今日も元気にメゼポルタ広場からお届けします。【完結】 作:沙希斗
ですが毎年配信されるものではないため、去年(2018年5月12日)に書いたものを投稿しています。
依頼主及びその内容(張り紙)は公式サイトに書かれてあったものです。
~不思議な酒場の女将?~
最近のハンターの恰好、どう思う?
あんな恰好の異性がいたら、きっと狩りに集中できないわ!
そこで私がとっておきの改善方法を考えたの。
特注で服を作るから、素材集め、頼んだわよ!
ある日、掲示板にこんな張り紙を見付けたハナは、依頼書に詳しく目を通してみた。
ターゲット【モンスター】は【アイルー】五匹の討伐と【メラルー】二十匹の討伐。
「猫退治かぁ。【マタタビ】を持って行けば盗まれないだろうけど、大型【モンスター】の報告もないみたいだから、アイテム無しでもなんとかなるかもね」
そう独り言ちたハナは、カイを誘った。
狩場は【森丘】だった。
上位のクエストだったのだが、道々危険な【モンスター】がいなかったのだろう。キャンプに送られた。
一応【アイテムボックス】を覗いてみたが、やはりこちらの方は支給が遅れているらしく、支給品は届いてなかった。
想定していた事なので落胆せず、外へ出る。
キャンプから出てすぐの所には大抵【アプトノス】が群れており、のんびりと草を食む光景が見られるものなのだが、そこに【彼ら】の姿は無かった。
代わりに【メラルー】がうじゃうじゃいた。
早速手前にいた一匹がこちらに気付き、嬉しそうににゃあにゃあと鳴きながら小躍りしている。
その仕草はとても可愛らしく、つられて一緒に小躍りしたくなるようなものなのだが、この仕草を見たら要注意である。
なぜなら動作を大きく見せて仲間に知らせ、これから盗みを働くぞ! という合図だからだ。
「させないよっ」
案の定地面に伏せて構え、尻を振ってから向かって来た一匹を返り討ちにする。
が、同時に何匹も向かって来るので何度も尻餅を付かされた。
「こらっ、痛いって」
向こうでもカイがあちこちから突進を受けて翻弄されている。
が、ハナ同様その口調はまったく緊迫していない。
大型【モンスター】がいないと分かって持って来たアイテムも知れているので、例え盗まれたとしても困るのはせいぜい【回復薬】ぐらいである。
それでも盗まれるのは癪なので、取られたと分かった時点でそいつを追い掛けてぶっ叩く。そうすると返してくれるからだ。
そのエリアにいた【メラルー】の群れと二匹程交じっていた【アイルー】を全部やっつけると、次のエリアに向かった。
やはり他の【モンスター】はいず、【獣人族】だけがたむろしていた。
そうやって各エリアを回ってうじゃうじゃいる【メラルー】と、少し交じっている【アイルー】を退治していくと、依頼された必要数を達成したので帰って行く。
たまに落とし物をするので【肉球のハンコ】を期待して拾ってみたが、それは落としてくれずに【マタタビ】か【肉球のポーチ】しか拾えなかった。
【肉球のポーチ】の素朴で可愛らしいデザインが好きなハナであるが、人間用として使うには小さ過ぎるので、結局最終的には捨ててしまう事になるのが残念である。
帰って報酬で貰った【メラース解放券D】というものを【武具工房】へ持って行く。
そこに預けるようにと言われたからである。
どうやら依頼主の女将とやらが、そこである程度集めてから特注服を作ってくれる事になっているらしい。
一人につき五枚という事なので集めて持って行き、出来た知らせを受けて再度【武具工房】を訪れる。
「ここで着てくかい?」
親方にそう言われて少し迷ったものの、特注の服がどんなものか早く知りたかったのでカイと二人で試着室を借りて着てみた。
「ねぇハナぁ」
着替えていたら隣の試着室でカイが不本意な声を漏らした。
「どしたの?」
「これってさ、女物なんじゃないの?」
「そんなはずはないと思うけど……」
そう言いながら着ていたハナは、しかし自分のものもなんだか男物のような気がして違和感を感じた。
「じゃあせーので出て見せ合おっか」
「良いよ」
「せーのっ!」
同時に飛び出して見せ合った途端、お互いの格好にハナが抱腹絶倒した。
なにせ、お互いに逆の性別の衣装を着ていたからである。
「きゃははは! 似合うじゃないカイ」
「やめてくれよぉ、でもハナがあんまり違和感無いのが悔しいな」
「そぉ? カッコいい?」
「うん、なんか勇ましくて好きだよ」
「でもこれ【外装】なのよねぇ、あんまり使い道ないかも」
【外装】というのは最近【メゼポルタ】で開発された技術である。
なんでも防具のスキルはそのままに、外見だけを変えられる技術なのだとか。
なのでスキルは気に入っても防具の外見が気に入らないという者が、自分の気に入った外見の防具に作り替えてもらう事で気に入らないまま着続けるのを防ぐ事が出来るのだという。
人気がある技術という事で新しい防具より【外装】の注文の方が殺到する事もあるそうなのだが、元々スキルよりも気に入った外見の方を重視するハナにはあまり必要のない技術だったのだ。
「カイはこの【外装】使ってクエ行ってよ。似合うから」
「勘弁してくれよぉ」
【外装】の元になっている防具【メラース】は、男物がかっちりして裾の長い作りになっているのに対して、女物は胸元が大きく開き、腰回りの裾も非常に短い。機能よりもむしろ色気を重視した作りになっているのだ。
なので、男が着るとどう見ても変態にしか見えないシロモノなのである。
「あ、私良い事思い付いちゃった♪」
ハナが何かを思い付いて小悪魔のような笑みを作った。
こんな表情をするハナは、ろくな事を考えていない。
それを知っているカイは、「アレクのとこ行こ?」と言われてその意図を察し、アレク可哀想にと思った。
だが、それでも悪戯心でニヤニヤしながら一緒に彼の家に向かった。
(ちなみに【外装】は二人共解いた)
「れっいっん~~」
「はっあっい~~」
いつものように呼び掛けていつものように出て来たレインに、「ちょっとアレク借りるね~~」と言うハナ。
「どうぞどうぞ」
「オイちょっと待て、俺の是非は聞かねぇのかよ!?」
「聞く必要あんの?」
「あるわボケ!」
「ハナを前にして選択肢が存在すると思うなよ? アレク」
「なんだよその強制拉致みたいなのはよ」
「いつもの事じゃないアレク、諦めて行ってらっしゃい」
「いや諦めてもらっても困るんだが? レイン」
「良いから顔貸しな」
「おいカイ、キャラ変わってんぞ。まぁおめぇに凄まれても怖くもクソもねぇけどよ」
「言う事聞かないとおじいちゃんに……」
「何でそこで【大長老】様が出て来んだよ!? おかしいだろ!」
とにかくアルバストゥルは【森丘】に赴いた。
言われたように依頼通りに猫退治を終わらせ、報酬を五枚集めて【武具工房】へ持って行く。
「ここでは着替えないでね」
なぜかそうハナに言われ、出来た【外装】を持って、これもなぜかベナトールの部屋に連れて行かれた。
「ベナ、着替え部屋借りるね~~」
「……。それは良いが、何故ここでアレクが着替えるのだ?」
困惑しているベナトールを尻目に彼の着替え部屋に押し込まれたアルバストゥルは、訳も分からずに着替えていった。
「――なな、なんじゃこりゃあぁ~~~!!!」
しばしの沈黙の後、突然そこから聞こえて来た絶叫に、訳を知っているカイとハナが腹を抱えて笑い転げている。
ビックリして飛び上がったエリザベスとなぜか呼ばれて同じように驚いているレインを余所に、ベナトールは落ち着き払っていたのだが……。
「…………」
嫌がるのを無理矢理引き摺り出されたアルバストゥルの恰好を見て、流石に開いた口が塞がらない様子だった。
「おええぇっ!!」
改めて姿見の鏡を見て、吐き気を催すアルバストゥル。
「ちょっと! 人んちで自分の姿見て吐かないでね?」
「ぎゃはははっ! 似合うよアレク」
「……マジ殺してぇ」
「そう落ち込まないで、中々色っぽいわよ」
自分が呼ばれた訳を理解して、一応フォローするレイン。
「レイン、俺に色気を求めんな……。ってか、肩思いっ切り震わせながら言うなよなぁ」
「……。それ着てクエストに来てみろ。襲うからな」
「オッサン、それあんたが言うと冗談に聞こえねぇから!」
「ベナ、カイが着てる時は絶対に見ないでね?」
「……。是非、見てぇもんだがな」
「やめろよぉっ!」
「私も見てみたいな……」
「じゃあ、【女子会】の時に着てもらおうよレイン」
「それ良いわねぇ♪」
「いい加減【女子】の一人として考えるのやめろよなぁ」
「その時は俺もその一人に……」
「却下っ!!!」
自分以外に思い切り否定されたベナトールは、分かってて言ったのもあって豪快に笑っていた。