今日も元気にメゼポルタ広場からお届けします。【完結】   作:沙希斗

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これは「ベナトールが門柱に串刺しにされて死ぬ夢」を見たのを基に書いたものです。
なので「もしもの世界(パラレルワールド)編」として書いております。

そのまま貼り付けたら二万字を超えてしまったため、二つに分けて投稿します。


死んでもなお(もしもの世界)1

 

 

 

 【ドンドルマ】の一角、ハンター達が集う【メゼポルタ広場】からは少し離れた所に、【ドンドルマギルド】の本部がある。

 地形を利用し、あるいは岩肌の山を一部削って造られたそこは、石畳と、岩肌を削った坂道をしばらく上った上にあった。

 

 ハンターが建物の中に入るには特別な許可が必要で、従ってギルド関係者以外は普段は利用しない、もしくはその道は通らないのが通例であった。

 

 その建物の手前には【ハンターズギルド】の紋章が付いた巨大で立派な門があり、両側では巨木のような門柱を背にしてギルドの番兵が守っていた。

 許可がある時にだけ開く見上げる程の大きさの扉は、普段は閉ざされている。

 

 

 その門の前で、ある日いざこざがあった。

 

 その日はなぜかハンターが数十人押し寄せて来、番兵と押し問答を繰り返したのだ。

 連絡を受けたギルド職員が駆け付けたが、しかしその頃にはすでに何人かが中に入った後だった。

 

 彼らは全員、ある【猟団】に属していた者達であった。

 

 ちなみに【猟団】というのは、【ハンターズギルド】に登録したハンター同士が意気投合する、もしくは志を同じくするなどして作る狩猟のためのチームのようなものの事である。

 彼らには創設にあたって【猟団部屋】が与えられ、堂々とそこに【猟団名】を掲げる事を許される。

 一つの【猟団】は維持に必要な最低二人から最大では六十人にもなる大所帯な所もあり、【猟団】同士が結束して作る【同盟】なるものも含めると、最大百八十人にもの規模になる事もあるらしい。

 

 【猟団】に入っている者には彼ら同士だけが参加出来る【狩人祭】というギルド主催の大規模な祭りがあり、各【猟団】同士が【紅竜組】【蒼竜組】に分かれてギルドが提示する【モンスター】を狩り、それによって得られる【魂】の数を競う壮大なイベントが定期的に開催される。

 大変盛り上がるイベントであり、この時期には参加したハンター達でごった返す催しではあるのだが、その祭りに参加しない【猟団】や、そもそも【猟団】に入ってすらいない者にとっては、蚊帳の外どころかただただ賑々しいばかりのイベントであった。

 

 

 

 ベナトールは、この【猟団】なるものが嫌いだった。

 元々『仲間なんぞクソ喰らえ』と思っている節があるからである。

 

 それでも彼には大切な仲間が出来た。

 

 最初から彼を入れて四人で出会ったという事もあって、(最初は仕方なくだったが)誘われるがままに付き合っている内に、クエスト参加最大人数を満たしている関係でチームのようになった。

 

 だから四人で行動する事も増えたのだ。

 

 仲間が出来たのでその気になれば【猟団】を作る事も、【狩人祭】に参加する事も可能なのだが、彼はそうしてまでチームに拘る必要は無いと思っていたし、何より【狩人祭】で競う【魂】というものも気に食わなかった。

 何故なら『ギルド指定の【モンスター】をいかに多く狩猟し続けられるか』で勝敗が決まるからである。

 

 そんなものは単なる乱獲祭りと変わらない。

 彼はそう思っていた。

 

 もちろん討伐だけでなく捕獲も対象になっていたりもするのだが、【魂】を集めたいがために祭りの間中、朝から晩まで休み無しでぶっ通しになって狩猟に明け暮れている者や会得した【魂】数を自慢気に吹聴している輩を見ては、彼は軽蔑していた。

 

 

 カイとハナならば、誘えばきっと【猟団】の創設に賛成するだろう。

 

 それどころかその話が出るや否や、積極的に創設に向けて働きかけたり【狩人祭】への参加希望を出すに違いない。

 だが何よりも生態調和を重視し、乱獲を嫌うベナトールにはそんなものはあり得ない話だった。

 そして、仲間の一人であり、彼にとっては相棒と言っても良い程に絆が深くなったアルバストゥルも、彼と同じような思考の持ち主であった。

 

 なのでもしカイとハナが創設の話を持ち掛けたとしても、そして二人がもし彼らの許可無しに【猟団】を立ち上げたとしても、【狩人祭】の時だけは別行動をするのが充分に分かり切っている程に、ベナトールとアルバストゥルの二人の意思は見えていた。

 だから、それを分かっているカイとハナが【猟団】の話を二人に持ち出す事も無かった。

 

 

 

 さて話を戻そう。

 

 かの【猟団】は、【狩人祭】での成績が優秀で、いつも祭り後に発表される【魂】収得ランキングでは最上位にランクインしているような団だった。

 【猟団】の規模も大きく、前記の通りに【狩人祭】には積極的に参加している団なので、【団長】の課す【魂】の収得ノルマが厳しい事でも有名な団であった。

 

 その団の、団員の一部がどうも祭りを担うギルド職員が会議し、最終的に【ギルドマスター】が決めて【メゼポルタ広場】に掲示される各【モンスター】に割り当てられた【魂】の数と、【入魂(魂をギルドに納める事)】の仕組みに不満を抱き、ギルドへの反乱を企てたらしい。

 

 

 そんな中、遠い地域からの任務から帰ったベナトールは、【ギルトマスター】が【大衆酒場】奥にある自室ではなく本部の方に行っていると分かってそこへの坂道を歩いていた。

 【ギルドナイト】の制服を着たままでは堂々と公けの道は歩けないので、着替えている。

 

 なので今は私服姿であった。

 

 まだ何も知らされていなかった彼は、見えて来た門の前にハンターと思われる人だかりが出来ているのを見るや否や、走り出した。

 ここはハンターが普段通らない道である。そこにハンターが一人や二人ならまだしもざっと見ただけでも五十人程いるのだ。何か異変があったと見て良い。

 しかも番兵だけでなく、国で言う兵士にあたるギルド職員が対応している様子。更に近付くと、なんとその内の何人かが倒されているという事が分かった。

 

「何があった!?」

 ベナトールは番兵の一人に近寄って聞いた。

 

「ベナトール殿、【猟団】による反乱です!」

 彼は専用に支給されている【ランス】で必死に対応しながら叫んだ。

 

 彼らは【ギルドナイツ】ではないので対人戦での暗殺は許可されていない。なので防戦だけで対処している。

 兵士にあたるギルト職員は候補生とも言える程の実力があるが、これも正式な暗殺許可はされていないため、専ら防戦中心である。

 それでもハンター相手に引けを取るような事は無い。

 しかし、相手がこれ程多人数で戦闘心を剥き出しにし、ハンター規則に違反をしてまで人に【モンスター】用の武器を向ける事には想定されていないため、倒される者も出たようなのだ。

 

「なんだと!?」

 

 聞き返したベナトールは、自分が丸腰で来た事に後悔した。

 まあそれでも素手で闘えなければ相手の武器を奪えば良いと、それ程深刻には考えてはいなかった。

 

 

 反乱理由を問いただす間も無く、彼にもいくつかの武器が迫る。

 【ギルドナイツ】の一人であり、個人戦よりもむしろ集団戦を好む彼が、このような輩共の攻撃に当たる訳がない。背後から切り掛かられようが矢を射かけられようが、全身に目があるかのように避けている。

 

「暗殺許可は出ているのか?」

 

 そうしながら聞いたが、「いいえ! まだ【マスター】との連絡は付いていません!」と言われた。

 【マスター】に報告する間も無いのだろう。

 

 違反している事は事実なのだが……。

 

 そう考えたベナトールだったが、いかに個別で動いて違反者の処刑執行を許されている【ギルドナイツ】でも、【マスター】からの命令無しに自ら積極的に処刑執行を行うのは、特に大量殺戮に繋がる今回の場合は躊躇われた。

 後の処置はギルド職員がやってくれるだろうが、一般人には目に付きにくい場所とはいえ、公の道で大量の死体を晒す事になってしまうからである。

 

 が、ぐずぐずと考えている余裕は無かった。

 

「良し! 責任は俺が持つ! お前らはなるべくやられないように立ち回れ! 防戦だけで危なければ殺しても構わん! ただしなるべく止めは俺が刺す! 逃げられる者は逃げて【マスター】に連絡を!」

「畏まりましたっ!」

 

 言っている側から次々とやられていく。元々駆け付けた兵士の人数が少なかったのもあってか、対応出来ていない。

 しかも門の中にどんどんハンターが入って行く。普段は閉められているはずの扉が、二人分が並んで入れる程開いているのだ。

 

 だが、破られた形跡は無い。

 

 不審に思いながら闘ったベナトールは、それでも刃向かって来た者をほぼ素手で全滅させた。

 

 

 

「まだ中の者が残っている! お前らは早く他の職員と合流して阻止を手伝え! 俺は【マスター】を――」

 

 生き残った者に言い掛けたベナトールは、番兵の一人が【投げナイフ】を取り出したのを見た。

 

「……。何の、真似だ?」

 もう一人の番兵に投げ付けたその刃を掴み、眼光鋭く聞く。

 

 脇に放りつつ戦慄に固まっていた番兵を逃がし、ゆっくりと投げた番兵に近付こうとして、そこで自身の異変に気が付いた。

 

 体の自由が徐々に奪われていく。

 原因があるとすれば、先程掴んだ【投げナイフ】。

 

「クックク、その顔は分かっているようだな」

 番兵は不気味な笑いを浮かべながら近付いて来た。

 

「……。【麻痺投げナイフ】を用意する……とは、随分と手の……込んだ裏切り、だな……」

 舌が麻痺してろれつが回らなくなって来たベナトールは、切れ切れに言葉を繋いだ。

 

 それでも倒れないでいるのは、刃を掴んだ時に出来た傷が微かなものであったため、体内に入った麻痺成分が少ないからなのだろう。

 

「……何故、こんな……真似を……? 許可無く中にハンターを、入れる……行為は……、重罪だと、分かっている……はず……」

「……。実はな、オレも団員の一人なんだよ。反乱を起こした【猟団】のな。そしてオレは、団員達を本部内に入れる命令を受けていた」

「……変装、していた……と?」

「そう言う事だ」

 

 そう言った次の瞬間、相手は腰の後ろに手を回して【剥ぎ取り用ナイフ】を抜くと、微塵の躊躇も無くベナトールの胸部中央付近に突き立てた。

 

 満身の力が籠ったそれは刃元まで彼の体内に食い込んだ。

 たちまち鮮やかな赤色の血が吹き出し、とめどなく溢れ続けるようになった。

 

「クク、心臓を捉えたぞベナトール。終りだな」 

「…………」

 

 彼には全てが見え、分かっていた。

 

 腰に手を回した所から、それが自分に刺さる所まで全て。

 そして、向かって来た位置と勢いで、それが心臓に到達する事も。

 

 

 通常の彼であれば、そんなものなど目を閉じていても簡単に躱していただろう。

 あるいは腰に手を回した時点で何をするかを見抜いて首を掴んでいたに違いない。

 

 だが、今の彼にはそれが出来なかった。

 

 だから、全て見え、分かっていながらも受ける事しか出来なかったのだ。

 

「ククッ、鼓動が直に手に伝わって来るぜ。……ほらもう乱れて来た。このまま完全に止まるのを確認してやるよ」

「……。悪いが、それはさせてやれん……な……」

 

 ようやく痺れが取れて来たベナトールは、そう言いつつゆっくりと相手の首に手を伸ばした。

 

「――ひっ!?」

 

 まだ動けるとは思っていなかった相手は恐怖に駆られ、パニックを起こした。

 

「ばば化け物!! 死ね死ねぇっ!!!」

 

 そう叫びながらぐりぐりと掴んだままの柄を捻る。それによって傷が大きく抉られた。

 

「――っ!」

 ベナトールは苦痛を堪えつつ、その首を折った。

 

 死体を脇に投げ、ナイフの柄に手を添えて溢れ続ける鮮血を受けながら、門柱に背中からもたれ掛る。

 ゆっくりと、視界が霞んでいく。

 

 ……これまで、か……。

 

 もう長くは持たない事は自分でも分かっている。

 元々生への執着が無い彼には死への恐怖は無かったが、任務途中で死ななければならなくなったのが悔しかった。

 

 ……【マスター】、【大長老】様。任務半ばで逝く事を、お許し下……さい……。

 

 【大長老】から任命されたハナの【教官】は、ハナが上位になった時点で任務を解かれたようなものだったのだが、受けたその日から彼女を一生陰で支え、見守り続けるつもりでいた彼は、まだ任務を続行している気でいた。

 なので、薄れゆく意識の中で、【大長老】にも語り掛けていた。

 

 今彼に出来る事は、ただ静かに目を閉じ、徐々に弱っていく自分の心臓の音を聞きながら、『その時』を待つ事だけであった。

 

 

 意識が闇の中に引きずり込まれていく感覚がし、心臓が止まるより先に意識が飛ぶのだな、などと朧げな頭で考えていた時、聞き慣れた声を聞いた。

 

「オッサン!」

 

 反応して目を開け、ゆっくりと声のする方に顔を向けてみる。

 だが視界は暗いままで、相手を映してはくれなかった。

 

「……ア……レ……」

 それでも彼は、仲間の名を口にしようとした。

 

「喋んな! 今【秘薬】を――!」

 そう言ってポーチをゴソゴソする音がする。

 

 もう、良いんだ……。

 

 そう声を掛けようとして口を開きかけたその時、彼の耳に微かなリロードの音が届いた。

 

 

 

 

 

 




実際(ゲーム上)では「ドンドルマギルド本部」は出て来ません。

「猟団」の維持についてですが、今現在では一人でも「ハンターライフコース(基本料金コース)」に入って月一ぐらいの頻度でログインしていれば維持出来るようになっているようです。
なので「一人猟団(自分のキャラだけでつくる猟団)」の創設と維持もやりやすくなっております。

「狩人祭」は実際に行われているイベントで、今は2019年7月10日(水)メンテナンス終了後~2019年7月17日(水)メンテナンス開始まで猟団長が登録手続きをする「登録祭」が行われています。
実際に指定「モンスター」を狩って「魂」を競うのは次の週の定期メンテナンスまで行われる「入魂祭」からです。

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