今日も元気にメゼポルタ広場からお届けします。【完結】 作:沙希斗
「この【大剣】の作製を、お願いしたい」
「ガッテンだ。おぅお前ら!」
「了解っス!!」
声を揃える弟子達を見て満足気に微笑む【親方】。
【武具工房】でのいつもの光景である。
街中ともなると炉も大規模で、なので中は【クーラードリンク】がいるのではないだろうかと思う程暑い。
毎回ここに入る度に、工房の連中はよくこんな中で連日作業しててバテねぇなとアルバストゥルは思っていた。
「……。こいつぁ――!」
作業を見守っていた【親方】が怪訝な顔で言い淀んだので何事かと思ったら、弟子達も急に騒めき始めた。
「おい、何かあっ――!?」
「ぎにゃあぁっ!!!」
不審に思って近くにいた【雑用アイルー】に声を掛けようとした途端、【彼】は全身の毛を逆立てて工房から飛び出して行ってしまった。
それどころか弟子達も怯えたように下がったり逃げ出したりしている。
その中心には、完成したばかりの【大剣】があった。
「【親方】、これはどういう――?」
「……。まぁ、手に取ってみな」
気味悪そうに顎をしゃくる彼に促されて作業場の中に入れてもらい、恐る恐る手に取る。
見た所、何の変哲も無いただの【大剣】だったのだが――。
『……。貴方が、私の
「どえぇっ!?」
そんな声が聞こえて来てキョロキョロと辺りを見回していたアルバストゥルは、それが【大剣】が発したものだと分かって取り落としそうになった。
「おお【親方】、これはいったいどういう――」
「俺も分からん。こんなのは初めてだぜ……!」
「さ、作業の工程は変わってねんだよな?」
「あぁ。素材もおめぇさんが持って来てくれた物以外は使ってねぇ」
「な、ならこれは――」
『私に何か、不満ですか?』
「いいいやそういう事では……」
『では、これからよろしくお願いします』
「お、おう……」
とにかく、担いで帰る事にした。
家の中に入ると、レインが不審な顔でこう言った。
「あなたの背中から、女の人の声のようなものが聞こえるんだけど……」
「あぁその事なんだがよ。【こいつ】が――」
『はじめまして』
「ぎにゃあぁ! シャベッタアァ!!!」
「おいフィリップ、落ち着け!」
パニックになったフィリップ(召使アイルー)と、気味悪そうな顔をしているレインに説明する。
「……。そう、なんだ」
「まあ。そういう事なんだわ」
『はい。そう言う事ですのでこれからよろしくお願いします』
「ぎにゃっ!?」
「おめぇはいちいち反応しなくてよろしい」
「だだだって、だって【大剣】が……」
フィリップは毛を逆立てて下がりながら震えている。
『おかしいですか?』
「おかしいわっ! 今まで無かったわこんな事!」
『そうなんですか?』
「いや普通は喋らんもんだぜ!? むしろ何故おめぇは喋れる?」
『……。さあ?』
「いやさあじゃねぇよ」
二人が怯えるのと自分自身も気味が悪かったアルバストゥルは、「なるべく話し掛けんなよ」と武具倉庫に立て掛けた。
『分かりました。では御用があれば御呼び下さい』
【大剣】が素直に聞き入れてそれきり黙ってくれたので、取り敢えずホッとした。
翌朝、その【大剣】を装備して依頼が無いかと【受付カウンター】まで歩いていたアルバストゥルは、途中でベナトールに声を掛けられた。
「おはよう、オッサ――」
挨拶をしようとしたらその途中で無言のまま、いきなり肩を掴まれて乱暴に背中を向けさせられた。
突然の事だったので抵抗しようと身じろいだが、原因が分かっているのですぐに成すが儘になる。
『御主人、この人怖いです』
鋭い眼で上から見下ろしているベナトールを見て、【大剣】がそう呟いた。
「……。どういう仕組みなのだ?」
『自分でも分かりません。気が付いたら物凄く熱い所にいて、私は――』
「お前には聞いていない」
ベナトールは鋭い眼を崩さないままそう言った。
それは、まるで喉元に冷たい刃を押し当てたかのような雰囲気があった。
「オッサン、【こいつ】は――」
「どういう仕組みなのだと聞いている」
ベナトールは【大剣】に目をやりつつもアルバストゥルの方にそう尋ねた。
彼の持つ威圧的なオーラに慣れているはずのアルバストゥルでさえ、怖気付くような雰囲気になっている。
恐らく他の者では、例え仲間であっても今の彼を見れば凍り付くだろう。
「お、俺も分かんねんだよ。ただ【武具工房】で作製を頼んで、完成した途端に工房の連中が騒ぎだして。で、【親方】に促されて手に取ったら急に喋り始めて――」
「他に、変わった事は?」
「ねぇよ。【親方】にも聞いたが工程や素材も今まで通りだったらしいし」
「……。そうか」
『何か、問題でも?』
【大剣】にそう聞かれても無言のまま鋭い眼で見続けていたベナトールは、しばしの後いつもの雰囲気に戻して目を逸らせた。
傍から見た者は興味を無くしたのだと思ったかもしれない。
だが、アルバストゥルはそう見せているだけで、実は気に入らないのだという事を見抜いていた。
まだ強化先があるという事を知ったアルバストゥルは、【剛種】【覇種】などやその【特異個体】の素材が必要だと分かって一人で狩り切れない時はベナトールに頼んだ。
狩り中にも喋り続ける【大剣】にアルバストゥルは辟易しつつも使っていたが、ベナトールがもう我慢ならないというような雰囲気になっているのに気付いていたため、申し訳ないと思いつつもせっかくなので最後まで強化しようと使い続けていた。
ところがようやく素材が揃って強化を頼んだら、そこで悲劇が訪れた。
なんと強化の過程で耐え切れなかった【大剣】が、砕けて使い物にならなくなったというのである。
『御主人に、申し訳ありませんとお伝え下さい……』
最期にそう言ったと親方は教えてくれた。
実際に見た夢は「大剣を作ったら喋り始めてビビッた」という部分だけだったんですが、そこから発展させてこんな話になりました。
夢の話なので「夢落ち」にするつもりだったんですが、書いている内にそうならなくなったので、こんな終わり方にしました。
実際に(ゲーム内で)作れる「大剣」でもこんなものはありませんので、完全に(夢の中で見た)私のオリジナルになりました。