今日も元気にメゼポルタ広場からお届けします。【完結】   作:沙希斗

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今回はクレオが強敵に挑みます。
あ、この場合の「強敵」とは、「初心者にとって強敵」という意味です。

これで「アレクの章」は終わりになります。


アレク、【教官】になる?(アレクの章)6

 

 

 

「アレクさん!」

 数日後、アルバストゥルは【ミズキ】に呼び止められた。

 

「クレオが【古龍】の討伐に挑戦したいと考えているようです」

「おぉ、いよいよかぁ」

「わたしが調べたところによると、【古龍】って、天災にすら匹敵する力を意のままに操るそうですね。しかも、罠の類いは一切効かず、そのために捕獲もできないとか」

「おう、かなり手強い相手だぜ」

「そんな【古龍】に、あわてて挑むのは無謀です。クレオも、『まずは他の【モンスター】を狩って、経験を積みたい』と言っていました」

 

「焦らずに、徐々にやれば良いさ。奴ら程恐ろしい存在はねぇんだからな」

「先に狩りたい【モンスター】、それは【リオレウス】だそうです!」

「【レウス】と来たか」

「確かに、一人前のハンターを目指すなら、【リオレウス】の狩猟は避けて通れないって聞きますね。強力な【モンスター】ではありますが、【罠】や【閃光玉】などのアイテムを活用すれば、上手に狩る方法はあるはずです。アレクさん、お願いします。クレオのステップアップのために……」

 

 【ミズキ】が溜めたので、彼は「ために?」とおちょくった。

 

「【リオレウス】三頭の狩猟を通して、ご指南ください!」

「わはは、そんなに力入れんでも」

 アルバストゥルは笑いながら受けた。

 

 

「よぉ、お帰り」

 彼が帰ってからまだ会ってなかったアルバストゥルは、【森丘】のテント前にいたクレオにそう声を掛けた。

 

「ただいま」

「ちったぁ過去が分かったか?」

「うん……。あのね、今俺の師匠の居場所を探してもらってるんだ」

「師匠に会うつもりか?」

「うん……」

 

 あまり話したくなさそうだったので、それ以上詮索しないで置いた。

 

「【罠】は持って来たのか?」

 切り替えて狩猟の話にする。

 

「うん。バッチリ持って来たぜ!」

「なら今回はそれは使用禁止な。うっかり使わんように、俺が預かっとく」

「えぇ~~~!?」

 

 不満気なクレオに「ほれサッサと出せ」と促し、【落とし穴】と【シビレ罠】を自分のポーチに入れる。

 

「クレオ、お前【古龍】に挑戦してぇんだろ?」

「うん」

「分かってるだろうが【古龍】にゃ【罠】の類いは一切効かねぇ。だから今回は『罠無し』でやる。一応【ミズキ】にゃ『罠を活用すれば狩れる』みてぇな事は言われたし、確かに【リオレウス】には【罠】は有効だ。だがよ」

 

 アルバストゥルは一旦切って続けた。

 

「【古龍】と対峙してぇと思うなら、【罠】を使わん狩猟も勉強しとく必要がある。【リオレウス】はお前にとっちゃハッキリ言ってかなり手強い相手だが、それでも【古龍】とは比べ物にならん。逆に言えば、【古龍】とはそれ程恐ろしい存在なんだよ。なんせ近くに一頭来ただけで【街】や【村】が一夜にして壊滅させられる事も珍しくねぇんだ。要は一頭が天災クラスなんだよ。そんな奴と対峙し、尚且つ討伐する気なんだろおめぇは? ならばその『練習台』とも言える【リオレウス】に、【罠】が効くからっつって使うのは甘い考えだと思わねぇか?」

 

「なるほど、分かった」

「先に言って置くが、【罠】が使えねぇ分苦戦する事は間違いねぇ。だがそれは【古龍】に対しても同じ事だ。奴ら相手には【罠】以外のアイテムを駆使して闘う必要があるから、今回も良い練習になるはずだ。ただし心してかかれよ?」

「了解!」

 

「ちなみにな、【クシャルダオラ】は【閃光玉】を使う事でかなり有利に立ち回れるぜ。だから【閃光玉】の使い方はマスターしといた方が良い。なんでかっつうとな」

 

 アルバストゥルは【古龍】の話が出たついでに【クシャルダオラ】の説明を始めた。

 

「【クシャルダオラ】はな、常に飛び回ってる【古龍】なんだよ。地面に降りる事はあまりない。だから空中で【閃光玉】を当てて地面に引き摺り下ろす必要があんだよ」

「なるほど……」

 

「あぁそれとな、奴は【龍風圧】といって、常に自分の周囲に風を吹かせて『風の鎧』を纏っている。だから奴が来れば嵐になり、『嵐を操る龍』なんて言われてる。そしてその状態では【ガンナー】は、【矢】も【弾】も弾かれちまうんだ。だが【閃光玉】が効いてる時は【龍風圧】を纏わない。その間に毒らせるか、発生源である【角】を壊すかしねぇ限りは【ガンナー】で闘う道はねぇ。【剣士】の場合は闘えるが、これも〈龍風圧無効〉のスキルがねぇと常に煽られてまともに立ち回る事すら出来なくなるんだよ。こっちも同じで毒らせるか【角】を壊すかしねぇと、スキル無しでは闘えん。【クシャルダオラ】と闘うなら【龍風圧】を制する事を意識しろ」

 

「了解」

 他の【古龍】の話もしようかと思ったが、長くなるし体験させる事も必要だろうと思ってやめにした。

 

 

 テント前で長々と話していたせいか、件の【リオレウス】が見付からない。

「あいつ飛び回るからなぁ」

 ぼやきながら「二手に分かれるか……」などと呟いていると、上空を通過したのが見えた。

 

「あの方向なら多分こっちかな」

 地図で言う《3》から《9》に入ってみると、丁度奥の方の入り組んだ所に舞い降りたのが分かった。

 

「おめぇは待ってろ。ペイントだけして来るから」

 言い残して走って行く。

 【ペイントボール】を当ててクレオの元に戻る間に追いかけられた。

 

「走れっ!!」

 

 《9》は奥まった所以外は通路状になっている。しかも大型【モンスター】がいると一方通行になってしまい、一方向に逃げるしかない。

 

 叫びながら走って来たアルバストゥルのすぐ後ろから迫って来る【リオレウス】を見たクレオは、大慌てて《3》への出口に飛び込んだ。

 

「あそこはやたら狭いからな。慣れてない奴に闘わせる場所じゃねぇ」

「じゃあ、移動を待つのか?」

「そうだ。ちと時間はかかるけどな」

 

 《3》で待機しながら注意深く臭いを嗅いでいると、長い間待ったような気がした頃に《4》に移ったのが分かった。

 

「おし、本番だぜ」

 目の前に躍り出た二人に対して威嚇の声を上げる【リオレウス】。先制攻撃とばかりに先に攻撃を当てたのは、クレオの方だった。

 

 彼は【連射弓】である【パワーハンターボウⅡ】を使っている。

 正面付近から頭を狙い始めたのを見たアルバストゥルは、「頭は任せろ、腹を狙え!」と促した。

 

 【ガンナー】での弱点は、【頭】よりもむしろ【腹】なのだ。

 

 矢が当たる度に、血と一緒に紫の飛沫が上がっている。

 という事は、彼は今【毒ビン】を鏃に装着しているらしい。

 程なくして【リオレウス】の矢傷が壊死しはじめた。

 

 クレオはそれを確認するや、他のビンに付け替えた。それを目の端で見ていたアルバストゥルは、それからは【リオレウス】に矢が刺さる度に血と一緒に白い液体が飛び散りはじめたのを確認した。

 

 今度はどうやら【睡眠ビン】を装着しているらしい。

 

 それを知ったアルバストゥルは、相手が寝るまで攻撃を控えた。

 睡眠効果が出たのを確認したクレオは、寝ている相手に近付いて頭に【大樽爆弾G】を置いた。

 それを見たアルバストゥルは、爆風が届かない位置で溜めた。

 

 大爆発と溜め攻撃が同時に炸裂した。当たったのがどちらが先かは分からなかったが、どちらが当たったとしても三倍の威力になるので非常に強力である。

 当然【リオレウス】は絶叫して苦しんだ。

 そして、それは怒りに移る絶叫にもなっていた。

 

 大絶叫の煽りを食らって思い切り耳を塞ぐクレオ。どうやら〈耳栓〉のスキルは付けていなかったらしい。

 

 それを【リオレウス】が見逃すはずがない。呼吸に火の粉を交じらせながら、まるで動けないでいる獲物を品定めするようにゆっくりと向き直った。

 彼の眼前で巨大な顎(あぎと)が目一杯に開かれた。そう思った途端、喉の奥が燃えているのが見えた。

 

 ゴオッ!

 

 直後に火球が迫って来た。硬直が解けるか解けないかのタイミングで、回避が間に合わないと判断した彼は固く目を閉じて死を覚悟した。

 

「ったく、〈耳栓〉ぐらい付けとけよなぁ」

 すぐ近くで声がして恐る恐る目を開けたクレオは、頑丈そうな鎧を着た大きな背中を見た。

 

「アレクさん……!」

 かざした【大剣】からブスブスと煙が上がっている。彼がガードして火球ブレスを防いでくれたのだ。

 

「ありがとう……」

「〈耳栓〉ねぇんじゃ回避出来なきゃ俺が護るしかねぇだろが」

「うん。ごめんなさい」

「まぁ気にすんな。護るのも【教官】の仕事だからな」

 

 彼としては冗談のつもりだったのだが、クレオは感激していた。

 

 怒り時の【リオレウス】は(クレオに取っては)凄まじく、攻撃よりもむしろ逃げに徹するしかないようだった。

 そんな最中に平然と攻撃を加えていく彼を見ながら、やっぱりアレクさんは凄い! と感心していた。

 そんな時に【閃光玉】の存在を思い出し、せめて少しでも役に立とうとポーチから出して握り締めたのだが――。

 

「危ねぇ避けろっ!!」

 叫び声がして見えたものは、上昇していた【リオレウス】がこちらに向かって急降下して来た姿。

 

 一気に血の気が引き、避けるどころか逆に凍り付いてしまった彼を見て、アルバストゥルは舌打ちしながら飛び付いた。

 

 ドガガッ!

 

 二連続の空中蹴りが襲う。だがクレオは無傷だった。

 気が付くと、彼は仰向けに押し倒されていた。そして覆い被さるように、俯せでアルバストゥルが抱き付いていた。

 

「アレクさん……?」

 ぐったりしている彼に気付いたクレオは、おずおずと声を掛けた。

 

 返事が無い。

 

「アレクさ――!?」

 起こそうとしてハッとなった。手にべったりと血が付いたからである。

 

「うわあぁ! アレクさんっ!!」

 彼は狼狽した。そして「しっかり! しっかりしてくれよおぉ!!」と叫び続けた。

 

 アルバストゥルの意識は無い。

 が、苦し気な呼吸を続けている。

 

 そしてそんな中、上昇した【リオレウス】がこちらに向き直り、口を開けて炎を揺らめかせたのが見えた。

 

「うわああぁ!!!」

 クレオはパニックになりながらも、彼を抱えたままゴロゴロと転がり、どうにかブレスの直撃だけは避ける事に成功した。

 

 その時ピクリとアルバストゥルが反応し、呻いた。

 

「アレクさんっ!!」

「……すまん……、意識が、飛んじまってた……」

 

 起き上がった彼の背中には、ザックリと爪で切り裂かれた傷が何本か付いていた。

 だがそんな事は慣れていると言わんばかりに、まず【漢方薬】、続いて【回復薬グレート】を呷った。

 

「大丈夫なの!?」

「まぁな……。ただ、毒蹴りはどうしても気絶しちまうんだ。これは〈気絶無効〉のスキルを付けてねぇ奴は誰でもなる。あの図体で空中から勢い付けて蹴って来る訳だからな。こればっかはどんなにランクが上だろうが、どんなに頑丈な防具を身に着けてようが関係ねぇ。だから避けろと言ったんだが……」

 

 そう言ってクレオを見た彼は、「だが、庇っといて良かったよ」と言った。

 

「おめぇの場合、当たれば即死だったかもしれん。通常時ならまだしも怒ってるからな。良くて瀕死だったとしても、気絶してる間に毒によってあの世行きになりそうだな」

 

 兜の中でフッと笑ったのを聞いたクレオは、ただただ戦慄した。

 

「震えてる場合じゃねぇぞクレオ。おめぇはこいつより手強い【古龍】に挑戦するつもりなんだろうが」

「は、はい……」

「付いて来いクレオ。【閃光玉】は任せる!」

「はいっ!」

 

 そうして、苦戦しつつもクレオは見事に三頭を狩り切ったのであった。

 

 

「お疲れさまでした!」

 帰ると【ミズキ】は「さて、クレオですが」と嬉しそうに言った。

 

「今までで一番苦労したみたいですけど、なんとか狩れるようになってきました。いつものことながら、アレクさんのご指導は素晴らしいですね。どうも有難うございました!」

 

「まぁ、今回はちときつかったろうがな」

 アルバストゥルは含み笑いをした。

 

 その時、【伝書鷹】が舞い降りた。

 

「あれっ? たった今、クレオから別の連絡が届きましたよ」

 そして「ふむふむ……」と読み始めた【ミズキ】は、「わー! クレオのお師匠様の居場所が分かったそうですよ!」とはしゃいだ。

 

「【モンスター】が【街】を襲撃したあの日以来、ずっと会っていなかったお師匠様……。今こそじっくりと話し合って、過去の出来事を乗り越えるんだって、クレオ、心に決めたみたいです。クレオとお師匠様の再会の場に居合わせられないのは残念ですが……」

 

 複雑そうな顔をした【ミズキ】だが、「でも、大丈夫ですよね」と笑った。

 

「今のクレオなら、きっと良い結果を聞かせてくれるって信じています」

 

 そして「では、続報をお楽しみに!」と茶目っ気たっぷりに言った。

 

 

 




体力が少なくなっている時に「リオレウス」の毒蹴りを食らってしまい、ピヨリ中に死んだという経験はありませんか?
私はあります。
もう食らった瞬間に絶望しました。「もう助からないんだな」と(笑)

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