今日も元気にメゼポルタ広場からお届けします。【完結】   作:沙希斗

183 / 262
「フロンティア世界」の「モンスター環境」は殊の外厳しいらしく、通常種よりも強い個体が次々に誕生しています。
「ハンターズギルド」はそれを区別し、それぞれに「変種」「剛種」「特異個体」「覇種」「G級」「辿異種」などのカテゴリーに入れて依存モンスターと分け、それぞれのランクに応じた狩猟許可を出しています。

今回はその中に入れられている手強い「モンスター」の話です。


剛族の姫君

   

 

 

 

 【塔】の頂上で待ち受けていた【古龍種】に、アルバストゥルは声を掛けた。

 

「よぉ、お姫さん」

 

 相手は『受けて立ってあげる』とでも言うように吠え、体の周りに火の粉を撒き散らせた。

 

 

 

 事の起こりはこんな依頼からだった。

 

 【塔】の近辺にある【村】の民が、「夜になると必ず【塔】の一部が燃えた様に紅く光り、特に頂上付近でその光が強くなる」と言って来たのだ。

 

 調査を依頼された近辺のハンターが【古龍種】らしい【モンスター】を見たとギルドに報告して来たのだが、かなり手強く、とてもじゃないが手に負えないと命からがら帰って来たのだという。

 彼らは上位ハンターだったため、ではSRの者ならばと募集され、SRであるアルバストゥルがそれに乗って受けたのだった。

 

 だが相手は警戒心がかなり強い【古龍種】だったようで、PTで行くと出て来なかった。

 青味がかった【古龍種】だという事だったため、【ナナ・テスカトリ】なのではないかという事になり、ナナなら一人でしか相手をしてくれないとなって、SRハンターそれぞれが期間交代でソロ狩りで行く事になった。

 

 

 【ナナ】なら頂上までの途中のエリアにもいる事があるので、【塔】に到着したら登る最中でも気が抜けない。

 

 【リオレウス亜種】などが来る事があるエリアもあるのだが、やはり【古龍種】が出没したとなると太刀打ち出来ないと考えるのか、例え縄張りを構えていても明け渡すようだ。棲んでいる気配が無い。

 

 恐れを為して【塔】に多く生息する【ギアノス】も逃げ出しているようだが、やはり【古龍】を呼ぶとされる【ガブラス】は、普段よりも数を増しているようである。

 その場所を通過中に上空から毒を吐かれて辟易したりしながら登っていたが、途中には【彼女】はいないようだった。

 となれば、残るは頂上のみ。

 

「でけぇな……!」

 

 頂上に繋がる入り口から気配を殺しながら入ったアルバストゥルは、遠くの空を見ているようにエリアの端で佇んでいる後ろ姿を見付け、そう呟いた。

 キングサイズ、いや標準的な【ナナ・テスカトリ】のサイズの二倍はありそうな勢いだ。

 ただ体色自体はそんなに変わらないように見えた。

 

 そろそろと近付いて行くも気付かれたので、冒頭で述べたセリフを吐く。

 

【挿絵表示】

 

 吠えた相手は威厳に満ち、堂々としていた。

 

 武器を構える間も無くいきなり突進して来るのを避ける。

 擦れ違い様に【龍炎】を受けて炙られたが、そんな事で怯む彼ではない。

 

 相手はすぐに切り返し、再び突進して来る。【テスカト科】の突進には予備動作が無いという特徴があり、攻撃で通常怯む所をそのまま突進に繋いで来る事もあるためかなり危険である。

 

 突進後の振り向き動作に合わせて頭に抜刀攻撃してみたり、ブレスの最中に溜めて吐き終わりに最大溜めを叩き込んだりしていた彼だったが、何しろデカいので前足で叩く動作一つ取っても大回りに避ける必要があったりして、普段のサイズと闘う時よりも大袈裟な立ち回りを強いられた。

 

「随分育ったもんだなおめぇも」

 

 軽口を叩きながらも苦戦していたアルバストゥルだったが、【テスカト科】とは何度も闘っているのでどうにか対処は出来ていた。

 

 が、【彼女】が怒りに移った時、彼は度肝を抜いた。

 全ての動作がやたらと速くなったからである。

 

 大型【モンスター】は総じて怒ると素早くなり、攻撃力も増すものなのだが、【彼女】はそれらの比ではなかった。倍どころか三倍増しになったかと思える程の速さなのだ。

 これ程速いと突進終りには攻撃出来ない。振り向き動作が速過ぎて、切り返しに巻き込まれるからだ。

 

 手数は減ってしまうが、突進を止めてくれるまで避け続けるしかないようだ。

 

 様子見しながら突進ではなく威嚇している時とか、ブレス中とか、粉塵爆発の隙に攻撃を加えていく。

 

【挿絵表示】

 

 が、ブレスも息を吸ったと思ったら次の瞬間吐き出されていたり、粉塵爆発も火の粉が撒かれたと思ったら一瞬遅れで着火されたりして一瞬たりとも気が抜けず、神経がすり減っていく。 

 

 当然食らうと通常よりダメージが大きく、また回復する隙もあまりない。【龍炎】の勢いも増しているようで、【彼女】が近付く度に火傷の範囲も増えていく。

 

 【龍炎】は〈地形ダメージ減(大)〉で火傷の影響を最小限に抑える事が出来るのだが、便利ではあるもののそんな特殊な環境下や【モンスター】に対してだけ発動するスキルよりも汎用性の高いスキルを付けた方があらゆる面で対応しやすいし、特に攻撃型のハンターはそんな特殊なスキルよりもむしろ〈攻撃力(大)〉〈見切り+3〉〈切れ味+1〉などの自身を強化するスキルを優先するため、どちらにしてもスキルポイントが足りなくなる。

 

 アルバストゥルも例外ではなく、攻撃型ハンターなら最低必要と言われる程のその三大スキルと〈高級耳栓〉〈龍風圧無効〉などのアタッカー向けのスキルを付けているので【龍炎】で火傷をするのは覚悟の上だった。

 

「こいつ、もしかして通常種じゃねぇんじゃねぇのか?」

 

 通常サイズより大きいのも、もしかしたらそれまでに狩られる事無く成長し、【モンスター】もしくは【古龍種】同士の、あるいはハンターとの戦闘にも敗れる事無く君臨し続けた、通常よりも強い個体として生き延びたもの。

 

 つまり【剛種】なのではないか?

 

 そう推測したアルバストゥルは、「なるほど、強ぇ訳だぜ」と勝手に納得した。

 【剛種】ならば上位ハンターが太刀打ち出来なかったというのも納得出来るからだ。この種に割り振られた【モンスター】は、HR百以上、つまり【凄腕】ランクのハンターでないとクエスト受注の許可が出ないからである。

 

「こりゃ苦戦するな……」

 

 アルバストゥルは死闘になる覚悟を決めた。下手をすれば死ぬかもしれない。

 が、口元は笑っていた。

 強敵と闘えるのが嬉しかったからだ。

 

「光栄の意を示すぜ、姫さんよぉっ!」

 

 叫んだ彼は【彼女】の角目掛けて思い切り切り下した。

 雄の【テオ・テスカトル】と違い、王冠のような奇妙な形に発達した角が欠け、悲鳴を上げて横倒しになる。

 

 立ち上がろうともがいている隙に溜め、起き上がったと同時に溜め攻撃。

 忌々し気に唸りながら掻い込む様に叩き込まれる前脚を寸での所で掻い潜り、あるいは【天ノ型】のガード斬りで合わせながらカウンターで切り返す。

 

 通常より速く着火される粉塵爆発の、範囲を読んで近くで爆発するものをガード斬りで攻撃に転ずる。

 なるべく縦の攻撃を優先し、翼を狙って【翼爪】を斬り飛ばす。

 

 その間も攻撃を受け続け、跳ね飛ばされ、起き上がりに追撃されたりして血を吐く程のダメージを負ったりしたが、それでも彼は怯まなかった。

 

【挿絵表示】

 

「ぐおぉっ!」

 激痛の呻きを気合の声に変え、霞む目に尻尾を捉えて斬る。

 

 ……まだ斬れねぇか……。

 

 【テスカト科】の尻尾は体力が低下していないと斬れないという特徴がある。仕組みはよく分からないが、恐らく弱った内臓の保護を優先して末端の細胞が脆くなるためだと思われる。

 

 

 隙を見て回復しつつ、あるいは【砥石】を使って切れ味を保ちつつ、彼は攻撃を当て続けた。

 予め手強いと聞いていたので【回復薬グレート】の調合分も持って来ていたのだが、それも底を突きかけている。

 

 クリア、出来ねぇかもな。

 そう思い始めた時、ついに尻尾が斬れた。

 

【挿絵表示】

 

「そろそろくたばっちまいな姫さん!」

 

 その事実が彼に力を与え、折れかけた心を奮い立たせて挑む。

 だが弱った【彼女】は常時怒り状態に入るようで、三倍速及び攻撃力を増した状態に翻弄されてしまう。

 

「ぐあぁっ!」

 

 掻い込む前脚に捉えられて胴を切り裂かれ、再び重傷を負った彼の周囲に粉塵が撒かれ――。

 

「させるかあぁ!!!」

 

 絶叫した彼は歯がカチ合わせられて火花が散る前に、吹き上がる血をものともせずに牙に【大剣】を叩き込んだ。

 砕かれた牙で【大剣】をくわえ込んだ形になった【彼女】は、ぎろりと彼を睨んだ。

 

「がはっ!」

 

 アルバストゥルは血を吐きつつも、それを見返して不敵に笑った。

 

 兜の隙間から見えたその目に唸った【彼女】は、くわえた【大剣】ごと彼を放り投げようと首を振った。

 が、その動作に移る直前にそれを察したアルバストゥルが、くわえられた【大剣】を強引に押し込み、顎を切り裂いた。

 彼が膝を付くのと下顎の一部が落ちるのは、同時だった。

 

「ぐぅおっ!」

 

 体勢を崩しつつも、更に彼は切り返し、横から首を切り裂いた。上手い具合に頸動脈に当たったようで、大量の血が迸る。

 そのまま石畳に崩れた彼を、立ったまま見下ろす【彼女】。

 

「……。止めを、刺せよ……。もう、抗う力は、残って……ねぇよ……」

 喘ぎながら見上げ、彼は言った。

 

 【彼女】は答えるように吠え、飲み込もうと口を開けながら顔を近付けていった。

 が、彼に牙が掛る寸前で力を抜き、そのまま脇に倒れて動かなくなった。

 

【挿絵表示】

 

 ……なんとか、勝てたか……。

 

 ギリギリで生き延びられた事に内心ホッとしながら、倒れたまま【回復薬グレート】を飲んだら気管に入ってむせ、そっちの方で死ぬ思いをした彼であった。  

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

 




今現在同じクエストを受けようとすると「剛ナナ」のいる頂上手前のエリアからスタートするようですが、「彼女」が実装された当初は麓からちんたら登らなければなりませんでした。
ので、その途中で「ガブラス」と遭遇して毒を吐き掛けられる、という事もあったんです。

三倍速になった「彼女(通称ターボナナ)」は本当に速く、突進した後視点切り替えが間に合わずに後ろから追撃されて死ぬ、という事も珍しくない程です。
今では攻撃力、体力共にやや抑えられているようですが、「最盛期の彼女(剛種)」は「剣士の防具で600以上の防御力があっても一撃食らって耐えられるかどうか」と言われておりました。

いやマジで猫パンチ一つで即死コースでした。

そんな「彼女」が倒せなくて、「剛ナナ手伝ってください」「剛ナナ募集」などと(「その場チャット」や「ワールドチャット」などで)叫んでいる駆け出しの「凄腕」を見掛けては、当時は「気持ちはよく分かるけどソロ専用だから助けられないんだよ」と思ったものでした。

今ではそんな駆け出しでも、苦戦はするでしょうがどうにか倒せるまでにはなったようです。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。