今日も元気にメゼポルタ広場からお届けします。【完結】   作:沙希斗

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動画投稿サイトにですね、アニメなどの色々なキャラが3Dになって踊るものがあるんですよ。
「MM(ミクミク)ダンス」というらしいんですが、その中に「カンタレラ」という歌に合わせて踊っているものがありまして、「カッコいいな」とか思いながら色んなキャラが躍っているのを見てたんですよ。

その内「そもそもカンタレラとはなんぞや?」となりまして、調べたらどうも近世イタリアで実際に存在した貴族が使っていたとされる毒薬だと分かったんですよ。
で、その貴族に関するエピソードを情報サイトで見ている内に、「これは小説になんじゃね?」と思うようになりまして、書いてみたのがこの話です。

なので、出て来る貴族の名前と「カンタレラ」の由来などは、情報サイトで調べたものです。

話自体はずっと前に書いたものですが、投稿にあたって個人的に気になっていた説明だけで済ませていた内容の部分を、起こった出来事として書き直していましたので、少し投稿が遅れてしまいました。


原文が長いため、いくつかに分けて投稿します。


カンタレラ(1)

 

 

 

 我は求める。

 あの雪のように白く、快い程に甘美な粉薬を……。

 

 

 その日アルバストゥルは、珍しく狩猟ではなく採取専用クエストを受け、【シルトン丘陵】で【薬草】を採っていた。

 

 【ドンドルマギルド】が初心者用の狩場として提供しているフィールドは、なぜか【薬草】がまったく採れないという特徴がある。

 【ミナガルデギルド】が提供している狩場では【薬草】と【アオキノコ】を調合する事で【回復薬】を作る事が【ミナガルデ】及びその周辺の市町村にいるハンターの常識となっており、【ココット村】出身のアルバストゥルも、【村】でハンターとなった時からその常識を刷り込まれていた。

 

 ところが【ドンドルマ】に活動拠点を移し、そこで生活するようになると、その調合で【回復薬】及び【ハチミツ】を足す事で作れる【回復薬グレート】を作る常識が、【薬草】が採れない事で一切通用しなくなった。

 

 聞くと、こちらでの【回復薬】は、【アオキノコ】と【太陽草】を調合する事が常識なのだという。

 

 はじめはかなり戸惑った彼だったが、今では当たり前のように出来るようになった。

 だが、やはり彼の中では【薬草】と【アオキノコ】で調合した方がしっくりくるので、こうしてたまに【薬草】を採りに、わざわざ遠出してまで【森丘】に出掛けているのだった。

 

 

 〈採取+2〉と〈高速剥ぎ取り&採取〉のスキルのお陰で効率的かつ速やかに採取していた彼は、ふと首筋にチクッとした痛みを感じた。

 

「いてっ!?」

 

 その場所に手を持って行くと、何か棘のようなものが刺さっていた。

 抜いてしげしげと眺めてみると、細長い牙だと分かる。

 

 この牙を見間違えるハンターはいない。

 

 【砂漠】に行けるようになったハンターが集団攻撃されて嫌と言う程状態異常を身に染みさせられる、あのえげつない【モンスター】が持っている牙。

 

「【ゲネポス】の、麻痺き――」

 アルバストゥルは言い終る前に、身体の自由を奪われてその場に崩れた。

 

 誰かが近付いて来る足音がする。

 

 足音は彼のすぐ近くで止まると、爪先を使ってごろりと彼を仰向けにした。

 それによって相手が見えたが、装備を見る限りは知らないハンターだった。

 相手は顔の前でしゃがみ込み、まだ痺れたままのアルバストゥルの口に掌サイズの布を押し当てた。

 採取目的で軽装備で来ており、兜も被っていなかった彼は成すがままにそれを受け入れてしまい、もがく間も無く急激な睡魔に襲われた。

 

 見覚えの無い兜を見詰めた格好のまま、彼はくたりと全身の力を抜いた。

 

 

 

 それから数日後、ベナトールは【ギルドマスター】に呼び出された。

 

 なんでも「アレクトロがクエスト終了時間が過ぎても帰って来ないので探して来い」と言う。

 ギルド登録のハンターが定められたクエスト時間を過ぎても帰って来ないという事はまずありえないので、何かあったのではという訳だ。

 しかも彼は狩猟クエストではなく、採取専用クエストで行方不明になったという。

 

 アルバストゥルは上位どころかSRハンターである。一般的な上位よりも上のランクである彼が、大型のものは【下位モンスター】すら出ないとされる、採取専用クエストで行方不明になる事自体がおかしいのだ。【変種】もしくは【HCモンスター(特異個体)】にやられる彼でもないために、未確認【モンスター】にやられた可能性もある。

 そこで【ギルドナイト】であり、尚且つ彼との絆が深いベナトールに話が回って来たのだった。

 

 話によると、アルバストゥルは【シルトン丘陵】で採取していたという。

 という事は【森丘】で何かあったという事になる。

 

 

 同じ採取クエストを受けて彼が来たと思われる同じ場所に向かったベナトールだったが、やはり見た感じでは何ら変わらない【シルトン丘陵】の風景が広がっているだけだった。

 が、【薬草】の生えている場所をよくよく調べていた彼は、ほんの小さな手掛かりを見付けた。

 草の隙間に、僅かに血の付いた【ゲネポスの麻痺牙】が一本転がっていたからである。

 

 【森丘】には【ランポス】はいても【ゲネポス】は生息していない。

 つまりは、【モンスター】ではなく【人間】の仕業である可能性が高まった。

 

「【麻痺弾】……。いや、吹き矢か……?」

 

 ベナトールは独り言ちた。【麻痺弾】にしては牙が加工されていず、あまりにもそのまますぎる。ハンターが使う武器種には【吹き矢】という武器は無いが、狩りに使うのでなければ考え付く事は容易だろう。

 

 手で持って直接刺した可能性も無くは無いが、アルバストゥルは勘の鋭い奴である。相手がいくら気配を殺す事が得意なハンターだったとしても、わざわざ近付いて至近距離から【ゲネポスの麻痺牙】を突き立てるような者に気付かないはずがない。従って、至近距離ではなく遠くから狙われたと考えた方が正しい。

 

 麻痺させて誘拐したというのか?

 だとすれば誰が、何のために?

 

 以前彼を殺すために呼び出す目的で、レインが誘拐された事があった。

 その誘拐犯はベナトール自身が代わりに出向いて【ギルドナイト】の権限の元で皆殺しにしたのだが、今回も同じ考えを持つ者の仕業だろうか? 

 だが直接彼を殺す事が目的ならば、わざわざ誘拐するような手の込んだ事はしないだろう。それどころか殺傷能力の高い弾もしくは矢で狙撃して、とっくに殺しているに違いない。

 

「まだ、希望はあるという事か……」

 

 ベナトールは声に出した。誘拐されているならば、まだ生きている可能性が高い。

 問題は、相手の出方と目的だ。

 

 これは、もしかしたら長丁場になるかもしれんな。

 

 そう思ったベナトールは、一刻も早く探して助け出してやらねばと、心に誓ったのだった。

 

 

 

 話は誘拐されたその日に遡る。

 

 ふと目を開けたアルバストゥルは、自分が見慣れない部屋にいる事に気が付いた。

 目線の位置的に立っているようなので、周りを見回しつつ歩き出そうとしたのだが、ガシャンという音と共にその場に引き戻された。

 そこで初めて、両手足に枷が掛けられて石壁に磔にされているのを理解した。

 

「あらもう目が覚めたのねぇ。やっぱりすぐに磔にしておいて正解だったわね」

 

 声が聞こえてそちらに向くと、貴族と思われる女がいた。

 見た目から言うと、まだ成人前のように見える。

 

「どこだ、ここは?」

「どこだっていいでしょう。問題は、お前の置かれている状況ではなくて?」

「……。縛りプレイでもする気か? 貴族ってのは随分と気色悪い趣味を持ってるもんなんだな」

「えらく余裕なのねぇ。逃げ出せる希望も無い状態だというのに」

「殺してぇならサッサと殺しやがれ。ただ、ハンターらしくフィールドで死ねねぇのが心残りだがな」

「そう死に急かなくてもまだ殺す気は無くてよ」

 

 そう言うと貴族は、優美な笑みを浮かべながらゆっくりと近付いて来、アルバストゥルの体を触り始めた。

 

「立派な筋肉だこと。一般人には到底及ばない鍛え方をしているのでしょうねぇ」

 

 抵抗するにも体を捻る事すら出来ないアルバストゥルは、見目麗しい乙女に触られても嬉しいどころか背筋を怖気(おぞけ)立てさせながら成すがままにされるしかない。

 

「この筋肉がやせ細ってしまう様を想像するのは悲しいから、そうなるまでに話してもらいたいものだわ」

「な、何を――!?」

 

 気色悪さに硬直していたアルバストゥルは、相手が僅かに目を逸らせて合図したのを見た。

 

 するといつの間にか傍らに控えていた者が、貴族に【ブレスワイン】の入ったワイングラスを手渡した。

 受け取った相手はそれを口に含むと、いきなりアルバストゥルの頬を両手で挟みつつ口付けして来た。

 

「ぐっ!?」

 キスが目的ではない事はすぐに分かった。

 直後に口の中に【ブレスワイン】が流れ込んで来たからである。

 

 もがいたがガッチリ固定され、頭が動かない。ワインを吐き出そうとしたが、どんどん流れ込んで来て息が詰まり、とうとう飲み込んでしまった。

 

「うふふ、良い子ね……」

 相手は不気味な含み笑いをしながら離れた。

 たちまち視界が歪み、意識が朦朧となる。

 

「ルクレツィア、上手く行ったか?」

 その時、別の声が近付いて来た。

 

「お兄さまぁ♪」

 女は今までの、言葉の一つ一つに【氷結晶】を押し当てるが如き響きを甘えたようなものに変え、近付いて来た声に「えぇ、準備は良くってよ」と言った。

 

「――では、『歌って』もらおうか」

 

 勝ち誇ったように言った青年と思われるその声を、アルバストゥルは絶対命令を下されたかのように聞いていた。

 

 

 

 




少々短い(三千字超え)ですが、キリが良いので今回はここまで。

ちなみに「薬草」の採取出来る狩場は限られていますが、店には売られているので「ドンドルマギルド」でもいつでも昔(ミナガルデ式)の調合はする事が出来ます。

「ゲネポスの麻痺牙」は、「まひが」ではなくて「まひきば」と読むのだそうです。
同じように「イーオスの毒牙」も「どくが」ではなく「どくきば」なのだそう。
私はずっと「まひが」「どくが」と読んでおりました(笑)

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