今日も元気にメゼポルタ広場からお届けします。【完結】 作:沙希斗
それから数日経った頃、アルバストゥルは【ミズキ】に呼び出された。
「アレクさん! す、スキですっ!」
「なな何を……!?」
「あっ、かんじゃいました……」
「噛んだのかよっ!!」
アルバストゥルは突っ込みながら、面食らった後どうレインに説明しようとテンパった自分に、『危ねえぇ……』と内心で声を掛けて安堵した。
「アレクさん! 【スキル】です!」
【ミズキ】は自分を落ち着かせるようにして言い直した。
「クレオがスキルのことを知りたいそうなんですよー」
「……あそ」
のんびりした口調に戻った彼女に、呆れた返事をするアルバストゥル。
「クレオは、幼馴染なのを抜きにしても、新米ハンターとして頑張っていますから、応援してあげたいんです」
「だな!」
アルバストゥルもニッと笑った。
「それで、【古龍】との出会いに備えて、今からできることはないかなぁって、クレオと話して来たんですよ」
「ほぉ、それで?」
「そうしたら、『今は【グラビモス】を狩りたい。そのために、スキルというものが役に立つらしい』という話をされまして」
「ふむふむ」
「スキルって、クエスト中に発動する、特別な力の事ですよね?」
「っつうか、防具の恩恵なんだがな。人によっちゃ、『ただの思い込みだ』と言う奴もいるし、『倒した【モンスター】の力を防具に宿して着るものだ』と言う奴もいる」
「そういえば、私も小耳に挟んだことがあります。【モンスター】の咆哮を防ぐスキルとか、スタミナが減りにくくなるスキルとか……」
「それなら〈耳栓〉と〈ランナー〉だな」
「そんな便利なスキルを使いこなせたら、狩りがぐっと楽になりそうですし……。【古龍】の討伐だって、きっと役に立つはずなんです」
「まぁ、そりゃそうだろな。中にはオッサンみてぇにスキル関係無ぇ奴とか、それどころか裸でも行けんぜ! っつうようなバケモンもいるけどな」
「スキルを発動させるには、どうするんだったかなぁ……?」
【ミズキ】が一生懸命考えているので、当たり前のように分かっているアルバストゥルだったが黙って置く事にした。
「ちょっと調べておきますので、その間に、アレクさんには狩猟の実践をお願いできますか?」
「おう。良いぜ」
「最近、クレオが苦労している【グラビモス】二頭の狩猟、引き受けてくださいますか?」
「二頭だな。了解」
【グラビモス】と言えば【火山】と思われがちだが、【沼地】にも出現するのでそっちの方を受ける。
いつものようにテント前で待機していたクレオは、若干緊張しているようだった。
「怖ぇんだろ」
兜の中でニヤニヤ笑って言うアルバストゥルに、それを察して「そんな事は無いっ!」と返すクレオ。
「ムキにならんでも良い。俺だって最初はすんげぇ怖かったさ」
「ホントに!?」
「あぁ。だってよ、あいつやたらでけぇじゃん? んでもってすんげぇ硬ぇだろ? 駆け出しの頃は武器の切れ味も大した事ねぇからな。弾かれまくってたよ」
「そうなのか……」
「俺ら通称『グラビーム』って呼んでんだけどよ、あの熱線ブレスも恐ろしかったし、それと突進や圧し潰しなんかで轢かれたりして、何度も死にかけたもんだ」
「うんうん」
「まぁ、誰もが通る道だ。あいつの恐怖を克服出来りゃあ、【大型モンスター】に対する恐怖は、もう無くなると言っても過言じゃねぇ」
「そうか」
「おう。だから頑張りな。ただし死なんようにな」
「おうっ!」
「さてと」
アルバストゥルは緊張が解れたと見て真面目な口調に戻した。
「分かってる通り【グラビモス】はやたら硬ぇ。が、その【腹】の甲殻を破壊する事に成功すれば、中の柔らかい肉質が剥き出しになって途端に攻撃が楽になる。従って【グラビモス】の攻略は、いかに早く腹の甲殻を破壊するかで決まると言って良い。問題は、『どうやって破壊するか』だ。おめぇならどうする? つか、今までどうやってた?」
「えっと、【落とし穴】で落として【大樽爆弾】とか……」
「まぁそれが一番安全な方法だわな。特に【片手剣】だとそれが一番ダメージを与えやすいかもしれん。武器を出したままアイテムが使えるから、【罠】も仕掛けやすいだろうしな」
「でも風圧に煽られたり、足に当たってこかされたりするんだ」
「〈風圧無効〉っつうスキルがあってな、それを付ける事が出来れば風圧は防げるぞ。〈龍風圧無効〉なら【古龍】が起こす風圧すら耐えられるが、普段は〈風圧(大)無効〉までで良い。これから必要になって来るスキルだから覚えとけ。足に当たるのは立ち回りの問題だ。それは自分でなんとかしろ」
「分かった」
「てか、そのスキルがねぇ場合の【片手剣】だけの裏技があんの知ってるか?」
「なに?」
「『ジャンプ切り』っつう技があんだろ? それを風圧の外で繰り出す事によって、風圧の影響を受ける事無くそのまま中に入れるんだよ。それをやりながらアイテムを使う事で、風圧に負けずに【罠】を仕掛けたり出来る。【リオレイア】なんかが降りて来た時の着地点に、影を見てから仕掛けると風圧が来るまでに間に合わずに設置途中で煽られて失敗する場合があるんだが、【片手剣】だけはこれを利用すると余裕で仕掛けられる。覚えといて損はねぇぜ」
「了解」
「それからな、何も無理して【罠】に掛けてから【大樽爆弾】を使う必要はねぇんだよ」
「じゃあどうするの?」
「【眠り投げナイフ】っつうアイテムがあんだろ。まぁこのアイテムがある時限定になっちまうが、これで眠らせて寝てる隙に爆弾を仕掛ける事で、罠にかけた時よりもかなりダメージを稼げるぞ。もしくは睡眠付きの武器で攻撃するか。なんせ寝てる時に攻撃すれば、最初の一撃だけだが起きてる時の三倍のダメージが入るからな。調合分も持って来ればなお良い。この組み合わせで【大樽爆弾G】なんて当ててみろ。すんげぇダメージになんぜ」
「なるほどぉ!」
「ただし寝てる時にダメージが三倍になんのはあくまでも『初撃だけ』だ。それはどんな攻撃でもそうなるんだが、どうせなら一番大きなダメージになるもんを入れてぇだろ? だから起爆用の【石ころ】とか【投げナイフ】なんかを間違ってでも当てるなよ、後で爆弾が誘爆したとしても先に当たった起爆用アイテムの方で三倍扱いになっちまうからそうなったら物凄く勿体無ぇぞ。その点は気を付けろよ」
「分かった。覚えとくよ」
「まぁ長々と話した割にはこの作戦は今回は使えねんだがな」
そう言うとクレオは苦笑いした。
「っつう事で、今回は『クレオ作戦』で行くぞ。つまり【罠】掛けて起爆する作戦だ。どっちも持って来てんだろ?」
「うん」
「調合分は?」
「それは無い」
「そか。なら【シビレ罠】だけで仕掛ける事になるな。俺も調合分までは持って来てねぇからチャンスは二回だ」
「どうして?」
「【グラビモス】のいるエリアは湿地帯の《4》もしくは枯れた草地が広がる《8》の場合が多い。そこには【落とし穴】は仕掛けられねんだよ。だから爆弾を置けるチャンスは【シビレ罠】の時かおめぇが麻痺させてる時しかねぇ。【火山】なら大抵どこでも【落とし穴】が効くんだがな」
「そうなのか……」
「狩場の地形を把握しとくのも一流ハンターの道だぜ。それによってアイテムの使い方や戦略を変える必要があるからな。気候も読む必要がある」
「そか。俺頑張る!」
アルバストゥルは、兜の中で笑いながらクレオの頭をポンポンしてから「んじゃ行くぜ」と【グラビモス】のいるエリアに飛び出した。
一人だけで全部やるより早いだろうと、爆弾を置く係を引き受けたアルバストゥル。だからクレオが【シビレ罠】を掛けるのを待っていたのだが……。
「馬鹿突進中に仕掛けてどうする!」
設置中の動作の間に迫って来る【グラビモス】に、クレオは血の気が引いている。
アルバストゥルは彼を斬り上げて、代わりに轢かれた。
「アレクさんっ!!」
吹っ飛ばされて転がっている間に息を吸い込んでいる【グラビモス】が目に入る。
「うおぉっ!?」
グラビームを緊急回避で辛うじて避けたアルバストゥルを見て、クレオはホッと胸を撫で下ろした。
「ごめんなさい。大丈夫?」
「おめぇなぁ、もうちっと状況判断しろよ。突進の早さに罠の仕掛けが間に合うとでも思ったのか?」
「そうじゃないんだけど、慌てちゃって……」
「焦ってもミスるだけだぜ? 平常心の訓練も必要だな。まぁ初めのうちは俺もテンパったもんだが」
改めて安全な時に仕掛けたクレオに続き、【大樽爆弾】を置くアルバストゥル。だが彼が安全圏まで離れる前にクレオが起爆したもんだから、アルバストゥルは再び吹っ飛んだ。
「あっちぃな! 何しやがんだてめぇ!!」
「あわわ、ごめんなさいぃ!」
鎧を焦がしてブスブスと煙を上げながら怒鳴るアルバストゥルに、クレオは平謝りした。
「一人の時は好きに爆破出来たかもしんねぇけどな、今はPTだ。他人の行動も見ておく必要があんだよ。もうちっと考えて行動しろよな」
「はい。ごめんなさい……」
「まぁそうしょげるな。今ので第一段階の破壊は成功した。二段階目の時は気を付けろよ」
「はい」
急にしおらしくなったクレオに、アルバストゥルはにやけ顔が止まらなかった。
昔の自分が思い出されて懐かしかったのと、その仕草や表情があまりにも可愛らしかったからである。
今兜が無かったら、きっとクレオに気味悪がられるだろうなと思いつつも、彼は顔が崩れるのを抑える事が出来なかった。
「お疲れさまでした!」
そんなこんなで二頭狩猟を終えて帰って来たアルバストゥルに、【ミズキ】は言った。
「さて、スキルの発動について、ちゃんと調べておきましたよ」
「おぉ、そうか」
もはや分かり切っている彼ではあるが、こちらの方も付き合ってやる。
「複数の防具を組み合わせるのが、コツみたいですねー。防具には、『スキルポイント』と呼ばれる数字が割り振られているんです。複数の防具を組み合わせて、スキルポイントの合計が一定値に達すれば、スキルが発動するみたいです!」
ドヤ顔で言う彼女に、彼は笑いを堪えている。
「えっ……? もう知ってましたか?」
そう言われて、とうとうアルバストゥルは吹き出した。
「もしかして、素敵なスキルが発動する防具を既にお持ちだったり……?」
「あったりめぇだろ、SRハンターに向かって何天然かましてんだおめぇは!」
ゲラゲラ笑っていると、【ミズキ】は膨れた。
「もー! それならそうと、最初からそう言ってくださいよぉ! アレクさんのいじわる!」
「わははは! 気付かん方がおかしいっつの。腹痛ぇ!」
彼がひとしきり笑い終えた所で、切り替えの早い【ミズキ】がこう言った。
「それにしても、スキルって奥が深いですね。幼馴染としてクレオの力になるために、もっともっと勉強しておかなくっちゃ」
「おう、頑張りな」
「そのために、アレクさん『だけ』が頼りなんですから、次回もよろしくお願いしますー!」
【ガイド娘】をしているだけあって、煽てるのが上手い彼女である。
翌日、【ミズキ】は嬉しそうに言った。
「アレクさん、色々と便利そうなスキルを見付けましたよ」
「ほぉ、どんな?」
「〈自動マーキング〉って知ってますか? 千里眼のスキルポイントが合計十五以上になると発動するんですけど……。クエスト中、【大型モンスター】の居場所が手に取るように分かるんですって。こういう便利なスキルを活用すれば、クエストを成功しやすくなりますね」
居場所どころか【モンスター】の種類や向きすらも分かるようになるのだが、それはアルバストゥルは言わないで置いた。
「そうそう、狩猟用だけじゃなくて、採取用のスキルも探してみたんです」
【ミズキ】はドヤ顔で言った。
「例えば、〈高速剥ぎ取り&採取〉があれば、素材集めが楽になるそうですから、クレオにもオススメかなぁって」
そこで彼女は、「でも、ちょっと問題が起こりました」と言った。
「〈高速剥ぎ取り&採取〉を発動させるには、【ケルビ】の素材から生産できる【レザーライトシリーズ】が便利なのですが……」
そこで言葉を切ると、彼女は意外そうな顔で「クレオ、【ケルビ】を狩れないんですって!」と言った。
「【ショウグンギザミ】や【グラビモス】を狩れるようになったのに、不思議ですよね。【草食種】の【ケルビ】が狩れないなんて……」
「ふむ。まぁ意外っちゃ意外ではあるが……」
「そういう事情ですので、いつも通り、狩りのご指南をお願いできますか?」
その時点で勘の鋭いアルバストゥルはクレオには何かあるなと思ったのだが、「それでは、クレオへのお手本として、【ケルビ】十頭の討伐をお願いします!」と言われ、まぁいっかと黙って受けた。
【密林】を選んだが着いたのが夜だったのもあって、いつもいる《2》などに【ケルビ】がいない。
「雨宿りでもしてんだろ」
夜の【テロス密林】には雨がいつも降っているので、夜の間は雨を避けて避難している【小型モンスター】は多い。
雨宿りならば崩れた洞窟のある方だろと見当をつけて地図で言う《7》《8》などに行ってみると、その丁度中間にあたる《6》にいた。
「おし、十匹の依頼だ。手分けして狩るぞ」
アルバストゥルは次々に狩って行ったのだったが、ふと見るとクレオが泣きそうな顔をして突っ立っていた。
「どうした? 【ケルビ】が狩れねんじゃ、この先苦労するぜ? 武具の素材になるだけじゃなく、貴重な回復アイテムの調合素材にもなるんだし」
するとクレオは悲痛な声で叫んだ。
「狩れませんっ!!」
「【ケルビ】は、……【ケルビ】だけは狩れませんっ!!」
そしてとうとう泣きながらその場から飛び出して行ってしまった。
「なんだ? あいつ……」
しょうがないので手本にならないと思いつつも、自分だけで依頼をこなして帰って行った。
「お、お疲れさまでした!」
報告しに行くと【ミズキ】は明らかに動揺していた。
「えっと、アレクさん、わたし、とんでもないことをしちゃったかもしれないです!」
「クレオに、何があったんだ?」
恐らく彼に話を聞いたであろう事を確信し、聞く。
「クレオが【ケルビ】を狩れないのは、過去のトラウマが原因らしいんです」
「やっぱな。そんなこったろうと思ってたんだよな」
「それなのに、わたし勘違いして、余計なことをしちゃって……。どうしよう……」
【ミズキ】は泣きそうな顔でオロオロしている。
そして、彼に聞いた話を語り始めた。
「クレオがまだ小さかった頃、一頭の【ケルビ】がよく【街】の近くにまで迷い込んで来ていたそうなんです。あくまでも、野生の【モンスター】ですから、人に懐くことはなかったと思いますが……。何度も姿を現すその【ケルビ】に、クレオは思い入れのようなものを感じていたかもしれません」
アルバストゥルは、それを聞いて【大型モンスター】でさえ手懐けて【モンスター闘技大会】に出せるぐらいなんだから、恐らくその【ケルビ】もクレオにだけは懐いてたんだろうなと思った。
「だから、クレオのお師匠様も、その【ケルビ】だけは狩らないと約束してくれたそうです」
「ふむ」
「ところが、巨大な【モンスター】が【街】を襲撃した日のこと……。【街】の混乱もあって、その日に起こったことは正確には覚えていないらしいんですが……。『狩らない』と約束したはずの【ケルビ】を、お師匠様が狩っているのを目撃してしまったんですって。それ以来、お師匠様、ひいては【ハンター】に対する不信感を抱くようになったみたいです」
「なるほどな……」
アルバストゥルは、初めてクレオと対面した日の事を思い出した。
だから、あいつは最初あんなに怯えたような顔で睨んでたのか。
「アレクさんのご協力で、最近では、ハンターの仕事を前向きに受け止めるようになってきましたが……。わたしが余計な事を思い出させてしまったみたいですね……」
【ミズキ】は「わたし、これからクレオにどう接したらいいんでしょう……」と悩んでいる。
アルバストゥルは、そんな彼女にどう声を掛けて良いか分からずに、そのまま引き下がった。
だが次の日、事態はアッサリと解決した。
【ミズキ】がこう言って来たからである。
「アレクさん……。今後、クレオとどう接していこうかずっと考えていたんですけど……。でも、そんな心配は無用でした」
「そうなんか?」
「クレオが会いに来てくれたんです」
「そか」
「お師匠様が約束を破ったあの日の出来事だけは今でも割り切れていないそうですが……。『それだけで、ハンターの仕事のすべてを否定するのは間違っている』と。『立派なハンターになりたい気持ちは変わらないので、今までと同じように、協力してほしい』と言われました」
そして彼女は振り切ったように、「だから、もう大丈夫です!」と笑顔になった。
「……それでは、いつも通り、初心者ハンター、クレオに向けた、狩りのお手本をお願いします!」
「おう、任せな!」
アルバストゥルも、元気付けるように大きな声を出した。
クレオのトラウマ発覚。
最初にアルバストゥルを見て怯えていたのと「ケルビを狩れない」と泣き叫んでいたのはこういう理由だったんですね。