今日も元気にメゼポルタ広場からお届けします。【完結】 作:沙希斗
これで「バンパイアハンター?」の話は終わりになります。
どれぐらい眠っていたのか、目を覚ましたアルバストゥルは、起き上がろうとして眩暈に襲われた。
クソ、血が戻らねぇ……!
やはり少し寝たぐらいでは体力は戻っても血は増えて無かった。だがそれが彼は悔しかった。
今でも三人はあの得体の知れない【モンスター】と闘っているはずだ。
もしかしたらまた誰かが血を吸われているかもしれない。
いや吸われてなかったとしても、重傷を負わされているかもしれない。
今すぐにでも助けに行ってやりたい。
なのに、立とうとしても頭がくらくらして体が動かない。
……情けねぇな……。
とにかく少しでも早く血を戻したい。
「……血……」
俺も、血を吸えば、戻るだろうか?
そう思った彼は、まるで夢遊病のようにふらふらとエリアに出ていた。
今の彼に【モンスター】と闘う力は無いはず。なのに、何かに憑り付かれたように歩いて行く。
視界に入ったのは【アプトノス】だった。
そして無意識に抜刀し、その体に【大剣】を叩き付けていた。
SR仕様の【大剣】は、たったその一撃で相手を屠った。
彼は倒れ込むようにしてその体に近付くと、無意識に【剥ぎ取り用ナイフ】を抜いて頸動脈を切り裂いた。
まだ心臓が止まっていなかったからか、大量の血が吹き上がる。その血を浴びながら彼は首の傷に口を付け、一心不乱にすすった。
気が付くと彼は、【アプトノス】の死体に取り付いて血を吸っていた。
その事実にハッとなるや雷に撃たれたみたいに飛び退り、その勢いで再び眩暈を起こしてペタンと地面にへたり込んだ。
俺、血を吸ってた!?
液体を被った感覚があるので手や体を見回してみると、頭から血を浴びているのが分かった。
屠って頸動脈を切り裂いたのか……。
目の前にある死体の傷を見ればそうなっているのは一目瞭然である。
だが自分がやったという覚えは無かった。それどころかテントからここまで来た事も。
「……。俺が、バンパイアみてぇだな」
アルバストゥルは自嘲気味に笑った。だが命を無駄にしたくないので、【生肉】を剥いでポーチに仕舞った。
スタミナ回復は【元気ドリンコ】派の彼は普段から【肉焼き機】を持って来ていなかったので、誰かにやるか帰ってからレインにでも焼いてもらおうと思った。
無意識とはいえ血を吸ったからといってそう簡単に血が戻る訳がない。だがだからといって自分だけ呑気にキャンプで寝てなどいられられない。
彼らは許してくれるだろうが、アルバストゥル自身がそれを許せなかった。
ではどうするか。
取り敢えず【秘薬】を飲んでみた。体力自体は回復していたのだが、最大まで回復したという訳ではなかったからだ。
それで支障が無い程、つまりはどうにか闘える程には回復出来たようだったので、「まぁなんとかなんだろ」と独り言ち、彼は三人がまだいると思われるエリア《7》に向かって行ったのだった。
《7》に入るとそこに彼らも新種【モンスター】もいなかった。
どうやら移動してしまったらしく、感覚を集中させると《4》にいる事が分かった。
「チッ、早く気付けば良かったぜ」
遠回りになってしまった事に舌打ちしながら駆けて行く。だがそこに展開されている光景を見て、アルバストゥルは少しだけ絶望した。
同じエリアに【ドスイーオス】がいたからである。
これが下位ならばそれ程気にする事もないのだろうが、多分新種【モンスター】の手強さから察するに、後々上位種、下手をすれば【変種】もしくは【剛種】扱いにされそうな勢いだったため、その狩場にいる【ドスイーオス】もやっかいな強さになっている可能性が高かったのだ。
と、参戦前にその【ドスイーオス】が吸われた。
おいおい、ドス系でも関係ねぇのかよ。
アルバストゥルは呆れながら近寄った。
「……アレク、何しに来た?」
「その言い草はねぇだろうよオッサン。俺だって参加して――」
「今のお前は足手纏いだ。サッサとキャンプに帰れ」
「おいてめぇ、見縊ってんじゃねぇぞ」
「どうしてもと言うなら尻拭いは自分でするんだな」
「上等だぜ!」
吠えながら【大剣】を叩き付けた彼を見て、危惧の言葉を掛けようとした二人は口を閉ざした。
「アレク、アイツの舌は再生するみたいだ」
代わりに彼が知らなかった情報を提供する。
「再生だと!?」
「うん。私が吸われそうになった時にベナが助けてくれたんだけどね。その時舌を引き千切ったのに、移動した頃には元に戻っちゃったの」
「すげぇ再生力だなおい」
「そのようだ。だがよく見てみろ。千切った傷は痕になって残るようだな」
「あの赤くなって引き攣ったような場所のとこか?」
「そうだ」
「なるほどな。んじゃもし舌に傷のある別の個体が今後見付かったら、そいつは舌を一度失った可能性があるって訳だな」
「まあ失うまではいかなかったにしても、その可能性は高いという証拠にはなったな」
「良い調査になったじゃねぇか。千切ってくれてありがとよオッサン」
「礼ならハナに言うんだな。俺はあいつを助けただけだ」
ベナトールは、やや離れた場所にいたハナを顎でしゃくった。
「ベナだから出来たのよ?」
「だろうな、【モンスター】の部位を
面白そうに言うアルバストゥルを目の端で捉えながら兜の中で苦笑いしているのを、三人はベナトールの雰囲気で察していた。
相手は体側の管に紫の液体を溜めていたが、【ドスイーオス】の血を吸ったからといって攻撃方法や毒の強さが変わる訳でないようだった。
ただ【イーオス】が吸い尽くされて死んでいた吸血行動は、【ドスイーオス】では死なない事が分かった。
なので毒攻撃が出来なくなる度に、まるで携帯食料であるかのように何度も【ドスイーオス】を吸いに来た。
その分四人への吸血行動は控えられたのだが、何度も吸われる【ドスイーオス】が、なんだか哀れにさえ思える程だった。
しかし控えられたと言っても自分達が襲われる事には変わりなく――。
「カイ!」
彼の背中を狙うように舌が伸びたのを見たアルバストゥルは、注意を促しつつ届けとばかりに【大剣】を薙いだ。
辛うじて切っ先が届いて舌が振り払われたが、相手は諦めずにそのままの勢いで舌を戻して来た。
「しつけぇ!」
その間に近付いていたアルバストゥルは、【天ノ型】のガード斬りでガードを合わせてカウンター攻撃した。
が、薙ぎ払い後の硬直を狙って再び舌が襲う。
更に運の悪い事に、【ドスイーオス】が飛び掛かるのが彼の視界に映った。
それを防いだのはベナトールだった。舌が届くより先に横から頭をぶっ叩き、ついでに【ドスイーオス】も巻き込んだのだ。
「恩に着るぜオッサン!」
【ドスイーオス】が吹っ飛んだ隙を狙って横倒しになった相手に一斉攻撃。その頃には毒攻撃が出来なくなっていた相手は、一度潜って出て来ると、代わりのように透明な液体で攻撃し始めた。
どうやら体内に取り込んだ水でも攻撃出来るらしい。
しかも体側の管に溜めている間に化学変化でも起きるのか、水蒸気のようにエリア全体に放ったガスを浴びた時、白い煙と共に鎧が溶け始めた。
「重酸化すんのかよ!?」
「やっかいだね……」
状態異常の攻撃が出来なくても手強い攻撃を持ち合わせているのだと、四人は思い知らされた。
【携帯食料】のように扱われていた哀れな【ドスイーオス】が死んだ頃、ぬめりが取れ、弱ったように見えた。
また潜られる前に捕獲しようと【シビレ罠】を掛けたがタイミングが合わないのか捕まらず、仕方が無いので討伐する。
剥ぎ取りでどんな素材が出るのかも報告したかったので丁度良いとは思ったが、もし一頭だけしか見付かっていなかった場合はまずいのではと、アルバストゥルは思った。
帰って報告すると幸いにもその一頭だけではなかったという事が分かり、アルバストゥルは若干安心した。
どうやら【砂漠】の水辺にも現れたらしく、その個体は【ゲネポス】の血を吸う事によって麻痺の状態異常を使いこなしたらしい。
ベナトールが素手で舌を引き千切った話をハナがし、証拠にと持って帰って来た皮や鱗などと共に舌を見せる。
案の定【ギルドマスター】が腰を抜かしたのを見てやった本人以外が笑い転げたが、それどころか心臓麻痺まで起こしそうになったのを見て逆に狼狽えた。
「……まったく、相変わらずとんでもない馬鹿力じゃわい……」
どうにか立ち直った【ギルドマスター】は、そう言って呆れた。
何度目かの調査の後、新種の【モンスター】は【海竜種】のカテゴリーに入れられた。
そして公式名は【バルラガル】、通称は【喰血竜(がけつりゅう)】と呼ばれる事となった。
それからその攻撃力の高さ、手強さなどから鑑みて、【剛種】扱いされる事になったという。
後に更に強力な個体が現れたという報告が上がり、そのあまりの強さからG級に入れられたものもあったとか。そしてそれだけではなく攻撃方法が異なる個体も現れたとかで、HC(つまり特異個体)、更に強力なGHC(G級特異個体)に入れられる個体まで出て来たのだとか。
ちなみに状態異常はまったく効かないと思われていたが、睡眠だけは効く事が分かって【眠り投げナイフ】などで眠らせて大ダメージを与えたハンターもいたのだとか。
四人全員でどうにか参加出来るのは【剛種】だけだろうという事だったのだが、誰もが二度と狩りたくないなと思わせるような【モンスター】だった。
この話を読んだ友人は、「アレクも吸血鬼になってしまうのかと思った」と言ってました。
そっち方向に持って行っても面白いでしょうけど、ジャンルが違って来るのでやめておきます(笑)
あ、「舌が再生する」という話になってますが、実際の(ゲーム内での)「バルラガル」の舌は斬れないので再生しません。
でも舌を攻撃する事によって「喰血竜の舌(剛種)」「喰血竜の触舌(G級)」などの素材が破壊報酬で貰えるようです。
この話を書いて少し経った頃に「辿異種」が存在する事も分かった(実装された)んですが、蛇のような顔の飾り鱗が更に発達して気持ち悪さが増しており、その上で「舌攻撃」がえげつない事になってました。