今日も元気にメゼポルタ広場からお届けします。【完結】 作:沙希斗
読み直して同時期に投稿すれば良かったと思ったんですが、書いた順番が「サムライの住む国」の後だったので、そのまま投稿する事にします。
今年のものは参加してません。
(前回の「全ては二人のために」は無理矢理時期に合わせて投稿したので順番通りではなく、実際には間に何話か書いております)
依頼文は公式サイトに書かれてあったものです。
挿絵は去年撮影したものなので、今回は参加していないはずの「ベナトール(パートナー)」が参加し、話の中では参加しているはずの「カイ」と「ハナ」が何故かいないというおかしな構図になってます。
少し長め(六千字超え)です。
~地域研究家より~
東方地域の資料を預かり調査したところ、
邪気払いと子孫繁栄に縁起の良い風習があるそうなんです。
その風習を再現したいと思いますのでハンターさん、お手伝いをお願いします。
まずは、資料にあった魚を空に掲げる「こいのぼり」というものに適したモンスターを探してきてほしいのです。
その他にも、「柏餅」「ちまき」という食べ物を作るのに適した材料がある場所を聞いたので調査をお願いします!
ある日、掲示板にこんな依頼が張り出された。
それを見付けたカイが「面白そう♪」とアルバストゥルに言いに行き、カイと一緒にいたハナも連れ立ってクエストに赴く事になった。
東方、つまり【シキ国】などの地域には、【コイ】という魚が生息しているらしい。
なんでもその【コイ】という魚が滝を登ると【龍(古龍に見られるようなドラゴン型ではなく、巨大な蛇に角と髭と手足が付いたような翼の無いもの。だが翼が無いのに飛翔能力は高いのだとか)】に変身するという言い伝えがあるとかで、縁起が良いと男の子が生まれた時にその【コイ】の姿をした【こいのぼり】なるものを布で作って空に揚げて出生祝いとするのだという。
(【龍】というのは万物の霊長と言われている東方の神獣なので、それが現れるのは縁起が良い証拠なのだとか)
その【こいのぼり】とやらは大きければ大きい程良いようで、実際の【コイ】の大きさとは桁違いになる事もあるのだそうな。
【ハンターズギルド】のある大陸にはその【コイ】という魚は生息していないため、その代わりに似た形の【モンスター】である【ヴォルガノス】という【魚竜種】を代わりにあてがってその風習を祝うのが【ドンドルマ】住まいの東方出身者のやり方らしい。
【メゼポルタ広場】でもその風習にあやかってか、【ヴォルのぼり】と言われる布製の【ヴォルガノス】が着色され、高い柱に繋がれて数体空を泳いでいる(【こいのぼり】のように中が空洞になっており、風が吹くとそれを取り込んで泳ぐ仕組みになっているようだ)事がある。
それは大体【繁殖期】の終り頃の話で、なので時期的に丁度今頃であった。
「っつう事は、【ヴォルガノス】を狩りゃ良いんだよな?」
依頼を受けたカイに、アルバストゥルはそう確認した。
「うん。ターゲットの【モンスター】も【ヴォルガノス】ってなってるから、間違い無いと思うよ」
「捕獲か討伐か、どっちだ?」
「依頼書は『討伐』ってなってる」
「討伐か……」
「なんか問題でもあんの?」
ハナが聞いた。
「問題っつう程でもねぇんだが、あいつやたら体力高ぇからな。ちと時間がかかんなと思ってな」
「ベナに頼んでみる?」
「オッサンは【仕事】だとよ。『遠くに行っている』とエリザベスが言ってたから、大方【ミナガルデギルド】にでも呼ばれたんじゃねぇの?」
「管轄が違うのに、よく呼ばれてるよねあの人」
「あっちは【ハンターズギルド】の本拠地だからな。俺らと知り合う前でも【マスター】に付き添ってよく行ってたらしいぜ」
「それだけ【マスター】に頼りにされてるんだもの、忙しいわよねぇ」
「王族貴族とも対等の立場でものが言える人だからなぁ。俺前に貴族相手にタメ口張ってんの見た事あんだぜ。度胸ありまくりだっつの」
「度胸あり過ぎて、首を刎ねられる事にならなきゃ良いけど……」
「オッサンの心配より相手の心配した方が良いと思うぜ。あの人なら逆に首を刎ね兼ねんからな」
「言えてるぅ」
【火山】に着いたのは夜だったので、【ヴォルガノス】がよくいるエリアでは溶けた溶岩が赤々と光って更に禍々しい雰囲気になっていた。
「しっかし、毎回思うが何で好き好んでこんなクッソ熱い溶岩の中で平然と泳ぎ回る様な進化を遂げたんだろうな【ヴォルガノス】っつうのは」
「【モンスター】の事なんか分かんないよ」
「ホントよねぇ、お陰でこっちは暑さで死ぬ思いして狩らなくちゃならないっていうのに。お肌の乾燥は女の大敵なんだからねっ」
「おめぇは暑くても寒くても文句言ってるだけじゃねぇかよ」
「だってここ、暑すぎなんだもん!」
「確かにねぇ、とっとと狩って帰りたいね」
「受けたのおめぇだろがよカイ。愚痴ってんじゃねぇぞ」
「だって、なんか面白そうだったんだもんよ」
そんな事を言い合っている内に、観察していた溶岩海の一部が盛り上がった。
「来たぞ」
思わず身構えた三人だったが、ひょこっと首だけ出して辺りを見回している様を見て、面食らった。
「……おい、なんかやたらと頭がちっさくねぇか?」
「そう見えるね」
【ヴォルガノス】は溶岩から地面に出て来る時、首だけ外に出してしばらくきょろきょろと見回してから安全を確かめて飛び出して来る習性がある。
それは警戒心が強いのと、自身の身体が陸上で活動するよりも水中(この場合は溶岩だが)で活動する事に適しているのを知っているからである。
だからその際に出る頭の大きさでその個体の全体の大きさが大体計れるのだが、今回の個体は溶岩から僅かに頭が覗いている程度の大きさしかなかった。
【ヴォルガノス】は平均でも三十メートル近い巨大な体躯をしているのだ。だから通常ならば溶岩からハッキリとそれと分かる長い首と馬鹿でかい頭が飛び出しているはずなのだ。
と、相手が勢いよくこちらに飛び出して来た。
警戒心が強い性質ではあるが、縄張り意識も非常に強く、縄張りに入ったものは何であれ排除すべく闘いを挑む性質を持つ。もちろん自身が狩りをする時にも積極的に向かって行くのだが、ハンターの場合は狩りの対象ではなくて縄張りを侵す敵として認識される事の方が多かった。
「ちっせえぇ!」
全身を見て、改めてその小ささに声を上げて笑うアルバストゥル。五メートル無いぐらいなのではないだろうか。
「あら可愛い♪」
「ちっちゃ!」
それぞれの言葉で小ささを表現した三人であったが、いざ闘ってみると全く馬鹿に出来ない個体であった。
垂直に飛んで足元にいるものを圧死させるボディープレス時に起きる振動の範囲が広く、相手のいる場所以上に振動が起きるので、密着していなくても少し離れた場所でぐらぐらさせられる。
溶岩の塊を吐き出すかのようなブレス塊が大きく、通常避けられる範囲以上に大きく避けなければならない。
通常種ならば真っ直ぐ吐くだけのブレスを口を空に向けて垂直に吐き出す事があり、その際には広範囲にブレスが落ちる。
誰か一人をターゲットにして這いずりながらホーミングして来る攻撃の後に、通常種ではしない左右に尾を振る攻撃をして来る。なので避けて追い掛けて行き、相手が立ち止まった直後に背後から切り掛かろうとすると食らってしまう。
ただの幼体かと思っていた三人は完全に混乱した。
【ヴォルガノス】は溶けた溶岩を泳ぎ回るという生態上、その体には常に溶岩が張り付いている。
それが重なり合って固まり、元々の金色の鱗を覆い隠して黒く見える外見をしている。
外殻は冷えて固まった溶岩が折り重なった天然の鎧になっているために非常に硬く、余程切れ味の良い武器でないと弾かれてしまう。
所々で溶け、赤くてらてらと流れて光っている溶岩の部分だけは柔らかいためにそこを重点的に狙う必要があるのだが、相手も動き回るので狙うのはけっこう難しい。
ガキンッ!
案の定狙い損ねてアルバストゥルが弾かれた。【大剣】は弾かれると大きな隙を晒してしまう。そのために切れ味ゲージの長い物を使用していたはずなのだが、いつの間にか落ちてしまっていたようだ。
「しま……っ!」
頭側を攻撃して弾かれた彼を見て、それを見越したかのように相手は向き直った。
まずい!
彼の体に戦慄が走る。が、まだ硬直したまま立ち直れないでいた。
そこに特大のブレスが来た。
「うぐあぁっ!!」
苦し気な絶叫にハッとした二人が見たものは、溶けた溶岩に包まれたアレクトロの姿。
「アレク!!」
「きゃああぁっ!!」
二人の悲鳴が重なる。彼は焼かれながらも転げ回って溶岩を引き剥がしていたが、やがて動かなくなってしまった。
「アレク!」
「アレク!!」
闘いながらも必死で呼び掛けたがピクリとも動かない。
最悪の状態を二人が思い浮かべようとした時、【猫車】がやって来て彼をキャンプに運んで行った。
という事は、死んでない!
二人はそう確信した。なぜなら【猫車】は死んだ者は運ばないからである。
だが、だからといって放っては置けない。あの状態では恐らく瀕死だろう。
「一旦キャンプに退くよっ!」
「了解!」
二人はなんとか隙を見付けて【モドリ玉】を地面に叩き付けた。
テント前に転がされていたアレクトロの状態は、それは酷いものだった。
前面でブレスを受けたせいでその部分の鎧が焼け焦げ、金属部分が溶けている。剥がして見なければ詳しくは分からないが、恐らく主に胸から下にかけてが全部爛れているだろう。
相手がやたらと小さいせいで頭から溶岩を被る事は無かったようなのだが、それでも命にかかわる大火傷になっている事には変わりはない。
受けた場所が呼吸器周りじゃなかったので、ブレスを吸う事がなかったようなのが幸いだった。もしも吸っていたならば喉、気管、肺が焼け爛れて深刻な状態になっていただろう。それどころか【猫車】が来る前に死んでいたかもしれない。
とにかく一刻も早く治療しようと、二人はぐったりしたままの彼を抱えてそろそろとテント内の簡易ベッドに運び込んだ。
呼吸器に異常が無いとはいえ、虫の息になっているのは事実なのだ。このままでは確実に助からないだろう。
呼吸確保のために兜を脱がし、慌てて胴鎧を引き剥がそうとしたカイの手を止めたハナは、まず鎧を着けたままの状態で【生命の粉塵】を掛けた。溶けた金属や皮膚などが鎧にくっついていると、鎧を剥がした時に肉まで剥いでしまうからである。
様子を見ながらそろそろと鎧を剥がしていた二人は、下に見えて来た火傷の状態に絶句し、思わずギュッと目を閉じて顔を背けてしまった。
それでも泣きそうな顔になりながら焼けたヶ所の鎧を全部剥がし、吐き気さえも催しながら治療を続けた。
今にも消え入りそうだった呼吸が安定して来たのを見て安堵の長い溜息を付く。
これなら一人で寝かせたままでも容体は悪化しないだろう。
そう考えて、しばらく休ませようとそっと立ち上がってテントを出て行こうとすると、その僅かな動きにさえ勘付いたのか、アレクトロが薄目を開けた。
「アレク、聞こえる?」
ボーッとした顔でゆっくりと瞬きしている彼に、話し掛けてみる。
すぐに反応し、薄目をこちらに向けた。
「手を握ってみて」
ハナが彼の手を取って言った。
ゆっくりだったが、思ったよりも力強く握り返して来た。
「もう大丈夫だね」
笑い掛けたカイを見て、何か言いたそうに口を開けた。
「喋らなくて良いよ。しばらく寝てな」
「……すま、ん……」
彼は擦れた声で絞り出すようにそう言った。
「謝る必要ないと思うけど? 別にあんたが悪い訳じゃなかったんだし」
「……。いや……、あれは、俺のミス……だ……。切れ味の、把握が……、出来てなか……っ!」
喋っている途中で苦し気に顔を歪め、歯を食い縛るのを見て、見ちゃいられないと二人は思った。
「あぁもう喋らないでっ! せっかく安定した容体が悪化したらどうすんのよ!? それこそあんたのせいになるんだからねっ!」
「そうだよ! オレ達がいると喋りたくなるだろうから。もう行くからね。大人しく寝てろよ?」
出て行く前にハナは念を押すように、アレクトロに人差し指を突き付けてこう言った。
「少なくとも後三時間はきっちり寝ることっ! 約束破ったらおじいちゃんに言い付けるからねっ!」
出て行くハナの背中を見送りながら、なんで【大長老】様なんだよとアルバストゥルは思った。
闘える程に回復したアルバストゥルが合流してみると、体表のてらてらと光っている部分が光を失っていた。
これは溶けた溶岩の部分の流れが止まり、滞って固まり始めたからである。
とすれば、弱っている可能性が高い。
【ヴォルガノス】の体温は身に纏う溶岩の鎧が一部溶ける程に異常に高いのだが、弱ると少しばかり低くなるらしく、常に溶けててらてらと光って流れている部分が固まり始めて光を失うからである。なので(特に女性の)ハンターの間では「お肌の曲がり角が来た」などと弱ったサインの事を言ったりしていた。
「けっこう頑張ってくれてたんだな。ありがとな」
そう声を掛けながら参戦したアルバストゥルに、二人は意外という口調になった。
「アレクにお礼言われた! なんか良くない事起きそう」
「逆に考えるんだハナ! とんでもなく良い報酬が来るって」
「さすが前向きねカイ。あんたのそういうとこ好きよ♪」
「ありがとっ♪」
「あのなぁおめぇら、せっかく可愛げのあるとこ見せてやったってのに、そりゃねぇだろよ」
「それのどこが可愛いのよ。てか、お礼言われる筋合いも無いと思うんだけど」
「アレクって、変なとこ律儀だよね。やっぱ誰かと組む事が多い分影響されんのかな」
「あ、分かる。その内ベナみたいになるかもよ」
「そうなったらレインが可哀想だから、あんまり影響受けるなよ? アレク」
「そりゃどういう意味だよ」
「浮気相手が男とかだったら目も当てられうぎゃっ!?」
切り上げられたカイは遠くに飛んで行った。
「そこの影響を想像すんなっ! ってか、女だったとしても浮気しねぇっつの!」
「アレク何すんのよっ! 戦闘中に飛ばしたら危ないでしょおっ」
「打ち上げブレスが落ちそうだったのを助けてやったんだよバーカ」
「嘘付けっ!」
「ほれ逃げねぇとホーミング這いずりの餌食になんぜ? また切り上げられてぇか?」
「分かってるよっ!」
「ひっどいわねぇ。あんたそれでもカイの相棒なの?」
「その役はとっくにおめぇに移ってるはずだが?」
「あら認めてくれてたんだ」
「認めるも何も、こんな奴こっちから払い下げだっつの」
「あ、そういう事言うんだぁ」
「随分酷い言い様だな。オレすんごく悲しいんだけど」
「良いじゃねぇか『金魚のフン』同士で仲良く出来てよ」
「アレク、もしかして馴れ合い見せ付けられて妬いてんの?」
「んなガキ同士のじゃれ合いみてぇなの見て妬くかよ。それよりサッサと狩っちまおうぜ。このクソ厄介なのといつまでも付き合ってられねぇ」
「素直じゃないわねぇ」
「あぁ!? ブレスの中に切り上げんぞコラ」
「はいはい。真面目にやりましょうかね」
「……ケッ!」
討伐を済ませて帰って来た三人は、【ギルド】から報酬として【ポルタカシワ】なるものを貰った。
東方での風習で食べられている【柏餅】を模したものという事なのだが、【武具工房】に持って行くと【モッチー・クエルクス】という【ランス】になった。
その形は【柏餅】を模した盾と【ちまき】を模した鉾で出来ていた。
【ランス】なら使わねぇなと思ったアルバストゥルだったがせっかくだからと作り、面白い形だからレインに見せようと装備したまま家まで帰って行くと、丁度東方の人に教わったとかでレインが【柏餅】と【ちまき】を作ってテーブルに置いた大皿に盛り付けている最中だった。
どうやら他の仲間も呼ぶつもりでいるらしい。
「やだアレク、何その武器。面白ぉい♪」
一目見たレインが笑い転げてくれたので、やっぱ作って良かったなとほっこりした彼であった。
投稿の順番がたまたま「全ては二人のために」の次になったからとはいえ、二話連続でアレクが死にかけてるな(笑)
文の最初の方で「アルバストゥル」となっているのに途中で「アレクトロ」に変わっているのは、「神視点」もしくは「本人視点」から「二人の視点」に変わっているためです。
彼は本名をカイとハナには教えていないため、本名を知らない二人から見ると「アレクトロ」になるからです。
なので二人から視点が外れた時は「アルバストゥル」に戻ってます。
文中で「ヴォルガノスが三十メートル近くある」という話になってますが、通常サイズを剥ぎ取る時に撮影するとこうなります↓
【挿絵表示】
本文の討伐成功後に撮影したものと比べてみてね。