今日も元気にメゼポルタ広場からお届けします。【完結】 作:沙希斗
「《破滅の章》《破壊の章》が終りましたから、残るは、《束縛の章》と《復活の章》です」
「うんうん」
「この《クレア叙情詩》全体に、どんなメッセージが込められているのか? わたしはいつもそんなことを考えながら物語を楽しんでいました。わたしなりに、こう解釈すればいいのかな? っていう考えはあるんですけど、アレクさんも考えてみてくださいね」
「なんで俺が……」
「あんたもちょっとは興味持ちなさいって事よ」
「あそ」
「【破滅の帝エスティン】や【破壊の将ディストル】活躍した時代から百数十年……」
【ミズキ】はアルバストゥルの反応などどうでも良いとでも言うように話し始めた。
「彼らの興した国は大きく発展しましたが、【モンスター】を根絶すべきという政策だけは、変わることがありませんでした――」
この時代の王は、【レストリ】と言う。
【エスティン】の血と意思を受け継ぎ、彼もまた、【モンスター】を憎んだ。
【モンスター】の根絶を目指し、狩猟に狩猟を重ねた【レストリ】だったが……。
しかしこの頃になると、【モンスター】を神格化する組織が現れ、【レストリ】とは大きく衝突していた。
そして組織は【レストリ】を束縛した。
やがて彼は【束縛の王】と呼ばれるようになる。
《クレア叙情詩》第三の章の幕開けである。
物語は紆余曲折を得て、十数年後、【レストリ】の捕らえられた建物を強大な【古龍】が襲撃する。
その混乱の中【レストリ】は、なんとたった一人で【古龍】に立ち向かって行った。
そこには、積年の恨みも嘆きも無く、ただ【モンスター】に立ち向かえる喜びだけが彼を突き動かしたという。
「【モンスター】の正体については、ほとんど触れられていないのですが、【C.P.T.】は、【ルコディオラ】の姿で表現することにしたそうですよ」
【ミズキ】はもったいぶったように「それでは皆さんの出番です!」と言った。
「《クレア叙情詩・束縛の章》の再現のため、【ルコディオラ】一頭の討伐をお願いします」
「はいっ!」
二人が張り切っているのを尻目に、アルバストゥルはサッサとその依頼を受けた。
今回は目撃報告のあった【砂漠】が狩場である。
「奴と対峙する前に、言って置きたい事がある」
一行が【ベースキャンプ】に到着すると、アルバストゥルは改まったように劇団員達に言った。
「奴は【古龍】。つまり天災と称される【モンスター】だ。一筋縄では行かねぇし、今まで以上に苦戦するだろう」
一同はごくりと唾を飲み込んだ。
「特に奴は不思議な能力を持ち、物体を引き寄せたり放したりして自由に操れる。まるで磁石みてぇにな。そして、それは俺達人間にも影響される」
そこで彼は言葉を切り、「つまりだ」と話し始めた。
「ハンターだけでなく、見学しているあんたらも、あるいは引き寄せられるような事になるかもしれねぇ」
騒めき始める劇団員達。
「極力奴の能力が及ばない範囲で闘うつもりではいるが、万が一の時は各自で対処してくれ」
「どど、どうすれば……」
一人がおずおずと訊ねた。
「そうだな。もし万が一引き寄せられたら、なるべく離れるように頑張ってくれ」
生きた心地がしないというような様子になってしまった劇団員達に、安心させるようにハナは言った。
「大丈夫ですよ、そんな事にならないように立ち回りますから」
「そうそう。万が一の時はアレクがなんとかしてくれますから」
「おいカイ、俺ばっか頼ってねぇでてめぇも何とかしろよなぁ」
「え、だってオレガード出来ないし」
「出来なくても体張りゃ護れんだろうが!」
「アレク一人だったら何とかなるけど、この人数は無理だって」
「アレク! まさかうちの人を犠牲にするつもりじゃないでしょうね!?」
「まだ『うちの人』呼ばわりするとこまでいってねぇだろが! 血相変えんな」
「カイが犠牲になるぐらいなら、私が犠牲になるわっ!」
「そんなのオレが許さないからなっ!」
「だ~うるせぇ! てめぇら纏めてブレスの前放り投げんぞこのバカップル!」
急に始まった賑やかなやり取りを、劇団員達は呆れて見ていた。
三人がうんと離れて戦ってくれたお陰で、劇団員達は引き寄せられるような事にならずに済んだ。
その代わりに【双眼鏡】で見なければならなくなったので、迫力に欠けるのは致し方なかった。
だが見ていると周りの物体と共に引き寄せられて吹っ飛んだり、往復するブレスに巻き込まれたりしていたので、あの能力に影響されなくて本当に良かったと心から思えたのであった。
三人はかなり苦戦していたようだったが、引き寄せられる事を利用して攻撃力を上げたカウンターを叩き込むような逆利用する様子も見られたりして、見ていて感心した事もあった。
離された時は攻撃しにくいようだったが、離脱する事に利用したりしていたように見えた。
アルバストゥル本人も、遠くで闘う事で劇団員達の守護を気にする事がほぼ無くなったのもあって、自由に闘えて今回は楽だった。
手強い【古龍種】に集中出来たので、【エスピナス亜種】の時のように死ぬ思いをしなくて済んだのは大きかった。
帰ると【ミズキ】は素材を渡しつつ、「あの【ルコディオラ】の討伐さえも、あっさり達成されるとは……」と驚いていた。
思ったよりもずっと早く帰って来たのにビックリしたらしい。
「でも、伝説に謳われる【レストリ】は、さらに人間離れした芸当を見せつけます」
「どんなだっけ?」
「【古龍】と刺し違えて倒れた彼の手足には、囚われていた時の枷が、そのまま残されていたというのです」
「うひゃ~~……」
カイが想像して汗笑いになっている。
「手足の自由を奪われ、裸同然の状態で、ろくな武器も無しに【古龍】を討ち破る……。物語の中とはいえ、なんとも壮烈ですね」
「裸同然だったのか……」
「しかもろくな武器も無しだって。いくらアレクでもこれは無理だろうねぇ」
「【リオレウス】なら上位でも裸で倒した事あるが、相手が【古龍】じゃなぁ」
「あんたそんな変態みたいな事やったの!?」
「変態呼ばわりすんな!」
「相変わらず化け物染みてるなぁ」
「まあな」
「いやドヤ顔するとこじゃないのよ!?」
「あれだ、オッサンなら出来るんじゃねぇの?」
「裸同然で縛られてんのよ!? しかもほぼ武器無しよ?」
「枷に鎖付きの鉄球とか繋がってたんじゃねぇのかな、それなら分からんでもねぇぞ。俺は無理だが」
「まあ、確かにあの人ならあるいは……」
「カイ、実際にさせようとか思わないでね!?」
「思うかっ!!」
【ミズキ】は咳払いすると、次のような話をした。
「【レストリ】が倒れたことで、彼の国に大きな変化が訪れました。まるで彼の死を察知したかのように、【モンスター】の活動が活発化し、人々を苦しめ始めたのです。【モンスター】の根絶を願った【エスティン】と、その子孫、【レストリ】。彼らの行動は賛否両論でしたが、常に一族と国家の繁栄を願ってのことだったのだと、人々は気付かされます」
そこまで言うと彼女は少し辛そうな顔をして、「愛する人を守るために……」と言った。
「愛する人との子、そのまた子を守るために、【モンスター】を根絶したい。その思いは、正しいのでしょうか? それとも……」
アルバストゥルは、なんだか考えさせられた。
だが、それでも彼は【モンスター】を、根絶させたいとか憎むべき存在だとは考えなかった。
なぜならそれはあくまでも、『人間側から見ただけの』思想だからだ。
生物好きであり、『自然界のバランスブレイカー』としての役割も担っているハンターである彼は、例えそれが結果として【人間】を滅ぼすような事に最終的になったとしても、『人間側だけ』で見て判断するのは間違っていると思った。
もしも、もしもレインが【モンスター】に殺されたとしても、そしてその時にどんなに【モンスター】を憎んだとしても、根絶などするべきではないんだ。
そんな事を考えていると、切り替えたらしい【ミズキ】が言った。
「物語はいよいよ最終章、あの【復活の妃リナーシタ】が登場する、《クレア叙情詩・復活の章》へと突入です!」
「おぉ、いよいよだね!」
二人はなんだかワクワクしているようだ。
「皆さん、【C.P.T.】の座長さんから、メッセージが届いていますよ」
「おぉ! そりゃ凄い」
「『お陰で、リアリティのある討伐シーンを演出できそうだ。とても感謝している。今回の公演には、引退した先々代の座長がはるばる見物しに来ると聞いている。気を引き締めて、最高の劇を演じたい』……だそうです」
「報酬素材の提供者も来るのかぁ」
「どんな人なんだろね?」
「先々代っつうぐれぇだから、きっともうジジイだろうな」
「先々代の座長さんというのは、【C.P.T.】の創設者だそうですから、カッコ悪いところは見せられませんね~」
「劇団員の人達、プレッシャー掛かりまくりだろうねぇ」
「それでは、四つある章の最後、《復活の章》へと参りましょう!」
「お~~っ!」
三人が声を揃えて拳を突き上げるのを、アルバストゥルは若干引いて見ていた。
「ルコディオラを双眼鏡で観察している」という事なので、挿絵も「双眼鏡」を使って撮影しています。
なので「カイ(パートナー)」だけが闘っているようになってしまいました(笑)
アルバストゥルが「裸で上位リオレウスを倒した」と言うセリフがありますが、実際に私が裸大剣で挑戦して成し遂げたものなので事実です。
「ドス」でも「フロンティア」でも成功しましたが、どちらも何度も死にまくって時間ギリギリで討伐出来ましたので、自慢にもなりません(^^;)