今日も元気にメゼポルタ広場からお届けします。【完結】   作:沙希斗

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そこら中「ガノトトス」だらけというのは、さぞや水鉄砲も派手になるのでしょうね(笑)

これで「【サムライ】の住む国」の話は終わりになります。


【サムライ】の住む国(3)

 

 

 

 

 寝所として宛がわれた部屋の、【畳】の上に直に敷いた【布団】と呼ばれる物で寝るのがなんとも慣れなかった四人であったが、その気になれば狩場のどこででも寝る事の出来るハンターである彼らなので、特に寝不足を感じる事無く翌日にはスッキリ起きていた。

 

 お互いに健闘を祈りつつ別れ、ベナトールだけ城に残る。

 

 優し気な目でハナの頭をポンポンして見送った彼を見て、【将軍】は昨日とのギャップに戸惑いすら感じた。だが同時に微笑ましさも感じてこちらも口元を緩めていた。

 

 

 使者からも聞いていた三人は、【ガノトトス】を特に多く見掛けるという海岸へ向かった。

 波に削られてゴツゴツしている岩の影から見える砂浜を覗くと、数頭の【ガノトトス】の背ビレが見え隠れしていた。

 

「これじゃ釣れねぇな」

「やだアレク、釣る気だったの?」

「【ガノトトス】は釣るのが醍醐味だろうがよ」

「そんな個人的な醍醐味なんか知らないよ。ってか、そもそも大繁殖してる時点で釣れないって分かるだろうに」

「んじゃ投網で一気にだな……」

「そんなバカでっかい網をどうやって用意すんのよ」

「いやその前に操れないと思うよ」

 

 そんな事を話していると、「ハンター殿でござりますかな?」と話し掛けて来た者がいた。

 

 見ると初老の男が立っていた。日に焼けた肌を惜し気もなく晒し、気にしないのかあちこち綻びている丈の短い【着物】を着ている。

 千切っているのか元からそういうデザインなのか、袖が無く逞しい腕が剥き出しになっている。

 城で見た【着物】はみんな袖が長く、丈も引き摺るぐらい長いものばかりだったので、こっちの方が断然動きやすそうだなとアルバストゥルは思った。

 

「そうですが、あなたは?」

 

 昨日の事があっただけに訝し気な表情で油断なく構えて見ているアルバストゥルの代わりに、カイが聞く。

 

「突然声を掛けた非礼をお許し下され。ワシは近くに住む漁師でしてな。【ガノトトス】が棲んで以来一切漁に出られなくなって困っておるのです。出れば確実に喰われますでな。海岸を歩いているだけで水ブレスを吐き掛けられて切り裂かれたり、切断されて死んだ者もおりますのじゃ。ワシらはこうして時折奴らを見張るのが精一杯で、身内を殺されても何も手出しが出来ませんでなぁ……」

 

「それは嘆かわしいですね……」

 悲痛な表情をした男に、三人は同情した。

 

「遠い大陸からハンターが派遣されると聞き及びましてな。もしやと思いまして声を掛けた次第でございます。何か手助けが出来るようであれば、何卒お申し付け下さりませ」

「生憎だが、一般人が手を貸すような事は――」

「それじゃあ、大きな銛はありますか?」

 

 断ろうとしたアルバストゥルの言葉を遮って、カイは言った。

 

「クジラ漁に使うのであれば……」

「クジラ用ならなんとかなるね。じゃあそれを用意して下さい。なるべく頑丈な綱(つな)を付けて」

「カイ、何する気?」

「いや少しでも多く足止めに使えないかなと思って。今回数が多いだろ? だから【バリスタ】で撃ち込むような【捕縛弾】代わりに使えないかなってさ」

「なるほど、頭良いっ」

「……。で、それを誰が撃ち込んで誰が綱を固定すんだよ」

「撃ち込むのはオレ達の内の誰かで良いだろ。固定は予め岩に縛るか楔で固定してもらうかしてもらえれば良い。本当は網も欲しいけど、【ガノトトス】を捕らえられるような網は無いだろうからね」

「そういう事なら御安い御用でさぁ。早速仲間を呼びますで、少しだけお時間を下さりませ」

 

 男は首から紐で下げていた、小さな筒状の物を口にくわえて吹いた。どうやら笛だったらしくて、ピーという甲高い音が長く鳴り響いた。

 

 見た目よりもかなり大きな音だったので【ガノトトス】に気付かれやしないかと一瞬焦ったが、岩陰から見える海岸には何の変化も無いようだった。

 

 少しして同じような格好をした日に焼けた男達がやって来た。

「カシラ、お呼びですかい?」

 そう聞く所を見ると、彼は漁師の頭領だったのだろう。

 

 やはり昨日会った【サムライ】ハンターが言っていた通り、中には憎々し気な顔でこちら睨んでいる者もいたにはいたが、カシラが言い付けた事には素直に従ってくれた。

 

 

 海岸近くの岩のあちこちに綱付きの大型銛が用意された。

 長い綱の先は岩で固定され、準備が出来ると男達は帰って行った。

 

 中には「手伝います!」と元気良く言ってくれた若者もいたのだが、逆に狩猟の邪魔になるし、犠牲が出るだけなので説得して諦めてもらった。

 

「このくらいしか出来ない不甲斐無さを、お許し下さりませ」 

 申し訳なさそうに頭領が言った。

 

「いえいえ大変助かります。これで狩猟が楽になりそうです」

 カイのにこやかな微笑みを見て、頭領も少しは救われた気になったようだった。

 

「うし! 行くか」

 

 兜を被り、掌と拳を打ち合わせてアルバストゥルが言った。

 二人も今まで外していた兜を被る。

 

「くれぐれもお気を付け下さりませ」

「まぁ任しときなって、そのために来たんだからよ」

「狩猟の様子を見ても良いけど、うんと離れた安全な場所で見てね?」

「束縛銛、上手くいくと良いね」

「使うの俺らだぜ? 失敗する訳ねぇだろ」

「だね! 頑張ろうっ!」

「おぉっ!!」

 

 カイの言葉で同時に気合の声を上げ、三人は【ガノトトス】が群れている砂浜へと駈け出した。

 

 

 

 一方、ベナトールは【将軍】に付き従い、【家老】らが集まる会合に出ていた。

 といっても堂々と姿を晒すわけにはいかなかったので、話が聞こえる場所に隠れて聞き耳を立てていた。

 

 彼らは【将軍】が来る前に既に集まっていたのもあってか、好き勝手に話し合っていた。

 話の内容から察するに、どうやら昨夜【将軍】が襲われた事が話されているらしい。

 

 

「――では、何者かが刺客を放っていたと!?」

「いや聞いた話によりますれば、城に招いたハンターの仕業と言う者も……」

「なんと恐ろしい! じゃから余所者を雇うのは反対じゃったのじゃ!」

「そうは申しましても、出身国のハンターだけでは到底数が足りますまい。緊急故に大陸各地に散らばっている者を集めるのにも長い月日が掛りましょうし……」

「そもそも何故その者らを大陸に渡らせたのじゃ! 国から出してさえいなければ、このような事態でも対処出来たはず」

「大陸には【ハンターズギルド】の本拠地がございます。そこで修行させた方が、本格的かつ強力な技術を身に着けられるとの上様の御達しであそばされ――」

「そのようなもの、見込みのある者一人を出して、技術を学ばせた上で国内で指導させればよい話ではないか! ならばこのように大勢出さずとも良かったものを!」

「そなたは上様の御意向に背くおつもりか!?」

「い、いえ、決してそのような事は……」

 

「噂では御庭を汚して鎧武者共が大挙して押し寄せ、上様までをも危険に晒したとか。さては裏切って暗殺を企てたのではあるまいな!?」

「まま、まさかそのような事は微塵も考えておりませぬ!」

「あれはハンターが四人もいたがために、万が一の成敗を下すために潜ませていたと聞くぞ?」

「それは真か?」

「……。実際に、ハンター共が上様の御命を脅かす事態になった事を鑑みると、あながち偽りではなさそうでございまするな」

 

 

 好き勝手抜かしやがる。

 

 ベナトールは内心で舌打ちした。この中に裏切り者がいるのだろうか。

 

 なんやかんやと言い合っていた【家老】達は、【将軍】が席に着いた事で静かになった。

 

「……昨夜の事は、聞き及んでおるな?」

 【将軍】は静かに口を開いた。

 

「呼び寄せたハンターに御命を狙われた由。大変由々しき事態にございまするな!」

「それは違うぞ。あれは刺客に襲われたのじゃ」

「なな、なんと!?」

「で、では宴に紛れて暗殺を企てた者がいると仰せなのですか!?」

「左様。しかもハンターの仕業に見せ掛けるように計画されておったらしい。そして刺客が仕損じた時は、ハンター共々余を殺める事になっておったようじゃ。余を殺めたハンターを成敗する。という口実でな」

「そそ、そんな恐ろしい企てを、いったい誰が……!」

「どこぞの敵方か、それとも身内が裏切ったのか……」

「まさか!」

 

「そなたらに身に覚えが無いというのであれば、首謀者を特定せよ。出来るな?」

 

「ははっ!」

「仰せのままに!」

「そなたらが真に余に忠誠を誓っておるならば、例え身内の裏切りでもその首しょっ引いて来るがよい。出来ぬというならその者も裏切りと見なす故、そのつもりでいよ」

「は、ははぁっ!」

「その者の処分は追って沙汰いたす。まずは余の前に連れてまいれ。よいな!」

「ははぁっ!!」

 

 

「どうじゃ、誰が裏切っているか分かったか?」

 

 【家老】達が引き下がり、慌てたように出て行った後、前を向いたまま独り言のように誰もいなくなった部屋で【将軍】は言った。

 

「……。今の所は、どうとも……」

 姿は現さず、彼の耳元にだけ聞こえる声でベナトールは答えた。

 

「左様か……。こちらも一応間者や忍びに調べさせてはおるのだがな」

「まだ、動きは無いんですかい?」

「なんともな。これは長丁場になるやもしれんぞ」

 

「……。【ギルドマスター】には、知らせて頂けましょうか?」

「いや出来れば事を大袈裟にはしたくない。それにそなたはここに狩りをしに来た事になっておる。それが出来ないと知れば、【マスター】は即そなたを呼び戻すであろう。呼び寄せたのは余であるとはいえ、今そのような事をされては困るのじゃ。故に知らせずにおく事を許してくれ」

「承知つかまつりました」

 

 

 

「――おい、【亜種】がいるなんて聞いてねぇぞ!?」

 

 砂浜に着くや否や【音爆弾】を投げ、【ガノトトス】共を飛び出させて宣戦布告したアルバストゥルは、その中に翠色の巨体を見付けて素っ頓狂な声を上げた。

 

「まぁ、同時に出現して二頭狩猟になる事は、【密林】でも何度かあったからねぇ」  

「仲良過ぎだろがよおめぇら、こんな遠い辺鄙な島まで一緒に来んじゃねぇよ!」

「来ちゃったもんはしょうがないでしょ。サッサと纏めて狩っちゃいましょ」

「チッ、しゃあねぇなぁ」

 

 まずは上陸した三頭を相手にする。

 丁度良いやと一頭ずつ一人で付いて闘う事にした。

 

 そんな中でも海面のあちこちから顔を出したものに四方八方から水ブレスを吐き掛けられたが、その勢いから察するに恐らく下位種であろうブレスだったので、【剛種】に対抗出来る防御力を身に着けている三人の鎧を切り裂く事は敵わなかった。

 

 ただし衝撃は受けるので、痛いのは痛い。

 

「こりゃ終わったら痣だらけになりそうだなおい……」

 そうアルバストゥルはぼやいた。

 

 三頭は逃がす事無く討伐出来たのだが、次に躍り出た一頭がすぐに海へと戻り始めた。

 

「逃がすかよぉっ!」

 力を入れつつ叫んだアルバストゥルは大型銛を投げ付けた。見事に胴体を貫いた大型銛は、綱が張る前にその命を奪った。

 

「えっと、役に立ったんだ、よね?」

「ちょっと使い方間違ってるけどね」

 それを見て二人がそんな事を言っている。

 

 体力が無いのもあってか短時間で次々に討伐出来ている死体は、これまた次々に海の中に引き込まれて行った。

 どうやら残ったものの胃袋に入っているらしい。

 

「あ~あ~、なんか勿体無いなぁ」

「下位の素材なんざ有り余ってんだろうが」

「それはアレクだけでしょっ!」

「おめぇらが狩らなさ過ぎなんだっつの」

「それもあるけど、ここの漁師さん達には貴重なんじゃないの? 【モンスター】の素材なんか一般人にはまず手に入らないわよ?」

「だねぇ。それに貴重な【トロ】がさぁ」

「おめぇが気にすんのは食いもんの事だけかよっ!」

「いやアレクも滅多に食べた事ないじゃん【トロ】。大抵は王族貴族に回っちゃうんだし」

「いやそりゃそうだがよ、剥ぎ取る暇なんざねぇっつの」

「全滅させた時に残った死体から取るしかないだろうねぇ」

「一杯残ると良いね、死体」

「それ腐った時に大変そう」

「逆にますます漁に出られなくなったりしてな」

「あ、それは困る!」

 

 三人は軽口さえ叩き合いながら狩りをし続けた。

 だがその日だけで終えられる程の数では到底無かったので、親切に宿を提供してくれた漁師宅に泊まって、翌日も狩猟に明け暮れた。

 

 

 

 事が動いたのは三日目の朝であった。

 

 あの日宴の【座敷】に料理を運んでいた者の一人が、甲冑の擦れる音と足音を幾度も聞いたというのだ。

 他にも城内で夜に数人の足音を聞いたという者がいて、その方角が朧気ながら分かって来、ある大名屋敷に辿り着いた。

 

 そこは案の定『開国』に反対していた者の家で、血の気が多く、代々において戦での勇猛果敢ぶりでも有名な血筋だった。

 早速【将軍】は城下にあるその屋敷に来ていた藩主に出頭命令を出したのであるが、彼は「身に覚え無し」とこれを拒否。

 

 そこで「謀反の気(け)あり」と兵を向けさせた。

 

 それを見越して予め戦闘の用意をしていた藩主が迎え撃ち、家来と兵が激突。広大な屋敷内や中庭などで大乱闘に。

 【将軍】から「領主は捕らえるか、不可能ならば首を刎ねよ」と命令されていた兵達だったが、彼のあまりの強さに近付く事すら敵わず、次々に死んでいった。

 

 そんな中でただ一人、異国の鎧を着て果敢に立ち向かっている大男がいた。

 

 彼は始め【刀】を使っていたのだが、激闘でそれが折れるとなんと素手で闘い始めた。

 銃弾が飛び交う中でも平然と闘い続け、四方八方から突き入れられる【槍】にも当たらない。それどころか【将軍】が抱えている百戦錬磨の兵よりも、多くの家来を彼一人によって殺された。

(もっとも、後で殆どが気絶か戦闘不能にさせられただけだと分かったのだが)

 

 【槍】の名手である領主は刃渡りの大きな物を使っており、時には家来すらも巻き込んで兵共を薙ぎ払ったりしていたのだが、彼の技をもってしてもその者には傷一つ付けられなかった。

 

「なんとも見事な腕前。名乗られよ」

 

 感服した領主がそう促したが、彼は「流れの身故……」と名乗らなかった。

 

「異国の者か?」

 

 だが何も答えず、領主を捕らえた彼は声を張り上げた。

 

「おめぇらの大将は捕らえた! 首を取られたくねぇなら大人しくしな!」

 

 声は戦闘音の中でも屋敷全体に響き渡り、たちまち家来は大人しくなった。

 戦闘音の代わりに兵共の勝利の歓声が響き始めた中で、彼は静かに領主に言った。

 

「抵抗するなら首の骨を折るぜ?」

 

「……。分かり申した。もう何もせぬ故このまま城に連れて行くがよい」

 

 【槍】を捨て、観念して座り込んだ領主を鞘を外した【刀】の帯で後ろ手に縛る。

 引き上げて立たせ、その背中を押しながら城へ向けて歩いて行こうとした、まさにその時――。

 

「殿おぉっ!!」

 

 叫びつつ脇から若武者が切り掛かって来た。

 手を伸ばした彼は、【刀】が届く前に正面でその首を掴んだ。

 

「……。命を、無駄にするもんじゃねぇぜ?」

 

 顔の見えない兜をしていて表情を窺う事は出来なかったが、諭すような声色で言われ、若武者は悔し気に唇を噛みつつ【刀】を下げた。

 それを見て彼はやや乱暴に相手を突き飛ばした。

 地面に尻餅を付いた若武者は、戦意消失したのかそのまま出て行く二人と後に続いて引き上げていく兵らを見送っていた。

 

 

「皆の者、大儀であった」

 

 城に帰って来た兵達は、【将軍】直々に労いの言葉を賜って感涙した。

 働きに応じて身分序列関係無く褒美を与えられた兵達は、再び忠誠の志を新たにしつつそれぞれの持ち場に帰るか、もしくは負傷者が治療部屋に向かって行った。

 

 牢屋に入れられた領主は、他に共犯を企てた大名がいないかなど拷問に掛けて調べられ、見せしめのために首を刎ねて人目に晒された。

 残った家来は仕える気がある者は改めて忠誠を誓わされたが、それ以外の者は全て処刑された。

 

 あの若武者がどうなったかは、分からなかった。

 

 

「良く尽してくれた。礼を申すぞ」

 

 謁見の間に呼び出されたベナトールは、彼の希望で特別に人払いをされた部屋で【将軍】に拝謁した。

 

「いえ、俺はただ御約束を果たしたまででございます」

「そなたを我が兵に加えると突然申し渡した時には、皆騒めいておったがのぉ」

 

 【将軍】は可笑しそうに言った。

 

「誰とも分からぬ大陸から呼び寄せたハンターと共にいきなり闘う事になったのですから、さぞや驚いたでしょうなぁ」

「まぁ滞在の間は皆がそなたを見ておったし、会合の際【家老】の話を盗み聞きする事も知らされて黙認しておったからのぉ」

「そうでなければ、目立ち過ぎる俺が盗み聞きなど出来なかったでしょうしね。まぁその気になれば気配を消して潜むのは簡単ではありますが、忍びの者に見付かる可能性が高かったですからね」

 

「しかし、そなたが無傷で領主を引っ立てて帰って来た時には戦慄すら覚えたぞ。真に傷一つ負うてなかった故な」

 

「……。まぁ、ハンター生活が長いと言いましょうか、一人で狩る時期が長かったと言いましょうか」

「それで武器を避ける事に長けたと言いたいのか?」

「まぁ、そんなとこでございます」

「それだけではあるまい。いかにそうだとしても、その能力は生まれ付きのものじゃと余は思う。才能であるとな」

「……。俺のランクはGRですがまだ下位でございます。上位の者はこんなものではないかと」

「謙遜せずともよい。本音を申せばこのまま常に身近に置きたいくらいなのじゃから」

「それはどうか御勘弁下さいませ」

「分かっておる。ちと我儘を言いたかっただけじゃ」

 

 と、【将軍】の傍に現れた家来が、何事かを彼に告げた。

 

「おぉ、丁度良い所で客人が参ったぞ!」

 彼は嬉しそうにベナトールに言った。

 

「誰が来られたのです?」

「そなたの連れじゃ。近くの海岸にいる【ガノトトス】を全滅させたので、他の地域に行く前に顔を出したのじゃそうな」

 

「意外に早かったな……」

 ベナトールは少し驚いた顔で言った。

 

 

 再会した四人は、事件解決を機にベナトールを加えて【将軍】に別れを告げた。

 他の地域を周りながら時には地元のハンターや派遣されたハンターとも協力して【ガノトトス】の群れを片端から全滅させていき、ハンターの取り分の素材を剥いだ後は全部、地元の希望者に分けて喜ばれた。

 

 本来ならこれ程大量に狩猟するのは生態系を乱す行為として禁止されているのだが、今回は繁殖した場所によって【シキ国】全土を脅かす危険性があったのと、淡水魚竜であるはずの【ガノトトス】が海洋で生息を拡大するようになってしまうとそれこそ海洋生物の生態系が崩れてしまうため、今回は「やむなし」としてこの狩猟に関わったハンター全員の罪は問われなかった。

 

 

 

 【ドンドルマ】に帰った一行は、それぞれを労いながら帰宅した。

 ベナトールから報告を受けた【ギルドマスター】は、【将軍】暗殺の件についてここで初めて知らされて驚いていたが、「お主が無事なら良い。あの御方の役に立てたのなら儂も鼻が高い」と、労いの言葉を掛けて称賛した。

 

 アルバストゥルは帰って来た彼を待ち侘びていたレインに熱い抱擁と長いキスで答え、早速土産として持たされた【着物】一式を渡した。

 

「わぁありがとう! 綺麗……」

 煌びやかな刺繍を施されているそれに感慨の声を漏らしている彼女に、彼は言った。

 

「着方までは教わってねぇから分かるもんに教えてもらってくれ」

「なによぉ、それくらい教わって来てくれたって良いじゃない」

「んな暇あっかよ。俺は忙しかったんだっつの!」

「そうよねぇ。お疲れ様」

「いや冗談抜きで大変だったわ。こういう事があってな……」

 

 【シキ国】へ行った事が彼にとって余程興味深い事だったのか、普段よりもかなり饒舌になって興奮気味に話しまくる彼を、レインとフィリップはこれも興奮して目を輝かせながら聞き入った。

 

 その話は長く、食事も忘れる程だったのだが、二人(+一匹)は気にならない様子でいつまでも語り合っていた。  

 

 

 

 




いつもは大まかな設定を決めても、書いていく内にそれに外れてキャラが勝手に動き出したら「そっちじゃねぇっ!」とか思いながら無理矢理戻して書いていたんですが、今回は「好きにさせたらどうなるんだろう」と、彼らの思うままに好き勝手に自由にさせてみたんですよ。
すると四人一緒に狩りをするはずだったのに将軍暗殺事件に巻き込まれてベナトールだけ別れたり、カイが捕縛弾のアイデアを出したりして次々に色んな方向に話が進み、書いていて面白かったです。

ですが「これ纏まるのか?」「終わるのか?」という不安も過りました。
上手い具合に「一つの話」として治まって良かったです(笑)


余談ですがこの話を書いた後に情報サイトで「シキ国のガノトトスは魚並みに小さくて弱く、網で捉えて陸上に引き上げるだけで死んでしまう」と書いてあるものを見付けたんですよ。
なのでその話を知っていたらこの話は作れなかったなと思いました。

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