今日も元気にメゼポルタ広場からお届けします。【完結】   作:沙希斗

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「血を吸うモンスター」といえば今までは幼体に限られていたんですが、「フロンティア」では成体で吸血行動をするものが確認されるようになりました。
今の所見付かっているのはその一種だけなのと、そのあまりにもの従来のものとかけ離れた姿から、発見されて間もない頃は「宇宙から来たのでは!?」という噂が飛び交ったものです。

冒頭の部分は、そんな頃に撮影されたと思われるムービー(MHF-G公式紹介動画)を基に書いております。


原文が長いので分けて投稿します。


バンパイアハンター?(1)

 

 

 

 夜の【沼地】はいつも、得体の知れない魔物でも潜んでいそうな不気味な雰囲気が漂っている。

 だから特に駆け出しハンターは行きたがらない。それも洞窟ともなると、余計に気味悪がるものである。

 だがそんな中でも肝試しと称して己の度胸を試す輩はいるものだ。

 

 

「おい、じ、冗談じゃねぇぞ……」

 

 彼は鍾乳石の裏に隠れつつ、少し離れた場所で繰り広げられている出来事を【双眼鏡】で覗きながら、我が目を疑っていた。

 今までに見た事の無い不気味な【モンスター】が、蠢いていたからである。

 

 【それ】は間違いなく大型【モンスター】ではあるのだが、【フルフル】のような洞窟に適した外見を持っていながら【飛竜種】とは明らかに違う姿をしていた。

 【それ】は、今までに見て来たどの【モンスター】にも似ていなかった。

 ぬめぬめとした質感の長い体は白っぽく、紫色の横縞の入った蛇のように見えなくもない。が、くねらせながら歩くその体には四肢があり、背中の所々には短い魚の背ビレのような部位が生えている。

 そいつが背中をこちらに向けてゆっくりと歩いていた。

 

 と、首をもたげて振り回し、何かを狩ったように見えた。

 

 好奇心を押さえられずに匍匐前進で少し近付き、そいつが何を喰うのか見てみようと再び【双眼鏡】を覗いた彼の目に飛び込んで来たものは、まだ生きている【イーオス】と、その体に刺し込まれている長い舌。

 その状況から察するに、どうも血を吸っているようなのだ。

 そこで先程述べたようなセリフを呟いた彼は、舌を引っ込めたそいつが振り向いたのを【双眼鏡】ごしにアップで見た。

 

「ひいぃっ!」

 

 恐怖に駆られて【双眼鏡】を放り出し、逃げ出した彼を追い掛ける相手。

 表に出た所を押さえられ、いや押さえられたというよりは舌で捕らえられ、そのまま背中に舌を刺し込まれて血を吸われながら絶命したのを【古龍観測隊】が見ていた。

 

 

 

「調査の依頼が来てんだが、おめぇらも来るか?」

 

 ベナトールと同行していた時に彼が受けた依頼に付いて行く事にしたアルバストゥルは、ついでにカイとハナの二人にも声を掛けてみた。

 

「どんな依頼なの?」

「新種の【モンスター】の調査だとさ。【沼地】の洞窟でそういう報告が上がったんだと」

「へぇ、面白そう♪」

「おいカイ、好奇心の塊みてぇに目ぇ輝かせてっけどよ、相手はかなり気味悪ぃ【モンスター】らしいぜ」

 

 アルバストゥルはニヤニヤ笑いながら言った。

 

「えぇ、洞窟にいるんだったら、じゃあ【フルフル】みたいなの、とか?」

「それどころか【フルフル】の方が可愛げがあるのかもしれねんだとよ。なんせ血を吸うっつう話だからな」

「何それ!? そんな【モンスター】聞いた事ないわよ?」

 

 ハナが素っ頓狂な声で言う。

 

「だから新種だっつってんだろが。まぁどの分類に入るかってのは、調査次第なんだろうがな。もしかしたら今までの種類に入る奴なのかもしんねぇし」

「じゃあ、今回は狩らないって事?」

「そうなるだろうな。だが、状況次第だな。相手の出方ではどうなるか分からん」

「オレ、血を吸われたくないなぁ……」

 

 カイが気味悪そうな顔をした。

 

「バンパイアってのは、美女に弱ぇらしいから、案外おめぇが真っ先に狙われるかもな」

 

 アルバストゥルは面白そうである。

 

「やややめてくれよ! ってか、誰が美女だよっ」

「そうよ、私を差し置いて何ふざけた事言ってんのよっ」

「馬鹿かおめぇは、吸われるくれぇならこいつ差し出した方が良いに決まってんだろうが」

「それもそうねぇ……」

「ちょっとハナ! 納得しないでくれよっ」

「てか、一番血の気の多い人が吸われた方が良いんじゃないの?」

「あん? オッサンの事か?」

 

 三人は黙ってアルバストゥルを指差した。

 

「んな訳ねぇだろっ!」

「……。報告によるとな、吸われた奴は死んだらしい」

 

ベナトールの発言で、二人は沈痛な顔になった。

 

「レイン、可哀想に……」

「骨は、オレが拾って責任持ってレインに届けてやるからなっ」

「待てコラ、なんで俺が死ぬ前提になってんだよ」

「……後の事は心配するな」

「てめぇまで乗ってんじゃねぇ! ってか、元気付けるように肩に手ぇ乗せんなっ!」

 

 とにかく、一行は【沼地】を目指した。

 

 

 

 洞窟にいるという事だったので、地図で言う《3》に入って道なりに《9》へ。

 【フルフル】がいるかもしれないと天井なども気を付けて見たが、今回はいないようだった。

 

 《7》へと進んでみると、丁度『食事中』の【それ】がいた。

 

 少ないながらもギルドに入っていた情報通り、まだ生きている【イーオス】に舌を刺し込んで血を吸っている。

 

「うっわぁ、えげつねぇなおい」

「やだ、気持ち悪い……」

「顔だけ見ると、なんだか蛇みたいだねぇ」

 

 三人がそれぞれの感想を囁き合っている間に、ベナトールは無言で相手を観察しているようだった。

 

 と、『食事』が終ったらしい相手が振り向いた。

 

 今まで閉じていた体の側面が開いたようになっている。そして紫色の液体が満たされているのが見える事が分かった。

 どうやら側面が管になっており、吸った血をそこに溜め込む構造になっているらしいのだ。

 

 なぜ紫色なんだろうと思う間もなく、相手はたまたま正面にいたベナトール目掛けていきなり【ガノトトス】のような直線状の液体ブレスを吐いた。だがそれは透明な水ではなく、毒が交ざった紫色のブレスだった。

 

 初見なのにもかかわらず分かり切ったように避けるベナトール。あの勢いならば、もし当たっていたら貫通していたに違いない。

 他にも毒弾のように周囲に毒液を打ち上げたり、エリア全体にガス状の毒を撒き散らせたりする。それを察するに、どうも【イーオス】の血を吸った事により血液だけでなく毒も吸い出すらしいと分かり、尚且つその毒を利用して攻撃に使うという事が分かった。

 

 周囲に毒を撒き散らせるならと背後に回ったカイは、長い尾を振るわれた際に毒に侵された。

 どうも尾にも液体噴出器官があり、そこからも吸った毒を撒き散らせられるらしい。

 

「背後もダメなのか……」

「あんま隙ねぇみてぇだなこいつ。毒液だけじゃなくて通常攻撃も多彩だもんな。尾だけでも鞭みてぇだし、先が尖ってんのを利用して突き刺そうとするしよ。体全体使って高速で回転しながら跳ね飛ばすとかよ」

「蛇みたいな長い体を活かした戦闘するね。連続で首を振り回しながら噛み付いて来たりとか」

「そういやさ、さっきから一度も麻痺ってねぇよなこいつ。効かねぇのかな?」

「そうなのよ。まあ隙が無くって状態異常の蓄積が出来にくいっていうのもあるのかもしれないんだけど……」

「だとしても最低一回ぐらいは麻痺っててもおかしくないはずだよ」

「だよな。っつう事は、やっぱ状態異常は効かねぇと見た方が良いのかもな」

 

 分かりやすい様に落ち着いて喋らせるような調子にしたが、実際は闘いながらなので途切れ途切れだったり叫び合ったりしている。だが様子見で攻撃自体はあまり加えて無かったため、本格的な戦闘の時よりは若干聞き取りやすい会話になっていた。

 

 

 毒攻撃が止んだと思ったら、今まで開いていた側面の管が閉じた。

 すると、積極的に行っていたように見えた毒攻撃を一切しなくなった。

 

 という事は、吸った血から摂取した状態異常が使えなくなったと見て良い。恐らくそうやって状態異常を持つ他の【モンスター】の血を吸う事で、それを利用した状態異常攻撃が出来る仕組みになっているのだろう。 

 大分動きが分かってきたからと手数を増やしている内になんとなくぬめりが無くなったなと思っていると、うねうねと体をくねらせつつ地面に潜った。

 

「おいおい、まさか【音爆弾】で引き出せとか言うんじゃねぇだろうな?」

「試してみる?」

 

 そう言ったカイが用意していたらしい【音爆弾】を投げたが、飛び出さないところを見るとどうも効かないらしい。だが少し経ってから出て来たので、移動ではなかったようだ。

 出て来たのをよく見るとぬめりが元に戻っている。第一印象で感じた通り、やはり乾燥に弱いんだなとアルバストゥルは思った。

 

 なるほど、だから湿度のある場所にいるのか。

 

 アルバストゥルは、ならこいつの生息地は限られるだろうなと考えた。

 毒攻撃が出来なくなった相手は、四人を無視して【イーオス】に向かって行った。

 

「させるかよ!」

 

 吸血を阻止するために先に【イーオス】を殺そうとしたアルバストゥルは、目の端で相手が舌をしならせたのを見た。

 

 バシュシュンッ!

 

 空気を切り裂く鋭い音がして、同時に彼は高く打ち上げられた。何をされたのか全く見えなかった。

 二人もいきなり放り上げられるように彼の体が宙に浮いたのを見て面食らった。

 

 だがベナトールにだけは残像ながら見えていた。舌を鞭のように使って彼を打ち付け、その勢いで打ち上げたのを。

 

「ぐはっ!?」

 

 水飛沫と共に仰向けで濡れた地面に叩き付けられたアルバストゥルに追い打ちを掛けるように、舌が伸びる。

 鞭打たれたような痛みに呻く間も無く腹に舌を刺し込まれる。叩き付けられたと同時に襲って来た舌に、避ける暇も無かった。

 太く、先の尖った舌は重装備の鎧を易々と通り抜けると、体内でがばりと口を開けるように先端が開き、傷を広げた。

 

「あ、あ、あああぁ……!」

 

 血が吸われていく。急激に血が無くなっていくのが分かる。どうやら腹の動脈に舌を刺し込まれたのだと理解した。

 逃れようともがいたが、動けないように体の自由を奪うものを注入されているのか、それともただ急激な貧血でそうなってしまうのか、次第にその動きが弱々しくなっていく。

 

「アレク!」

「アレクぅ!」

 

 二人が悲鳴に近い声で呼びかけているのが彼には聞こえていたが、視界が薄れていく。

 

「いかん舌を攻撃しろ!」

 

 ベナトールが切羽詰まった声で必死で舌を攻撃して吸血を阻止しようとしてくれているのが、ゆっくりと明滅している視界の端に映っている。

 三人が攻撃してくれたお陰なのか死ぬ前にどうにか相手は舌を引き抜いてくれたのだが、その際吸いかけの血がバシャバシャと落ち、自分の血を大量に被りながらのなんとも気持ち悪い生還となった。

 

「大丈夫か?」

 

 安全な場所まで引き摺り出してくれたカイに聞かれたが、返事が出来ない。

 血が足りず、起き上がる事もままならない。

 

「キャンプに帰って来る!」

 

 そんな様子にカイはそう叫び、【モドリ玉】を地面に叩き付けた。

 

 

「……すまん……」

 

 簡易ベッドに寝かされたアルバストゥルは、やっとそれだけ言った。

 

「まさか真っ先に吸われるなんてね。アイツ、美女よりマッチョな方が好きなんじゃないの?」

 

 からかう彼に、突っ込みを返す力も無い。

 

「あらら完全な貧血だね。ここまで酷いと全く力入んないだろ」

 

 兜を取ってアルバストゥルの下瞼の裏を見たカイは、笑顔で言った。

(彼は褐色の肌をしているので、見た目では血の気が引いているのを判断出来ないのだ)

 だが心配なのを押し殺しているのか泣き笑いみたいな顔になっている。

 兜の隙間から見えたその表情に、アルバストゥルは答えようとして口を開いたが、頭がくらくらして言葉にならない。

 

「何も言わなくて良いよ。しばらく寝てな」

「……を……」

「なに?」

 

 擦れた声で囁くように訴えている彼の口元に、カイは耳を寄せた。

 

「……俺は、良いから……。あいつら、を……」   

「分かった」

 

 頷いて一応【生命の粉塵】を掛けたカイは、不安そうな顔で少しだけ逡巡したように見えたが意を決したような顔になり、テントから飛び出して行った。

 それを擦れた視界で追ったアルバストゥルは、目を閉じて睡魔に引き摺り下ろされるようにして眠った。

 

 

 カイが戻ると相手は体側の管に赤い液体を溜めていた。

 そして、血を使った攻撃。即ち血弾、血を含んだブレス、血のガスを撒き散らせるようになっていた。

 

「アレクの血で、よくもおぉ!」

 カイは怒りを爆発させ、足元に滑り込んで連続で切り刻んだ。

 

「アレクに付いてなくて良いの?」

「貧血が酷くて動けないけど命には別条はないから寝てれば大丈夫だよ。それより君達を頼むってさ」

 

 カイの言葉を聞いて、ハナは安堵の笑みを見せた。

 

 ベナトールは無反応で戦闘を続けているが、内心ホッとしているのを二人はとっくに見抜いている。彼は無感情な男に見えるが、抑えているだけで実は感情豊かな人間である事を長い付き合いの中で知っているからだ。

 

 こけた相手に更に畳み込む。が、血のガスを浴びた事で切れ味に変化が生じた。

 

「このガス、切れ味が落ちるのか!?」

「どうもそうらしいのだ。だが毒ガスの時もそうだったが、エリア全体攻撃な上に非常に避けにくい。こればかりは受ける覚悟で闘わねばならんようだな」

「そうなのか……」

「でも刃がボロボロになるほど落ちるわけじゃないみたいだから、隙を見て研げばすぐに最高の切れ味までに持って行けるみたいよ」

「じゃあそれ程幻滅しなくて良いかな」

「推測だがな、血液の成分に塩分が含まれてるだろ? それで少しずつ切れ味が鈍るんじゃねぇかと思うのだよ」

「なるほど……」

 

「じゃあ【イーオス】の血を吸った時にそうならないのはどうして? 【モンスター】の血には塩分含まれてないの?」

「そういう訳ではあるまい。奴の血を吸った時には毒の攻撃を行う事から察するに、血そのものの成分ではなく純粋に毒の成分だけを抽出して攻撃しているからなのだろう。まぁこれも推測に過ぎんがな」

「んじゃそうなのかもね」

「んじゃとりあえずそういう事にしとくか」

 

 二人が大雑把な会話をしていたその時、ベナトールは視界の端で相手の舌が動いたのを見た。

 

「きゃあぁっ!?」

 

 放り上げられたのはハナだった。アルバストゥルが犠牲になった時とまったく同じ現象に、カイの血の気が引く。

 ハナは何が起こったかも分からずに仰向けに地面に叩き付けられた。

 直後に彼女に舌が伸びる。が、ハナが吸血される事はなかった。

 

「……。二度目が通用するとでも思っているのか?」

 

 低い、怒りを抑えた声。

 ベナトールが舌を掴んでいた。

 

 まったく予期せぬ出来事だったのか、相手は明らかに面食らっている。慌てて舌を引っ込めようとするのを、逆にベナトールは引き寄せた。

 

「俺の仲間を危険に晒した罪は重いぜバンパイア。てめぇが犯した罪の重さを身を持って知るが良い!」

 

 言いながら自分の腕に相手の舌を巻き付けていたベナトールは、なんと一気に引き千切った。

 

 ギシャアアアァッ!

 

 短くなった舌から今度は自分の血を滴らせながら、苦悶に叫ぶ相手。振り回しながら引き下がったために前方に血が掛る。

 それを浴びながら、ベナトールは巻き付けた舌を脇に投げつつハナを引き起こした。

 

「……あ、ありがとう……」

 

 まだ戸惑っている彼女を、カイに向けて突き飛ばす。

 呆気に取られていたカイが慌ててハナを受け止めると、同時にベナトールは動いた。

 

 既に溜め姿勢に入っている。そのまま近付き、憎々し気に噛み付こうとした相手を正面で捉えて下顎を叩いた。そのまま振り抜かれた【ハンマー】の勢いは止まらず、思い切り頭を仰け反らされた相手の頭上へ飛び上がりつつ叩き落とした。

 

 それは地面が陥没して頭が沈むぐらいの勢いだった。

 

 だがそれでも頭蓋骨を粉砕するまでには至っていなかった。

 その代わりに気絶したのか動かなくなったので、気が済んだと見えるベナトールが攻撃の手を緩めた。

 

 

 

 

 

 




吸血中に助けられるか自力で抜け出すなどしてしてどうにか生還すると、このように吸い掛けの血を吐きす事があるのです。

最後にベナトールが繰り出した技は、「嵐ノ型」の「ジャンプスタンプ」と呼ばれているものです。

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