今日も元気にメゼポルタ広場からお届けします。【完結】 作:沙希斗
畜生、ついてねぇぜ。
アルバストゥルは、遥か上方の狩場を見上げて舌打ちした。
今彼は、崖下の深めな窪地に転がっている。そしてそこにも容赦なく、雪が交ざった強風が入り込んでいた。
彼は右肩を脱臼し、左足首を捻挫していた。
その他もろもろ打ち身などもあったが命に別状が無いのは、逆に『ついている』と言って良かった。
彼が「ついてない」と言ったのは、崖から落ちた事でも怪我の状態でもなく、目の前の現状からだった。
今まさに窪地を破壊して首を突っ込まんとしていた相手が、【ティガレックス】だったからである。
時は十分ぐらい前に遡る。
【雪山】へ一人で採取に出かけていたアルバストゥルは、【ドスファンゴ】の縄張りに入っていた事に気付かずに、間抜けにも吹っ飛ばされてしまった。
狩り慣れている相手だけに飛ばされるぐらいなら平気な彼だったのだが、そこが何もない空間だという事に気が付いて一気に血の気が引いた。
遥か下に白い地面が見えたからである。
「マジかあぁ~~~!!!」
そんな叫び声を上げつつも、掴まる所が無いか落ちながら見回していたアルバストゥルは、崖から突き出るようにして生えていた針葉樹の枝に、通り過ぎ様に掴まった。
が、右手でしか掴まれなかったのと急激に体が停止した衝撃とで右肩を脱臼。激痛で手を放して再び落ち、最終的に左足から不自然に地面に着いてしまった影響で、左足首を捻挫した。
だが一瞬でも落下速度を落とす事に成功していたお陰でその程度の怪我で済んだ。左足首を捻りつつ地面に叩き付けられた影響で体全体でも主に左側の打ち身が酷かったが、どうにか動けたため、少しでも早く安全な所へ避難しようと呻きつつ左手一本で上体を起こして見回す。
すぐ近くに人間だけが入れそうな程の窪地が口を開けていたので、体を引き摺って転がるようにしてその中に落ち込んだ。
で、今に至る。
まさか崖から落ちた段階で【ティガレックス】に見付かっていたとは思いもよらなかった。
あのまま窪地に入らずに地面に転がっていたら、くわえ込まれて噛み砕かれていただろう。
今は少しでも死が遅れた事に感謝せねばならない。窪地の入り口を広げられて牙が掛かれば同じ事になるのであるが。
狭い上に不自然な体勢になっているせいで背中に負っている【大剣】が抜けない。だが腰をどうにか浮かせ、左手でポーチを探る。
感覚だけで【回復薬グレート】を探し当て、相手の様子を見つつ飲む。
打ち身と捻挫は治ったが、脱臼している右肩は、骨をはめないと治らない。
とにかくいつまでも窪地にいるわけにはいかないので、先程から一心不乱に窪地の入り口を破壊しようとしている相手の指目掛け、左手だけで【剥ぎ取り用ナイフ】を抜いて突き刺す。
いきなりの反撃に怯んで下がった隙に一気に窪地から飛び上がり、右肩から下をぶらぶらさせながら距離を離す。
振り向いた途端に雪塊を投げて来たのを避け、左手で【閃光玉】を投げた。
目晦ましになっている間に周りを見回し、逃げられるか崖を登る取っ掛かりが無いかと探したが、せいぜい岩陰に隠れる程度しか今の所相手から身を隠す手段が無い事が分かった。
まあそれでもこのままの状態で闘うよりはマシだろうと、少し登った岩陰に隠れる。
【ヘイト】が消えるのを待ち、後は飛び去ってくれるのを祈ったが、【ヘイト】が消えても相手はその場に留まったままだった。
仕方ねぇ。
アルバストゥルは覚悟を決めて深呼吸し、左手で右腕を固定して、歯を食い縛りながら右肩を思い切り岩壁に打ち付けた。
「うがあっ!!」
ガコンと骨がはまったが、その痛みに堪らず叫ぶ。
当然のように気付かれたのだが、「これで自由に闘えるぜ」と、彼は額に脂汗を滲ませつつも兜の中でニヤリと笑った。
飛び出し、威嚇した相手を牽制する。
それによって右肩の動きを確認したが、幸いにも痛みは無い。
「うぉっしゃあぁ!!」
そうと分かればという感じで、彼は相手の頭に体重を乗せた斬り下しを放った。
悲鳴を上げて怯んだのを斬り上げ、斬り下して離脱。
その場回転をやり過ごし、軸足の爪に抜刀攻撃、横薙ぎ。それで爪の一部が割れて飛んだ。
忌々し気に噛み付こうとするのを納刀しながら躱す。
一瞬の隙を抜刀攻撃し、転がりながら納刀して離脱。近付こうとするとバックジャンプされたが、怒りで赤い部分が見えたのを見逃さず、アルバストゥルは咆哮の衝撃波をガードした。
直後に来た突進を躱し、何度か反転して繰り返すのを追い掛ける。
振り向き様に【閃光玉】を投げ、暴れている隙を狙って的確に攻撃を当てていく。
相手の視界が戻った頃には頭に大きな裂傷が出来ていた。
よくも傷を作ってくれたなと言うように飛び掛かって来るのを避け、二回目の飛び掛かりに合わせて背後から溜める。
振り向いた時に丁度最大溜めが決まり、頭から血を噴き上げながら絶叫する【ティガレックス】。
深手を与えた事を知り、彼は返り血を浴びながら笑った。
後ろに攻撃を集中させ、尻尾を切断。
爪も含めた全部位破壊を成立させた頃、怒りが治まっても一回斬るだけで怒るようになってきたため、これは弱って来たなと判断し、頃合を見て【シビレ罠】を仕掛けて捕獲した。
やれやれと溜息を付いてから、改めて周囲を見回して上に上がれないか探る。
上がれそうな所が見付からないのでこりゃ遭難するなと思っていると、崖の上でチラチラと小さな頭が見えた。
「おぉ~~~い!!」
呼び掛けて手を振ると、小さな頭がこちらを覗き込み、にゃあにゃあ言いながら飛び上がって喜んでいるのが見える。
戦闘不能に陥ったハンターを助ける【猫車】の係の【アイルー】が、やはり自分を捜してくれていたらしい。
「早く上がって来て下さいませにゃ~~~」
「それがなぁ~~! 上がる所がねぇんだよ~~~!」
「にゃら、ロープを垂らしましょうかにゃ~~~?」
「届くのなら頼む~~~!」
そんな風にして叫び合い、ロープを垂らしてもらう。
先端がどうにか届くぐらいの長さのものが降りて来たので、ジャンプして掴み、握力だけで引き揚げてもらって、たるみの余裕が出たところで体に結び付けた。
「上まで上げられるか~~~?」
「頑張りますにゃ~~~!」
【アイルー】の背丈は大人の膝ぐらいまでしかないが、その大きさの割には力持ちである。
ゆっくりではあるが引き上げられていくのを、こちらも少しでも手掛かり足掛かりがあると上がる努力をし、後もう少しという所まで来た。
上り口の縁に手をかけたその時、「ま、まだ上がらないで下さいにゃあぁっ!!」と慌てた様子で言われた。
何の事か分からなかったが上で大騒ぎしているので、そっと頭だけ覗かせてみる。
前掻きしている白い巨体と目が合った。
その時まで彼はすっかり忘れていた。ここが【ドスファンゴ】の縄張りであるという事を。
直後に向かって来た相手に、散り散りに逃げる【アイルー】達。
彼は大慌てで首を引っ込めたが、崖の縁ギリギリで止まった相手がどいてくれない。
足掛かりが無かったので手だけでぶら下がっており、なのでどいてくれないと握力が無くなってキツイ。
「ぬぐぐ……!」
また落ちるのは勘弁して欲しいとアルバストゥルは思った。
「ハンターさん、頑張って下さいませにゃあっ!」
段々下がって行くアルバストゥルを、【アイルー】達が応援している。
「ぬぐぐぐ……!」
【ドスファンゴ】の鼻息が手にかかる。これはどく気はまったくなさそうだ。
「くっそおぉ!!!」
アルバストゥルは、とうとうどつかれるのを覚悟で我が身を思い切り引き上げた。
それに驚いたのか、相手がたじろいだ。
「どきやがれクソッたれえぇ!!」
その隙に這い上がり、向かって来るのを叫んでカウンターで切り飛ばした。
「お疲れ様ですにゃ」
「ご無事で何よりですにゃ」
ぜぇぜぇと息を切らしているアルバストゥルに、【アイルー】達は声をかけながら去って行った。
「雪山」でも狩れた「ドスファンゴ」が、何故か今現在の「フロンティアZ」では狩れなくなった(クエストが無くなった)ようなので、挿絵は「沼地」で撮影したものを載せております。
「雪山」の「2」にある崖(ツタを登って上がる所)に「ドスファンゴ」が来れば、丁度この話のシーンのように崖ギリギリに立ち止まった「ドスファンゴ」が崖の縁に掴まっているアルバストゥルを見下ろすシーンが撮れると思ったんですが、残念です。
突進で突き飛ばされるシーンを回復せずに何度も撮っていたら、上位だったためなのかいつの間に死にかけてたのは内緒(笑)
「ティガレックス」のシーンは「雪山」で撮影しております。
「雪山クエスト」を想定して、以前にも登場した「ローゼンクラフト(火と毒の双属性)」を装備して演技しました。