に登録しているハンターだけでなく、流れや未登録のハンターなんかにも当てはまる訳。ハンターと言うのは元々市町村の脅威を排除するだけでなく、自然に対してのバランスブレイカーを担う役割もあるからね。だからわざと生態系を壊すような狩りをする者は、違反者として厳しい処罰を受ける訳。それこそ最悪処刑されるぐらいなね。――で、【ハンターズギルド】にはね、その違反者を取り締まる、つまり処刑専門の任務を担う対人用組織があるんだよね。【モンスター】用ハンターじゃなくて、【ハンター】を狩るためのハンターがね」

 

「それは、つまり……」

 

「そう要するに殺人専門の組織だよ。そしてね、その対象はハンターだけでなく、時には生態系を乱す全ての【人間】にも向けられるんだ。そう丁度、君達みたいなね」

 

 言い終わった彼は、纏っていた優雅な雰囲気を一変させた。

 帽子の下から覗いている口元こそまだ微笑んでいるが、触れればそれだけで斬れるんじゃないかと思わせるような、研ぎ澄まされた刃(やいば)のようなものを纏うようになったのだ。

 

 それは、一振りの業物を見ているかのような、恐れを感じつつも吸い込まれそうな雰囲気が漂うオーラだった。

 相手はただ自然体で立っている。つまり武器を構えようともしていない。

 

 なのに、隊員達は咄嗟に銃を向けてしまった。

 

「……。君達が【東シュレイド共和国】の軍隊だという事は分かっている。返答によってはこの場で処刑する事になるから、よく考えてね隊長さん。あ、言っとくけど一度処刑の対象になったら、例え王族貴族だろうが関係なくなるから」

 

「私を、処刑するだと?」

「もちろんここにいる者全員も、だよ。逆らえば、の話だけどね」

 

「この数の銃に囲まれた状態でそれが出来るのならやってみろ。私の命令一つでお前はハチの巣になる事は見れば分かるだろう。死にたいのか?」

「死ぬつもりはないよ。そして、ハチの巣になるつもりもね。でも、そっちがそのつもりなら君達も相応の覚悟は出来てるよね?」

 

 そう言うと、彼は先程使っていた武器ではなく、腰の横に下げていた【サーベル】の柄に手を添えた。

 

「撃てぇっ!!」

 号令が飛び、一斉に射撃される。

 が、弾が彼を貫く前に、彼の姿が消えた。

 

「ぐわっ!?」

「ぎゃあぁっ!!」

 弾幕と煙の中で次々に悲鳴が上がる。その中には恐慌をきたしてめくら滅法に撃ちまくり、同僚を撃ったものも含まれていた。

 

 煙幕が消えた時に隊長が見たものは、彼以外が地面に転がっている姿。

 

 それらはすでに動いていなく、全部がただの肉塊に成り果てた事を、隊長は理解した。

 そして、服を真っ赤に染めて立っている青年の口元が、笑みの形に歪んでいる事も。

 

「ひいぃっ! ああ悪魔……!」

「化け物の次は悪魔かい。随分酷い言われようだね」

 

 相手はゆっくりした足取りで向かって来る。

 

「く、来るな! 助けてくれえぇ!!」

 隊長は背中を向けて逃げ出したが、「無駄だよ」と脚に銃弾を食らった。

 

 ひっくり返って振り返ると、銃口から煙を上げている、片手で持てるような小さな銃を向けられていた。 

 

「あなたには『生きてろ』と言ったはずだ。『聞きたい事があるから』ってね。だから殺しはしない。でも逃げようとするならもっと痛い目を見る事になるよ」

「……。『この場で処刑する』のではなかったのか?」

「『返答によっては』と言っただろう」

「何を、聞きたいんだ……」

 

「大統領の意図をね。君達は【リーヴェル大統領】から命令を受けてこんな事をしているんだろう? あのお偉いさんは、いったい何を企んでいるんだい?」

 

「……。それを、素直に私が話すとでも?」

 

「話す気が無いなら話す気になるようにするまでさ。さてどこで音を上げるかな?」

 ゆっくりと口元を上げた青年は、急所をわざと外しながら隊長を撃ち始めた。

 

「ぐはっ!!」

「がぁっ!!」

 その度に苦し気に上がる声を無視し、「ほら早く話さないと死んじゃうよ?」と容赦無く撃ち続けている。 

 

「……やめ……」

 

「――ん? 話す気になってくれたかい?」

「ゴボッ! ……ろ……」

「聞こえないよ。もうちょっと頑張って大きく話してくれないかな?」

 

 すぐ傍で跪き、口元に耳を寄せた青年に、血を吐きながら隊長は言った。

「……地獄に……落ち、ろ……!」

 

 直後に爆発が起こった。

 

 

「――ふぅ、死ぬかと思った」

 ギリギリで爆発を逃れる事に成功していた青年は、再び爆発地点に近付きながら独り言ちた。

 

「帽子が飛ばされちゃったよ。……しっかし、流石軍人といったところだね。口を割るぐらいなら巻き込んででも自爆するってか。――あ~あ~、これじゃ【隊長】を持って帰れないなぁ。せめて残ってる【ガノトトス】の素材を回収するか。銃と砲弾の跡が分かれば軍がやった証拠になるだろ。……こんな穴だらけにしちゃって。可哀想に」

 

 

 同じようなやり取りが、【東シュレイド】近辺の狩場で頻繁に行われるようになった。

 なので【ミナガルデギルド】では狩猟を規制し、立ち入り禁止地区を多く設けてなるべくハンター達を軍隊に近付けさせないように配慮した。

 

 それでもあわよくばと軍に肩入れする輩はいたが、そういう者は粛清の対象となったため、ハンターに紛れてわざとその噂を流した【ギルドナイト】によって、軍にかかわろうとする者はいなくなった。

 

 

 

「それで、少しは何か掴めたのかね?」

 

 【ギルドマスター】は、誰もいない自分の部屋で、まるで見えない誰かと話しているかのように尋ねた。

 

「今の所は【リーヴェル大統領】が、大量に素材を集めているらしいという事ぐらいですかねぇ……」

「あのお偉いさん、【モンスター】相手に戦争をおっぱじめたとしか思えないですよ。まぁハンター以外が【彼ら】に対抗しうる手段を用いるとすればそうするしか無いんでしょうが、このまま続けば【モンスター】の生態どころか自然界自体が破壊されかねませんぜ」

 

「せめて軍隊が出発する事や、狩場への行先なんかが事前に分かればなぁ……」

「そうだよねぇ、そうすれば先回りして【戦争】が始まる前に防げるかもしれないのにねぇ」

「そういえば、【リーヴェル】に潜伏している者からの連絡は来ているのですか?」

 

「それがの」

 【ギルドマスター】は、心配そうな顔をして言った。

「あれから、一度も来ておらんのじゃよ」

 

「なんですって!?」

 数人がざわついた気配がした。

 

「『軍が関係する』というような内容の報告文が来て以来、ですよね?」

「そうなのじゃよ……」

「何か、良からぬ事があったのでは……?」

「あいつ、もしかしてヘマやらかしたんじゃねぇだろうな?」

「まさか!」

 

「……。あ奴の事じゃから、もし万が一そうなったとしても、正体をバラすような事はせんとは思うのじゃがの……」

 

「いずれにしても、潜伏員も含めてもう少し人手を増やす必要があるのではないでしょうか。我々【ミナガルデギルド】の【ギルドナイツ】は最大九人ですが、全員がこの件にかかわっているわけではありません。ですので、この際近場の【ギルドナイツ】の要請を頼む必要性があるのではないかと……」

「う~~む……」

「人数が増えればそれだけ把握もしやすいのではないでしょうか」

「そうだよねぇ、僕らの中で潜伏員を増やすとなると、【軍隊狩り】の人数も減っちゃうしねぇ」

「短い期間だけでも違うのでは?」

 

「そうじゃのぉ……。潜伏員の分だけでも頼んでみるかのぉ……」

 

「よろしくお願いします」

「分かった。では【ドンドルマギルド】の方に伝書鷹を飛ばす事にしよう。あそこの【ギルドマスター】とは昔からよく協力し合っておるでの。今回の事も融通してくれるかもしれん。願書をしたためたら飛ばしてくれんか」

 

「畏まりました」

 

 

 

 連絡を受けた【ドンドルマギルド】の【ギルドマスター】は、融通出来る【ギルトナイツ】を呼んで潜伏員として【リーヴェル】へ送った。

 

 その中に、ベナトールも含まれていた。

 

 

 【東シュレイド共和国】の首都【リーヴェル】は、【東シュレイド】各地に点在する【街】との交易が盛んで、物とともに多くの人々が行き交うこの地方最大の都市である。

 険しい山岳に囲まれた盆地に位置するこの一帯は冬が長く、特に【寒冷期】には非常に厳しい気候となっている。

 

「寒いな……」

 【リーヴェル】に着いたベナトールは、白い息を吐きつつ呟いた。

 

 【ヒンメルン山脈】を越えた所にあるので【ミナガルデ】と似たような気候を想像していたのだが、そこよりも厳しそうだ。

 

「もう少し、防寒着を買い足しておくか……」

 

 いつも【西シュレイド王国】止まりで【東シュレイド共和国】には来た事が無かったため、勝手が分からない。

 だがどんなに辺境な所でも大陸全体であれば【z(ゼニー)】は通貨として使えるようなので、通行人に服屋を案内してもらって何枚か買い込んだ。

 

 大都市なのでハンターも多くいるようであるが、ここはあくまでも拠点であって【ハンターズギルド】は出張所だけが置いてある。【シュレイド地方】のギルド本部は西であろうが東であろうが【ミナガルデ】にしかないらしい。

 

 ハンターが集う【集会所】にいる【ギルドマネージャー】に、傍から見れば【紹介状】を渡すようなふりをして機密文書を渡す。

 目を通した【マネージャー】は、仮登録を済ませてくれた。

 

 これでハンター専用の【マイハウス】を使わせてもらえるようになるため、そこに荷物を置く。

 

 潜伏している間、狩りをしながら調査出来る準備が整った。まずは連絡を絶ったという潜伏員を捜さねばならない。

 

 彼が最後に報告して来た文には『軍が関係している』と書かれてあったという。

 ならば、軍隊を調査していて捕まったのだろうか?

 

 だが彼は、雇われ一般人でもただのハンターでもなく【ギルドナイト】である。例え王国の近衛軍が相手でも、一人で互角にやり合える力を持つ者だ。

 そんな者が、そう易々と捕まるとは思えない。

 

 何か、裏があるな。

 

 そう思ったベナトールは、取り敢えず軍の動きを探る事にした。

 

 

 【大統領官邸】は元より、各区画に立って目を光らせている軍の数が、なんだか多いような気がする。

 ハンターや一般人に聞き回ってみると、どうやら最近になって急に増えたのだそうだ。

 

「また【西シュレイド】と戦争をおっぱじめるんじゃないのかねぇ……」

 売り場の婦人はそう言って不安気な顔をした。

 

「狩場が規制されて立ち入り禁止区域が増えちまったのよ。だからオレ達も思うように動けなくて困ってる。軍隊に狩場を占領されたみてぇで腹立たしいぜ」

 ハンター達の多くは、好きに狩りが出来ないフラストレーションが溜まっているようだ。

 

 【ミナガルデギルド】の【ギルドマスター】によると、どうやら【大統領】に命令されて、多くの軍隊が狩場に出没しているようなのだが……。

 

 

 なぜ【大統領】は、そこまでの大量な【モンスター】素材を求めている? 

 

 軍隊はまるで戦争のように、多大な犠牲を払ってまでも【モンスター】を狩りまくっており、それを【ギルドナイト】に追究されると巻き込む覚悟で自爆して来るという。

 

 そうまでして隠そうとするものは、何だ?

 

 【軍隊】だって無限にあるわけではない。なのに、まるで目的のためならば軍隊そのものが消滅しても良いと思えるまでの愚行ではないか? 【西シュレイド】を再び攻める気ならば、軍の数は多く確保しておく必要があるはずなのに。

 

 軍が消滅しても良いと思える程の、新たな兵器を開発しているとでも? 軍がいらなくなるような、軍より強力な兵器を?

 

「……。まさかな」

 ベナトールは、ある事がちらりと頭を過って即座に否定した。

 

 【旧シュレイド王国】の技術は千年以上前に滅びた時に、廃れているはずだ。

 現代の科学では、到底再現出来ようはずがない。なんせ、【錆びた塊】などの古代文明の忘れ形見の武器でさえ、研磨して使えるようにするのがやっとで、欠けた部分を同じ素材で蘇らせる事すら不可能なのだから。

 

「だが、やはり調べる必要はある、か……」

 

 

 

 ベナトールは、大量に集めた素材を運び込んでいる場所を調べて素材の中に潜り込み、そこまで運んでもらった。

 

 潜入前に伝書鷹を飛ばしておいたので、彼が軍の施設内に入るという連絡は【ドンドルマギルド】にも【ミナガルデギルド】伝わった事になる。

 

 運び終えた者が出て行き、その者らの気配が消えたのを確認して這い出して見たベナトールは、我が目を疑った。

 

 一時置き場として大きな倉庫が使われており、そこには戦慄を覚える程の量の【モンスター】素材が山と積まれていたからである。

 それらはほぼ【飛竜種】のようだったが、中には【古龍種】、取り分け【ドラゴン系】である【クシャルダオラ】や【テオ・テスカトル】のものも含まれているようだ。

 

 また、【黒龍】を呼び出すつもりではあるまいな?

 ベナトールはかの【伝説】と対峙した時の恐ろしさを思い出して、身震いした。

 

 

 誰かがやって来た気配がしたので素材の中に隠れると、研究員と思しき者が入って来た。

 

「あと、どれぐらい必要じゃ?」

 助手と思われる女性に話しかけている。外見から察するに、二人共【竜人族】であるらしい。

 

「外殻や翼などの『一体分』は足りていますが、内臓や血が足りません。【大統領】は『一体だけでも早急に完成させよ』と仰っておりました。なので一体分だけで考えるならば、あと三十頭分の内臓と血が必要かと」

 

 一体分で三十頭分の素材が必要、とは?

 

「じゃが失敗続きで素材と金属の融合が上手く出来ておらん。もう少しだと思うんじゃかの~~」

 

 素材と金属の融合、だと!?

 

「やはり鍵は【古龍種】なのじゃと思う。じゃが【東シュレイド】、いや【シュレイド地方】全体には元々【古龍種】は殆ど生息しておらんのじゃ。やはり【ヒンメルン山脈】を越えた地方にまで進出する必要がある」

「しかし、そこまで軍を出す余裕は無いのでは?」

「そうじゃろうのぉ。じゃから、少ない【古龍種】素材でどうにか成功させねばな」

 

 その後ろから数人がかりで巨大なカートを押して入って来て、素材を積み込み始めたので、ベナトールは気付かれないように運ばれて行く先に付いて行った。

 

 

 特別な鍵でしか開かないような扉があり、そこには【実験室】と書かれてあった。

 

 中に入るとだだっ広い空間になっており、しばらく進むと暗がりに浮かび上がるように【あるもの】がワイヤーで吊るされて、力無くだらりと垂れ下がっていた。

 

 【それ】はあまりにも巨大で、全長で言えば【ラオシャンロン】ぐらいあるのではなかろうかと思われた。

 『思われた』と書いたのは完全形体をしておらず、所々欠けた(というよりは引き千切られた)ような姿をしていたからである。

 

 姿だけで察するに、【ドラゴン系】だと思われた。だが現代の【古龍種】とは、明らかに違っていた。

 なぜなら、金属と生物の組織が融合していたからである。

 

 【それ】は、金属で出来た鋼の翼を持っていた。

 顔面、腕、脚、背中などの外殻が、金属の鎧を着た様になっており、後は生物組織だった。

 

 筋肉組織が丸見えになった片腕の、肘上から先と尾の先が引き千切られたように無くなっており、見えている骨は金属製だった。

 

 胸部が抉り裂かれ、金属製の肋骨が中から押し出されたように開いており、あるべき肺はもぎ取られたように無くなっている。だが生物組織の心臓は残っており、同じく生物組織で出来ている血管にぶら下がるようにして垂れ下がっていた。

 

 だが、その心臓が動く気配はなかった。

 

 腹部には傷は無く、従って胸部に致命傷を受けた事により死んだものと分かった。

 開いたままの口から金属製の牙が覗き、生物組織と金属が融合したような舌が、だらりと下がっている。

 

 顔部分には金属製の面が融合しており、のっぺらぼうのように目やら鼻やらが無かった。

 だがそこ以外は生物組織で、頭頂と両脇に生えている、合計三本の角は生物組織で出来ている。

 顎も生物組織で、つまり顔面以外は生物組織で出来ているように見えた。

 

 【それ】は生々しく、血が流れていない以外は今死んだものを吊ったばかりのように見えたが――。

 

 ……! 【イコール・ドラゴン・ウェポン(竜機兵)】!? なぜ……、なぜ【これ】が【ここ】にある!?

 

 ベナトールは【黒龍】に遭った時以上に戦慄した。それは【旧シュレイド王国】を滅ぼすきっかけになったと言われている、つまり【黒龍】の怒りを買ったと言われている【竜大戦時代】の生物兵器だったからだ。

 

 つまり姿こそ生々しいが、千年以上前に栄えた古代文明の遺物なのである。

 

「……この融合部分の仕組みがどうしても上手くいかんのじゃよなぁ」

 先程の研究員が、【竜機兵】の融合部分を調べながらブツブツ言っている。

 

 まさかこいつら、【竜機兵】を蘇らせようとしているのか!? そのために大量乱獲して素材を集めていると!?

 

 だが彼らは『一体分』と話していた。こいつを蘇らせたいだけならば欠けている組織を作るだけで良いはず。だとすれば、こいつを参考にして丸々『一体分』を作り出そうとしているという事か!? 

 

 【竜機兵】は一体で、大昔に栄えていた【ドラゴン族】と同等の能力を有したと伝えられている。確かにこいつを再現し、量産できれば【人間】で構成された軍隊は必要なくなるだろう。

 

 【リーヴェル大統領】の狙いはこれか? このために軍の消滅覚悟で大乱獲をしていると!?

 

 狂ってやがる。前の【リオレウス部隊】といい、戦争に勝てばどんな手を使っても良いと思っているのか? 驕り上がるのも甚だしいぜ。

 

 そんな事を考えていたその時、誰かが連れて来られた。

 

 

「素材の融合具合はどうじゃな?」

 様々な器具が付いた実験椅子に座らされたその者に、研究員は聞いた。

 

「まだ違和感はありますが、大分馴染んで来ております。ですが、やはり金属融合の部分はどうしても外れてしまうみたいですね」

「やはりのぉ。恐らく【古龍の血】が触媒じゃと思うんじゃが、量も質も足りんのかのぉ……」

 

 【その者】が人間であって人間でないのが、遠目からでもハッキリと分かった。

 少なくとも手足は【モンスター】のものだったからだ。

 

 赤黒いその手足には【飛竜種】の特徴を持つ鱗や頑丈そうな甲殻があり、爪が鋭い鉤爪になっている。 

 外殻の一部が金属になっているようだが、そこは僅かに浮いていた。

 

「しかし、長い間説得を続けて引き入れてやはり良かった。肉体も精神力も、並みの人間ではこの実験は持たんからなぁ。上位ハンターでも難しかったこの素材融合を成し得たのはお主だけじゃて」

「……。自分が【竜機兵】になれるとは思えませんが、それでも【ドラゴン】の力の微々たる影響でも欲しかったのです。【ギルドナイト】としてもっと強くなるために」

 

 ……【ギルドナイト】だと!?

 ならば、まさかこいつが連絡を絶った潜伏員なのではあるまいな!?

 

 と、【彼】がこちらを見た。

 

 気付かれた!?

ベナトールは物陰の奥に隠れた。かなり遠く離れている場所で気配を読まれた。やはり【モンスター】と素材融合すると、【人間】以上に感覚が鋭くなるらしい。

 

「博士、余所者が一人紛れ込んでおります」

「なんじゃと!?」

「気配を隠すのに長けている者のようです。どうされますか?」

 

「まずその者の正体を探らねばならん。【ギルドナイト】ではあるまいな?」

 

「いえ、【ミナガルデ】の【ギルドナイツ】にはいない者です。誰かの差し金か、それとも軍の中に裏切り者がいるのか……」

「どちらにせよ捕らえてくれ。殺すなよ?」

「承知しました」

 

 椅子から下りた【彼】は、瞬間移動したかのようなスピードで向かって来た。

 外へ逃げようとしたベナトールだったが、ここはあまりにも広く、出口まではかなり遠い。

 

 走って逃げようにも自分の足より速く追い付かれてしまう。というより、ジャンプの筋力が凄まじく、先程瞬間移動したように見えたのはジャンプして来たのだと分かった。

 

「大人しくしないと大怪我するぜ?」

 相手は鉤爪を有している。抵抗すれば人間の生身など簡単に切り刻まれるだろう。

 

 ちなみに今のベナトールは一般人の格好をしている。ハンターの恰好で軍に近付くと余計に怪しまれるからなのだが、鎧じゃないので【モンスター】の爪を受けたら致命傷になってしまう。

 

 だが避ける事は得意なので、相手の爪が当たらない。

 

「随分素早いな。貴様一般人ではないな? ハンターか?」

「……。小さい頃から避けるのは得意でしてね。動体視力が人よりスバ抜けてるんですよ」

「嘘を付くな! ならその異様に発達した体躯と筋肉はどう説明する?」

「これも生れ付きでしてね。それに山岳地帯で育った者ならそれ程珍しい事ではないのでは?」

 

「……。目的は何だ?」

「何がです? 私はただ迷い込んだだけで――」

 

「見え透いた嘘を付くな! 余程調べないとここには辿り着けない。誰に頼まれた?」

「頼まれたも何も――」

「いい加減そのわざとらしい芝居はやめたらどうだ? その話し方が本来のものではないのはバレバレなんだが?」

 

「ふむ……。やはり無理があったか……」

「あり過ぎだろっ!!」

 

「ところで、なぜ貴様はそのような気持ち悪い姿をしている? この吊るされている【竜機兵】と関係あるようだが、それこそ貴様達の目的は何だ?」

「誰に頼まれたか知らんが、それを探るのが目的ならば、もはや生かしては返さん」

「殺すかどうかは貴様の勝手だが、その前に俺を捉えてから言う事だ。自慢のその爪も、当てられなければ致命傷を与えられんのだからな」

 

「黙れぇっ!!」

 叫んだ相手の目の色が変わった。紫を帯びただけでなく、瞳孔も縦長になっている。

 

「おいおい、もしや心まで【ドラゴン】になるのではあるまいな?」

『融合とは、【ドラゴン】と同等になるという事なのだ!!』

 

 声の響きが変わったと思った瞬間、【彼】の体が変化し始めた。

 メキメキと音を立て、背中に金属製の翼が生えた。

 口が裂けて歯が全て牙になり、顔も長くなった。

 

 頭に角が生え、尻尾も生えたその姿は、さながら【ドラゴン】、いや一部金属が融合しているので小さな【竜機兵】のようである。

 

「……たまげたな。『ここまで』もう出来ているのか……!」

『【竜機兵】そのものはまだまだ完成に時間が掛かるが、【人間】をそのままの大きさで【竜機兵化】する技術はある程度出来ているのだ。さっさと捕まれ貴様!』

「『生きて返さん』のではなかったのか?」

『あぁ返さんさ! ただし殺すのではなく、死ぬまで【地下牢】に閉じ込めてやる!』

 

 相手は吠えると舞い上がり、急降下して来た。

 

「うおっ!?」

 加速が加わる急降下は、人間サイズだからなのか思ったよりもずっと速い。避けたつもりだったがそれに合わせるように腕を振られ、二の腕を切り裂かれた。

 

「……ふん、変身してようやく当てられたか……」

 鎧を着けていないので深手になったが、筋肉がある分骨を切断するまでには至っていない。

 

「速ぇな。【竜機兵化】したというのは嘘ではなかったという事か」

『当たり前だっ!!』

 

 再び舞い上がった相手は同じ手口で襲って来たが、それが通用するようなベナトールではない。

 

「同じ手は通用せんぞ」

『ぐあっ!?』

待ち構えていたベナトールは急降下に合わせ、攻撃を受ける寸前で回避しながら腕を掴んだ。バランスを崩した相手は変な角度で腕を捻られた。

 

「……ふむ。素材融合が上手くいっていないのは、こっちとしては助かるな」

『くそぉ……っ!』

「ほれ胴ががら空きだぞ」

 

 拳を腹に当てたベナトール。いつもはただ添えるだけで済ませるのだが、【ドラゴン】の甲殻に当てなければならなかったのでやや本気で突き入れた。相手は苦し気な声を出して一応吹っ飛んでくれたのだが、彼の拳も傷付いた。

 

「やはり生身で大型【モンスター】(と同等の能力を持つ者)と闘うものではないな……」

 分かってはいたが、今更ながら鎧の恩恵を受けられないのはこれ程キツイものかと思った。

 

『このっ!!』

相手は跳ね起きてそのまま飛び蹴りして来た。

 

 避け切れず、足の爪が当たる。

 応戦するが、当たる確率が多くなり、段々動きが鈍くなってきた。

 

 

 

「……、……!」

『……ふん、息が荒く、なって来た、な……』 

「……それはお互い様だろう……」

『血が、足りて無さそうだが……、もうくたばっても、良いんじゃ……ねぇか?』

「そう言う貴様も……、ボロボロじゃねぇかよ……。そこまで融合が外れて、よく耐えられてるな……」

 

 相手の、特に金属融合部分は使い物にならなくなっており、その恩恵を受けていた翼は根元から剥がれてだらりと下がったまま、まったく機能しなくなっている。

 

『……。一つ聞きたい……。貴様、本当は、【ギルドナイト】なのでは、ないのか……?』  

「……。それを知って、どうする……?」

 

『もし貴様が……そうなら……、さぞや、強い【竜機兵】に、なれるのではないかと……思って、な……』

「……もしそうだとしても……、そんなものには、ならんよ……。こちらから、願い下げだ……」

 

『……強く、なりたくは……ないのか? 【ドラゴン】と同等の……力を……、得られる、んだぞ……?』

 

「……そんなものには……興味は無い……。ましてや、自然の理に逆らうなど……。貴様こそ、元は、ハンターだったのだろう。【ギルドナイト】とて同等だ……。それに逆らうなど……有るまじき事を、なぜ……」

『……処刑はもう、覚悟している……。ましてや俺は、【ギルドナイト】だ。【ミナガルデギルド】には、もう帰れん……』

 

 なるほど……、それで連絡を絶ったのか……。

 

『……だが……』

 相手は立っていられなくなってベナトールにもたれ掛かった。よろめいたベナトールだったが、支える事は出来た。

 

『……力が……。力が、欲しかった……。【ギルドナイト】を、超えた力を……。それで【人間】で、なくなるとしても……』

 

「……それは、愚かな考えだ……。それは【強くなる】のではない……。【弱い者が強いものに頼る】行為に、過ぎん……。例え【強くなった】としても、それは【真の強さ】ではない、【作り物の強さ】だ……。そんなものは……満足出来ずに、また欲求に襲われる。キリが……なくなるぞ……?」

『……それでも構わん……。力を……得られるならば!』

 

 次の瞬間、ベナトールは脇腹に激痛を感じた。

 

「うがっ! しまっ――!?」

 たちまち視界が暗くなる。

 

 見なくても分かる。爪を押し込まれたのだ。

 

 相手は抜いた直後に崩れた。抜かれた激痛で一瞬だけ視界が戻ったが、すぐにまた霞んでいく。

 

 ベナトールは血の吹き出る傷を押さえながらよろよろと後ろに数歩下がり、そのまま倒れて気を失った。 




「竜機兵」の描写は、「王立古生物書士隊」が記している公式資料(ハンター大全)を参考にしています。

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