今日も元気にメゼポルタ広場からお届けします。【完結】 作:沙希斗
挿絵(吸血シーン)がホラーなので、見る人は気を付けて下さい。
新種のものとして四人が調査した【モンスター】が【バルラガル】として【剛種】認識され、更にG級のものも認識されたというのでその個体を確認しようと思ったベナトールは、【砂漠】に出たと報告のあった依頼を受けてみた。
その体質上水場から離れられないのは分かっているため、まずは枯れた古井戸から行ける地底湖を目指してみる。
そのエリアが一番キャンプから近いから単にそうしたわけではあるが、偶然にもその読みは当たっていたらしく、【ゲネポス】の血を吸っているのを見付けた。
『食事中』に攻撃すると、相手は既に体側の管に黄色い液体を溜めていた。
こうなったら管の麻痺成分を使い果たすまで麻痺攻撃を避け続けるしかない。
と、相手は途中で奇妙な動きを見せた。
何も無い地面に舌を突っ込んで吸うような仕草をしたのだ。これは四人で討伐した【剛種】の【バルラガル】には無い動きだったため、警戒しつつ様子を見る。
直後、薙ぎ払うように前方に麻痺弾を飛ばして来た。
弾のように状態異常の液体(もしくは管に溜めた水)を飛ばす攻撃は【剛種】でもあったため、初めて見た攻撃だったにもかかわらず横転して躱すベナトール。相手は自ら飛ばした麻痺弾から避けるかのように勢いをつけて後退している。
(後で分かった事だが、これを食らうと致命的なダメージ+状態異常付きになるのだそうだ)
他に【剛種】と違う点は肉質が硬く、時に弾かれる場合がある事ぐらいだろうか。
【ハンマー使い】という特性上、正面にいる事の多い彼は、どうしても吸血を誘ってしまう。
なので一度だけうっかり舌に捕らえられてしまった事があった。
「成程、これが血を吸われるという事か」
少しだけ吸血される感覚を楽しんでからむんずと舌を引っ掴み、引き抜きつつ起き上がった。
舌は腹の動脈に刺し込まれていたので、胴鎧の隙間から大量の血飛沫が上がる。それに構わずに掴んでいた舌を短い気合の声と共に引き千切った。
悲鳴を上げながら後退する相手の隙を見て、回復する。太い舌を無理矢理引き抜いたので大穴が空き、止めどなく血がしたたり落ちている。回復が遅れれば今度は出血で血を失ってしまう。
仲間がいれば吸血中でも【生命の粉塵】で回復させつつ舌を攻撃してもらえば助かるのだが、ソロの場合は自分で何とかするしかない。少し眩暈がするのを踏ん張りながら、相手には気付かれないように闘った。
舌の再生力はすさまじく、移動したのを追い掛け、見付けた頃にはもう元に戻っていた。
「くく、引き千切り甲斐があるな」
舌がすぐに再生するのは【剛種】で経験済みなので、逆に彼には楽しみに映る。
だが、やはり出来ればもう吸われたくはないもんだなと思っていた。
少ししか吸血していないからなのか血を使った攻撃はすぐに止み、相手は慌てた様に水の中に飛び込んで行った。
そのまま移動するのかと思ったらそうではなくて再び陸に飛び上がって来たので、攻撃を続けていく。
どうも水を管に溜めたらしく、水を使った攻撃に切り替わった。
この場合、管の中で化学変化が起きて水が重酸に変わっているために、液体が当たれば 鎧を溶かされてしまう。防御率を下げられるので、気を付けなければならない。
幸いにも液体が飛ぶ範囲はある程度決まっており、弾のように四方に飛ばす攻撃も頭付近には来ないようなので、彼にとっては避けやすかった。
なので舌に注意すればスタンも比較的簡単に取れるのだが、【剛種】でアルバストゥルが吸血された、舌を鞭のようにして打ち上げる攻撃を食らってしまう事が一番恐ろしいので、予備動作を見極めながら横転回避もしくは余裕があれば離れなければならない。
これは二連攻撃だという事が分かっており、一回目の舌で鞭打たれると意識が飛んで膝から崩れ、その最中に二回目の舌で鞭打たれる事で空中に放り上げられる。なので二回タイミングを合わせて回避する必要がある。
思ったよりも範囲が広くて側面を攻撃していた仲間まで巻き添えになる事もあるのだが、その後に行われる吸血は狙った者一人だけ(もしくは【モンスター】一匹だけ)が犠牲になるようだ。
前足を片方上げて身を捻る予備動作が分かりやすいので、討伐完了までベナトールが巻き込まれる事は結局一度も無かった。
帰って剥ぎ取った物と報酬を合わせて【武具工房】に持って行くと、防具が全部位作れるようだったので頼んでみる。
出来上がったG級防具【プランダGシリーズ】には〈吸血〉というスキルが付く事が分かった。
これはG級専用のスキルらしく、【剛種】で作れる【ストロマシリーズ】には付いていないスキルである。
「……。〈吸血〉ねぇ」
まあどんなスキルか試すだけ試してみようと調整のために工房に通い、最終調整が出来たばかりの防具を着込んでクエストに行ってみる。
親方曰く、「こいつぁ怪我した時にこそ素晴らしさが分かるスキルなんだぜ」という事だったのだが……。
元々滅多に攻撃を食らわないので恩恵がよく分からない。仕方ないのでわざと食らって大ダメージを受けてみる。
と、その後に攻撃して返り血を浴びる度に、傷が塞がっていくのに気が付いた。
まるで、【モンスター】の血を糧に回復するかのように。
成程、そう言う事か。
ベナトールは納得した。つまりは返り血を浴びた防具が血を吸い、その血で装着した者の命を救う防具なのだろう。
これは手数の多い武器を使う者向けだな。
彼はそう考えた。手数が多い程返り血を浴びる機会が増えるからである。
なおかつ、ガード出来ない武器の方が恩恵を受けやすいだろう。
とすれば、【双剣】が一番向いてる事になるのか?
「ふん、俺には必要ねぇな」
彼は鼻で笑った。返り血を全身で浴びる事は今までに何度もあったが、それを回復に利用する程傷を受けないからである。
確かに彼とて重傷を負う事はあるのだが、〈吸血〉スキルをあてにする(つまり返り血を浴びるために手数を増やす)より先に討伐してしまうだろう。
現にろくにスキルで回復出来ない内にクエストクリアしてしまったのだから。
「……ま、スキルの勉強にはなったかな」
そう呟いて、彼はフッと笑った。
小説内の「ベナトール」は私の理想なので滅多に攻撃を食らいませんが、プレイヤーである「私」はドヘタクソなので食らいまくって時には死にます。
なので挿絵でのベナトールは結構食らってます。
そう言う事なので「話と挿絵が違うじゃん」とか思わないように(^^;)
「吸血スキル」は「モンスターを攻撃するとプレイヤーの体力が回復する」と言うスキルなんですが、自己解釈で「返り血を浴びた防具が装着した者を回復させる」という事にしております。
話の中の彼は「(食らわないので)必要ない」と言っていますが、私は食らいまくるため、このスキルを増やした「吸血+2」のスキルには大変恩恵を受けてます。
挿絵の防具は未強化ですが、これは他の防具で吸血スキル付きのものを持っているためです。
ですが、この防具の使い道がもし今後あるようならば、最終強化してGXにしたり、「装飾品」として加工(精錬)したりして使うかもしれません。