今日も元気にメゼポルタ広場からお届けします。【完結】   作:沙希斗

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前回で「アレクの章」が終ったので、今回からは「クレオの章」になります。
こちらも長いので幾つかに分けて投稿する事にしました。

「シリーズクエスト(ビギナーズ)」での実際(ゲーム中)は、「ミズキ」に話し掛けては依頼されるクエストをこなして進めていくのでプレイヤーと「ミズキ」との会話がずっと続きます。
なので最初は全部「アルバストゥル」と「ミズキ」の会話を絡めながらの話にしようと思っていました。

ですがかなり長い話になってしまいましたし、それだけでは読ませている友人が飽きると思って「アルバストゥル」の視点だけでなく「クレオ」の視点でも書いてみようと章分けしたんです。


という事で、「クレオの章」ではクレオ視点で話が進んでいきますので、こちらでは「アルバストゥル」ではなく「アレクトロ」表記になっています。

「アレクの章」では実際にゲーム中に喋っている「ミズキ」のセリフをそのまま書き出してアルバストゥルと絡めておりましたが、「クレオの章」ではそのセリフに基いたものを物語として書き起こしています。
なのでセリフそのものではありませんが、話の流れはそのままだと思って置いて下さい。



アレク、【教官】になる?(クレオの章)1

   

 

 

 

 師匠の居場所を記した地図を手に、クレオは海を渡った。

 そこは【フォンロン地方】と呼ばれている、ハンター達が集う大陸とは別大陸だった。

 だが彼に取っても馴染みの無い地方ではなかった。

 なぜなら単にハンター達が【樹海】と呼ぶ、【バテュバトム樹海】が狩場になっていたからである。

 【樹海】には今の【教官】である【アレクトロ】と共に来た事があるし、自分自身でも何度か狩場に使っている場所だった。

 

 そこを抜けて木々がまばらになった頃、【樹海】からも微かに見えていた【古塔】が大分ハッキリ見えて来た。

 【古塔】も狩場に使われている場所なので、あまり行った事の無かったクレオに取ってもまったく知らない場所ではなかった。

 地図は、その足元というのか、麓と言うのか、とにかく【古塔】をいつも近くに眺められる地域の山奥の【村】を示していた。

 

 なんでも、師匠はハンター業を引退してここで暮らしているんだとか。

 

 

 商業船と竜車を乗り継いでやって来たものの、師匠は留守だった。

 だが「すぐに帰って来るから待つように」と【村長】に言われ、そのまま師匠の家で待つ事になった。

 

 中々帰って来ない師匠に暇を持て余していたクレオは、家の中を見回している内に本棚に気付き、本を読むぐらいなら支障は無いだろうとそこへ近付いた。

 【月刊・狩りに生きる】はもちろんの事、【モンスター】の図鑑やそれを題材にした小説など、本好きだった師匠らしく様々なジャンルの本が乱雑に並んでいる。適当に読もうとその内の一冊を抜こうとした彼だったが、両隣や上に重なっていた本を何冊か落としてしまった。

 

「あちゃちゃ……」

 慌てて拾い上げて元に戻していると、広がって落ちているその内の一冊がふと目に留まり、どうしても気になって書かれてあるものを見てしまった。

 古ぼけた表紙に『日記』と書かれてあったからである。

 そして開いていたページは、偶然にもクレオの【街】に巨大【モンスター】が襲撃して来た日付になっていた。

 

 

 〇月×日

 

 地震で目が覚める。

 だが、慌てて【ギルドガール】が駆け込んで来て、「巨大な【ラオシャンロン】の頭骨を被った【甲殻種】が向かって来ています!」と言ったのを聞いて、地震ではなく【シェンガオレン】だという事を知る。

 このまま【街】まで来てしまうと【街】が壊滅してしまう。なんとかしなければ!

 

 出撃準備をしていると、普段は寝坊助なクレオが今日ばかりは慌てて起きて来て、泣きながら私にしがみ付いて来た。

 完全に怯え切っている。

 だが、私は行かねばならない。

 

 無理矢理引き剥がし、【ギルドガール】に「この子を頼む」と言い残して家を出て行く。泣き叫び私を呼ぶ声に後ろ髪を引かれつつ、私は【街】の外へ出て行った。

 迎撃命令が出たハンター達と共に、街門の外で迎え撃つ。

 立って移動して来た【シェンガオレン】は、遠くからでも靄で霞んだシルエットがハッキリと見え、その圧倒的な高さに度肝を抜かされる。

 

 と、靄の中からいきなり強酸液が降って来た。

 

 このまだ完全に姿が見えない時での強行に、不意を食らって当たってしまったハンターの何人かが犠牲になった。

 まともに浴びた者はその場で蒸発し、飛沫が掛った者も防具を溶かされ、中には骨や内臓まで溶かされてもがいている者もいた。

 とにかく息のある者を安全な場所まで運び、治療する。

 残念ながら助からない者や、運ぶ途中で息絶えてしまった者も何人かいた。痛ましい事である。

 

 【シェンガオレン】はその間にもどんどん街門に近付いて来ている。だが近接武器の者は奴が一歩進むごとに振動でまともに攻撃出来ないでいる。斯く言う私も〈耐震〉スキルが無かったがために、苦戦していた。

 主攻撃を【ガンナー】に任せ、とにかく【剣士】はなるべくダメージの大きい攻撃を叩き込むようにする。

 しかし振動で怯んでいる隙に踏まれたりして、重傷を負う者が後を絶たないでいた。

 街門に近付いた【シェンガオレン】は、早速そこを壊そうとし始めた。

 立ち上がった際に【龍撃槍】を作動させると怯んでガシャンと崩れ落ちたが、一度では死なず、撃退も出来なかった。

 次の作動時間まで、街門が持つだろうか?

 

 その時、崩れた外壁の辺りで私を呼ぶ声がした。

 

 振り向くと、わんわん泣きながら駆け寄って来る子供がいる。それがクレオだと分かった途端、私は「来るんじゃない!!」と叫んだ。

 だがクレオは言う事を聞かずに走り寄り、足元にしがみついて来た。叱り付けたが「ししょぉと離れるのはやだぁ」と泣き続け、離れてくれそうになかった。

 

 クレオは幼児期に親が死に、身寄りが無かったがために私が引き取って育てた子供である。だから狩場にも付いて来ようとし、それで剥ぎ取りも覚えるようになったのた。

 しかし今の状況では逆に足手纏いになってしまう。

 

 そこで一旦【街】の中に帰ろうとしたのだが、そこに【シェンガオレン】が鋏を叩き付けて来た。

 直撃は逃れたが鋏の先が掠ってしまい、クレオは頭から胸にかけて、ザックリと抉り裂かれてしまった。

 このままでは確実に死んでしまう。なんとかしなければ!

 

 私はとにかくクレオを抱えて【シェンガオレン】の攻撃範囲から離れ、外壁の陰に避難した。安全な所とは言い難かったのだが、一刻も早く治療しなければならない程深刻な状態だったのだ。

 しかし、運の悪い事に、今持っている回復アイテムはせいぜい【回復薬グレート】ぐらいしかなかった。

 何もしないよりはと掛けてはみたが、やはり僅かに肉が再生する程度である。とてもじゃないが命を繋ぎ止められない。

 クレオの意識はすでに朦朧となっている。だが、医務室に運ぶまで持ちそうにない。

 

 そこに、【ケルビ】がいるのが目に入った。

 それはよく【街】の中に迷い込んで来てはクレオと共にいるのを見掛けていた【ケルビ】で、「友達だから狩らないでね」と何度も言われ、私自身も「決して狩らない」と約束していた個体だった。

 

 ふと、自分の回復能力を高めるために【活力剤】をポーチに入れていたのを思い出した。

 これと【ケルビの角】を調合すれば【いにしえの秘薬】が作れる。

 出来れば狩りたくはない。が、事態は一刻を争っていた。

 私は断腸の思いで【片手剣】を構え、【ケルビ】に斬り付けた。その断末魔の悲鳴にクレオが気付いてしまった。

 

「……ししょ……、どうし……て……」

 クレオは倒れたままそう言い、涙をぽろぽろと零しながら死んだ【ケルビ】に目一杯手を伸ばすと、そのまま気を失った。

 

「すまん……。こうしなければお前を救えんのだ……」

 私は謝りながらも急いで【ケルビの角】を剥ぎ、ポーチにあった【活力剤】と調合して【いにしえの秘薬】を作ってクレオに施した。

 なんとか命を繋ぎ止めてくれたクレオを見て安堵していると、突如私の背中に激痛が走った。

 あまりの痛みに叫びながら振り向くと、そこに【シェンガオレン】がいた。

 クレオと同じように鋏を叩き付けられ、その鋏が背中を抉ったらしい。

 

 私は倒れまいと踏ん張り、喘ぎながらもクレオを庇い続けた。

 

 もう闘う力は残っていなかった。だが幸いにも他のハンターの攻撃によって相手の注意がそちらに移り、その場から移動してくれた。

 ここにいては危ないと悟った私はクレオを抱え、よろめきながら医務室まで歩いて行った。

 そしてクレオを託すと、私はその場に倒れて気絶した。

 

 

「……そう、だったのか……!」

 そこまで読んだクレオは、ショックを隠し切れないでいた。

 

 あの日以来忘れていた事が思い出され、誤解して記憶に残っていた事に愕然とした。

 幼かったのと、大怪我で意識が朦朧としていたがために、自分を救うために師匠が狩らない約束をしていた【ケルビ】を狩った場面だけが、ずっと心に残り続けていたらしい。

 そのために自分は師匠を憎み、【ハンター】そのものに不信を抱くようになってしまった。

 そしてそれ以来、師匠にも会わなかった。

 

 謝らなければ!

 

 クレオはそう思った。師匠が帰って来たら、誤解していた事を謝らなければと。

 

 その時、玄関のドアが開いた。

 

「……。クレオ、か……?」

 入って来た師匠は驚いている。

「師匠……!」

 

 師匠は初老の顔立ちになっていた。

 

「大きく、なったな」

「はい……。俺、ハンターになったんですよ」

「そうか……。あの日以来、私を、引いてはハンターを嫌っていたお前が……」

 

 師匠は感激している様子である。

 

「【ドンドルマ】の【メゼポルタ広場】で【ミズキ】に遇ったんです」

「【ミズキ】と言うと、あの幼馴染の?」

「はい。そしてハンターに憧れていた頃の俺を取り戻すべく、色々奔走してくれまして」

「そうなのか」

「はい。彼女は今や【ハンターズギルド】で仕事をしております。で、指導役の腕の立つハンターも紹介してくれましてね。今では彼に教わっています。言わば【教官】が付いてくれているみたいなもんです」

 

「その人の指導が良いのだろうな」

 師匠はそう言って眩しそうな顔をした。

 愛弟子が立派になった様子が分かったからである。

 

「はい。俺がここまで来れ、そして【ギルド】からの信頼を得て色々な【モンスター】を狩れるようになったのは【教官】の指南のお陰です。ミズキもそうですが、アレクさんにはいくら感謝してもし切れませんよ」

「【アレク】というのか? その人は」

「正確には【アレクトロ】です。彼にはクエスト中何度も命を救われました。だから師匠と同じ、命の恩人でもあります」

 

 ニコッと笑ったクレオを見て、師匠は何かを悟ったようだった。

 

「お前……」

「師匠、失礼ながら偶然【日記】を見付けて読んでしまいました。そこに書かれた真実を見、あの日以来誤解し続けていた事を知りました。どうかそれ故に今まで会わなかった事、そして、それまで貴方を憎み続けてしまっていた事をお許し下さい」

 

 深々と頭を下げるクレオに、師匠は言った。

 

「いいや、謝るのはこちらの方だよ。私はお前を護り切れなかった。そのせいでお前の大切な【ケルビ】を狩ってしまった。そして、女の子の身体に、決して消えない大きな傷跡を残してしまった。それは今でも悔んでいる。もうどちらも取り返しのつかない事だが、許してくれ……」

 

 

 

「――へ!?」

 後で「クレオから連絡が来た」と【ミズキ】に呼び出され、話を聞いていたアルバストゥルは、間抜けな声を出した。

 

「……え?」

「い、いや今『女の子』っつったよな!?」

「言ってませんでしたっけ? クレオ、女の子ですよ」

「なにいぃ~~~!?」

 

 素っ頓狂な声を上げるアルバストゥルに、【ミズキ】は「【クレオ】っていう名前も、生まれ故郷の土地で信仰されている女神様にあやかって付けられたんです。ちょっと言葉遣いは荒いですけど、根はとっても優しい子なんですから、男の子扱いしたらダメですよ!」と言った。

 

 という事で、これからは『彼女』と呼称する事にしよう。

 

 

 それはさておき、話を戻すと、お互いに謝り合って誤解を解いた二人は、目の前の問題に取り組んでいた。

 

 それというのも最近【村】の近くに【古龍】が現れるようになったためで、師匠は引退した身で「今度こそ【村】を護る!」と豪語して、クレオが来るまでその準備に明け暮れていたのだとか。

 引退の理由が【日記】を読んで分かった(つまり【シェンガオレン】襲撃時に重傷を負った事が引退に繋がったのだ)クレオも参加を申し出、クレオから連絡を受けた【ミズキ】に言われて助っ人として来る事となったアレクトロと共に、彼女としては初陣となる【古龍】退治に赴く事となった。

 

 

 




なななんと、クレオは実は女の子だったんですねぇ!

物語を進めていた私も、当時ゲーム中にアルバストゥルと同じ反応になりましたよ。
リアルで「なにいぃっ!?」と叫んでしまいました(笑)

あ、ちなみに今までずっと「彼」表記になっていたのは、アルバストゥルが男だと思い込んでいたためです。
「クレオ視点」なのにこの部分だけ「アルバストゥル」表記になっていますが、この部分だけはアルバストゥルの視点になっているためです。

急に視点(表記)が変わるので違和感というか読者が混乱するかと思ったのですが、ここだけは彼の驚愕ぶりを表したかったのでわざとアルバストゥルの視点を入れました。

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