今日も元気にメゼポルタ広場からお届けします。【完結】 作:沙希斗
なので続きのようになっております。
護衛で【ジォ・ワンドレオ】に来た四人は、せっかくだからついでに観光していこうという事になった。
【双剣】の技術が伝わった都市だというので、少なからず興味があったからである。
まあどちらにしても【ドンドルマ】に帰るまでの旅の準備もしないといけないので、数日は過ごす予定ではあったのだが。
都市部の中心で市場が開催されているというのでそこに向かった四人は、地面がなんだかゆらりゆらりと揺れているのに気が付いた。
「よぉ、なんか足元不安定じゃね?」
「ずっと揺れてる、変な感覚だねぇ」
見回すと海の上みたいに見える。という事は、ここは海上に造られた人工の地面なのだろうか?
「なぁ、ここって海の上なのか?」
東西の様々な品々が並ぶ市場を眺めつつ、売り子に声を掛けてみるアルバストゥル。
「ハンターさん、ここに来るのは初めてかい?」
辺境故に、常に【モンスター】の脅威にさらされているとかでその備えも充実している都市なので、ハンターも日常的に見ている様子。
だから売り子は厳めしい恰好をしている四人(主に二人)を見ても、臆する事無く笑顔を向けた。
「そうなんだよ。【砂漠】にはよく行くんだがな、内陸部ばっかで海岸線の方には来た事がなかったもんでさ」
「ならここがイカダで造られてるって事は知らないかもねぇ」
「イカダ!? このクソ広い場所がか?」
「そうだよ。ここはね、イカダを連結して造っているのさ」
四人は目を丸くした。
都市部の中心だけあって、市場の施設だけでなく、家々が立ち並んでいるのだ。まさか街並みそのものがイカダの上にあるとは。
「陸上は【モンスター】に襲われやすいからね。海上に造った方が安全なのさ」
「なるほどねぇ……」
噂ではどこぞの海域にある【モガ村】とか【ロックラック】とかいう所(島?)は、【海竜種】などと呼ばれている海の【モンスター】がいるらしいのだが、この近辺では今の所生息が確認されていないので、海上では【モンスター】に襲われる事が無いと言っても良いのだ。
昼食を取ろうという事になったのだが、足元が常に揺れているという感覚が、それに慣れていない四人にはどうにも気持ち悪い。
狩場まで船で行く事は多いのだが、小型船の揺れと揺れ方が全く違うため、どうにも慣れないのだ。
「『郷に入れば郷に従え』って言うけどなぁ……」
「…………」
「……ベナ? もしかして酔った?」
「……そんな事は……」
「意外な弱点見っけ♪」
「……黙れカイ」
「とにかく陸に上がろうぜ。俺もこの感覚は好きになれん」
陸に上がっても、しばらくはフワフワした感覚が残って歩行がおかしくなった。
何しろ中心部がイカダの上なので、大きな食堂などは全部イカダの方にある。
なので、四人は鄙びた食堂に入った。
しかし鄙びているといってもやはり豊富な海産物は揃っているらしく、陸上の肉を中心とした料理と違って魚介類を中心とした料理でたんまり腹ごしらえが出来たのは、旅行気分が味わえて楽しかった。
「レインにお土産買ってあげたら?」
「俺もそれを考えてた所なんだが……。何が良いだろうか」
「サンゴの装飾なんてどう?」
「ふぅむ……。でも【峡谷】で【オカサンゴ】が採れるしなぁ」
「【オカサンゴ】も綺麗だけど、海なら海のサンゴがあるんじゃない? 種類も多そうよ」
「そうだなぁ……」
「私もジョセちゃんに買ってってあげよっと♪」
「すまんが、俺は残るぞ」
「そうした方が良いだろうね。屈強な大男が通りの真ん中で吐いたりしてたら恥ずかしいもんね」
「……。海ん中放り込むぞカイ」
「まぁ誰でも弱点はあらぁな。俺だって揺れるのは好きじゃねぇ。あんま長くいたくねぇからサッサと済ませるぞハナ」
「了解~~」
しかし色んな装飾品や可愛い小物などを見付けたハナが中々市場から離れようとしてくれず、仕方ないのでアルバストゥルは適当に見繕って、サンゴの髪飾りとサンゴの装飾が付いた小さなナイフを買って、後はカイに任せて早々にイカダから引き揚げた。
多少ふら付きながらベナトールの所まで帰って来ると、彼は海風に吹かれながら黄昏ていた。
海を見詰めるその遠い眼差しは、何を思っているのだろう。
「渋いな、オッサン」
声を掛けるとチラリと見て、僅かに口の端を上げた。
「たまには、こんな日があってもいっか」
「……。俺は、退屈だがな」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「……なぁオッサン、あんた引退してからの事、考えた事あるか?」
「ねぇな」
「ねぇのかよ。俺らの中で、年齢的には一番早く引退する事になるだろうに」
「……。引退する気なんざ、ねぇからな」
「歳食ったら【モンスター】に対処出来なくなるんじゃねぇのかぁ?」
「その時はその時だ。そうなったら素直に狩られる側に回るだけだ。それに俺の場合、相手が【モンスター】とは限らんからな。【人間】に狩られるのが先か、【モンスター】に狩られるのが先か……。どちらにしても【俺】を殺せるものが将来出来るのは楽しみだよ」
「ケッ。カッコいい事で」
「……お前はどうなのだ?」
「……。俺も、似たようなもんだ」
「レインはどうするのだ?」
「あいつは、俺の事は分かってるからな。分かってて付いて来てくれたんだから、覚悟はしてるだろうぜ」
「……。それでも、帰ってやった方が良いんじゃねぇのか?」
「いいや……。逆に帰りたくねぇな。あいつに惨たらしい死体なんざ見せたくねぇ」
「そうか……」
「なぁオッサン」
「なんだ?」
「もしも、もしもあんたと組んでる時に俺が死ぬ覚悟をしたとしたら、死体はそのままにしといてくれ」
「了解した。俺もその言葉をそのまま返すぜ」
「了解。なら俺と組んだ時にそうなったら、俺が最期を見届けてやるよ」
「そうしてくれ」
二人はお互いに目を合わせてニッと笑った。
オッサンの、意外な弱点発見(笑)
この話を読んだ友人には「続きがあるのか」と言われましたが、一つの話として考えたものなので続きはありません。
「ジォ・ワンドレオ」については情報サイトを参考にして書いています。
公式文献にも「イカダを繋げている」とか「ここから双剣が伝わった」などと書かれているようです。