今日も元気にメゼポルタ広場からお届けします。【完結】   作:沙希斗

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この話は、前の話の「幻覚の中での犯行」で、もしカイが処刑されていたらどうなったかを書いたものです。
同じ話なのでいきなり途中から始まります。
話の流れが変わるため、こちらのベナトールは少し違う行動を取っています。

「もしも」の話で、言わば「パラレルワールド」的な位置付けでの話なので、実際(本編)では死んでません。

 
このように、死んでほしくないキャラが死ぬ話や、違う役回りを演じてもらうような事が出来たら「もしもの世界」と称して「パラレルワールド」の話を書く事がありますので、以後そのつもりでいて下さい。


幻覚の中での犯行(もしも、カイに刑が執行されていたら)

 

 

 

「おいら……、おいらのせいだ……」

 気が付いたら目の前に、血塗れのアレクが倒れてた。

 訳が分からなかったが、自分が持っている【太刀】が、血で濡れていた。

 きっと、おいらが刺してしまったんだ。

 

 カイは、ハンターがどんな理由であれ、人に(やいば)を向ける行為を禁止されている事を知っている。    

 だから、【クエストリタイア】して【ハンターズギルド】に報告し、そのまま彼の前から去ろうと考えた。

 場合によっては殺人担当の【ギルドナイト】に殺されても、それで仕方がないと思った。

 

 【街】に戻ったカイは、アレクトロを医務室に預けると、その足で【ギルドマスター】の元へ向かった。

「おぉカイ。久しいの」

 にこやかに話しかけて来る【ギルドマスター】に、「折り入って、話があります」と告げる。

 その顔がただ事ではないと見た【ギルドマスター】は、「こっちへおいで」とカウンターの奥の部屋に連れて行った。

 

 

 目を開けたアレクトロは、自分がベッドに寝かされている事を知る。

 そこが【ベースキャンプ】のテントではなく、部屋の中だと気付いた彼は、起き上がって見回した。

 傍らにベナトールがいるのに気が付き、「オッサン、ここは?」と訊ねる。

「医務室だ。目が覚めたようだな」

「アイツは?」

「カイは今、【ギルドマスター】と話し合ってる」

 そう聞いた途端、アレクトロは勢いよくベッドから下りようとして苦痛に顔を歪めた。

「馬鹿者、まだ寝てろ!」

 無理矢理寝かせようとするベナトールに、「寝てられっかよ!!」と抗う。

「アイツが、アイツが危ないんだ。オッサン頼む。【マスター】の所へ連れてってくれ!」 

「アレクよ……」

 ベナトールは諭すように語りかけた。

「全ては【ギルドマスター】が決める事だ。例えカイがどうなっても、俺達はそれに従うしかないのだ。それが分からんお前ではあるまい?」

「てめぇはそれで良いのかよ!?」

 アレクトロは彼の襟首を引っ掴んだ。

 

 ベナトールは黙っている。

 

「……。そうかよ。ならもう頼まねぇや」

 転げ落ちるようにベッドを下り、壁や柱を伝ってそろそろと移動して行くアレクトロ。

 ベナトールは無言で見送った。

 

 

「――では、刺した事は間違いないのじゃな?」

「……はい。間違いありません」

 【ギルドマスター】の部屋で、カイは問答していた。

「ハンターは、どんな理由であれ人に(やいば)を向ける事は禁止されておる。それに例外は無いのは、分かっておるな?」

「分かっています」

「……では、罪を認め、刑罰を受けるのじゃな?」

「はい。覚悟しております」

「……良かろう」

 そう言った【ギルドマスター】は、スッと右手を上げた。

 気が付くと、壁を背にして男が一人立っていた。

 

【挿絵表示】

 

 

 《黒》の【ギルドナイト】……!

 

 気配が全くないその男を見て、カイは一瞬たじろいだ。

 それは、殺人担当の【ギルドナイト】だった。  

 彼は無言のまま、ゆっくりとした動作で腰に帯びた【サーベル】を抜いた。

 【モンスター】が相手ならかなり心許ない武器ではあるが、人間が相手なので、こんな武器でも事足りるのだろう。

「遺言は、あるか?」

 【ギルドマスター】が聞く。

「アレクに、『すまない』と……」

「了解した。伝えよう」

「ありがとうございます」

 カイは【ギルドマスター】に一礼すると、自ら【ギルドナイト】の前に進み出た。

 【ギルドナイト】を真っ直ぐ見据え、頷く。

 彼も僅かに頷き返すと、無表情のまま踏み出し、正確にカイの心臓を突いた。

 

 

 カイが倒れた丁度その時、アレクトロは【ギルドマスター】の部屋へ辿り着いていた。

 胸の痛みは限界に達していたが、部屋に入るや否や倒れているカイを見付け、まろびながら駆け寄って顔の傍に座り込んだ。

「カイ……!」

 まだ僅かに息があったカイは、アレクトロを見止めると、何か言いたげに唇を動かし、彼特有の人懐こい笑顔を浮かべた後、目を閉じた。

「カイ……!!」

 もうその目が二度と開かれないのを分かりつつ、アレクトロは呼びかけた。

「なんて……こった……!」

 右手で顔の半分を覆い、左腕できつく自分を抱きながら、感情を押し殺すようにして泣いている。

 

 まるで、その場に誰もいないかのように。

 

 【ギルドナイト】は、相変わらず無表情で【サーベル】に付いた血を払い、鞘に戻している。

「……アレクトロ」

 【ギルドマスター】は静かに語りかけた。

「【掟】に例外は無い。そやつはお前を殺そうとした。それは死刑に相当する。じゃから――」

「分かってます!」

 彼は最後まで言わせずに言い放った。

「そんな事は分かってる! ――なら、ならせめて、俺が殺してやりたかった……!」

 アレクトロはそこで、感情を爆発させた。

「もう死刑しかないというのなら、俺がこの手で殺すべきだったんだ! ――あの時、あの時俺が動きを止めてなければ! 【本能】のまま躊躇せずに【大剣】を振り下ろしていれば! ――こんな、こんな奴なんかにコイツを殺されずに済んだんだ!!」

 アレクトロは感情の赴くままに、【ギルドナイト】に掴みかかって行った。

「たわけ」

 【ギルドマスター】はそう言うと、杖で後頭部を殴った。

 アレクトロは胸倉を掴んだ姿勢のまま、ずるずるとずり落ち、気絶した。

 

「ベナトールを、ここへ」

 合図して【ギルドナイト】を下がらせると、【ギルドマスター】はそう言った。

「――はっ」

 伝令の者が出て行く。

 

 

 もう帰って来ないかもしれないと思いつつ、ベナトールはアレクトロに宛がわれていたベッドの傍で、静かに目を閉じて待っていた。

 そこへ伝令の者がやって来た。

 

 【ギルドマスター】の部屋へ赴くと、まず目に飛び込んで来たのは血溜まりの中で仰向けに倒れている、カイの姿。

 一目見てすでに息絶えていると分かったが、その血はまだ鮮血の色をしていた。

 

 彼は、心なしか微笑んでいるように見える。

 

 ベナトールは目を閉じ、しばらくそうしてから【ギルドマスター】に向き直った。

 

 涙は、流していない。

 

 傍らにうつ伏せ状態で倒れているアレクトロに気付き、驚いて近付いたが、こちらの方は気絶しているだけだと分かって安堵の表情になった。

「ベナトール」

 【ギルドマスター】は静かな口調で話しかけた。

「――はっ」

 彼はその足元に片膝を付いた。

「お主を呼んだのは他でもない。見ての通り、こやつは自暴自棄になっておる」

 【ギルドマスター】はアレクトロを杖で小突きながら言った。

「無駄な命を散らせないように、陰で見守り、場合によっては支えてやって欲しい」

「もちろんでございます」

 彼は最初からその気でいたのだ。

「では頼んだぞ」

「――はっ。畏まりました」

 深々と頭を下げてから、「不躾(ぶしつけ)ながら……」と切り出した。 

「なんじゃ? 言うてみよ」

「カイを、弔わせては貰えませんでしょうか?」

「ならん」

 【ギルドマスター】は、一言で突っ撥ねた。

「こやつは【罪人】なのだ。気持ちは察するが、人目に晒して弔う事は許されん。こやつは【ギルド】内で()()する」

「そう、ですか……」

「下がって良いぞ」

「はっ」

 ベナトールはアレクトロを抱えると、引き下がった。

 

 

 それからというもの、アレクトロは、まったく狩りに身が入らなくなった。

 時には腑抜けのように、ボーッと広場の椅子に座って過ごす姿も見受けられた。

 たまにハナがちょっかいを出していたが、「うるせぇな! 放っといてくれよ!!」と突っ撥ねられるので、その内誰も近付かなくなった。

 ハナとてカイの死が悲しくない訳ではなかったが、彼ほどショックを受けている者は、他にいないと断言出来た。

 

 それでも、アレクトロは狩りに出かけていた。

 

 

 その日の相手は、上位の【リオレウス】だった。

 が、手慣れているこの【モンスター】に、彼は翻弄された。

 回転尻尾に跳ね飛ばされたアレクトロは、そのまま岩壁に叩き付けられた。

 いつもならば受け身を取るのに、まともに背中を打ち付け、一瞬息が止まる。

 弾んだ体が地面に叩き付けられると、気が遠くなった。

 

 アイツとよく狩ってた【リオレウス】、コイツに殺されるんなら、悪くねっか……。

 

 霞んだ目で見上げた視界の中に、ふと他の影が入り込んだ気がした。

「ったく! 世話が焼けるチビ助だぜ」

 無理に瞬いて視界をハッキリさせると、ゴツイ鎧に身を包んだ大男が立っていた。

「……何しに来やがった。デカマッチョ」

「ご挨拶だな。まあ悪態が付ける元気があるなら、まだやれるな」

「てめぇなんぞに助けてもらいたくねぇ。放っといてくれよ!」

「文句はこいつを倒してから言うんだな」

 ベナトールは、アレクトロが受けた【クエスト】を、後で参加表明してこっそり付いて来ていたのだ。

 

「……いつを倒して何になる……!」

 

「なに?」

「コイツを倒して何になるってんだ!!」

 アレクトロは立ち上がると、抑えていた感情を吐き出した。

「どんなに【モンスター】を倒しても、アイツはいない。アイツと死線を潜り抜け、時には助け合い、喜びを分かち合った日々は、もう二度と来なくなっちまった! ――そう思うと虚しくて、あれだけ命のやり取りが楽しかったコイツと闘ってても、抜け殻みてぇにちっとも心が動かねぇんだよ」

「乗り越えろ、アレク」

 ベナトールは静かに言った。

「乗り越えるしかねぇ。今は無理かもしれんがな」

「てめぇには感情がねぇのかよ!!」

 アレクトロが掴みかかろうとしたその時、【リオレウス】がブレスを吐いた。

 

「俺が、悲しんでいないとでも?」

 

 ベナトールはそのブレスを、まともに背中で受けた。

「オッサ――!?」

 ベナトールは微動だにしないが、ブスブスと音を立てて背中から煙が上がっている。

 肉の焼ける匂いが立ち昇る。恐らく背中は大火傷になっているはずだ。

「俺が、あいつをどう思っていたか、知らんとは言わせんぞ? アレクよ」

 

 彼の抑え切れぬ感情が、伝わって来る。

 

 そこへ、突進が来た。

「分かったから後ろ――!」

 身構えたアレクトロ。

「邪魔だ!!」

 ベナトールは言い放つや否や、振り向き様に【ハンマー】を振り上げた。

 正確に頭を打たれた【リオレウス】は、昏倒している。

「……すげぇ……!」

 思わず感慨の声を上げたアレクトロ。

「とにかく、こいつが先だ」

「分かった!」

 アレクトロは息の合う動きを取り戻し、【リオレウス】に立ち向かって行った。

 

 

「アレクよ、先程お前は『アイツはいない』と言ったが――」

 【クエスト】成功させ、一緒に【街】に帰りながら、ベナトールは話しかけた。

「カイはいるぞ、ここに」

 ベナトールは自分の胸に親指を突き付けた。

「そして、お前のここにもな」

 それから、アレクトロの胸に手を当てた。

「お前があいつを想う度に、あいつはお前の傍で生きている。そしてそう想う程、その息遣いが聞こえるはずだ」

 アレクトロは、胸に手を当てて目を閉じてみた。

 

 カイが、笑った気がした。 

 




「黒のギルドナイト」という事だったので、挿絵では黒っぽい制服(ギルドナイトシリーズ)を着せました。
帽子が紫なのは「SP防具」と呼ばれるHR100以上で生産出来る専用防具を作ったためです。

黒い制服(ガンナー用)の腰ベルトには「サーベル」ではなくて「銃」が装備されているため、仕方なく腰部分だけ剣士用にしてあります。
なので腰だけ赤い恰好になってしまいました(^^;)

お互いの立ち位置を調整するために、別々のキャラで撮影して合成しています。
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