今日も元気にメゼポルタ広場からお届けします。【完結】 作:沙希斗
なので「養殖したものの肉を提供する事もあるのではないか」と考え、こんな話が出来ました。
【大衆酒場】で「今日は何にする?」などとメニューを見ていた四人は、注文前にやって来た給仕係にこう言われた。
「みんなに試食してもらっている【肉料理】があるの。お金はいらないからちょっと食べてみてくれない? みんなの意見次第では公式メニューとして採用してみようという事なんだけど……」
了承し、程なくして運ばれて来た【肉料理】は、見た目は何の変哲も無い大振りな焼いた肉の塊だった。
付け合わせの野菜とソースがかかったそれを、まずベナトールがかぶり付く。
が、眉を僅かにしかめた。
それを見てアルバストゥルもかぶり付いてみる。
彼も同じような反応をした。
「どうかしら?」
二人のそんな様子を見て、不安そうに給仕係は尋ねた。
もっとも、後の二人は目を輝かせてただがっついているだけなのであるが。
「……。ふむ……」
ベナトールは咀嚼しつつ黙ったまま考えている。
そこで、無口な彼を代弁するようにアルバストゥルは言った。
「これ、【アプトノス】だよな?」
「そうよ」
「随分柔らけぇが、子供の肉じゃねぇだろうな?」
「まさか! ちゃんとした大人の肉よ?」
【アプトノス】の幼体は、ハンターでも狩る事を極力制限している程だ。
なぜなら幼体が少なくなってしまうと繁殖出来なくなるからである。だから子持ちの親もなるべく狩らないようにしている。
「調理法でも変えたのか?」
「いいえ、何も変えてないわ。今まで通りの【アプトノステーキ】よ」
「ふむ……」
「成体の肉だったにしても、脂肪分が多くねぇか? 筋肉繊維がやたら少ねぇような気がする。噛み応えがねぇっつうか、脂身だけ噛んでるっつうか……」
「あぁ、柔らかいと思ったら脂肪分が多いのね? 私はこれはこれで美味しいと思うけど」
「オレは脂肪分が多くても少なくても美味しいよ♪」
「おめぇはもう黙ってろ」
「良いじゃんかぁ、美味しいのが一番なんだし♪」
「おめぇは何食ってもうめぇっつうだろが」
「だって何食べても美味しいもんよ」
「…………」
「ねぇちゃんこいつは無視して良いから。――で、何でこんな状態の肉になってんだ?」
「実はね、【養殖アプトノス】なのよ」
「【養殖】だぁ!?」
「そう。【養殖】」
「成程な……」
「前々から『養殖してはどうか』っていう意見がギルド内でもあってね。で、ギルドで需要あるのは主にハンターじゃない? だから『まずハンターに食べさせてみて、その意見次第にしよう』って事になったわけ」
「他の連中はどう言ってんだ?」
「やっぱりあなた方二人と似たようなもんね。『筋線維が少なくて噛み応えが無い』とか、『柔らか過ぎて物足りない』とかそんなのばっかりよ」
「ふぅん、脂肪の味わいは好きだけどなぁ、私は」
「脂肪の味わいよりも噛み応えを重視するみたいね」
「やっぱそうか」
「……。王族貴族辺りにゃ、受けるんじゃねぇのか」
「柔らかいから子供や年寄り向けかもね」
「そうねぇ……」
「それでも一般人向けだろうな。ハンターには歳食っても噛み応えのある方が好まれるだろうぜ。現役引退した奴は知らんけどな」
給仕係は納得したように言った。
「分かった。やっぱり【養殖もの】はここでは出さないようにするわ。ハンターに受けないなら出すのは心苦しいもの。ここはハンターあっての【大衆酒場】ですからね」
「えぇ~~!? 脂肪も美味しいのに~~」
「だからおめぇは黙ってろ!」
その時、ベナトールがボソッと言った。
「脂肪取ると、太るぜ?」
「あ、それはやだなぁ、オレ一応モデルだし」
「モデルの割には食事制限してないよねカイ」
「だって、美味しいもの我慢したくないでしょ」
「それは分かるけど……」
「そういやおめぇ、すんげぇ食う割には昔から太らんよな」
「ヤダ羨ましい体質ねぇ」
給仕係はカイの体型を見ながら言った。
ハンターの割にはあまり筋肉が付いていないというのもあって、非常に華奢に見える。
「へっへ~~~ん、凄いでしょ♪」
「多分生まれ付きすんげぇ消化が良いんだろな。だから食う分出す方もすげぇんだろうぜ」
「やだもぉ! 食事中に下品な事言わないでよぉっ!」
と、いう事で、結局【天然もの】が一番という話になったとさ。
「養殖もの」はハンターには不評だったようですね(笑)
リアルで言えば「猪(野生)」と「豚(養殖)」を比べていると思って下さい。
元々「豚」は「猪」を改良したものですので、肉質の違いを想像しやすいと思います。
ちなみに私はどちらも好きです。