今日も元気にメゼポルタ広場からお届けします。【完結】   作:沙希斗

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この辺からなんとなく「教官」らしくなっていきます。
(単にうんちく臭くなって来たとも言いますがw)


アレク、【教官】になる?(アレクの章)3

 

 

 

 

「アレクさん、聞いてください!」

 数日後、興奮した様子で【ミズキ】が声を掛けて来た。

 

「おう、どした?」

「幼馴染のクレオ、正式に依頼を受けて、狩りに行ってきたそうですよ。これは、大きな第一歩です!」

「おぉ、そうかもな!」

 

「でも、狩りにかかる時間がまだまだ長いんですって。もっと早く、【モンスター】を狩猟する方法はないのかなぁ……」

「それって弱点狙ってねぇんじゃないのか? どんな相手かにもよるが、弱点を的確に攻撃出来てりゃそれ程時間はかからんと思うんだが……」

 

「えっ、【モンスター】の弱点ですか?」

 【ミズキ】はハッとした顔をした。

 

「なるほど! 弱点の部位を狙えば、ダメージをたくさん与えられるんでしたね! 以前、そういう内容の指南書を読んだのを思い出しました」

 

 【ミズキ】は「その指南書には……」と上を向いて思い出そうとし、こう言った。

 

「【ダイミョウザザミ】には【ハンマー】だ! 真っ赤な甲殻も、硬いヤドも、【ハンマー】の重い一撃で、打ち砕け! 【ドドブランゴ】には、火か雷だ! 【モンスター】の生態に合わせて、苦手な属性の攻撃を叩き込め! ……って書いてありました!」

 

 アルバストゥルは、たぶん【月刊・狩りに生きる】に載ってたのを読み齧ったんだろうなとニヤリとした。

 

「では、アレクさんには、いつも通り、狩りのお手本をお願いしたいのですが……」

「おう。任せな」

「【ゲリョス】一頭の狩猟を通して、弱点の狙い方を教えてください!」

「了解。【ゲリョス】だな」

 

 

 【沼地】で待っていたクレオは、アルバストゥルが背負っていた物を見て興味深そうに言った。

 

「今回はいつも使ってる【大剣】じゃないんだな」

「あぁこれか? 【炎剣リオレウス】っつう【火属性】の武器だ。名前の通り【リオレウス】の素材を使って作るもんだが、下位でも作れる優れものだぜ。お前にはまだ早いかも分からんが、もし【大剣】を使う事があるなら参考にしとけ。上位になってこのまま強化していってもけっこう強ぇ武器だからな」

「うん。覚えとくよ」

 

 クレオのために、わざわざ下位武器を生産したアルバストゥルである。

 

「今回の相手【ゲリョス】は、火属性が弱点なんだよ。まぁ【亜種】っつう存在もあってそいつは逆に水に弱ぇんだが、今は通常種を狩るから火属性の事だけ覚えとけばいい」

「分かった」

「今回は『弱点属性』の勉強と『弱点の狙い方』だ。部位破壊を狙うから、しっかり見とけよ?」

「了解」

 

アルバストゥルは【ゲリョス】に対する立ち回りを説明しながら鶏冠破壊した。

 もちろん破壊前の鶏冠には【閃光玉】と同じ効果がある事や、この【モンスター】の最大の特徴である『死に真似』についても教えた。

 

 『死に真似』については下位で大した攻撃力じゃないのを利用して(というよりはそれ程SRの防具が頑丈だというのを利用して)わざと起き上がりの大暴れを自分で食らって見せたので、クレオが呆れ果てていた。

 本当はクレオにも体験させるべきなのだろうが、下位の、しかも駆け出しの紙のような防具で食らうとそのまま死に兼ねないのでやめたのだ。

 

 

「お疲れ様でした!」

 クレオと別れて帰って来たアルバストゥルに、【ミズキ】はこう言った。

 

「あれから色々調べたんですけど、武器の属性って、重要なんですねー。【モンスター】の部位の中には、特定の属性でしか破壊できないものもあるみたいですよ。例えば【ドドブランゴ】の牙は、火属性の武器で頭部を攻撃し続けると、折ることができるみたいなんです。『【モンスター】の部位と弱点については、これからもっと意識する』って、クレオも言ってました」

 

「そうか。なら俺も()()()()()甲斐があったぜ」

 アルバストゥルはニヤリと笑った。

 

 

 次の日の朝、【ミズキ】は何故か浮かない顔をしていた。

 

「なんかあったんか?」

「ねえ、アレクさん。クレオって、過去に何かあったのかな」

「そういう話は聞いてねぇが、あいつになんか言われたんか?」

「もっと信頼し合えるようにならないと教えてくれないんでしょうか」

「どうなんだろな? そういう事は自分から話したくなるまでそっとしとく方が良いんじゃねぇのか」

 

「信頼といえば、傷ついた仲間の体力を回復させるアイテムのこと、知ってますか?」

 

「急にどしたよ?」

「名前は忘れちゃいましたけど、【不死虫】【竜の牙】【竜の爪】の三つを調合すると、作れるらしいんですよ」

「あぁアレな。アレの名前はだな――」

「どうでしょう、アレクさん。そのアイテムを調合で作って、持ってきてもらえませんか? 数は念のためにちょっと多めに、十個お願いします」

「それぐらいならお安い御用だが――」

「あ、持ってきてくれるんですね」

「おめぇ人の話遮るの好きだな。まぁいいけどよ」

 

 アルバストゥルは苦笑いして【生命の粉塵】を三種調合して持って来た。

 

「もう、用意してくださったのですか?」

「まぁ常に【アイテムボックス】に入ってる調合素材だからな」

「ありがとうございます! そうそう【生命の粉塵】でした。お礼に、【いにしえの秘薬】をどうぞ!」

「お、良いのか? サンキュー♪」

 

「【生命の粉塵】を使うと、同じエリアにいる仲間全員の体力を、一度に回復させることができるんですね。こういう便利なアイテムを使って、仲間同士で助け合うことで、信頼が育まれていくのでしょうね。今度、クレオとじっくり話してみますね。そろそろ、昔のことも話してくれるといいんですけど……」

「おめぇ、その話題を引き出すために、わざわざこんな事を俺にやらせたんじゃねぇだろな?」

 そう言うと、【ミズキ】はてへっと笑った。

 

 

 昼――。

 

「こんにちは、アレクさん」

「おう」

「クレオとじっくり話してみようと思うんです。過去に何があったかを知るために……」

「おめぇ、まだその事を気にしてたのか?」

 

 仕事もあってか、まだクレオとは話が出来ていないらしい。

 

「アレクさんは、いつもと同じような感じで、狩りのお手本をお願いできますか? その結果についてクレオと話しながら、それとなく、昔のことを聞いてみます」

「そうか、了解」

「というわけで、今回の依頼です!」

 

 切り替えの早い【ミズキ】は、笑顔で言った。

 

「最近のクレオは、状態異常攻撃について興味を持っているみたいです」

「ふむふむ」

「【モンスター】の状態異常といえば、毒、麻痺、睡眠の三種類でしたっけ?」

「まぁそだな」

「これらの属性が付いた武器を使って、【モンスター】を攻撃し続ければ状態異常になるんですよね」

「おう。合ってるぜ」

「でも、気をつけてください! 逆に【モンスター】が状態異常を仕掛けてくる場合もあるんです」

「そりゃ相手も馬鹿じゃねぇからな」

「例えば、【岩竜】こと【バサルモス】は、二種類の状態異常を使い分けて来るって言うじゃないですか」

「あれそだっけ? 毒ガスはそうだが……。あぁ滅多にしねぇが睡眠ガスも入れたら二種類か」

 

 【ミズキ】は「そうですね……」と考えると、「【バサルモス】の狩猟を見せてもらえたら、状態異常がどういうものか、理解しやすいかもしれません」と一人合点した。

 

「では、状態異常の得意な【バサルモス】の狩猟をお願いできますか?」

「別に状態異常が得意っつう訳でもねぇと思うがな」

 

 アルバストゥルは苦笑しながら受けた。

 

 

 今回の狩場は【火山】である。

 いつものようにテント前で待機していたクレオに、「【クーラードリンク】持って来たか?」と聞いてみた。

 

「うん、大丈夫」

「用意が良いんだな」

「ねえ、それより今度の【大剣】は何?」

「これか? これは【緋骨大剣(霧雲)】っつう、【麻痺】の武器だな。捕獲で苦労した【ゴゴモア】の素材を使うもんだ。今回は『状態異常』についての勉強だからな」

「なるほど」

「【ゴゴモア】は下位、上位共に駆け出しのターゲットにされやすい程に弱ぇ【モンスター】だが、武器も防具も優秀でな。どの武器種でも大概は上位まで使えるぜ。だから覚えといて損は無い」

「了解」

 

 クレオはどうも【片手剣使い】のようなので、【バサルモス】相手では腹下で攻撃する事がどうしても多くなる。

 なので、毒ガスを連続させられると辛そうだった。

 

 まぁ同じ【剣士】であるアルバストゥルも似たようになってしまうため、二人で食らっては苦笑した。

 手数の少ない【大剣】なので手数の多い武器と比べると麻痺る事は少ないのだが、麻痺った時には「おし、今だ叩き込め!」とクレオを鼓舞して連続で攻撃させた。

 

 

「お疲れさまでした!」

 帰ったアルバストゥルは【ミズキ】にこう言われた。

 

「状態異常を活用することが、一流ハンターの第一歩なんですね。クレオもしきりに感心していました」

「そうか」

「ただ、【モンスター】が繰り出してくる状態異常攻撃は、毒、麻痺、睡眠以外にも色々ありますから、気を付けないとですね」

「声帯麻痺毒とかな。まぁこれは【オオナズチ】限定だがな」

 

「さて」

 【ミズキ】は切り替えるように言った。

 

「それとなく聞いてきましたよ。クレオの過去に何があったのか……」

 そして、次のような話をした。

 

「クレオがまだ小さかった頃、ハンターに憧れていたことは、以前、お話しましたよね。中でも、素材の剥ぎ取りの仕方を教えてくれたお師匠様のことを、特に尊敬していたそうです。ところが、ある日、【巨大なモンスター】が街の近くを襲撃したことがあって……。その混乱の中で、尊敬するお師匠様に、裏切られたらしいんですよ……。なんでも、お師匠様のせいで、大切なもの失ったとか……」

 

 そこまで話すと【ミズキ】は「今回聞けたのは、ここまでです」と言った。

 

「クレオにとっても、思い出したくない記憶でしょうから……。じっくり時間をかけて話してもらうことにしましょう」

「そだな。その手のもんは無理強いは禁物だぜ」

 

 

 数日後、「こんにちは、アレクさん」と声を掛けて来た【ミズキ】は、こんな事を言って来た。

 

「お蔭さまで、クレオもハンターとして板についてきたような気がします」

「そうか」

「【ギルド】からの信頼も徐々に上がって、最近では、次々と【モンスター】を狩っているんですよ」

「そりゃ良かったじゃねぇか」

 

 すると【ミズキ】は、「でも、このままハンターを続けるのなら、いつかはやって来るんですよね……」と顔を曇らせながらフッと息を吐き、言った。

 

「【古龍種】を相手にする日が……」

 

 【ミズキ】は顔を曇らせたまま、話し続ける。

 

「【古龍】……。それは人知を超えた【モンスター】たちです。生態の多くが謎に包まれており、その力の強さ故、人々の生活を脅かすことも少なくありません。クレオには、その日に備えて、念入りに装備を整えておくようアドバイスしますよ」

 

 それから「そうだ!」と思い付いて顔を輝かせ、「わたしの知る限り、【ショウグンギザミ】の素材で作れる防具は、高い防御力を備えていたはずです」と言った。

 

「クレオは、【ショウグンギザミ】の狩猟はまだ慣れていないはずですから、お手本を見せてあげてください! 【ショウグンギザミ】の狩猟、引き受けてくださいますか?」

「了解。任せな」

 

 【ミズキ】が提示した依頼は【沼地】にいるものだった。

 

 

 いつものようにテント前で待機していたクレオは、【デスパライズ】を腰に下げていた。

 

「早速実践してんじゃねぇか。感心感心」

 アルバストゥルは腕組みし、大袈裟に何度か頷いて見せた。

 

「アレクさんのお陰で状態異常の有難味が分かったからね」

「他の状態異常は試したのか?」

「うん。だけど、やっぱり麻痺が一番使い勝手が良いって分かったんだ」

「【片手剣】は手数を活かして俺が使った時よりも断然多く麻痺させられるからな。良い選択だと思うぜ」

 

 そう言うと、クレオはニッと笑った。

 アルバストゥルはその表情を見て、オッサンだったら襲うかもなと思った。 

 

「【ショウグンギザミ】の弱点部位は分かるか?」 

「……。ヤドの中?」

「優秀な答えだが、それは【剣士】に取っては実戦向きじゃねぇんだよ。ヤドを壊せばそりゃ柔らかい胴体に攻撃が通る。そしてその部位が斬属性でもダメージを稼ぎやすい。だがな」

 

 アルバストゥルは言葉を切って続けた。

 

「打属性なら簡単なんだが、斬属性でそこを壊すまでにはかなりの手数が必要になる。かってぇからなあそこは。俺が使う【大剣】や【ハンマー】みてぇな一撃一撃が(はな)から重い武器や、【溜め】が出来て一撃必殺を叩き込めるのなら積極的に狙っても良いかもしれない。だがおめぇが使ってんのは【片手剣】だ。一撃が軽い、つまりそれらより攻撃力がねぇ上に【溜め】攻撃が出来ねぇ。そんな武器種で狙う部位じゃねぇんだよ。ヤドはな」

 

「じゃあ、口の中?」

「バーカそこは【ガンナー】が狙うとこだ。近接武器が口ん中を狙える訳がねぇだろ? 答えはな、実は【脚】なんだよ」

「脚……!?」

 

「そう、あの横に張り出してワシャワシャ動いてる部分だ。【ダイミョウザザミ】もそうなんだが、【甲殻種】はあの華奢な作りのせいなのか【脚】が弱ぇという特徴があるんだわ。だからそこを狙えば結構な頻度でダウンしてくれる。ヤドを攻撃して壊す手数を脚に集中して連続でダウン取った方が、立ち上がろうとしてもがいてる間にダメージ稼げんだろ?」

 

「なるほど……」

「っつう事で、おめぇはヤドより脚優先な」

「了解」

「どうしても胴体狙いてぇなら俺が壊してやるが、どうする?」

「じゃあ、頼んでいいか?」

「了解。だが壊せば移動しちまうから、その分狩猟時間はかかるぞ。それは覚えとけよ」

「分かった」

 

よくいる洞窟に入ると丁度ヤドをこちらに向けて食事中だったので、アルバストゥルはこっそり近付いて溜めた。

 その攻撃一発で【グラビモス】の頭殻が砕け散ったのを見て、溜め攻撃の凄まじさを思い知らされるクレオ。

 

「す、すげぇ……!」

「感心してねぇでサッサと追え。見失っちまうぞ」

 そう言われてクレオは慌てて【ショウグンギザミ】の潜行先を追った。

 

 発覚されている二段階目は(鎌を振り回されたりして)少々苦労したアルバストゥルだったが、クレオがダウンさせてくれたり麻痺させてくれたりしている間に溜め、これも破壊。

 移動先で脚攻撃を引き受けてクレオの望み通りに胴体攻撃を任せ、難無く討伐した。

(といっても『死の抱擁』などで巻き込まれたクレオを助けたりはしたのだが)

 

 

「お疲れさまでした!」

 帰ると【ミズキ】はこんな事を言った。

 

「ところで、【古龍】について調べていたら、あることに気付いたんですよ」

「ある事?」

「クレオがまだ小さかった頃、巨大な【モンスター】の襲撃に遭ったという話をしましたよね」

「おう」

「それこそ、【古龍】だったのではないでしょうか?」

「俺もそれは臭いと睨んではいたんだがな」

 

「普通の【モンスター】であれば、【街】を襲うとは考えにくいのですが、【古龍】だけは例外なんです。ここ【メゼポルタ広場】の周辺地域ですら、【古龍】の接近を許してしまったことが何度もありますし……」

「壊滅した地域もあるもんなぁ……」

「わたし、当時の【古龍襲撃の記録】を紐解いてみますね。きっと何か手掛かりが掴めるはずです」

 

 そして【ミズキ】は自分を鼓舞するように、「さあ、これから忙しくなりますよ!」と腕まくりする仕草をした。

 

 

 

 




「クレオ」に関しても少しだけストーリー上に変化が訪れて来ます。

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