今日も元気にメゼポルタ広場からお届けします。【完結】 作:沙希斗
今回も2019年6月5日(水) メンテナンス終了後~2019年6月26日(水) メンテナンス開始まで「ブライダルトライアル」というものが開催され、今までの歴代武器(双剣、大剣、狩猟笛、弓)の生産素材が手に入るクエスト(HR3~)と、「双剣(キャンドルトゥルース)」の強化素材を手に入れるクエスト(GR)が開催されています。
ですが今年のイベントクエストのHR枠は一つしかなく、「チャチャブーキング一匹の討伐(とBCで支給用グークラッカーを使用)」というもので小説化するのに盛り上がりに欠けたのと、後はGR100と400のもの、もしくはGR1からでも「男女ペア限定」など限られておりましたのでうちの四人は参加出来ない(小説に出来ない)ため、去年(2018年6月8日)に書いたものを投稿します。
サブタイトルはその去年のイベント名です。
それから依頼主(教官)のセリフ(クエ受ける前)はその時に公式で書かれてあったものです。
一万字を超えましたので長いです。
【温暖期】の始め頃、つまり【繁殖期】から【温暖期】への移り始めの時期に当たるこの頃は、雨が多く、降ったり止んだりと不安定になるジメジメとした時期である。
が、なぜかこんな時期に『婚活ブーム』なるものが起きるらしく、教え子を世話する【教官】は、この時期は毎年大忙しになるらしい。
「ガハハハッ!」
そんな頃、【メゼポルタ広場】を歩いていた一行は、特徴のある大笑いを背後で聞いて嫌な予感がした。
「おぉ諸君ら、丁度良い所へ」
振り向く時間すら与えられずにがっしりと肩を掴まれたアルバストゥルは、同じように身動きが取れなくなったカイと共に無理矢理振り向かされた。
「我輩だ! 教官だ!」
「ハ、ハイ。よく存じております……」
引き攣った笑いを浮かべるアルバストゥル。
「おい逃げるな貴様!」
こっそり移動しようとしたハナは、後ろから襟首を引っ掴まれた。
「世の中は今、婚活ブームだ! 様々な婚活支援依頼もあって我輩も大忙しなのだ!」
「そ、そうすか……」
「実は今、友人である後輩の結婚式を挙げる準備をしているところなのだが――」
そう言いながら【教官】は、困った顔をして一同を見回した。
「式場の候補地に幻獣【キリン】がいるらしく、ひじょ~~~に邪魔で困っているのだ……」
展開が読めたベナトールは、これも困った顔で口の端を持ち上げた。
「そこでだ! ハンター諸君に【キリン】の討伐を依頼したい!」
「えぇ……」
「わっかりましたっ!」
何故かカイだけが張り切っている。
「もしかすると結婚式の最中にトラブルが発生するかもしれん!」
「なんですと!?」
ベナトールは、怪訝な声を上げた。
「なので、そのあとも警護してくれないか!」
「……。承知しました」
『援護してくれ』とまで言われると、彼も断れないのだろう。
「ガハハハハハハ!!」
再び豪快な笑いを響かせた【教官】は、「みんなで幸せを分かち合おうではないか!」とバシバシ一同の背中を叩いてから去って行った。
「ゲホゲホッ! と、ところでよゲホッ!」
強く叩かれ過ぎてむせたアルバストゥルは、咳込みながら言った。
「何だ?」
相変わらず平然としているベナトール。この男は何があっても動じない男である。
他の二人も咳込むか背中を押さえて涙目になっているというのに。
「式場のよ、候補ってのはどこなんだろな?」
「【教官】が正式な【クエスト依頼】として出してるはずだから、【ユニス】ちゃんに聞いてみたら?」
ハナにそう言われ、それもそうだなと納得する。
ちなみに【ユニス】ちゃんというのはクエスト受付担当の【ガイド娘】の事である。
「……。【教官】から聞いた。そこは【塔】」
尋ねると、物静かであまり喋らない性格の彼女は、必要最小限の情報だけ寄越して来た。
「そっか、ありがとっ♪」
ハンターならばその性格はみんな知っており、一見冷たく見える無表情も逆に彼女の魅力となっている程なので、ハナはにっこり笑って答えた。
それに対してはにかみながら、【ユニス】も分かるか分からない程度の笑顔を返している。
念のために【依頼書】を詳しく見てみると、【サブターゲット】欄にこんな事が書かれてあった。
『頂上で拍手』
「なんじゃこりゃ???」
素っ頓狂な声を出して首を傾げるアルバストゥル。
「まあ、頂上に行ってみたら分かるんじゃないか?」
そうカイに言われて、「そだな」と彼は頂上に着くまで気にしない事にした。
【塔】に着くと、上位クエストだったのにも関わらず、全員麓からの出発だった。
念のために【アイテムボックス】を覗いてみると、【支給用狂走薬G】が入っていた。
その他も【応急薬】やら【携帯食料】なども入っており、今回は道中に危険な【モンスター】がいずにハンターの到着に合わせて【支給品】が届けられたのだと分かった。
「下位の奴もこれなら安心して上位に世話してもらえるかもな」
そう呟きつつ自分の分を取って【支給用狂走薬G】を飲むアルバストゥル。三人もそれぞれ必要な物を取った。
【教官】の事だから何か意地悪な仕掛けをしているのかと少し警戒したのだが、頂上までの道中にいる小型【モンスター】には何ら変化は無く、【ガブラス】に上空から毒を吐き掛けられて辟易したり、【ギアノス】に氷液を吐き掛けられて雪ダルマにされたりしつつ進む。
【大雷光虫】の湧くエリアではベナトールが痺れさせられたので、アルバストゥルはここぞとばかりに切り上げて麻痺を解いてやった。
特に変わった事も無く頂上に着く。
途中で【キリン】には会わなかったのでもしやと思ったが、やはり案の定頂上にいた。
ヒイィン!
こちらに気付くや否や嘶いて前方に雷を落としたそれを避ける。
「早速ご挨拶だな!」
言いながら、その角目掛けて【大剣】を抜刀攻撃するアルバストゥル。
そのまま横転してベナトールと交代し、頭を譲った。
二人はよく組んでクエストに行く仲なので、交代も極自然な流れになっている。
かといって【キリン】が気絶するような【モンスター】ではなかったのだが、いつもの調子でアルバストゥルは勝手に体が立ち位置を譲るように動いてしまっていた。
「ちょこまかすんなっ!」
【キリン】の素早い動きに翻弄されつつもその胴に切り掛かるカイ。
彼が一、二度斬って飛び退く合間にハナも反対側もしくは同じ場所で切り掛かっている。 が、【キリン】には麻痺は効かないので、いつもの二人の活躍も今回は影を潜めていた。
「毒武器持って来りゃ良かったなぁ」
「私もそう思ったんだけど、忘れちゃった」
ぼやくカイとてへっと笑うハナ。
「おめぇら、どうせそんな気ねぇだろが」
(特にハナは)確信犯だと分かっているので、アルバストゥルは特に気にしていなかった。
「おぉおぉ、効くぅ……」
そんな中、一人だけ相手が落とす雷を利用して凝りを解している者がいた。
「おいオッサン、どんだけ肩凝ってんだよてめぇはっ」
呆れるアルバストゥル。
「知らんのか? 【ハンマー】は肩や腰に負担が掛かるのだ」
「【大剣】だって負担でけぇっつの! あんたは単に歳――」
「それ以上言っちゃだめぇっ!」
彼は、何故かハナに【片手剣】の盾で吹っ飛ばされた。
「うおおぉ!?」
転がった先が頂上の端だったのを見て焦るアルバストゥル。
「危ねぇなおめぇは! そのまま落ちるとこだったじゃねぇかっ」
「ダイジョブだよ。アレクは落ちても死なないからっ」
「思いっ切り死ぬわボケ! 高さ考えろ!」
端から下を覗こうものなら立ち眩みを起こしそうな程ここは高いのだ。当然麓など見えない程に。
「真面目にやろうよ。クエ失敗したら【教官】に大目玉喰らっちゃうよ?」
「思いっきし真面目なんだが!?」
カイの言葉に突っ込むアルバストゥル。
「ハナの動きを読んで避けんもんが悪い。もっと動体視力を養え」
「あんたが異常に見え過ぎるだけなの! てめぇと一緒にすんなっ!」
「ホント一番歳取ってるとは思えないわよねぇ、ベナって人間なのかしら」
「おめぇだって歳の事言ってんじゃねぇかよっ!」
「……。俺そんなに歳喰ってるか?」
ボソッと呟いたベナトールの声を、カイは聞き逃さなかった。
「十代後半とか二十代前半とかに結婚した人なら、成人の子供がいてもおかしくない年齢では、あるよ」
「…………」
「カイ! 止め刺さないでっ!」
ハナは焦ったように言ったが、ベナトール本人は彼らが言う程には歳の事はまったく気にしていなかった。
【キリン】を利用して凝りを解すのは、単に彼自身の筋肉がそれ程ごつくて普通に揉み解すより電気が通って気持ち良いからに他ならなかったので。
裸でさえ上位【キリン】討伐を一人で成し遂げるような彼は、こんな事は日常的なものだったのだ。
そうこうしている内に無事に(といっても多少彼以外が電撃や角の犠牲になったが)【キリン】討伐を成功させる。
そうして剥ぎ取りを済ませた頃に「やぁやぁ御苦労さん!」と声がして、畏まった服装をした一行がやって来た。
「おぉ! 死んでもまだ光り輝いておる。邪魔者ではあったが、ここまで神々しいと二人の門出を神が祝っておるようだなぁ……」
感慨深げに言った恰幅の良い初老の男性に続いて、似たような年齢のふくよかな女性が優し気な表情で言った。
「本当にねぇ、これが【キリン】でなかったら、そして大人しい【モンスター】で馴れさせる事が出来ていたなら、式にも参列させてあげられたのにねぇ」
仲良さげに連れ添っている事から、恐らく夫婦なのだろう。
そして同じような年齢もしくは彼らよりは少し若い見た目の、これも夫婦と思われる男女が入って来たのを見るに、四人は新郎新婦の両親だと思われた。
「……。ここまで来るのに小型【モンスター】が結構いたはずです。怪我をした人はいませんか?」
次々にぞろぞろと頂上に入って来た数が意外にも多かったのを見て、ベナトールがそう言った。
「それは心配いらんぞ」
そう言いつつ遅れて入って来たのは【教官】だった。
「諸君ら御苦労だった。時間が無くて手が回らずにすまんかったな。吾輩は式場に着くまでの御一行の援護で精一杯だったのだ」
「いいえ、御一行様が式場に来る予定だと分かっていれば、道中の小型【モンスター】も殲滅させながら登ったのですが……。情報不足で耳に入れておらず、申し訳ありませんでした」
深々と頭を下げたベナトールに、【教官】は「なんのなんの」と笑った。
「詳しい情報を知らせて無かったのはそういう暇が無かったという事もあるが、元々吾輩が護衛しながら連れて来る算段になっていたし、ほれ式の主役の新郎新婦も吾輩の後輩だと言ったろう。つまり二人共【ハンター】だからな。【モンスター】に関しては心配いらんかったのだ。それよりも、一番排除せねばならん【キリン】に、諸君らは集中させたかったのでな」
「御心遣い、感謝致します」
「相変わらず硬いなぁ貴様は! もっと楽にしろ楽に!」
ガハハハッ! といつもの笑いで彼の背中をバシバシ叩く【教官】。彼が兜の中で困惑しているのはとっくに見抜いている様子だが、いつもの事なので止める気は無いようだ。
「さて、全員揃ったな」
落ち着いたのを見計らい、【教官】は一同を見回しながら言った。
「これより、我が後輩の【結婚式】を執り行うっ!」
張り切って声を張り上げる【教官】に、一行は「おぉ~~~っ!」と感慨の声を上げた。
すると白いベルの形をした【狩猟笛】を抱えた者が出て来て、厳かな鐘の音色を奏でた。
それにより、空気が神聖なものにガラリと変わった。
続いて、白い薔薇をあしらい、持ち手の中心が輪になった、白い【弓】が持ち出された。
矢筒はブーケの形に模してある。どうやらそれを新郎新婦が二人で持つらしい。
「二人に幸あれっ!」
一行の祝福の元、二人は力を合わせて【弓】を引き、空に向かって矢を放った。
遠くに飛んで行く矢を見送りながら、二人は幸せそうに見詰め合って微笑んだ。
どうやらそういう儀式らしい。
釣られて拍手をしていたアルバストゥルは、【教官】にこう言われた。
「【サブターゲット】達成、おめでとう!」
なるほど、こういう事だったのか。
アルバストゥルは、ようやく納得した。
荷車からウエディングケーキが運ばれて来ると、何故か【双剣】使いがその前に陣取って【鬼人化】した。
よく見るとそれは先端に火が点いた三本の蝋燭(真ん中だけ長い)のような形になっており、彼は【鬼人化乱舞】で器用にケーキに刺してあった全ての蝋燭に火を点けた。
「お見事っ!」
喝采を浴びながら彼が下がると、持ち手に【グーク(アヒルに似た小型モンスターで、最近ペットとして人気がある)】の愛らしい姿を配した【大剣】を持った二人が、しずしずとケーキの前に進み出た。
【大剣】の刃は【モンスター】を斬るようには出来ていなく、バターナイフのような、切れ味の悪そうな細い金属の板をただ取り付けただけのようなものだったので、恐らく闘うためじゃなくこの儀式のためだけに作られた物なのだろう。
それを二人で持ち、入刀。
歓声が更に大きくなった。
「素敵ねぇ……!」
うっとりと幸せそうな光景を眺めて、ハナが呟いた。
「オレ達も、しちゃう?」
それを聞いて、耳元でカイが囁く。
「しちゃおっか」
決めたようにハナが言った、まさにその時――。
「避けろハナ!」
ベナトールの緊迫した声が突如響くや否や、祝場に何かが躍り出て来た。
不意を突かれて固まった彼女は、そのまま彼に突き飛ばされた。
「ぬぅんっ!」
気合を込めてベナトールが【それ】を押し止める。彼が掴んでいたのは、輝く白い角。
「き、【キリン】!?」
「もう一頭いたのか!?」
角を掴まれたまま放電する相手を見て、たちまち周りはパニックになった。
「放せオッサン! 感電死すんぞ!!」
アルバストゥルは叫んだが、痙攣しながらもベナトールが放す様子は無い。
「チイッ!」
彼ならそうする事が分かっていたアルバストゥルは、無理にでも引き剥がそうと切り上げた。
飛ばされながらも空中で体勢を整え、受け身を取るベナトール。
あれだけの電撃をもろに食らったにも関わらずすぐに立ち上がったのを見て、やっぱバケモンだなとアルバストゥルは思った。
「おいなんかデカくねぇか!?」
改めて見て、その大きさに戦慄する。
【金冠サイズ】なのではないだろうか。
「もしかしてこいつの親なのではないだろうな!?」
討伐された【キリン】を見て、【教官】は言った。
確かに通常のサイズよりはやや小さかった。
【キリン】はすでに発光し、全身からバチバチと電気を放っている。
「もしかして、怒ってる?」
「なんか、そうみたい……」
と、背後から別の嘶きが起こり、電撃が襲って来た。
「うわわっ!?」
「きゃあっ!?」
カイとハナが悲鳴を上げながら逃げると、何故かもう一頭の【キリン】がいた。
相手も似たような大きさをしている。つまり【金冠】もしくは【銀冠】クラスである。
「【御両親】の、登場ってか」
もう一頭もすでに放電しているのを見て、アルバストゥルは不敵に笑いながら言った。
「すぐにここから避難して下さい! 後は我々に――」
「危ねぇっ!」
ベナトールが言い終わらぬ内に一行に向けて雷撃が放たれた。幸いにも【キリン】のそれは【フルフル】のブレスような帯電しながら地面を這うものではなく、ある程度の定位置に雷を落とすようなものなため、落ちる所を見極めて避ければ躱せる。
だが一般人が躱し切れない速度なので、アルバストゥルは先回りしてガードした。
「あ、ありがとう……」
「礼は良いから早くここから逃げてくれ! あんたらがいたら巻き込んじまうぜ!」
「分かった! 早く逃げよう!」
一般人が頂上から出たのを確認した彼だが、まだ残っている者が二人いた。
「俺達も闘います!」
今まで主役だった、新郎新婦である。
「馬鹿かおめぇらは! 結婚してすぐに死ぬようなもんを俺が許すと思ってんのかよ!?」
「俺達だって【ハンター】です。いつでも死ぬ覚悟は出来ています! それに、貴方方が命を懸ける程の相手が二頭もいるのに、ただ何もせずに逃げる事なんて出来ませんっ!」
「馬鹿者! 装備もままならん者が闘える相手ではない! 貴様らが参加しても無駄死にになるだけだ! サッサと出て行けっ!」
「ですが【教官】おぐぅっ!?」
苦し気な息を吐き出したのを聞いて振り向いたアルバストゥルは、ベナトールが新郎の鳩尾に無言で拳を叩き込んだのを見た。
「貴方何をくぅっ!?」
同じように新婦の首に手刀を叩き込み、彼はぐったりとなった二人を抱えて一旦頂上から出て行った。
「……。親なら責任を持って闘わせないようにしてくれ。また来るようなら今度は戦闘不能にさせる」
避難先にやって来て、目の前で気絶させた二人を横たえながらそう言った、兜から聞こえた凄みのある彼の声に、二人の両親は震えながら何度も頷いた。
彼の怖さを知っている新郎新婦の仲間は、「はははいっ! 責任持って見張りますっ!」と直立不動で答えた。
すぐに戻って来たベナトールを交え、戦闘を再開する。
参加したハンターは【教官】も入れて全員で七人。武器構成は【ハンマー(ベナトール)】【大剣(アルバストゥル)】【太刀(カイ)】【片手剣】が二人(ハナ、教官)、【狩猟笛】【双剣】である。
攻撃しながら奏でられる【狩猟笛】の旋律が、〈スタミナ減少無効(大)〉の効果音を出す。
先程式を開始する合図に使われた白いベル型の笛(【ホワイトブライドベル】というらしい)なので、狩場に合わない荘厳な鐘の音が響き渡る。
他の者はそれ程需要は無いが、特にスタミナ消費の多いベナトールが重宝した。
更に違う旋律を奏でた【狩猟笛】使い。これによって全員の攻撃力が底上げされた。
つまり〈攻撃力強化(大)〉の効果音である。
どうやらただの儀式用ではなく、強力な武器でもあるらしい。
「助かるぜ!」
声を掛けたアルバストゥルに、彼は一瞬こちらを向いて頷いた。
【双剣】も先程ウエディングケーキに火を点けた蝋燭のような物だったのだが、こちらも見掛けによらず強力な武器であるらしく、角に乱舞を叩き付けられた【キリン】が怯んでいる。
【鬼人化】中に空中でもアグレッシブに攻撃している事を察するに、彼は【極ノ型】の持ち主らしい。
とすれば、今現在この場にはGRが二人いるという事か。
お互いのチームに一人ずつGRがいる状態? いや【双剣】使いの仲間ならば【狩猟笛】の者もGRである可能性が高い。
だが俺らのようにランクがバラバラな可能性もある。
まぁどっちにしても上位のかなり上の方である事には間違いねぇんだろうな。【キリン】に対する立ち回りもかなり慣れてるみてぇだし。
そう考えながら、アルバストゥルは戦闘を続けていた。
自分で決めた相手の方、もしくはベナトールが狙っている方を攻撃していた彼だが、途中で区別が付かなくなったため、取り敢えず近くに来たものを攻撃する事にした。
他の者も似たようなものらしく、こちらのチームと【教官】以外のあちらのチームが入れ代わり立ち代わり目の前の敵を攻撃するようになった。
我が子を殺されて怒り心頭になっている二頭の攻撃は凄まじく、入り乱れては四方八方から雷が降り注ぐので、時には避け切れずに誰かが地面に倒れたまま痙攣するようになる。
なのでなるべくその者から注意を逸らせたり、重傷を負った者を【生命の粉塵】で助けたりする必要があった。
そんな中、アルバストゥルのすぐ近くで乱舞を続けていた【双剣】使いががくりと体勢を崩した。
「おい大丈夫か?」
支えようと手を伸ばした刹那、彼に向けて低く角を構えた【キリン】が見え――。
「くっ!」
ギリギリ間に入り込んでなんとかガードを間に合わせた彼だったが、角度が甘くて掲げた【大剣】から角がずれ、それが肋骨の一番下あたりに刺さってしまった。
「ぐおっ!?」
激痛に声を上げた直後、その角が体内に食い込んだままパリッと放電したのを感じて背筋が凍る。
が、逃れる術は無かった。
「あああああ!!!」
案の定体内に直接電気を送り込まれて仰け反りながら痙攣するアルバストゥル。
バチバチと彼の体が放電しているのを見た者は、戦慄に固まった。
「きゃああぁ!!!」
ハナの絶叫で振り向いたカイは、息を飲みつつ愕然となった。
「動け馬鹿者!」
「前を見ろ貴様ら!」
ベナトールと【教官】の叱咤で我に返り、彼を案じつつも戦闘を続ける。
が、やはりカイとハナはそれどころでは無いようだった。
【キリン】は勢い良く角を振って彼を遠くに投げ捨てた。
何度も転がって止まった先で吐血したのを見た二人は、戦況がどうなってるのかも見もせずに彼の元へ駆け出した。
それを追い掛けるように一頭が付いて行く。
「止まれ馬鹿者!」
その首にベナトールが組み付いた。
跳ねながら大暴れしているのを彼が押さえ付けている間に二人はアルバストゥルを抱え、【モドリ玉】を使って一旦そこから脱出した。
これでいきなり三人もいなくなった事になったのだが、瞬時に立ち回りを変えたリーダー格の二人によって、残った者はそれ程不利な戦況には陥らずに済んだ。
特にベナトールは一人で上位【キリン】を相手に出来るので、何人で闘っていようが立ち回りが多少変わるだけでやっている事はいつもと変わらなかった。
隣のエリアまで避難した彼らは、石の床にそっとアルバストゥルを横たえた。
ここは他の通路や螺旋階段などと比べて比較的狭く、部屋のような造りになっている。
式を挙げた一行は、どうやら人数的に広いエリアまで避難しているようで、ここにはいなかった。
「ぐっ! ゴボゴボッ!」
苦し気に吐血している彼を見て、二人は気が気じゃなかった。
呼吸が楽になるように兜を脱がせると、口の周りに結構な量の血が付いていてカイが卒倒しそうになる。
胴鎧を外すと血が噴き出している穴は肋骨の一番下あたりだけで、他には目立った傷は無いようだったのだが、体内に電気を流されているので傷のあるヶ所だけでなく他の内臓もやられている可能性があった。
だが、そんな状態でも彼は起き上がろうとした。
自分がまだ戦場にいると思っていたからだ。
「大丈夫だから! 避難したから起きないでっ」
「じっとしてろ馬鹿!」
治療しながら二人が押さえ付ける。
「……んで……」
「何だって!?」
「……なんで……こんな……所に? お前……らも、こんな……事してる……場合、じゃ……」
「放っとけば死んじゃうでしょおっ!」
「そうだよ。一人で避難させるにしても逃げた先で死んでたら元も子も無いだろぉっ!」
「……かやろ、俺より……優先、するもんが……あんだろ。相手は……上位【キリン】二頭、なんだぜ……? いくら、リーダー格……が……二人、いるっつって……も……、【キングサイズ】は……ただでさえ、攻撃力が……高ゴボッ!」
「あぁもう喋んなっ!」
「ホントはリタイアしないといけないぐらいなんだからねっ!?」
「……リタイアなんぞ、してみろ……! てめぇら……だけで、戦場に……放り投げゴボゴボッ!」
「分かったっ! 分かったから喋んな!」
彼ほどでは無いにしても傷を負っていた二人は、この際だからとお互いに回復し合った。
「いい? 少なくともあと二時間は寝てね? 言う事聞かないとおじいちゃんに言い付けるからね?」
「……だから、何で【大長老】様……なんだよ……?」
「言っとくけどそれでも全然足りないんだからな? それでも動けるようになるギリギリの時間なんだからな? だから言う事聞かないとおじいちゃんに……」
「……おめぇまで、ジジイ……呼ばわり……してんじゃ、ねぇ……よ……」
「おやすみアレク」
アルバストゥルは【ネムリ草】エキスを飲まされ、半ば無理矢理眠らされた。
二人が参戦する頃には、もう二頭共大分痛め付けられていた。
それを見て逆に足手纏いになっているのではないかと思ってしまった二人だったが、いやいやと思い直して気を高ぶらせ、吠えながら切り掛かる。
「奴を見てなくて良いのか?」
近くにいた【双剣】使いにそうカイは聞かれたが、「安全な所で眠らせたから大丈夫」と答えた。
その声に不安気な色が交ざっていたのは、彼が自分を庇って刺されたのを見ていたからなのだろう。
「あいつが来るまでに倒すぞ」
ベナトールにそう耳元で囁かれたハナは、「ベナひどい」と返した。
「もうちょっとアレクにも活躍させてあげてよぉ」
「あいつは完全に回復する前にここに来ようとするはずだ。まともに闘えない状態であってもな。そんな状態で参戦して来れば、再び大怪我を負ってしまう。それだけじゃない。あいつはまた誰かの危機を無理にでも救おうとするだろう。例えそれがそいつのミスによって隙を晒したものであっても、な」
「あれはただ【極・鬼人化】による体力が――」
自分の事を言われているのが分かった【双剣】使いは、そう言い掛けた。
「その技で体力が減り続けるのはGRなら誰でも知っている事だ。それを分かっていながら隙を晒す程体力調整をしなかったお前が悪い。そもそもその技は減り切った体力のままで闘う〈火事場〉以上に捨て身の戦闘を強いられるものだ。それを回復するなど使いこなせていない証拠だ。言い訳をするな」
彼は悔し気に押し黙った。
兜の中で、きっと唇を噛んでいるだろう。
そんな彼を【教官】がフォローした。
「ベナトールよ、そう厳しい事を言ってやるな。こ奴は今まだ修行中なのだ。もう少し大目に見てやれ」
そう言われてベナトールは、黙って戦闘に集中した。
闘いつつもハラハラしながら見守っていたハナは、彼の雰囲気で怒っていない事を察してホッと息を付いた。
【双剣】使いは闘いつつその背中をチラ見しながら、そう見せていないだけで心配してくれたのを感じてそっと心の中だけで礼を言った。
その様子を見た【教官】は、満足気に微笑んだ。
離れて演奏していて全体が見えていた【狩猟笛】使いは、どうなる事かと思いつつも丸く収まったのを見て安堵していた。
カイは蚊帳の外だったのだが、戦闘に集中していて(というよりはそうする事が精一杯で周りの様子に気を回す余裕が無くて)このやり取りには気付いていなかった。
目が覚めたアルバストゥルは、慌てて飛び起きた。
誰もいないのを見て一瞬もうクエストが終ってしまって一人だけ放って置かれたのかと焦ったが、そうだあいつらにここまで連れて来られたのだと思い出す。
立ち上がりつつ体の様子を確かめると、刺されたヶ所とその周囲の内臓に、まだ違和感がある事が分かった。
だが大した事は無い、これなら闘えると思い直し、頂上に行こうとして鎧を脱がされていた事に気付き、傍に置いてあった鎧を着直す。
気合を入れて兜を被り、いざ頂上に躍り出ると――。
「やったぞおぉ! 吾輩やったぞおぉっ!!!」
そう絶叫している【教官】がいた。
しかも叫び過ぎて咳込んでいる。
「ゲホッゲホッ……! すまぬ、ちと興奮した……」
落ち着いた様子の【教官】に近付くと、すでに二頭共討伐された後だった。
「よぉ、遅かったな」
明るめの声で迎えるベナトール。
が、わざと自分が来る前に討伐した事をアルバストゥルは見抜いていた。
「オイてめぇっ! なんで待ってくんねぇんだよ!!」
「いやすまん、つい力が余ってしまってな」
「嘘付けコラァ!」
詰め寄る彼に、「まぁまぁ」と【教官】が宥めた。
「これはこ奴なりの貴様への気遣いなのだ。察してやれ」
「分かってるから腹立つんじゃないですか! それで闘えなかった俺の身にもなって下さいよ!」
「それはオレのせいだ。すまんかった」
【双剣】使いが謝った。
「あんたが謝る必要はねぇよ。怪我してたみてぇだが、大丈夫だったか?」
「あれは怪我でああなったんじゃないんだ。【極・鬼人化】で体力を消耗していてな、スタミナ回復も出来なくなってて乱舞を続けられなくなってただけなんだ」
「そうか。どっちにしても無事なら良いや」
兜の中でニッと笑っているのを雰囲気で察した彼は、余計に申し訳ない気持ちになった。
「ほれ、剥ぎ取れ剥ぎ取れ!」
有無を言わせず討伐された二頭の【キリン】の前にアルバストゥルを追いやる【教官】。
「俺そんな活躍してないっすけど、剥ぎ取って良いんですかね?」
自分が付けた傷が殆ど無いのを見て、そう言う彼。
「何を言うか! 参加した事に意義があるのだ! 遠慮するでないっ!」
ガハハハッ! と背中を叩かれて、彼は咳込みつつ剥ぎ取った。
「うむっ! 良い狩猟であったっ!」
満足気な【教官】を見ながら、ふと【狩猟笛】使いが言った。
「なんか、忘れてる気がするんだが……」
「はて……?」
首を傾げる【教官】に、思い出したハナが叫んだ。
「あぁっ! 御一行様がそのままじゃん!」
「おぉう! そうであった!」
「てか、貴方の友人の大事な式だったんでしょおがっ! なんで忘れてんですかっ」
カイが呆れて突っ込んだ。
急いで避難先に赴いた狩猟メンバー達は、「どうせ長い狩猟になるから」という理由で待っている間にパーティーを始めてしまい、すでにどんちゃん騒ぎに発展しているのを見て呆気に取られたのであった。
本文では「キリン」が合計三頭も出現してえらい事になってますが、実際のクエストでは上位キリン一頭のみでした。
つまり「キリンの親」が後から来た話は私が作ったものです。