今日も元気にメゼポルタ広場からお届けします。【完結】   作:沙希斗

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これは「ケルビの角」が中々剥ぎ取れない事を、「多分こんな事なんだろう」と自己解釈して書いたものです。
なので実際の生態ではないかもしれません。


【ケルビ】についての考察

 

 

 

 これは、ベナトールがハナに付いて【教官】として指導していた頃の話である。

 

 下位の、【基本クエスト】として提供されていた依頼の中に【ケルビの角】の納品クエストがあった。

 依頼自体は【ケルビの角】を三本納品すればクリアになる程の簡単なクエストだったのだが、後々上位になっても役に立つ【いにしえの秘薬】の調合素材になるため、納品分だけでなく彼女が持って帰る分も取るようにしてやろうと、彼は考えた。

 そこで【ケルビ】が増える【繁殖期】を選び、【テロス密林】までハナを連れて行った。

 

 

「ほれあそこに【ケルビ】が跳ねているだろう?」

「えっと、やたらとピョンピョン跳ねて草を食べてるヤツの事よね?」

「そうだ。依頼では、奴の【角】を三本取って納品しないといけない訳だが……」

「もちろんベナがやってくれるんだよね?」

「馬鹿者」

 

 ベナトールはハナの頭にゴチンとゲンコツを食らわせた。

 

「お前はハンターになりたいのだろうが? 俺はハンターとして独り立ちが出来るようにだな――」

「だってベナが上位にまでさせてくれるんでしょ?」

「だからそれには【試験】というものがあってだな、下位でもある段階になったら【試験】を受けねばランクが上がらん訳で――」

「え~~~? 面倒臭い。ベナが全部受けてよ」

「たわけ! 自分が受けねば意味が無いだろうがっ!」

「いった~~い。頭ばっか殴らないでよぉ」

「……。たん瘤作るのと自分で【ケルビ】を狩るの、どちらを取る?」

 

 ベナトールのこめかみに浮かんだ血管を見て、ハナは慌てて【ケルビ】の元へ駆け寄った。

 だが無防備に近付いたせいで、【片手剣】が届く距離になる前に逃げられてしまっている。

 

 【彼ら】は警戒心が強いのだが、それでも逃げ出す距離というものが決まっていて、例え自分にとって脅威であると判断したとしても余程危険な状態にならない限り、遠くに逃げても距離をあけたまま様子を見る事がある。

 エリアの外まで逃げ出すのは、大抵【彼ら】を捕食する【モンスター】が来た時ぐらいである。

 

「あ~~ん、逃げないでよぉ」

 ハナは情けない声を出しつつ追いかけ回し、ようやく一匹仕留める事に成功した。

 ところが剥ぎ取ったのは【ケルビの皮】。

 

「ベナ、【皮】しか剥げないんだけど?」

「お前はどこを剥いでいるのだ? 角なら頭だろうが」

 

 ベナトールは呆れている。

 

「だって、頭剥いでも【皮】しか取れないんだもん」

「あぁそれはな……」

 

 ベナトールは説明した。

 

「【ケルビ】というものはな、生きてる時の角は頑丈で、特に雄は雌や縄張りなどを護るために、ハンターでも尻餅を付く程の強い頭突きをかます事がある。お前もよく尻をつつかれているだろう? だがな、死んでしまうと途端にもろくなるのだ。心臓が止まった事で起こる現象だと思われているが、とにかくそのせいで【角】を剥ぎ取る事が極端に難しくなるのだよ」

 

「え~~? じゃあどうすれば良いのよぉ」

「数をこなすしかねぇな。取れるまで頑張る事だな」

「ベナが取ってよぉ」

「……。たん瘤作りてぇか?」

「分かったわよっ!」

 

 ハナは文句を言いつつも、どうにか三本分を取る事には成功したようだ。

少し欠けてしまったのだが、【ケルビの角】がもろいのは誰でも知っている事なので、大きく欠けてさえいなければ問題無いとの事。

 

 【ベースキャンプ】に帰って赤い【納品ボックス】に、それ以上壊さないようにそっと角三本を納めると、ハナはホッと息を付いて笑顔になった。

「良しよくやった。今度はお前の分だな」

 ベナトールはハナの頭をポンポンすると、再び【キャンプ】を出て行こうとした。

 

「もう終わりじゃないの?」

「クエスト自体はな。だが【ケルビの角】は【いにしえの秘薬】の調合素材でな、上位になっても何かと重宝する強力な【回復アイテム】になる物だ。なんせ一つで体力もスタミナも一気に最大まで回復させてくれる物だからな。だから集めて置いて損は無い」 

「あたしもぉ疲れちゃったよぉ」

「我儘な奴だ。なら取って来てやるからそこで休んでいろ」

「やだ付いてく。ベナが取るとこ見たいし」

「……好きにしろ」

 

 

 ベナトールは【ケルビ】のいるエリアに到着すると、いきなり追い掛けるような事はせずに、興味が無さそうなふりをして武器すら出さずに回り込むようにゆっくりと近付いた。

 警戒していた【ケルビ】は、様子を見つつも草を食むようになった。

 

 跳ねて来た一匹が彼の目の前に来て立ち止まった時、彼は動いた。

 

 ビクッとなった相手が逃げ出すより早く、抜刀攻撃で【ハンマー】を一閃。当たるか当たらないか程の攻撃だったのだが、たったそれだけで相手はころりと死んでしまった。

 

【挿絵表示】

 

 すぐさま近付き、慣れた手付きで剥ぎ取る。

 

【挿絵表示】

 

「ほれ」

 

 投げて寄こした【ケルビの角】は、二本ともまったく欠けていなかった。 

 

 

 




携帯機の世界では、「ケルビの角」は気絶させて剥ぎ取るやり方が主流になっているようですが、「フロンティア」の世界(ドンドルマやミナガルデのある大陸)ではそのやり方は確立されていないため、「ケルビの角」を剥ぎ取るには討伐するしか方法がありません。

挿絵では吹っ飛ぶ「ケルビ」を見やすいようにしようとした結果、文中では「当たるか当たらないか」と書かれているにもかかわらず(インパクトの瞬間を撮影したせいもあり)血飛沫が凄い事になってしまいました(笑)

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