今日も元気にメゼポルタ広場からお届けします。【完結】   作:沙希斗

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師匠のために、クレオが……。


アレク、【教官】になる?(クレオの章)4

 

 

 アレクトロが帰った後の事。

 突然、【村】が見た事も無い【古龍】に襲われた。

 【それ】は【キリン】と違って直接【村】にやって来て、家々を破壊して回るようになった。

 

 当然多数の負傷者が出、医務室はさながら野戦病院のようになってしまった。

 師匠とクレオが立ち向かったものの、対策が分からずに翻弄された。

 その【古龍】は【村長】をはじめ、【村】の誰一人として見た事の無い【モンスター】だった。

 

 体色は黒褐色。【ドラゴン型】の【古龍】で光り輝く翼を持ち、そこから鱗粉が撒き散らされたが【テオ・テスカトル】のようにそれを使って爆発を起こすような事はしなかった。

 何より不思議だったのは、まるで磁石で操るかのように、周囲の物体を引き寄せたり放したりして操っているように見えた事。

 

 それだけじゃなくて対峙した人間も操られ――。

 

「ぐはっ!!」

 引き寄せられた師匠は、まるで力を開放するかのように、師匠だけじゃなく共に引き寄せていた瓦礫を周囲に撒き散らされた際、至近距離でそれらをもろに浴びてしまった。

 

【挿絵表示】

 

 その爆発するように飛び散った瓦礫、すなわち石壁が崩れたもの、木造家屋が破壊されたものなどが弾丸のように師匠に襲い掛かり、彼の体中に刺さったり貫通したりした。

 

「ぐわあぁ~~~!!!」

 吹っ飛ばされて仰向け状態で地面に叩き付けられた師匠は、そのあまりの痛みにのた打ち回った。

 

「師匠! 師匠っ!!」

 偶然にもその攻撃を免れていたクレオが駆け寄ったが、見るも無残な状態になっている彼を見て、言葉を失ってしまう。

 

「……ガフッ! ……げろ……っ!」

 師匠は血を吐き、ビクビクと大きく体を痙攣させながら、必至に声を絞り出した。

 

「……逃げろ、クレオ……。お、お前は……。お前はガフッ! ……生きな、さい……」

「いいえ! 貴方も死なせませんっ!!」

 

 意識を失って呼吸困難に陥っている彼を抱え、クレオは隙を見てその場から脱出。攻撃を掻い潜り、どうにか医務室まで辿り着いた。

 

 

「……これは……!」

 だが医療係は、彼のあまりに酷い状態に絶句している。

 

「お願いです! 助けて下さい!!」

「……。やるだけやってはみますが……、ここまで酷いと、あるいは……」

「俺は諦めませんっ! 助けるためならばどんな事もします! だから、だから助けて下さいっ!!」

「分かりました……」

 

 泣き叫ぶ彼女に、医療係は言った。

 

「【いにしえの秘薬】の調合が追い付かず、素材が不足しているのです。【ケルビの角】を取って来てもらえますか?」

「…………」

 それを聞いて躊躇した彼女だったが、すぐに決意した顔に変わり、「分かりました!」と飛び出した。

 

 彼女は決心したのだ。

 師匠を助けるためならば、トラウマを克服する! と。

 

 幸いな事に、なぜか【古龍】は飛び去って行った。

 一時的な事なのだろうが、それならばまた襲撃して来るまでの時間がある。それがどのくらいなのかは分からないが、とりあえずその間だけは襲われる心配が無くなった事に安堵した。

 

 瓦礫を乗り越えつつ【村】の外へ駆け出し、【樹海】へ。

 

 幸いにもそんなに奥まった所にいなかった【ケルビ】の群れを見付け、悲痛な顔で【弓】を構える。

 それでも矢を放つ瞬間にギュッと目を閉じてしまったが、そうしたのは一頭目だけで、後は泣きそうな顔になりながらも次々に射殺していった。

 剥げるだけの【ケルビの角】をかき集め、そのまま踵を返して【村】へ。

 息を切らせて医務室に着くと、師匠はまだなんとか息をしていた。

 

 間に合った……!

 

 クレオは医療係に【ケルビの角】を渡すと力が抜け、ぜぇぜぇと肩で息をしながらその場に座り込んだ。

 だが、それでも「自分で調合します!」と師匠の分の【いにしえの秘薬】を調合し、師匠に施した。

 どうにか彼の命を繋ぎ留められたのを確認すると、医療係に感謝しながら彼の手を握り続けた。

 

 

 彼の息が穏やかになったのを見届けた頃、【それ】は再びやって来た。

 

「行って来ます……!」

 まだ意識の戻らない師匠に声を掛け、クレオはまたもや無謀な闘いに身を投じた。

 まともに動ける者が彼女しかいなかったからである。

 

【挿絵表示】

 

 案の定翻弄されたものの、幸いにも重傷を負う前に相手が去ってくれた。

 

 状況が落ち着いたようなので【ミズキ】に連絡すると、少ない情報の中でアレクトロが「それは【ルコディオラ】である」と答えを導き出してくれたらしく、その対策方法もミズキを通じて知らせてくれた。

 今回は都合があって助っ人に行けないとの事だったのだが、対策が分かったのと彼が詳しく闘い方などを知らせてくれていたため、次に来た時には自分一人でなんとか討伐成功出来た。

 

【挿絵表示】

 

 それを連絡すると、ミズキは「すごい! クレオすごい!」と大はしゃぎしていたそうな。

 それから自分が師匠を助けたい一心で【ケルビ】を狩り、トラウマを克服したのを知って泣いていたとの事。

 

 

 

 師匠が全回復した頃、クレオは一旦【ドンドルマ】に帰る事にした。

 最後の挑戦として【シェンガオレン】に挑むため、準備万端整えたかったし、それは【街】で進めた方が良いと思ったからである。

 師匠も「もう教える事は何も無い。後は現役ハンターであるアレク殿に教わりなさい」と言ってくれ、気持ち良く送り出してくれた。

 

 

 【街】に着くと、出迎えてくれたアレクトロはこう言った。

 

「なんだよ、【キリンシリーズ】着てねぇじゃねぇかよ」

 

「あんなもん着れるかっ! このエロ【教官】!!」

 思い切り肘鉄を食らわしたが意に介さず、「わははは! 元気そうだな」と返された。

 

 一般人なら肋骨を折りかねない勢いだったにもかかわらず、である。

 やはり彼の筋肉は伊達ではないと思った。

 

 久しぶりの逢瀬と立派になった自分に感激した【ミズキ】に挨拶し、少し体を休めたクレオは、早速準備に取り掛かった。

 自分が納得出来るまで装備やアイテム類を整え、いよいよ出発という頃、助言していたアレクトロがこんな事を言った。

 

「そりゃそうとよ、俺この前【ミズキ】に『食材屋さんのお仕事を手伝って、食材を集めていただけないでしょうか?』なんて言われてよ、【ホワイトレバー】を四個集めさせられちまったよ」

「なんでまた?」

「なんでもよ、おめぇのために最後の手伝いとして、【弁当】を作って送り出したいんだとよ」

 

「【弁当】ねぇ……」

 彼女は複雑な表情を浮かべた。

 なぜなら【ミズキ】の料理を食べるとろくな事にならないのを知っているからである。

 

 

 出発前、見送りに来た【ミズキ】が「お弁当も無事に完成しましたよ」と、ドヤ顔でバスケットを取り出した。

「【スパイスワーム】と【パワーラード】をたっぷり使用した《ミズキスペシャル》です!」

 

「オイ、俺が苦労して【ケルビ】狩って集めた【ホワイトレバー】はどこ行ったよ?」

 突っ込むアレクトロを無視してクレオに渡す。

 彼女は微妙な顔で受け取った。

 

 街門を出て行く竜車を見送りながら、【ミズキ】はこう呟いた。

「ちょっと微妙な顔をしていましたけど、んー、なんでかなー?」

 

 ちなみにこの組み合わせ(料理名オッタマケーキ)で起きる食事効果は〈体力−50、スタミナ+25〉である。

 狩場に向かうまでの道中で食べたクレオは案の定腹を壊し、「ミズキめえぇ!!」と恨み節を言いながら倒れ込んだ。

 

 

 

 




「ルコディオラ」が磁力を操ると、何故か浮いた岩が常に体の周囲を回転するようになってしまうのですが、これが厄介で当たるとダメージと共に弾き飛ばされてしまう事から、「岩が本体なんじゃね?w」などと吹聴するハンターもいる程です。

この「古龍」のお陰でクレオはついにトラウマを克服する事が出来たようです。

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