今日も元気にメゼポルタ広場からお届けします。【完結】 作:沙希斗
前回、アルバストゥルは積極的に囮役を買って出ていましたが、今回は渋っております。
でも打たれ強い彼が囮役になった事は、やはり正解だったようです。
「レイン、ちょっとアレク借りるね」
急に来たハナは、いきなりそうのたまった。
「どうぞどうぞ♪ こんな彼で良ければ」
「オイ待て! 俺は何も聞いてねぇし同行するとも一言も言ってねぇんだが?」
「だって言うの今からだもん」
「おめぇなぁ、そういう事は『借りるね』発言の前に言うもんだろうが?」
「前でも後でも変わんないじゃん。もう行く事は決まってるんだし」
「なんだよその強引発言は。だから俺は行くとは一言も――」
「そうやって今まで彼女に逆らえた試しあった? アレク」
「なんだカイ、おめぇも行くのかよ」
「今やセットだって決まってるでしょっ」
「んな『二人ルール』なんざ知るかよ。てかどこに行って何を狩る気だ?」
「あのね、【ティガレックス】を狩りたいの」
「ティガねぇ……。つうか、んなもん二人でどうにかなんだろが」
「だって【変種】なんだもん。二頭いるんだもん。無理じゃん」
「んなこた知るかよ。俺にゃ関係ねぇし」
「関係あるのっ!」
「あのねアレク、ハナは横穴で〈火事場〉使って狙撃するやり方で狩りたいんだって」
「ほぉ、安全とは言え〈火事場〉を選ぶたぁ、中々思い切った事をするじゃねぇか。っつう事は俺に囮役をやれってか?」
「流石アレク、理解が早いねぇ♪」
「あのよおめぇら、それが一番危険な役だっつう事は分かってるよな? 真っ先に死ぬかもしれん役の同意を、レイン目の前にしてよく聞けるもんだな?」
「アレクは死なないもん。大丈夫よ」
「その根拠の無い自信はどっから来るんだレイン? まぁ死ぬつもりはねぇけども」
「でしょ? だって信じてるもの。あなたは必ず帰って来るって」
レインは真っ直ぐアルバストゥルを見て言った。青色がかった灰色の中に時折紫の光彩の入る不思議なその目には、微塵も不安が宿っていなかった。
「羨ましいわね、こんなに純粋に信じてもらえるなんて」
「オレだって信じてるよ! ハナは死なないって」
「私達はその気になれば狩猟中でもプライベートでもずっと一緒にいられるじゃない。でもレインはアレクが狩猟している間はずっと待っていなければいけないのよ? しかも場合によっては何週間も何か月もかかる事だってある。それがどれだけ不安な事か」
「良いのよ。だって、そういう仕事をしている人を私が好きになったんだもの。【村】にいた頃からずっと覚悟してる事だもの」
「健気な子ねぇ……」
「まぁ、ちと変わりもんだがな」
ニヤリと笑うアルバストゥルに、レインは買い言葉のように言った。
「変わり者で結構。それにそうじゃなかったらあなたは死んでたでしょっ」
「へいへい、その節はお世話になりやした」
ふざけた態度で頭を下げるアルバストゥル。
「命の恩人に向かってその態度はなによぉ」
むくれて向かって行くレイン。
「うわわっ、悪かったって、マジ感謝してるっつの」
叩く真似をするレインに頭を庇う仕草をしながら、アルバストゥルは笑った。
そんな二人を見ながら、アレクってこんな幸せそうな顔もするんだなと思ったカイとハナであった。
【雪山】の《8》に着いた三人は、〈火事場〉になるべく準備をした。
具体的には予め体力低下の食事を済ませておき、わざと体力を減らすために【爆弾】系で調節したり、【栄養剤】などで体力の上限を上げたりなどである。
そうしてアルバストゥル以外が横穴に入った訳だが……。
「……ごめん、落ちちゃった」
被弾をなるべく避けるには横穴の一番奥ギリギリでスタンバイしておく必要がある。
が、奥は壁にはなっておらず、行き過ぎると段差の下に落ちてしまうのだ。
段差は割と高めな上に手掛かりが一切無いつるつるの氷壁なので、一度でも落ちてしまうとそのまま登って横穴に向かう事は不可能である。
そうなってしまうと横穴に向かう方法はただ一つ。落ちた道なりに段差を登ったり崖の氷壁を登ったりして【クシャルダオラ】が脱皮したと思われる残骸がある場所まで行き、再び雪原に飛び下りて大きく回り込まなければならない。
敵が何もいない状態ならば簡単な事なのだが――。
「チッ、来やがったぜ……!」
滑空音が聞こえたアルバストゥルは、忌々し気に舌打ちした。
「ハナ! 参加してぇなら取り敢えず回復しろ! 〈火事場〉のままでは万が一当たった場合に即死しちまうぞ!」
まだ崖を登り切った所にいたハナを見上げて、彼は叫んだ。
「この際だから〈火事場〉は諦めろ! 一人ぐらいスキルが発動してなくても何とかなるから!」
「分かった! ごめんっ」
ハナは回復して体力を最大にしてから飛び降りた。
その頃には二頭が降り立っており、アルバストゥルを牽制しながらじりじりと間合いを計っていたが、いきなり上から落ちて来たハナを見て、新たに敵意を向けて同時に吠えた。
〈高級耳栓〉を付けていなかったハナは、思い切り耳を塞いで硬直してしまう。
その硬直が解ける前に、一頭が雪塊を投げた。
「いつまでも突っ立ってんじゃねぇ!」
飛び出したアルバストゥルが抱きかかえつつ転がる。
「早く横穴へ!」
立ち上がったハナは後ろも見ずに一目散に横穴に向かっている。が、その直後、もう一頭が突進して来た。
「ぐうっ!!」
相手がハナに重なったと思った刹那、アルバストゥルが受け止めていた。
「くぅ……っ! 念のために、【パワーバレル】を外して【シールド】を付けて置いて……、正解……だったぜ……!」
【ヘビィボウガン】は、その重さのために構えている間は緩慢な移動しか出来ない。
なのでそれを補うために、【シールド】を付けられるようにもなっている。
だが【パワーバレル】を付けた方が攻撃力が上がるため、命を護る【シールド】よりもこちらの装着を好むハンターの方が多い。
しかしアルバストゥルは万が一の事に備えて、あえて素の攻撃力のままになってしまう【シールド】の方に付け替えていた。
が、【ヘビィボウガン】の【シールド】は、他の武器種と違って真正面からの攻撃しか受け止められない。
銃身に直接取り付ける影響で極小さなものしか付けられない関係で、どうしてもそうなってしまうからだ。
しかも、今アルバストゥルは〈火事場〉状態になっている。いくら防御率が+60に増えているとはいえ、【ガンナー】用の防具は【剣士】用に比べて薄いのだ。その身にまともに食らっていないとはいえ、【通常種】の上位よりも攻撃力の高い【変種】の突進を真正面で受け止めて、影響が無いはずがない。
歯を食い縛って耐えていたアルバストゥルだったが、力負けした相手が気を緩めた途端、がくりと膝を付いた。
そんな彼を見て勝ち誇ったように、相手は片手を振り上げた。
しかもその後ろでもう一頭が突進の構えをしている。
「くうっ!!」
アルバストゥルは喘ぎつつ、転がって引っ掛かれるのを辛うじて避けた。
が、なんとか起き上がった直後にもう一頭が向かって来るのが見えた。それを緊急回避でどうにかやり過ごす。
そこに引っ掻いていた一頭が割り込んで来たが、運良く倒れた先に横穴の入り口があり、そのまま横穴に転がり込んだ。
「アレク!?」
「大丈夫!?」
「……。死ぬとこ……だったぜ……」
横倒しで呻きながら、苦痛に耐えようとするアルバストゥル。受けた衝撃は凄まじく、【ヘビィボウガン】共々全身が砕けるかと思ったが、幸い自身も【ヘビィボウガン】も無事だった。
ただ、【シールド】は大きく破損し、次は受け止め切れないだろうと思われた。
〈火事場〉になっているので体力回復のアイテムは使えない。そう思ったアルバストゥルだったが、微妙な調節に【薬草】や【漢方薬】は使えたため、ダメージを受けた分だけ僅かながら回復する。
それでも撃つたびに反動で体のあちこちが疼いたが、横穴に入りさえすればもう攻撃を食らう事はないので、時折歯を食い縛って痛みに耐えながら【貫通弾】を撃ち続けた。
【スコープ】を覗く視界が霞む。
……早く……、倒れてくれ……!
無理矢理瞬きして視界を確保しながら、アルバストゥルは二頭に心でそう話しかけて撃ち続けた。
一頭が倒れて二頭目が逃げたのを確認した途端、アルバストゥルは崩れた。
「おいアレク!!」
「しっかりして!」
「力が……抜けただけだ……。捕獲……頼むわ……」
「分かった」
捕獲のためにカイが出て行く。
「お疲れさん。ありがとねアレク」
ハナに労いの言葉をかけられた彼は、そのまま気を失った。
そして帰りの竜車の中でも、起きずに眠り続けたという。
体を張ってまで「火事場」を保ち続けるアルバストゥル素敵(笑)
ちなみにこのスキルは「火事場+1」と「火事場+2」の二種類があるのですが、攻撃力を上げて狩猟するという目的で使われるのは「火事場+2」の方なので、「火事場で行く」と言われたらそれは「火事場+2」の事だという暗黙の了解になっております。
「火事場+1」では攻撃力は上がらないものの防御率が跳ね上がるため、自身の防御力を上げる目的で使う場合もあります。
スキルポイントが少ない分「火事場+1」の方が断然組みやすいのですが、やはり「火事場+2」の方を求められる事の方が多いので「火事場+1」で止めるハンターは少ない様です。
あ、「レインがアレクの命を救った」という話は「ある日、森の中(第111話)」を参照して下さい。