今日も元気にメゼポルタ広場からお届けします。【完結】   作:沙希斗

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「シリーズクエスト(ベテラン)」で配信されていた「クレア叙情詩」の続き、「創生の章」です。

そして、これで「クレア叙情詩」の話は終わりになります。


《クレア叙情詩(創生の章)》

   

 

 

 

 分からないまま示された狩場である【樹海】に行ってみる。

 そこにいたのは【アビオルグ】という【獣竜種】だったのだが……。

 

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「二頭いるのかよ!?」

「うわ、これ無理じゃん!」

「こんなのどうやって闘うのよぉ!」

 

 まさか二頭クエだとは思わなかった。

 

「取り敢えず分断させんぞ!」

 二頭共に【ペイントボール】を投げて置く。

 一旦隣のエリアに避難して様子を見ていたが、移動した先でも二頭は合流してしまうようだった。

 

 それでも辛抱強く待っていると、離れてくれた様子。

 

「おし、俺が一頭を担当すっから二人はもう一頭を担当してくれ」

「えぇっ!?」

「そうしねぇと合流しちまうだろが! 二頭を同時に相手にするよりゃマシだろぉ?」

「分かったよ……」

「なんとか頑張って持ち堪えてくれ。言っとくが俺も一人でやんのきついんだからな? あいつら結構手強いんだから」

 

 そうやって分かれて闘ってはみたものの、アルバストゥルが戦闘不能と見なされて猫車でキャンプ贈りにされたのを機に再び合流するようになってしまい、これは無理だとなって、一旦【リタイア】した。

 

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「しゃあねぇ、オッサンに頼むか」

 

 そこでベナトールに助っ人を頼み、一頭を倒し次第参戦するという事で、一対三に分かれて戦闘開始。

 

「二対二でやるより一頭をなるべく多い人数で集中的に叩いた方が早く済む」

 

 ベナトールにそう言われたからこういう構成になったわけなのだが、苦戦してしまって一人で闘っていたベナトールの方が早く済み、逆に彼が参戦して来る事になってしまった。

 

 

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 取り敢えずクリアは出来たので、ベナトールに礼を言って別れて【ミズキ】に報告すると……。

 

「【アビオルグ】二頭の狩猟、これが答えだったんですね……」

「おめぇ、分かっててわざと言わなかっただろ!」

 

 てへっと笑った彼女は、悪びれもせずに続きを話し始めた。

 

「あの二頭がどんな関係だったのかを知るすべはありませんが……。でも、気付かせてくれました。仲間や肉親との絆は、人間だけのものじゃないんだなって。【人間】も【モンスター】も、この大自然の一部。人間だけが特別だと考えるのは、傲慢だったのかもしれません……」

「ふん、……まぁそう考える奴が出て来ただけでもこの依頼に参加した意味があったかな」

「アレクは始めからそういう考え持ってるもんね」

「そういえば、【破滅の帝エスティン】や【復活の妃リナーシタ】が用いた【大剣】も、【モンスター】の素材によって作られています。【モンスター】の根絶でもなく、神格化でもなく、人と【モンスター】の共存! それこそが、わたしたちにとって、最善の生き方なのかもしれません」

 

 そこまで言うと【ミズキ】は、「《クレア叙情詩》の第五章、《創生の章》について、【C.P.T.】の先々代の座長さんから、詳しいお話を聞いてきました。最後に、それをお聞かせします」と言った。

 

 《クレア叙情詩》の真の最終章、【創生の姫クレア】の物語は、こうであった。

 

 

 【束縛の王レストリ】は獄中で力尽き、【復活の妃リナーシタ】は、幾度となく【モンスター】に挑み続けたが、その娘である【クレア】は、二頭の【獣竜種】と出会った日を境に、両親とは別の考えを持つようになった。

 

 その二頭は、親子なのか兄弟なのか、はたまた夫婦なのか一切分からなかったが……。

 しかし、【クレア】は感じ取ったのだ。人間と同じ、仲間の絆というものを。

 そして悟った。人も【モンスター】も、大自然の中に生きる同じ仲間なのだと。

 

 【人】と【モンスター】の共存!

 それは大いなる発見……。いやその時代の常識を覆す、新たな価値観の創生だった。

 

 彼女の創生はその後も続き、【破滅の帝エスティン】から脈々と続いた因縁は、ついに断ち切られた。

 いや、【エスティン】が恋人を失う前の、最初の姿に戻ったと言うべきだろう。

 

 人々の価値観も少しずつ移り行き、ついには、人と【モンスター】が共存する平和な国へと変わったという。

 

 

 そこまで話すと【ミズキ】は、「皆さん、最後にもう一つだけお仕事をお願いしていいですか?」と言った。

 

「【創生の姫クレア】が使ったという【大剣】を、もう少しで再現できそうなんです」

「しゃあねぇな、こうなったらとことん最後まで付き合ってやんぜ」

「アレクは【大剣】が絡むと態度変わるな」

「うるせぇよ」

「【大剣】マニアだもんねぇ」

「別に【大剣】だけ集めてる訳じゃねぇし。ただ【大剣】が一番使い勝手が良いから用途に応じて色々作りてぇだけだっつの」

「あっそ」

「そのために、ある【モンスター】の狩猟が必要なのですが……」

 

 そう言った彼女は、次の瞬間「ああ~、この【モンスター】を知っているのに、なぜ、『モンスター同士の絆』という考えに至らなかったんだろう……」と悔しそうに言い、それから切り替えたようにこう言った。

 

「それでは、最後の依頼です。【ゴゴモア】一頭の狩猟をお願いします」

「最後は【ゴゴモア】か」

「おっけ~~」

 

 

 【ゴゴモア】は下位でも上位でも体力の低い【モンスター】である。

 まあそれでも上位ともなれば攻撃力が高くなるので、(二人が嫌がったのもあって)下位で受けた。

 

 アルバストゥルがカウンターで遊んでいる間に(真面目に攻撃していた二人のお陰もあって)すぐに死んでくれたので、サッサと報告に行く。

 

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「お疲れ様でした!」

 元気良く迎えてくれた【ミズキ】は、「先々代の座長さんが提供してくださった、【流転の妖骨】をお受け取りください!」とアルバストゥルに渡して来た。

 

 これも大きな骨で、なんだか不思議な形をしていた。

 

 早速【武具工房】に行って強化を頼んでみると、親方が言った。

「こいつぁ、特殊な工程を経るから【親方印】を付けてやるよ」

 

 【親方印】とは特殊な工程で武器を強化したという親方自慢の印の事で、それが付いた武器は総じて抜刀、納刀が通常より速くなるという特徴がある。

 武器の性能(攻撃力や切れ味、会心率など)は変わらない場合が多いが、元々の動作がどうしても遅くなる重い武器では重宝される。

 

 ただし速くなるのは抜刀、納刀の時のみなので、強いて強化する必要も無かったり、HC強化やG級強化など、通常の速度の動作になるが更に攻撃力、切れ味ゲージなど武器性能自体が強化出来る方向もあるため、あえて【親方印】にしない者も多い。

 

 アルバストゥルはせっかくなので強化を頼み、【創生姫クレア】を冠した【大剣】になった。

(ついでに言うと強化した事で今まで無かった武器スロットが二つ開いた)

 

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 担いで行くと「変わんないじゃん」などと言われて苦笑いした。

 

「さて、《クレア叙情詩・創生の章》、最後はこう締め括られているそうです」

 

 

 新たな価値観を創生した【クレア】の名は、瞬く間に近辺諸国に知れ渡る事となった。

 人々は彼女の名【クレア】を借り、新たな価値観を創生する事、それ自体をこう呼ぶようになった。

 

 【クリエイション】と。

 

 それは、遠い遠い昔。人々の生活も、文化も、現代とはまったく異なる時代の事。

 しかし、ほんの少しだけ、現代へと受け継がれるものが現れ始めた時代の話だった――。 

 

 

 話し終えた【ミズキ】は、「う~ん、良いお話だったんですね」と感慨深げに言った。

 

「四つの章しか知らないと、ちょっと暗いお話にも思えましたけど、ようやく物語の全貌が見えました」

「まぁ、俺は最後の章はこんな終わり方になるだろうと薄々分かってたけどな」

「アレクやるね! 物書きになれるんじゃないの?」

「たまたま展開が読めただけで物書きなんかになれるかよ」

 

 そんな事を話していたら、【ミズキ】が「ああ、そうそう。それから【C.P.T.】の公演ですが」と言った。

 

「先々代の座長さんのお陰で、大盛況で終わることができたそうですよ」

「えぇ~~!? もう終わっちゃったのぉ!? 見たかったのにぃ」

「オレも見たかったのに、残念だなぁ」

 

どうやら最後の章の再現のためのクエストをこなしている間に日にちが経ってしまい、公演が終ってしまったらしいのだ。

 

「なんか俺ら、こき使われただけみてぇだな」

 拗ねる二人に、アルバストゥルはニヤニヤ笑った。

 

「誰も知らなかった《クレア叙情詩》の《幻の章》をご存知だったり、伝説の【大剣】を再現するための素材を提供してくださったあの方は、一体、何者なのでしょうか?」

「そう言われると、少なくともただのジジイじゃなさそうだよな」

「うん。なんか怪しい人みたいに思えるよね」

「そういやさ、【ティガレックス】のクエ受ける時にね、依頼書にこんな事が書かれてあったんだよね」

「どんな?」

「えっとね、確かこんなんだった」

 

 

 『~流浪の旅人より~

 

 俺は、大量のモンスターの襲撃を受けて故郷を失い、そのモンスターを追う旅人だ。

 仇敵の一頭である獰猛な【ティガレックス】を追っていたら、このような場所まで来てしまった。

 これでヤツを討つことができるなら、苦難の旅を続けた甲斐があったというものだ。

 

 しかし、俺も歳だ。

 ヤツと対峙できる体力も気力もない。

 

 そこで、この地のハンターに討伐を依頼したい。

 討伐後にヤツから見たことない骨が入手できたなら、武具工房の親方に頼んで削ってもらい、【大剣】として使ってほしい』

 

 

「先々代の座長さんって、【ハンター】だったのかな?」

「いや依頼文を見る限りは専門職という感じじゃなさそうだぜ。復讐に燃える一般人なんじゃねぇの」

「『見たことない骨』っていうのが【怨嗟の大骨】だよね? たぶん。その【ティガ】に奪われたのかな?」

「ふむ……。だが、現代の座長から提供された所を見ると、奪い返す事には成功したのかもな」

「なんか変な話ねぇ」

 

「そういえば、【C.P.T.】の創設者であるそうですから、わたし、訪ねてみたんですよ。『C.P.T.って何の略ですか?』って」

「うんうんそれで?」

「『クリエイティブ・プリンセス・シアター(創生姫劇場)――』それだけを告げて、立ち去られました」

「ふぅん……」

「そういう略だったんだねぇ」

 

 【ミズキ】は「まあ、あの方が何者かなんて、どうでもいいことですけどね!」と切り替えた。

 

「ここまで長々とお付き合いくださって、本当にありがとうございました」

 

 深々と頭を下げた【ミズキ】は、「【創生の姫クレア】の名を冠したあの【大剣】は、癖が強いものの、特定の状況下で素晴らしい能力を発揮するはずです。ぜひ、ご活用くださいね」と言った。

 

「それでは、お疲れ様でした!」

 全ての依頼が終了した旨を告げた彼女は、いつもの爽やかな笑顔で三人を見送ったのであった。   

 

 

 

 




今回の話でちょい役ですが「ベナトール」が出て来たので、読んだ当時に友人が「四人揃った♪」と喜んでおりました(笑)


「絶滅帝エスティン」及び「創生姫クレア」の攻撃力がやたらと高いのは攻撃力の上がるスキルを付けている訳では無く、「秘伝書育成」というSRの能力を強化するシステムがあるからです。

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