今日も元気にメゼポルタ広場からお届けします。【完結】   作:沙希斗

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今回から、いよいよクレオが「古龍」討伐に臨みます。


アレク、【教官】になる?(クレオの章)2

 

 

 

 

「よぉ、久しぶりだな!」

 アレクトロは到着すると、いつもの調子でクレオに声を掛けて来た。

 

「お世話になります……」

「貴方が彼……、ゴホンいや彼女の師匠ですか?」

「はい。貴方の事はクレオから聞かされましたよ。相当腕の立つハンターだとか」

「いやいやそれは大袈裟ですぜ。腕なんて立ってません。現にクレオとのクエ中でも、ヘマしてはこいつに呆れられてましたし」

 

 苦笑いして頭を掻いたアレクトロに、師匠は笑った。

 

「でもあんたは俺の【教官】には変わりないよ。命の恩人でもあるしなっ♪」

「お、おう。そりゃありがとな」

 

 若干照れている彼を見て、クレオはくすくす笑った。

 

「さて、いよいよ【古龍】と対面だなクレオ」

「だな! 緊張するぜ……」

「私としても、クレオの腕前が拝見出来るのは嬉しい。貴方の指導でどう仕上がったかが分かるので」

 

「こいつは飲み込みが早く、武器の扱いや弱点の狙い方なんかも少し教えただけですぐに物にする能力があります。だから指導といってもアドバイス程度で楽なんですよ」

 

「そんな事ないよアレクさん。あんたの教え方が上手いからやりやすいだけだ」

「そうかぁ? 俺適当に説明してるだけなんだが……」

「それが的確だという事でしょう」

「そうそう」

「そんなつもりねぇんだがなぁ」

「謙遜すんな! 現に俺がもうすぐ上位に手が届くまでいけてるだろ? それが何よりの証拠じゃんかよ」

「……。まぁ良いや」

 

 切り替えたらしいアレクトロは師匠に向き直り、「今回の【古龍】は【キリン】だそうですね」と言った。

 

「そうなんですよ。ここ最近近くの【古塔】に出没し始めたそうで。『落雷で【村】が焼かれる前になんとかしてくれ』と言う依頼が出まして」

「引退してたんでしょ? そんな身でご苦労様です」

「引退したと言っても、一般人よりは【モンスター】慣れはしておりますのでな。この【村】には他に闘える者もいませんし……」

 

 長話をする暇などないので、とにかく【古塔】に行く事にした。

 

 

「チッ、もう頂上に移動しちまったか……」

 麓から、よく来る《2》まで登って来て一応そこで待機を命じていたアレクトロが、面倒臭そうに呟いている。

 【古塔】は近くで見上げても頂上が常に雲に隠れている程高いので、登るのに時間が掛かるのだ。

 彼としては師匠の体力を慮ったようであるが、相手の気紛れなのでこればかりはどうしようもなかった。

 

 長い螺旋階段を登って行くと、案の定頂上付近に【キリン】はいた。

 しかも狭い入り口から入った途端に目の前にいたもんだから、クレオは尻餅を付く程驚いた。 

 それに気付いて慌てて引き上げた師匠の前に、【キリン】は立ち塞がった。

 

「危ないっ!」

 押し退けて前に出るアレクトロ。

 それと同時に相手が首を反らして嘶いたのが分かった。

 

 ピシャッ!

 

 辺りが光り輝き、前方に雷が落ちた。

「ぐうっ!!」

 呻き声が起こり、アレクトロが跳ね飛ばされた。

「アレクさん!!」

「アレク殿!!」

 悲鳴のような二人の声が重なる。

 

「……く……。宣戦布告っつう奴かよ。上等じゃねぇか……!」

 彼はよろめきながらも立ち上がり、【キリン】を見据えている。

 それに答えるかのように、【キリン】が向かって行った。

 

「へっ! 追撃なんぞ通用しねぇぜ」

 彼は避けるや否や追い掛け、振り向いた角に抜刀攻撃した。

 【大剣】の威力は凄まじいので、それだけで怯む。

 その隙に二人が両脇から攻撃を仕掛けた。

 

 師匠は毒の【片手剣】を使っているようである。

 やはり引退しても有効な装備はちゃんと押さえて来ているようだ。

 

 毒ったのを確認すると、クレオは「眠らせます!」と宣言した。

「了解!」

 後の二人で声を上げ、彼女が眠らせてくれるのを待つ。

 

 が、速い動きに翻弄され、何度か的を外してしまっている。

 それでも睡眠の蓄積は叶ったようで、【キリン】を眠らせる事に成功した。

 

 クレオは角の前に【大樽爆弾G】を置いた。

 相手が小さいのもあって、アレクトロは爆風が届かないギリギリの所で溜めている。

 大爆発と溜め攻撃がほぼ同時に炸裂した。

 悲鳴を上げて吹っ飛んだ後慌てたように起き上がった【キリン】は、全身から稲光を発していた。

 

「怒ったぞ! 気を付け――!?」

 注意を促そうとしたアレクトロは、師匠の背後に迫った【キリン】が頭を低くしたのを見た。

「師匠っ!!」

 声を掛けるも反応が遅れた師匠は、振り向く途中で横から腰を刺された。

 

 【キリン】は角に刺さったままの師匠を一度持ち上げてから、勢い良く頭を振って放り投げた。

 角が抜かれた事により、師匠は血飛沫を上げながら遠くに転がって行った。

 

「師匠ぉお~~~!!!」

 クレオは絶叫しながら彼の元へ駆け寄った。

 だが元から素早い上に怒っている【キリン】が、追撃するように二人に向かって行った。

 

「チイッ!」

 アレクトロが舌打ちしながら間に回り込み、【大剣】をかざした。

 まともにぶつかって来た【キリン】は止まったと同時に嘶き、一瞬遅れて自分の周囲に狭い範囲で雷を落とした。

 

「ぐああぁ~~!!」

 丁度ガードを崩されていたアレクトロが、それに巻き込まれて不運にも麻痺ってしまった。

 

「あぁっ! アレクさんっ!!」

「お……れは良い……。早く、師匠を……」

「で、でも!」

「師匠が先だ……。俺は、なんとかなる……から……」

「分かった! 死なないでね!?」

 

 ぐったりした師匠を抱えてクレオが【モドリ玉】を使ったのを見て、「一対一と行こうじゃねぇか」とアレクトロは立ち上がった。

 

 

 【ベースキャンプ】に帰ったクレオは、テントの中の簡易ベッドに喘いでいる師匠をそっと横たえた。

 

 出血が酷い。まずは血を止めなければならない。

 

 傷穴の治療のために鎧を外し、横倒しにすると、師匠は苦し気に呻いて口から血を溢れさせた。

 という事は内臓まで角が達している可能性が高い。思ったよりもずっと深刻な状態だった。

 

 クレオは慌てて【生命の粉塵】を掛け、続いて布に【回復薬グレート】染み込ませたものを宛がった。

 苦痛に声を上げながら仰け反る師匠を見て泣きそうになったが、泣いている場合ではないので悲痛な表情のまま押さえ続けた。

 出血が治まったのを確認すると、もう一度他の布に【回復薬グレート】を染み込ませ、それを傷穴に貼って包帯でぐるぐる巻きにして鎧を着けてあげた。

 

「……すまん、な……」

 呼吸がいくらか穏やかになった師匠に笑い掛け、【秘薬】を渡して飲ませた。

 

「クレオ……」

「はい」

「すまんが、私はもう少し休みたい……。後で必ず行くから、アレク殿の手助けをしてやりなさい……」

「分かりました。無理せずにゆっくり休んでから来て下さいね?」

 

 クレオは師匠の手を取った。

 

「ありがとう……」

 そしてその手をぎゅっと握ってから、テントを飛び出して駆けて行った。

 

 

 アレクトロの元へ辿り着いたクレオが見たものは、鎧のあちこちを損傷させた彼が闘っている姿。

 彼に何度も言われたように、【古龍】は一頭で天災に匹敵する能力を持っている。

 そんな脅威と一対一で闘っているのだ。無事であるはずがなかった。

 

 だが彼はあえてそれを選んだ。それは恐らく師匠が重傷を負ったという事は関係なしに、引退した師匠と、【古龍】初心者であるクレオの荷の重さを考えての事なのだろう。

 

 つまり彼は初めから、一人ででも闘う気でいたのだ。

 

 クレオは今までの事を思い出していた。

 彼の指導を受け、彼と共に闘っていた時、彼は常に自分を護ろうとしてくれた。

 それは自身が例え死にかけたとしてもそうであった。きっと彼は、自分が初心者だからとか、師匠が引退者だとかいう事は関係ないのだろうと思った。

 誰であろうと護ると決めた者は護り抜く、そういう男なのだろう。

 例え、その身を犠牲にしてまでも。

 

 ふと、彼が鎧の隙間から血を滴らせているのに気が付いた。

 

 怪我をしている!

 クレオはハッとなった。鎧で隠しているが、血の量から見て鎧の下は傷だらけなのかもしれない。

 それとも重傷を負ってしまっているのかもしれない。

 

 助けなければ!

 

 クレオはそう思った。傷を押して闘っている彼を助けなければと。

 

 なのに、彼女は動けなかった。

 

 それは【古龍】としての【キリン】への恐怖で固まっていたからではない。

 激しい攻防戦を繰り広げている、彼らの闘い方の凄まじさ、美しさすら覚える躍動感に見惚れてしまっていたのだ。

 

 と、【キリン】が倒れた。

 

 すでに相当弱っているに違いない。そう思えたが、アレクトロの方も息が上がってしまっている。

 そしてそんな中、彼が溜め姿勢で静止した。

 

 いけないアレクさん!

 クレオは心の中で叫んだ。

 

 そんな状態の体で筋肉の負担が大きい【溜め】などやると、体の力が入る事で傷口が開き、更に出血が酷くなってしまう。

 

「やめ――!」

 丁度その時追い付いた師匠も、「何をやっている!? 早く助け――」と言い掛けた。

 

 【キリン】が立ち上がり始めた。

 アレクトロはまだ溜めたまま動かない。

 

 静まり返った世界の中で、ビチャビチャという彼の血が地面に落ちる音だけが聞こえている。

 やはり出血が酷くなっているのだ。なのに筋肉を緩ませるどころか更に力を込めている。

 

 相手が彼に向き直った。

「ぬあっ!!」

 その瞬間、溜め攻撃が炸裂した。

 

 そして攻撃に移った彼の鎧の隙間から血が吹き上がった。

 声を上げたのは気合だと思われたが、激痛によるものなのかもしれなかった。

 【キリン】は悲鳴と共に跳ね飛び、そのまま動かなくなった。

 アレクトロは溜め攻撃が決まった直後に崩れ落ちた。

 しかしそんな状態になっても、彼は「同士討ち……、いや俺が生きてる分俺の勝ちか……」などと呟いていた。

 

「アレクさんっ!!」

「アレク殿!!」

 二人は弾かれたように倒れたまま苦し気に喘いでいる彼の元へと駆け寄った。

 

「……よぉ、少し……来るのが遅かったな。俺が止め、刺しちまったよ……」

「しっかりっ! 死なないでくれよ!」

「……こんくらいで、死ぬ……かよ……」

 

 笑いかけたアレクトロは、呻いた。

 

「アレク殿っ!!」

 それでも自分で上半身を起こして【秘薬】を飲んだ彼は、「お恥ずかしい所を御見せしました……」と師匠に言った。

 

「いえ、恥ずかしいのはこちらの方です。助けていただいて感謝しております」

「大した事がなくて何よりです。もう大丈夫なんですか?」

「はい。お蔭様で。クレオの治療も的確でしたし」

「ならちゃんと治療出来たんだなクレオ。やるじゃねぇか」

 

 二人に見られて、クレオは心から嬉しそうに笑った。

 

 

「頑張った褒美だクレオ。俺の分も取っとけ」

 三人で剥ぎ取ると、アレクトロは自分の分をクレオに押し付けた。

 

「こんな貴重な物を貰えないよっ」

「バーカ、貴重なもんだからおめぇにやるんだよ。俺はもう持ってるもんだから気にすんな」

「ホントに!?」

「あぁ、遠慮なく受け取って良いぜ」

「わぁ! ありがとうアレクさん♪」

「なら私も……」

 

 そう言い掛けた師匠を遮り、「貴方は持って置いて下さい!」と声を揃える二人。

 ピッタリ息の合った彼らに戸惑いつつ、それでも師匠は嬉しそうに素材を懐に仕舞った。

 

「それで【キリン】の武具が作れるはずだ。特に防具は素晴らしいぜぇ。是非作って着てるとこ見せてくれよクレオ」

 

 ニヤニヤ笑っている彼の考えが分かり、師匠は吹き出した。

 

 後でクレオが武具工房でカタログを見せてもらって、赤面しながら「あのエロ男めえぇ!」と叫んだのは、アレクトロが【ドンドルマ】に帰ってからの話である。

 

 

「俺決めたよ師匠!」

 アレクトロが帰る日、クレオは決意を込めた声を出した。

 

「俺もうしばらくここにいる事にする。だからもう一度一からで良いので教えて下さい!」 

「そうか。ならこれで俺からは卒業だな」

「ううん、違うよアレクさん。あんたにはまだまだ教わる事があるんだ。だからもうしばらく俺の【教官】でいてくれ」

 

「私からもお願いするよアレク殿。私は知っての通り引退した身だ。現役のハンターである貴方に学んだ方が、私が教える事より更に身に着くものがあるだろう。彼女が帰ったら、また教えてくれまいか」

「分かりました。では彼女が帰るまで、貴方に預ける事にします」

「了解しました。では責任を持って御預かり致します」

 

 二人で畏まった事が可笑しくて、三人は顔を見合わせて笑った。 

 

 

 

 




クレオはしばらく「師匠」の元に留まり、色々と修行するようです。
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