今日も元気にメゼポルタ広場からお届けします。【完結】 作:沙希斗
「その二」の防具作製時にはこんなエピソードがあった、という話です。
これで正真正銘「バンパイアハンター?」の話は終わりになります。
G級として認識された【バルラガル】がいるというのでどんなものか見てみたいと思ったベナトールは、あまり気の進まない【モンスター】ではあったものの、これも調査の一環と、狩猟に出掛ける事にした。
【砂漠】に出たという依頼を受け、水場に行ってみると【ゲネポス】を吸血した事による麻痺攻撃をする個体だった。
だが何も無い地面を吸った後で引き下がりながら前方広範囲に液弾を発射する攻撃が加わった以外は、麻痺攻撃と重酸に変わる水攻撃、舌による吸血さえ気を付ければ【剛種】とそれ程変わる事は無かったので、G級では初見であるもののそれ程苦戦を強いられる事無く討伐する事が出来た。
剥ぎ取って帰ると報酬と合わせて防具一式が作れる素材が揃った事が分かったので、【武具工房】に持って行って作ってもらう事に。
「試着するかい?」
強化前のものが出来たというので調整のために見に行くと、奥から持って来てカウンターに置きながら親方が言った。
彼は「そうだな。そうするか」と答えた。
G級防具の【プランダGシリーズ】には〈吸血〉というスキルが付いているという事だったのだが……。
試着室で着替え、出て来て微調整のために親方と話していた時の事である。
ベナトールは異変を感じ、「う!?」と固まった。
鎧の内側から無数の棘が飛び出し、その先が開いて血を吸い始めたからである。
そう。まるで【バルラガル】の舌が鎧の内側に無数にあるかのように。
「ど、どうした!?」
会話の途中で急に膝から下を崩した彼を見て親方は狼狽した。助け起こそうとした相手は、虚ろな声でこう言った。
「……【バルラガル】が……中に……」
「何だって!?」
慌ててアーム部分を外してみる。
そして親方は絶句した。
裏面に無数の棘が出現し、彼の血がべったりと付着していたからである。
「しまった〈マイナススキル〉だ! おいお前ら手伝え!」
親方は弟子共を呼び付けると、すぐさま鎧を全部引き剥がした。
「…………」
「おいっ! 大丈夫か!?」
「……助かったぜ……」
蹲っていたベナトールは、絞り出すような声でやっとそれだけ言った。
「試着段階だったとはいえ、ここまで〈マイナススキル〉が酷いとはなぁ」
「〈吸血〉は本来なら攻撃した【モンスター】の返り血によって装着した者の傷を回復させるスキルなんだが、マイナスに働くと逆に装着主を吸血する事になるとは、いやはやこんな危険なスキルだとは思わなかったぜ」
「まったくだ。これは最終調整するまでは装着禁止にしねぇとな」
親方や弟子共が口々に話しているのを、ベナトールは朦朧と聞いていた。
流石の彼も、急激な貧血による眩暈が酷くて立ち上がれなかったからである。
後日、最終調整したものを改めて身に着けてクエストに出掛けてみたものの、結局彼にとっては必要のないスキルだと分かってお蔵入りになったのだった。
「吸血」のマイナススキルは実際にはありません。
なのでこれは私が勝手に作ったマイナススキルです。