今日も元気にメゼポルタ広場からお届けします。【完結】   作:沙希斗

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「ベナトール」が絡むと(特に仕事の話だと)シリアスな話や物騒な話ばかりに偏るので、なんか彼の話で平和的な話が書けないかなと考えたんですよ。
だけど「彼」を平和的にするならもう病気にでもするしかないと思って、こんな話が出来ました。


触らぬ神に祟りなし?

 

 

 

 ある朝、目が覚めたベナトールは、体が異常に重いのに気が付いた。

 いや重いというよりは、だるい。

 なんだか自分の体がベッドにずっと沈んでいくかのようだ。

 緩慢な動作でなんとか起き上がろうとしたが、動く事自体がままならない程しんどい。

 おまけに呼吸する度に喉が熱いし、肺が苦しい。

 

「どうされましたかにゃ?」

 言う事を聞かない自分の体を持て余して広いベッドで悶えていると、【召使アイルー】のエリザベスが近付いて来た。

 

「……、なんでも無い……」

「なんでも無い状態ではありませんにゃ。お熱がありますにゃ。今日は大人しく寝といた方が良いですにゃ」

「……取り敢えず、【回復薬】を……」

「【回復薬】より【氷結晶】で冷やした方が良いですにゃ。お熱が高いですにゃ」

「……熱なんぞ……」

「あぁもう動かないで下さいにゃ! 【氷結晶】がずれてしまいますにゃっ!」

 

 医療係を呼んで来るまで大人しくしとくようにとエリザベスに言われたベナトールだったが、【彼女】が帰って来た時にはベッドから落ちていた。

 

「旦那様、動けないんだから下りようとしないで下さいにゃ!」

 世話の焼ける主人だと言わんばかりのエリザベス。

 

「黄疸が出ていますね。恐らく【ハンター風邪】でしょう」

 ベッド下に転がったまま熱い息を吐いている彼を診察した医療係は、そう診断した。

 

「……そんなものに……、俺が、罹るなど……」

「どんなに屈強なハンターでも、病気になる時はなります。痩せ我慢してないで、治るまでしばらく大人しくしといて下さい」

 

 

 説明すると、【ハンター風邪】というのはハンターがよく罹る風邪に似た病気の事である。

 

 ただの風邪と違うのは、肺だけでなく肝臓も侵される事。だから肺炎と肝炎による高熱が続き、どれだけ屈強なハンターでも異常なしんどさとだるさで動けなくなってしまう。

 【モンスター】の唾液に含まれる細菌が原因だと言われているので、【モンスター】と多く接するハンターが患う事が多いのだ。

 

 罹患率がそんなに多いものではないし、重い風邪のような症状で済む者が殆どなのだが、重症化、まれに劇症化する事もあり、死ぬ事もあるので侮れない。

 劇症化した者の中には、症状が現れたその日に肺と肝臓が腐ったようになって死んだという報告もあり、ハンターの間では身近でありながら舐めたら恐ろしい病気としても知られている。

 

 伝染性は極めて弱いがまったくうつらない訳ではないようで、あまり濃密に患者に接するのは良くないとされる。【モンスター】が保有しているように、人間同士でも唾液から感染するのではないかと言われているが、これも患者の唾液を大量に摂取してわざと飲むような事をしない限りはうつらない程度なので、隔離は必要ないとの事。

 

 ただ、今現状ではこの病気自体を直接治す薬はなく、症状に合わせてそれを抑える薬(例えば熱を抑えたり炎症を抑えたりなど)で凌ぐしかないようだ。

 大抵は一週間、軽い者では三日程で治まるが、重い者では一ヶ月以上かかったり、後遺症が残って肺機能や肝機能が落ちてしまい、ハンターを引退せざるを得ない場合もあるとか。

 

 

 二人はベナトールを取り敢えずベッドに戻そうとしたが、ぐったりしているし、彼は大男なので、医療係と【アイルー】の力では持ち上がらない。

 

「あれ? オッサンどうしたんだ?」

 その時、良いタイミングでアルバストゥルが訪ねて来た。

 

「丁度良かった。手伝って下さいよ」

「分かった。んじゃ俺上持つから……。おい体熱いじゃねぇかよ!」

「【ハンター風邪】だそうですにゃ」

「よっこらせと……。そりゃしんどいわな。オッサンにしちゃ珍しいが、まぁあんたも【人の子】だったというこった」

「……黙れ……」

「どうせ痩せ我慢して無理して自分で抵抗力落としてたんだろうが。自業自得だ」

「……うるせぇ……」 

「まぁ、しばらくは大人しくしとくんだな」

 

 額に【氷結晶】を置き直してやってから医療係と一緒に帰ったアルバストゥルは、「おい、オッサンが【ハンター風邪】ひいてんぞ」と、面白がって三人に言いふらした。

 そしてまた三人と共に引き返した。

 

「ホントだ。珍しいな」

「だろ? こんなオッサン滅多に見られねぇから今の内に見とこうぜ」

「……からかうなら出てい、ゴホッゴホッ!」

「ほらほらぁ、苦しいんだから喋らない方が良いわよぉ?」

「…………」

「だからって黙って怒んないでよね」

「まぁ取り敢えず、手が空いた奴から覗いてやろうぜ」

「そだね。そうしよう」

 

「……いらん世話だ……」

 

「世話じゃねぇよ、てめぇの見張りだっつの。ベッドから出ねぇようにな」

「エリザベスだけなら押さえられないもんなぁ」

「そうしていただけると有難いですにゃ」

「よしっ、私が看病してあげるっ♪」

「じゃあ私もっ♪」

「……二人もいらんだろう……」

 

「カイ、汗かいてっからオッサンの体拭いてやれよ」

「えぇ~~、やだよ」

「こんな時は気ぃ使ってやれよ馬鹿だな」

「……そんな気の使われ方は、されたくない……」

「ほら拗ねちまったじゃねぇかよ」

「……だからからかうなら……っ! ゲホゲホッ!」

「みにゃさんっ! 旦那様に負担がかかりますので出て行って下さいませにゃっ!!」

 

 憤慨したエリザベスによって、結局追い出された四人なのであった。

 

 

 

 そんな三人の気遣い(?)も空しく、三日どころか次の日に全快したベナトール。

 一番最初に気遣ってくれた(からかってくれたともいう)アルバストゥルを訪ねてみると……。

 

「…………」

「――おい、もしかしてうつったのか!?」

「どうもそうみたいなのよ」

「がっはっはっ! こりゃ傑作だな、俺をからかうからそんな事になるのだ」

「……うるせ、ゴホッゴホッ!」

 

 アルバストゥルが全快するまで、一週間はかかったという。

 

 

 




オッサン、カイに露骨に嫌がられて可哀想(笑)

公式設定には「ハンター」の病気についてなどの記載はありませんので、「ハンター風邪」というのは私が考えた完全オリジナルの病気です。

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