今日も元気にメゼポルタ広場からお届けします。【完結】 作:沙希斗
少なくともゲーム内ではその姿は見掛けないし、犬飼ってるとかそういう話も聞きませんよね。
でも、存在しないとこの話は成り立たない(犬や狼を見た事が無いなら「犬や狼に似ている」という表現自体を彼らがしない)ので、「イヌ科はいる」と無理矢理仮定して話を進める事にします。
【沼地】で見たことも無い【モンスター】が発見されたので、調査して欲しい。
【ハンターズギルド】から要請を受けたハンター達は、各自でそれぞれ【沼地】に散って行った。
なんでもキノコを採りに来ていた食材屋が、遠くまで響く遠吠えを聞いたとの事。
そしてその後見たことも無い【モンスター】に襲われて、命からがら逃げ帰って来たのだとか。
「気を付けとくれよ。奴らは連携して攻撃して来るんだ。もう恐ろしいったらなかったよ!」
でっぷり太った食材屋のおばさんが、青い顔で言った。
――奴ら?
という事は、複数いるのだろうか。
とにかくも、カイとアレクトロは【沼地】に向かってみる事にした。
着いたのは夜だったので、毒沼に気を付けながら進む。
地図でいう《4》に来た時、【それ】はいた。
遠目でも狼によく似ている【モンスター】だと分かる。
という事は、【牙獣種】なんだろうか。
二頭いるようで、一頭は漆黒の毛色に長い犬歯、もう一頭は純白の毛色に短い犬歯を持っている。
夫婦なのか、それとも兄弟なのか、仲良く舐め合ったりして毛繕いしている。
「随分と可愛い【モンスター】だね」
犬好きのカイが言った。
犬に問わず生物全般が好きなアレクトロは、手懐けてみたいと思った。
と、二人の存在に気付いた二頭が威嚇の声を上げ、漆黒の一頭がどこかに去って行った。
残った純白の一頭が、攻撃姿勢を取る。
どうやら一頭だけで闘うつもりのようだ。
いつもの調子で【閃光玉】を投げてみたアレクトロだったが――。
フォ~~~ン!
高い声で遠吠えをした相手は、毛先を赤く染めて素早くなった。
興奮している様子から、どうも怒らせてしまったようだ。
目晦まし状態にならないという事は、【閃光玉】は効かないどころか怒らせるために逆に危険なようである。
唸りながら前足をかき込むようにして、右、左と素早くパンチを繰り出す。
と思ったら、噛み付きつつ体ごと二回振り回すような動作をする。
こちらの攻撃を見切っているのか、二度、三度と横ステップして避けたりもする。
見た目は狼そっくりだが、なんとブレスを吐いた。
それは肺で圧縮した空気を一気に吐き出すもののようで、着弾するまで竜巻状の空気が一気に駆け抜けるという感じになる。
と、相手が高く飛び上がった。
「ど、どこ行った!?」
慌てて首を巡らせた二人は、直後に上から落ちて来た相手に圧し掛かられた。
これが一番の大技らしく、かなり食らってしまった。
ふらふらと立ち上がると、相手は疲れたのか、その場で舌を出して喘いでいる。
その隙に【回復薬グレート】を飲み、なんとか持ち直す。
今までの攻撃でもそうだったのだが、どうも大きな攻撃をすると疲れてしまう様子。
ならば上手く立ち回って大技を出させると、長い攻撃チャンスが訪れるという事なのだろう。
怒りが収まった状態でも、けっこうトリッキーな動きをする様子から、どうもスピードタイプの【モンスター】なようだ。
素早い【モンスター】が苦手なアレクトロが、特に横ステップして避ける動きにいい様に翻弄され、相手の思う壺になってイラついている。
どうも一つ一つの攻撃に小規模な風圧が発生するようで、カイがいちいち尻餅を付いている。
フォ~~~ン!
二度目の遠吠えの時に身を持って思い知らされたのは、この声に【モンスター】自身の周囲を取り囲むようにして発生する、吹っ飛ばし効果があるという事。
先程は遠い位置で【閃光玉】を投げたので、気が付かなかったのだ。
丁度【鬼人化】を行う【双剣】使いのように、遠吠えと同時に赤い闘気が立ち上がり、敵を吹っ飛ばしつつ遠くまで響かせる。
まるで、声で攻撃をしているかのように。
翻弄されつつも討伐に成功した二人が早速剥ぎ取ろうと近寄ると、先程逃げた漆黒の毛の一頭が、いきなり飛び込んで来た。
どうやら近くに潜んで様子を見守っていたようである。
そいつは倒れた一頭の状態を見るように顔を近付けると、死んだと分かったのか、首を傾げてから天を向いて悲し気に吠えた。
オォ~~~ン!
こちらは普通の狼によく似た低めの声。
そしてその声は、たぶん死んだものに向けられた鎮魂歌。
この声にも吹っ飛ばし効果があったようで、二人は浮っ飛ばされつつなんとなく相手の心情を察して、悲しくなったのであった。
【街】に帰るとハンター達の間では、この【モンスター】の話題で持ち切りになっていた。
「オイ聞いたか? 【ハンターズギルド】ではこの【モンスター】を、【牙獣種】として分類する事にしたそうだ」
声を掛けられたアレクトロは、やはりそうか、と思った。
「でよ、呼び名も決まったんだってよ」
「へぇ、どんな名前になったの?」
カイが聞く。
「どうもあの二頭は
「あぁ、だからあんなに仲良さそうにしてたのか」
アレクトロが納得する。
「そうみてぇだ。でよ、雄の方を【カム=オルガロン】、雌の方を【ノノ=オルガロン】と名付けたとさ」
「カムとノノか。可愛い名前だね」
カイの言葉に相手は苦笑いしつつ続ける。
「今回オレは雄。つまりカムの方だな。と闘ったんだがよ。アイツかなり手強いぜ」
「へぇ、こっちはノノと闘ったんだよ。どんなだった?」
アレクトロが聞く。
「パワー型、とでもいうのかな? とにかく力強い攻撃をする奴だったな」
「なるほど、雄はパワー型なのか……」
「雌の方はどうだった?」
「雌はスピード型だな。とにかくトリッキーな奴だった」
「ほぉ、そりゃ面白い組み合わせだな」
相手が興味ありげに言う。
「たぶん獲物を狩る時に、スピード型の雌が追い回してパワー型の雄が止めを刺す役割をしてんじゃねぇのかな?」
アレクトロが答える。
「なるほどぉ。んじゃ二頭で攻撃の仕方が違うのは、理にかなってる訳だ」
相手は感心して言った。
次の日、アレクトロはベナトールを誘って【沼地】に赴いた。
パワー型である、という【カム】の方と闘ってみたかったからである。
恐らくこちらでも翻弄されるはずなので、頼りないカイより同じパワー型(笑)のベナトールと行った方が良いと考えたのだ。
【ベースキャンプ】から道なりに進むと、【ノノ】と闘った時と同じ《4》に【彼】はいた。
やはり番でいるようで、仲睦まじく毛繕いをし合っている。
アレクトロは【ノノ】を倒した時の悲しい場面を思い出して闘いを挑む事に少し躊躇したが、俺は闘うために来たんだろ! と気を奮い立たせた。
威嚇している二頭の内の、【カム】の頭に宣戦布告とばかりに【ハンマー】を叩き付けるベナトール。
【ノノ】は「任せた」とばかりに何処かに逃げ去った。
さあ狩猟の幕開けである。
【ノノ】がトリッキーに動き回るのに対し、【カム】は動き回るというよりは、じっくり相手を見据えて的確に攻撃して来るように見える。
【ノノ】と同じく二回体を振り回す攻撃もあるのだが、その後で頭突きが加わる様子。
その頭突きが自分でも攻撃力が高いのが分かっているのか、食らったらけっこう痛いのに、確実に敵に押し当てて来るために狙われたら非常に避けにくい。
長い犬歯もよく利用するようで、噛み付き攻撃も多発する。
食い付いたまま何度も振り回されると、五体が引き千切られるかと思うぐらい衝撃がある。
幸い二人とも重装備なので、手足を捥がれる事だけは防げているようだ。
オォ~~~ン!
何度目かの攻撃の後、例の遠吠えで戦況が悪化する。
ベナトールは前転して衝撃波を難無く回避したが、振り被っていたアレクトロは浮っ飛ばされた。
幸いベナトールが狙われている内に立て直したものの、自分が狙われるとけっこう食らう様子。
とにかく怒り時の頭突きがかなり痛いのだ。
【回復薬グレート】、足りるかな……。
アレクトロがそんな事を考え始めた頃、その攻撃が来た。
後ろを追い掛けて振り向き様に最大溜めを当てようとしたベナトールは、【カム】が振り返らずにそのまま地面を蹴りつつ大きく跳ね上がり、自分の体を回転させながら背中の棘を飛ばして来た事を知る。
それはガガガガッ! と直線状に刺さりながら四方に散るもので、読みが外れた彼は横転して避けた。
それを見たアレクトロは、違和感を感じた。
一瞬回避が遅れたような気がしたのだ。
だがそのまま攻撃を続けたのを見て、気のせいだったかと思い直した。
ついに相手が足を引きずり、逃げた。
傷付いた体を回復させるために、寝るつもりなのだろう。
【ペイントボール】の強い匂いは、【彼】が《2》に移動した事を物語った。
すぐに追い掛けた二人。
だが途中で、少し遅れて後ろを走っていたベナトールの膝が、がくりと折れた。
異変を感じて振り返ったアレクトロは、彼が胸を押さえて蹲り、苦し気にあえいでいるのを見る。
駆け寄ろうとした彼は、思わず立ち竦んでしまう。
胸の中央辺りで出血しているようなのだが、その量が尋常じゃない。
「……オッサン、まさか……」
アレクトロは狼狽し、声が震えている。
「……まさか、心臓を……?」
やはり、あの時の違和感は当たっていたのだ。
ならば、心臓に棘を食い込ませたまま今まで闘っていた、というのだろうか。
「……行け、アレク」
呻くようなベナトールの声に、再び駆け寄ろうとした彼の足がビクッとなって止まる。
「んな事出来っかよ! 早く止血を――!」
「……時間が無い……。奴の……回復は、早い。……早く行って、止めを……」
「馬鹿野郎! てめぇの命とどっちが大事だよ!?」
「……復活……しちまうと、もう回復出来な……いのは、お前が一番、分かって……いる、はず……」
彼はアレクトロが回復系を使い果たしているのを、見抜いていたのだ。
「け、けど――!」
「良いから行け……。奴は、かなり弱っている……。今なら、お前一人の力……だけでも、止めを、刺せるだろう……」
そして、「……後で必ず行くから……」と付け加えた。
「――。分かった。まだ死ぬなよ? オッサン!」
アレクトロは、その言葉が嘘なのを知りつつも踵を返し、駆けた。
ベナトールは霞む目で彼の後ろ姿を追い、エリアから消えたのを見届けると、静かに目を閉じ、動かなくなった。
案の定《2》で寝ていた【カム】に近付いたアレクトロは、背から【大剣】を外し、振り被って溜めた。
全身の筋肉が鎧を弾け破らんばかりに膨らんだのを確認すると、その力全てを【大剣】に乗せ、横腹に切り下した。
目を覚ました相手はもがき、それでも腸を引き摺りながら立ち上がった。
そして最後の力を振り絞るようにして、噛み付いて来た。
が、頸動脈に牙が掛かる寸前で力尽き、倒れてそれきり動かなくなった。
彼はすぐに背を向けて駆け出し、元来た道を引き返す。
夫の死を確認したであろう、【ノノ】の悲しい遠吠えを背中で聞きながら。
ベナトールはその場所を動かずに、血溜まりの中で倒れていた。
「オッサン!」
呼び掛けて助け起こす。
当然のように意識は無いが、血がまだ止まっていない。
よし、まだ生きてるな。
アレクトロは安堵した。
血が止まっていないという事は、心臓がまだ動いている証拠だからである。
鎧の外から見ても、脱がせても、刺さっているはずの棘が見当たらない。
貫通したようには見えないので、心臓深くまで食い込んでいるのだろう。
とすれば抜く事が出来ないので、完全に止血する事は難しい。
だがまあとにかくも、彼のポーチを弄って【生命の粉塵】を見付けたアレクトロは、ポーチにあるだけの分を全部掛けた。
呻きつつ意識が戻ったのを確認し、ポーチの隅に残っているのを見付けた、【秘薬】を飲ませる。
それから大出血だけは免れるように、布できつく縛った。
「……すまんな……」
ベナトールは擦れた声で言った。
「ったく、ヘマすっからだろ?」
「いや面目無い……。ちと不覚だったわ」
「剥ぎ取り、出来るか?」
「という事は、やはり討伐出来たんだな。良くやった……」
「あぁ。あんたがほぼ弱らせたようなもんだったがな」
「そんな事はあるまい。お前も攻撃出来ていたではないか」
「あんなもん、手数にゃ入ってねぇよ」
なんとか立ち上がったベナトールの、体を支えてゆっくり歩いてやりながら、アレクトロはやっぱ数こなして慣れねぇとなと考えていた。
心臓やられても死なないって、どんだけ生命力あるんでしょうかねこの人は(笑)
寝ている「カム」に止めを刺すシーンは一人で行っているという設定なので、「パートナー」を外して撮影しています。
そうしないと違うエリアで死にかけているはずのオッサンが隣にちゃっかり立っていたりするので(笑)
【挿絵表示】
↑NGシーン(笑)
挿絵では攻撃途中に見えますが、しっかり溜めています。溜めオーラが撮れなかっただけです(^^;)
大剣を背負わずに横に構えて溜めているのは、使っているキャラがSRというランクで「嵐ノ型(らんのかた)」をギルドマスターから伝授されているためです。
なので「アレクトロ」はSRハンターという設定になってます。
(ついでに言うと「カイ」と「ハナ」はHR、「ベナトール」だけGRつまりG級です)
「フロンティア」では各ランクごとに新しい「型(攻撃モーション)」を伝授される事になっており、その「型」を使うと攻撃モーションが変わって強力な立ち回りをする事が出来るのです。
ちなみにHRで行える普通のモーションは「地ノ型(ちのかた)」と呼ばれています。
GRでは「極ノ型(ごくのかた)」というものがあります。
挿絵の名前や武具が違うのは、「パートナー」が1キャラにつき1人しか雇えないので、それぞれ違うキャラに仲間の「パートナー」を付けているためです。
ですが「アレクトロ」のイメージ防具は「レウス系」なので、それだけは守って撮影しています。
(カイといる時は「シルバーソル」ベナトールといる時は「レウス」を着ています)
ちょっとお知らせ。
「活動報告」にも書きましたが、「朝ごはんはココット村で(ココット村編)」にて「ベナトール」の挿絵を追加しました。