今日も元気にメゼポルタ広場からお届けします。【完結】   作:沙希斗

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動画投稿サイトには、「ボーカロイド」と呼ばれている歌を歌わせるソフトを使った歌が投稿されている事があります。
その中の「サンドリヨン」という歌の歌詞を基にして思い付いたのがこの話です。

この歌はある童話がモチーフになっているので「王子」が出て来るんですが、うちのキャラで「王子」に相応しいのは「カイ」しかおりませんでしたので、「もしも(パラレルワールド)シリーズ」として書く事にしました。


少し長め(五千字超え)です。


サンドリヨン(もしもシリーズ)

 

 

 

 午前零時を告げる鐘が、全てを奪っていく。

 

 

 【西シュレイド王国】の城では、今日も華やかな仮面舞踏会が繰り広げられていた。

 なんでも王子の花嫁候補を選ぶための催しとの事だったのだが、そんなものはハンターの世界では縁遠い、まったく関係のない出来事のはずだった。

 

「殿下、こちらへ」

 

 煌びやかな衣裳部屋に圧倒され、口をあんぐりと開けたまま周りを見回しているカイに、従者が大鏡の前に促す。

 

「え? あ、はい……」

 戸惑いつつその場所に案内され、王子の衣装を身に着けさせられる。

 

「もっと威厳よく、堂々として下さいませ」

「そそ、そんな事言われましても……」

 注意されたものの、急にそんな事が出来る訳が無い。

 

 といっても、予め王子としての知識や仕来り、所作などは学んでいたので、傍目で見れば違和感は無いだろう。

 

「――では、よろしく頼むぞ、殿()()

 

 準備が整ったカイは深呼吸してから仮面を着け、威厳のある声に促されて長い廊下を渡り、舞踏会場に進み出た。

 その声は彼の後ろ姿を見送りながら、心の中で「上手く行ってくれよ」と祈った。

 

 

 カイが姿を現すと、途端に歓声と黄色い声が上がった。

 

 始め段上の椅子に座って物憂げに大勢のダンスを眺めていたカイだったが、やがてゆっくりとした足取りで階段を下り、それに気付いた者達が、会釈をしつつ道を開けていった。

 

「……。踊って頂けませんか?」

 ある娘の前まで進み出ると、カイは微笑みながらそう声を掛けて優雅な仕草で手を出した。

 

「えぇ、喜んで……」

 最初戸惑っていた様子の彼女は、嬉しそうに微笑んで膝を折る仕草をしつつその手を取った。

 

 周囲で静まっていた者、取り分け娘達は、羨まし気な声を上げて踊っている二人を見ている。

 だがある程度踊り終えるとカイはその娘と別れ、次の娘に声を掛けた。

 

 そんな風に次々に踊りに誘いつつ、花嫁候補を見極めるのがこの催しの目的だったからだ。

 

 踊りの相手に誘われた者は嬉しさのあまり泣き出したり、気の早い者は別れた後で「私が王子様の結婚相手に相応しいから誘われたのだわ」などと自慢したりしている。

 

 そんな中に、ガラスの靴を履いている娘がいた。

 

 カイはその娘にも声を掛け、踊りに誘った。

 彼女は頬を真っ赤に染めてぽーっとしていたが、意を決したように彼に手をおずおずと差し出した。

 カイは嬉しそうに笑ってその手を取り、ダンスの輪の中心に進んで踊り始めた。

 

 彼女のドレスはそれ程豪奢なものではなかったのだが、白を基調にしてクリスタルをあしらった、柔らかい印象のシルエットをしていた。

 そしてそれが躍る度にふわりふわりと舞う様は、二人の優美さに良く似合っていて見ている者が皆見惚れて溜息を付いてしまう程だった。

 

 だがカイは気付いていた。

 その娘が、まるで香水の残り香のように微かに硝煙の香りを纏わせている事に。

 

 

 時間が流れ、午前零時の鐘が鳴り始める。

 すると、彼女はハッとしたような顔になり、狼狽しながら慌てて外への階段を駆け下り始めた。

 

「待ってくれ!」

 声を掛けたカイだが伸ばした手を振り払うようにして出て行ってしまった。

 

 

 

 そんな日が続いた三日目の事。

 その日は、花嫁候補を決める最終日になっていた。

 

 初日から気になっていたカイは、ダンスが始まる度に彼女を探すようになっていた。

 彼女は嬉しい事に毎日来てくれていたので、他の娘よりも彼女との踊りを優先するようになった。

 

「あれは、どこの娘なの?」

 どうやら王子が気に入っているらしいと気付き始めた他の娘達は、嫉妬心を抱きつつ羨まし気に見るようになっていた。

 

 

 最終日のその日も、彼女は午前零時の鐘が鳴り始めると弾かれたようにして外への階段を駆け下り始めた。

 

「待ってくれ! 帰らないでくれ!」

 カイは叫びながら追い掛けたが、足が速く、追い付けない。

 

 と、彼女が階段から足を踏み外しそうになり、片方のガラスの靴が脱げた。

 

 一瞬立ち止まったかに見えたが、それに構わずに結局走り去ってしまう。

 それでもあまりに慌てたのか、とうとう転んでしまった。

 転んだ拍子にドレスが裂けた。立ち上がろうとして膝を付いた彼女はそのまま膝で裂け目を大きくし、立ち上がりつつ残ったものも手で引き千切って短くして更に駆け出した。

 

「待ってくれ!」

 追い付いたカイがその手を掴む。

 振り払おうとするのを逆に引き寄せ――。

 

 刹那、銃声が響いた。

 

 

「……どう……して……?」

 銃口をカイに向けた状態のまま、彼女は狼狽の声を上げている。

 狙いを定めたままの銃口はしかし、小刻みに震えている。

 

「……。分かって、いたよ」

 仮面ごと撃ち抜かれたはずのカイは、仮面の端を破壊された状態で静かにそう言った。

 

 こめかみから血が流れている。

 

 

 銃声を聞き付けて駆け付けた近衛兵及び警備兵、舞踏会の参加者は、銃口を王子に向けた娘が【サーベル】で貫かれているのを見て悲鳴を上げた。

 

「……お慕い……申し上げており……まし、た……。王子……さま……」

 娘は喘ぎ、涙を流しながら引き金に掛けた指に再び力を入れようとしたが叶わず、力無くカイにもたれ掛かっていった。

 

「許してくれ……」

 カイは囁くように言うと、【サーベル】を抉りながら抜いた。

 

 その場に崩れた娘の返り血を浴びながら、カイは冷たい目で彼女を見下ろした。

 

 

 

 後日、カイは【ギルドマスター】と共に再び【西シュレイド王国】の城へ赴いた。

 

「ようやった! 褒美を取らせる故何なりと言うてみよ」

 国王陛下の見下ろす段下で跪いていた二人は、「では……」と【ギルドマスター】の方が口を開いた。

 

「今後の、更なる【ハンターズギルド】の発展のために、狩場の拡張と御支援を」

「それだけで良いのか? それはいつもの事であろうが? 身代わりとして王子の命を救ってくれた礼としては、いささか軽過ぎやせんか?」

「いいえ、それだけで充分でございます。これなる【ギルドナイト】の働きを認めた上で黙認して頂けただけで、もう報酬を頂いたようなものですので」

 

 【ギルドマスター】はカイを示しながらそう言った。

 

「左様か……。欲の無い者らなのだな【ハンター】という者は」

「いえいえ、ハンターにも色々ございましてな、中には欲深い輩も存在しますのじゃ。ただあまりにも欲深過ぎて密猟などを働く不届き者は、あの娘のように粛清の対象になりますがな」

 

「……。そのための、【ギルトナイツ】か」

 

「左様でございます」

「恐ろしいものだな……」

「【ハンター】というものは、ただ【モンスター】を狩る事を生業にしているだけではございません。生態系のバランスを守る任務も兼ねております故」  

「それで、密猟などの生態系を崩す愚行を犯す者を厳しく取り締まっていると? 粛清してまでか?」

「仰る通りでございます。つまり、自然界を守るためにはそれ程厳しく、徹底的に厳守させねばならないのです。一度崩れた生態系は、中々元に戻らなかったり極端に数を減らした【モンスター】が絶滅したりしてしまいますのでな」  

「成程なぁ……」

 

「陛下は【旧シュレイド王国】の事はよく御存知であらせられるはず。あの悲劇をまた繰り返さないためにも、【ハンターズギルド】及び【ギルトナイツ】は必要なのです」

 

「よう分かった。カイとやら、これからも励むが良い」

「ははぁっ!」 

「有難きお言葉、恐悦至極にございます!」

 

 二人は平伏した。

 

 

 

 

 事の発端はこうであった。

 

 以前花嫁探しの仮面舞踏会を開いた時の話である。

 今回のようにガラスの靴を履き、足蹴く舞踏会に通う娘がいた。

 彼女も今回の時のように、午前零時の鐘が鳴り始めるのを合図に、慌てた様に走り去って行った。

 彼女を気に入っていた王子は引き止めようとしたが、「この鐘が鳴り終わるまでに帰らなければなりません」と、何故か頑としてそれ以上残ろうとはしなかった。

 

 そして最終日に、今回と同じように悲劇が起こった。

 無理にでも引き留めようとした王子が、その娘に刺されたのだ。

 

 娘は倒れた王子に追い打ちをかけるかのように、更に銃を取り出した。

 幸いにも近衛兵が庇った事で王子には当たらなかったが、その近衛兵が犠牲になってしまった。

 王子は胸を刺されており、かなり危険な状態だったが、不幸中の幸いというのかギリギリで心臓を外されていたためにどうにか命を繋ぐ事が出来た。

 

 娘は捕まり、拷問に掛けられた。

 その時に彼女は自白したのである。「私は【サンドリヨン】だ」と。

 

 そしてこうも言った。「午前零時を過ぎると魔法が解ける」と。

 しかし核心を得る前に、何者かの手助けによって彼女は脱獄してしまった。

 だが、彼女が言った僅かな手掛かり【サンドリヨン】が、孤児(みなしご)を集めては暗殺者に仕立てる組織名だと分かったのだ。

 そして「午前零時で魔法が解ける」とは、『午前零時までに暗殺を実行しないと失敗扱いになる』という意味であると分かった。

 

 

 王子が暗殺対象になっているらしいと知った国王陛下は、王子の身代わりになる者を募集した。

 

 ただ身代わりになるだけではなく、返り討ちにして欲しいという依頼だったため、自分の身を犠牲にする覚悟のある者だけではなく、尚且つ腕の立つ者を選ぶ必要があった。

 そして、王子と容姿が似通っている者という条件もあったため、人選が限られた。

 

 始め傭兵の中で選ぼうという話が出たのだが、【ハンター】の存在を知っていた大臣の一人が「この世で一番戦闘能力のある者は【ハンター】に置いて他には無い」と主張した。

 

 そこで【ハンターズギルド】に話が回って来、王子の身代わりで尚且つ返り討ちに出来る者はという事で、【ギルドナイト】を派遣する事になったのだ。

 

 だが【西シュレイド王国】に一番近いギルドである【ミナガルデギルド】には、王子に似た容姿の者はいなかった。

 次に【ドンドルマギルド】に話が回って来た時、【ギルドマスター】は言ったのだ。

 

「それならカイが相応しい」と。

 

 選ばれたカイは早速【王子】になり切るための訓練を施された。

 自分にはまったく関係の無い世界での仕来りや所作などを身に着けなければならなかった彼は苦労したが、傍目にはどうにか違和感が無い程には仕上がった。

 ただし関係者から見れば口を出したくて仕方がないのを黙認せざるを得ない、という程度にしかならなかったのだが。

 

 

 仮面舞踏会が開かれる日、王子の身代わりになって城内に入ったカイは、冒頭で述べたように王子の衣装を身に着け、王子としてふるまった。

 そして娘を変えて踊りに誘っている中で、【サンドリヨン】が紛れ込んでいるのを見付けたのである。

 

 踊っている最中に隙を見て殺そうと始めは思ったが、大勢の前で殺してしまうと騒ぎが大きくなってしまう。そうすると自分が偽物であり、尚且つ【ギルドナイト】であるという事もバレてしまうだろう。

 それに、まだ相手が手を出していない内に殺せば、もし【サンドリヨン】でない場合に(有り得ない話ではあるが)硝煙の香りを纏うただの貴族を殺してしまう事になる。

 

 やはり処刑するのは【サンドリヨン】として相手が王子を殺そうとする時。返り討ちにするしか手は無い。

 

 

 ダンスが始まる度に彼女を探し、チャンスを稼ごうと自ら積極的に踊りに誘っていたカイは、娘の態度でどうも彼女は王子に恋をしているのではないかと思い始めた。

 ただ殺す任務を受けているのなら、初日に、しかも午前零時の鐘が鳴る前に殺す事も出来るはず。

 なのに彼女は彼が王子としてダンスに誘う度に恥じらい、心からの喜びを表すように踊っていた。

 そして午前零時の鐘が鳴り始めると、悲痛な顔をしながら走り去るのだ。

 

 殺す事を躊躇っているのか?

 それで、前回も最終日の任務失敗ギリギリで殺そうとしたのか?

 

 ならば、今回もそうなる可能性がある。

 そしてそれを誘うために、カイは無理矢理引き留めようとしたのだった。

 

 彼女がもしあのまま逃げ切れたならば、もしかしたらお互いに殺し合う事も無かったのかもしれない。

 だが、二人共失敗が許されない任務を帯びていた。

 

 だからカイは無理にでも引き留めたのだ。『彼女に自分を殺させる』ために。

 

 ドレスを裂いてまで走り去ろうとする彼女の手を掴んだ瞬間、彼女が銃を取り出したのが見えた。

 【サンドリヨン】としての本性を現したと確定したカイはその刹那、引き寄せつつ【サーベル】を抜き放った。

 彼女がカイの額に狙いを定めるより速く、彼は彼女の心臓を突き通した。

 狙いが逸れた弾丸はカイの仮面の端を破壊しつつ抜け、こめかみを掠った。

 

 

 最期に「お慕い申し上げておりました」と告げた彼女は、本当に仮面の下の者が王子ではない事を知らずに死んだのだろうか?

 

 それとも――。

 

 

 

 

 

 

 




話を読むと分かると思いますが、「サンドリヨン」は「シンデレラ」の別名です。
歌の内容が暗殺者を思わせるような感じだったため、こんな話になりました。
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