今日も元気にメゼポルタ広場からお届けします。【完結】 作:沙希斗
なるべく正月の時期に間に合わせたかったんで急いで編集などして投稿したんですが、間に書いていたものが多かったので、網羅している内容のものだけピックアップして投稿しました。
それでも十日目になってしまいました。
それは【寒冷期】から【繁殖期】に移る間際の頃の事。
レインがキッチンに立って、歌いながら何やら作っていた。
「♪とぉ~しぃのぉは~~じめぇの~たぁめぇし~~とてぇ~~♪」
「なんだその歌?」
「あらアルバ知らないの? この時期になると歌われる歌なのよ」
「一般人の風習なんぞ知らん。てか、歌なんぞ【肉焼きソング】ぐらいしか歌わん」
「それ、歌詞なんて無いじゃない」
「まぁそうなんだけどな。俺はあの歌好きだぜ割と。ハンターそれぞれで適当な節付けてさ。『タッタラ~~♪』とか『ふんふふ~~♪』とかな。ハンターなら誰でも歌えるからたまに【大衆酒場】で大合唱になる時ある」
アルバストゥルは、可笑しそうに言った。
「そんな団結力があるのは羨ましいわねぇ」
「まぁな。普段はてんでんバラバラだったり全く関係ねぇような顔して飲んでても、なんでかそういう時には妙に団結力があるんだよなぁハンターっつうのは」
「そう言えば【モンスター化】したベナトールさんを助ける時も、自分から血の提供を申し出て下さったんですって? G級の方達」
「あぁ。あの時の団結力も凄かったぜ。もちろん俺らも申し出たんだがよ、あぁいうのはGRじゃねぇと耐えられんのだと。しかも噂では【ギルドナイト】の血も提供されたとか言ってたぜ。それがもし本当ならすんげぇ事だよな!」
「本当だったら、の話だけど、それならベナトールさんは【ギルドナイト】の血も入ってるって事になるのねぇ! 強いはずよねぇ」
「強いのももちろんだが、あのオッサンは異常にタフだからなぁ。レインが誘拐された話聞いた時、俺なら撃たれた時点で即死だったなと思ったもんよ」
「そうなのよ! あの時よく死ななかったと思ったの。だって背中に大穴が開いてて、血も一杯吐いてたのよあの人。それなのにその状態で闘うんだもん。無茶過ぎよねぇ」
「【応急薬】だけで命を取り留めたんだって? 普通なら【秘薬】でも完全回復しねぇんじゃねぇかぐらいの傷だったのに」
「そうなの。でも【応急薬】がもし無かったら、危なかったでしょうね」
「だろうなぁ。そういう意味ではギルド様々だな」
「だねぇ~~!」
「ところでよ」
アルバストゥルは聞きたかった話がずれたので、改めて聞き直す事にした。
「さっきから何作ってんだ?」
「あぁこれ?」
レインはダシの良い香りのする、湯気が上がっている大鍋をかき回しながら言った。
「お雑煮」
「何だそりゃ!?」
「えっとね、【ポルタモッチー】で作るお料理なんだって。食材屋のおばさんが教えてくれたの」
「【ポルタモッチー】って普通そのまま食うか焼くかするもんじゃねぇのか? 煮たりしたらとろけねぇか?」
「あんまり煮詰めるととろとろになるらしいんだけど、仕上がる少し前に入れたら大丈夫なんだって。でもそれはこの時期についたような、柔らかいものしかダメなんだって。長い間保存してて、カチカチになったものは煮るのも焼くのも一旦水で戻したりして手間がかかるそうよ」
「へぇ~~。で、なんでそんな大鍋でやってんだ? まさかとは思うが……」
「お察しの通り、みんなで【お正月パーティー】すんの♪」
「……。あそ」
自分に話さないのは毎度の事なので、アルバストゥルはもう諦める事にした。
案の定、呼ばれていた三人がやって来た。
「明けましておめでとおぉ♪」
「あけおめぇっ♪」
「何だ? そのヘンテコな挨拶は?」
カイとハナが元気良くそう言って来たのを、キョトンとした顔で見るアルバストゥル。
「どうもな、一般人でこの時期にだけ交わされる挨拶なんだと」
ベナトールが苦笑しながら言った。
「また妙なものを覚えたもんだな」
「なによ、幼児が変な言葉を覚えたみたいに言わないでよ」
「そうよぉ、一般人では当たり前の挨拶なのよ?」
「そうなんだってさアレク。『明けましておめでとう』の略が『あけおめ』って言うんだって」
「へぇ」
「興味無さそうに言わないでくれる?」
「だって興味ねぇもんよ」
「ちなみにな、この挨拶の後ろに『今年もよろしくお願いします』と言うものをくっ付けるのが常識とされているそうな」
「そうなんだって。でね、それを略すと『ことよろ』になるんだってさ」
「あそ」
「もぉ、少しは乗ろうという気はないの?」
ハナが呆れている。
「ねぇな。てか、それ俺に対してだけに言うセリフじゃねぇと思うんだが?」
「……。ことよろ」
「うわボソッと言うなよ! 気色悪ぃ」
「ほらベナも乗り気なんだから、アレクも乗ってよぉ」
「『これで』乗り気と言えるのだろうか……」
「黙れアレクトロ」
そんな事を言い合っている内に【お雑煮】とやらが出来たので、皆でつっつく。
ちなみにこの【雑煮】には地方や各市町村によって作り方や味に違いがあるそうで、レインは【春夜鯉(はるよこい)】を乾燥させたものでダシを取った煮汁を使ったが、【古代豆】や【ミックスビーンズ】などを使って作った【味噌】なるもので作る煮汁を使う所、【ミックスビーンズ】を甘い調味料で作った【あんこ】なるもので作った煮汁を使う所など、様々なバリエーションがあるそうな。
「ねぇ、今度【ぜんざい】で作ってみない?」
ハナがレインに提案している。
「【ぜんざい】って何?」
キョトンとしたレインにハナは、「【あんこ】の煮汁を使うんだって。【ポルタモッチー】は同じだそうよ」と説明した。
「へぇ~~! 美味しそう♪」
「それって甘いのか?」
何故か期待の目でハナを見るカイ。
「うん。けっこう甘いものらしいよ」
「そうか! なら是非食べてみたいな♪」
「俺は甘いもんは苦手だなぁ……」
「なんでよ? 美味しいじゃん」
「……。太るぞカイ」
「オッサン程は太らんと思うぜぇ?」
アルバストゥルは、ニヤニヤ笑いながら言った。
「馬鹿者これは脂肪じゃなくて筋肉だ!」
「そうねぇ、なんかお腹の周りが……」
「こんな硬ぇ脂肪があるか!」
「まぁ確かにバッチリ割れてるけどよ。オッサンの場合脂肪でさえも硬くなってる可能性が……」
「んな訳あるかっ!!」
分かっていながらわざといじり倒す二人である。
その後ムスッとしたまま食べていたせいなのか、【ポルタモッチー】を喉に詰まらせて今まで以上に死にかけたベナトールなのであった。
彼ら(もしくはハンター)は一般的な風習には疎いという設定にしています。
出て来る食材は、全て実際に「フロンティア」世界で使われているものです。
これで急いで投稿しなければならない話は無くなったので、これからは今まで通りの投稿ペースに戻ります。