今日も元気にメゼポルタ広場からお届けします。【完結】   作:沙希斗

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これは「世界地図」として出回っている地図を見て北方に「アクラ地方」という場所があるのを見付け、この地方からこの「モンスター」はやって来たのではないかと考えて書いた話です。

長め(七千字超え)です。


【アクラ地方】に棲む魔物

 

 

 

 【繁殖期】に入った【砂漠】は、【ゲネポス】の数が多くなるので狩場に赴くハンターには謙遜する季節になる。

 ましてや夜ともなると見え辛い所からゲネポスキックを受けて麻痺させられたりするため、昼以上に気を付けなければならない狩場になる。

 更に厄介な事には【ガレオス】の数も増えるため、広大な砂地が広がるエリアはこの二種によって大型【モンスター】への攻撃を邪魔される事があり、非常に腹立たしい。

 

 そんな【繁殖期】の夜の【砂漠】に、ある日ひょっこりと巨大な鉱石結晶が現れた。

 

 それは本当に『現れた』という表現が相応しいものだった。

 なにせ、何も無いはずの砂地エリアの一角に、いきなり地面から突き出すように生えて来たのだから。

 その鉱石結晶は月明かりに反射して煌びやかに光り、見る者を魅了、あるいは興味をそそらせた。

 

 

 それは偶然だったのか、必然だったのか。

 丁度【砂漠】のクエストを受けていた四人が、それを見付けてしまったのである。

 

【挿絵表示】

 

「綺麗な結晶ねぇ……」

「【ノヴァクリスタル】かな?」

「いや【ライトクリスタル】の性質を持っている鉱石ならば、自ら光っているはずだ。これは煌びやかだが月光を反射しているに過ぎん」

「ちょっと掘ってサンプル取って、【ギルド】に持って行って調べてもらう?」

「そうしてもらおう。私この鉱石欲しい、凄く綺麗なんだもん!」

「いや待て、遠目でいきなり生えて来たように見えた。そんな風に自然結晶が出来るはずが――っておい!」

 

 怪しんでいるアルバストゥルを無視して、ハナは【ピッケル】を担いでその結晶に近付いて行った。

 彼女がその結晶に振り被った【ピッケル】を打ち付けようとした矢先、僅かに結晶全体が動いたのを勘の鋭い二人が見逃す訳が無かった。

 

「ハナ!」

「離れろハナ!」

 

 注意を促した二人であったが、ハナは「へ?」と間抜けな声を出しつつそのまま【ピッケル】を振り下ろした。

 

 直後、巨大結晶が持ち上がり、まるで結晶を頭に持つ巨大な蛇もしくはミミズのようなものが砂地をのたうちつつ出て来て周囲を薙ぎ払った。

 

【挿絵表示】

 

 吹っ飛ばされるはずだったハナはベナトールに掻き抱かれ、代わりに彼が鞭で攻撃されたかのように打ち据えられた。

 だが彼は背を打たせたまま、彼女を庇った状態で微動だにせずに立っていた。

 

「だから言わんこっちゃねぇ!」

 それを見てアルバストゥルが叱咤するように強い口調で言った。

 

 のたうつミミズのようなものにはまだ先があり、全体が出て来た事でその正体が巨大なサソリによく似た【モンスター】だと分かった。

 先程地面に出ていた結晶は尾の先にあり、どうもそれだけ出して他は砂地に身を潜ませていたのだと推測出来た。

 

「【甲殻種】だったのか……!」

 油断無く身構えながらアルバストゥルが呟く。

 

 いきなり地面から出て来た巨大な【モンスター】に恐れを成したのか、そのエリアに群れていた【ゲネポス】や【ガレオス】が、大慌てで逃げて行った。

 

「怪我はねぇな?」

「うん。ごめんなさい……」

 

 それを聞いてようやく離れるベナトール。

 本来ならカイがその役目を担うはずなのだが、まさか結晶が動くと思っていなかった彼は、ただ驚愕で固まっているだけだった。

 

「ボサッとしてんじゃねぇカイ! 来るぞ!」

 

 アルバストゥルの声でようやく我に還った彼は、巨大なサソリが自分に突進して来ているのを見て戦慄しつつ避けた。

 立ち止まった相手はぐるりと向き直ると、自分の鋏を見せびらかすかのように持ち上げた。

 

 恐らく威嚇しているつもりなのだろう。

 

「……。どうやら大人しい【モンスター】じゃなさそうだな」

「まぁサソリ型だっつう事を考えたら、好戦的なのは推測出来るけどなぁ」

「やだ気持ち悪い。虫嫌い」

「オレも虫は好きじゃないよ」

「おめぇらなぁ、【モンスター】の外見で戦意喪失してんじゃねぇよ」

「だって嫌いなものは嫌いなんだもん」

「さっきまで『綺麗』とか抜かしてたのはどこのどいつだよ?」

「あれは結晶部分だけでしょおっ!」

「その綺麗な結晶で誘き寄せて、獲物を捕らえるタイプなのかもな」

「騙されてやんのハナ、バッカでぇ!」

  

 そんな事を言い合っていると、無視するなとばかりに相手が砂地に両鋏を差し込んで構えたのが見えた。

 

「お前ら気を付け――!」

 

 言い掛けたアルバストゥルだが遅く、高く掲げた尾先の結晶から水鉄砲のように液体が吹き出した。

 それは砂地にS字を描くようにして向かって来た。

 面食らっている三人を余所に、一早く察して避けるベナトール。

 

 と思ったが運悪く狙われていたらしく、ビーム上の液体が彼を追い掛けて避けた先に到達し、彼に掛かってしまった。

 

【挿絵表示】

 

「きゃあベナ大丈夫!?」

「おい大丈夫かよ!?」

「平気!?」

 

 相手の様子を見つつ三人が駆け寄る。

 幸い酸性の液体では無かったらしく、防具が溶けるような事にはなっていないようだった。

 

 が、彼は自身の異変を感じていた。

 全身に倦怠感が襲い、動きがままならないのだ。

 

 走ろうと思っても疲労し切ったかのように足がもつれ、思うように走れない。

 その上、掛った液体が結晶化し、見る見るうちに大きくなり始めた。

 

【挿絵表示】

 

「な、なにこれ!?」

「なんかヤバくねぇか!?」

「この結晶、剥がした方が良いんじゃ――」

 

 カイが言い掛けたその時、なんと結晶が爆発した。

 

「ぐぅおっ!?」

 ベナトールは短い声と共に吹っ飛んだ。

 

「うぎゃっ!?」

「うぉっ!?」

 それに近くにいたカイとアルバストゥルが巻き込まれる。

 

【挿絵表示】

 

「なな、何だぁ!?」

「びび、びっくりしたあぁ!」

 

 吹っ飛びはしたものの、爆発した結晶の破片を食らったとばっちりみたいなものだったので二人はそれ程大ダメージにはならなかったのだが、貫通し兼ねない程の勢いだった液体ビームを受けた上、走れない程の疲労状態だったベナトールは爆発の影響をもろに受け、飛ばされた先で倒れたままになっていた。

 

「ベナ! ベナしっかりしてぇっ!」

 

 ハナの悲鳴で駆け寄ってみると、彼の体は液体が掛ったヶ所が大きく抉れ、あちこちが爆ぜて筋肉組織が剥き出しになっていた。

 

 あまりの酷さに男二人が絶句している中で、彼はそれでも起き上がろうとしていた。

 

「無理だオッサン! もう闘えねぇって!」

「やめろ! 今起きたら死んじゃうよ!」

 

 荒い息を吐きつつ、俯せの状態から両手をついて上半身を起こそうとするのを無理矢理二人掛かりで押さえ付け、【モドリ玉】を使う。

 確認したハナも慌てて【モドリ玉】を地面に叩き付けた。

 

 

 【ベースキャンプ】の簡易ベッドに寝かせ、防具を剥がすと、その酷さが更に露わになってハナが卒倒しそうになる。

 

 深い所は骨が見えていたからだ。

 

 それでもまだ起きようとする彼を無理矢理押さえ付け、【生命の粉塵】やら【回復薬グレート】やらを傷に掛ける。 

 彼は黙って目を閉じ、荒い息を吐き続けている。

 驚異的な回復力で傷はすぐに治ったが、まだぐったりとしたままだ。

 

「……。オッサン、もしかしてスタミナが無くなってんのか?」

 

 起きようとして悶え、諦めたように力無く簡易ベッドに全身を預けた様子を見て、アルバストゥルが言った。

 

「…………」

「そうなんだな?」

 

 ベナトールは目を閉じたまま、忌々しそうな溜息を付きつつ頷いた。

 

「体力だけじゃなく、スタミナまで奪うというのか!? あの液体は……!」

「随分厄介な攻撃すんのねぇ」

 

 カイの驚愕に、ハナが同調する。

 

「……。不覚にも……受けちまったが……、当たらなければどうって事は……ねぇ、はずだ……」

 

 ベナトールは喋るのもしんどそうだ。

 

「作戦会議よりスタミナ回復が先だな。【狂走薬】とかありゃあ手っ取り早いんだがな」

「それよりついでに腹ごしらえしようよ。【こんがり肉】焼いてあげるからさ」

「おいカイ、おめぇいちいち【肉焼きセット】を持ち歩いてるとか言うんじゃねぇだろな?」

「流石にあんな嵩張るものは持ち歩いてないよ。テントに設置されてる調理器具を使うんだよ」

「それなら私が簡単なものを料理してあげる」

「ホント? なら手伝うよ♪」

「ありがとっ♪」

 

 いちゃつき始めた二人を、男二人は苦笑いして見ていた。

 

 

 腹ごしらえとベナトールの回復を待ってから、あのサソリに似た【甲殻種】を倒すために話し合った。

 未知の【モンスター】だと思われるので調査だけで終わらせようという話も出たのだが、とても調査だけで帰らせてくれるような生半可な相手じゃなさそうだからだ。

 

「――でよ、【甲殻種】だったら脚が弱ぇはずだからよ、脚に集中攻撃した方が怯みやすいんじゃねぇのか?」

「だろうな。だが奴は尾先だけでなく、鋏、頭あたりの、つまり合計四ヶ所に結晶が付いていた。あそこが部位破壊出来るかも知れん」

「尻尾が長いじゃん? あの尻尾、斬れないかな?」

「試してみる価値はありそうよね」

「んじゃよ、脚への蓄積でダウンを狙いつつ、それらの部位破壊を目指すって事でどうだ?」

「それで行くか」

「そうしよう!」

「了解っ!」  

 

 かなり大雑把な作戦だったが、闘った事の無い【モンスター】だったのもあって、様子見しながら狩るしかなかったのだ。  

 

 

 巨大結晶を見付けた《2》に再び赴いてみると、相手はその場所でゆっくり砂地を歩いていた。

 幸いながら、まだ移動していなかったようである。

 そこで背後に回って斬り付けようとしたアルバストゥルだったのだが、【大剣】が尻尾の付け根に到達する前に煩そうに尾を振られ、鞭打たれたようになって飛ばされた。

 

「いってぇな!」

 

 彼が文句を言っている間に二手に分かれて側面に回り込んだ二人が脚を連撃する。

 

 案の定『キュイィ!』と奇妙な悲鳴を上げて怯んだ。

 

 その間にも何度か叩き付けていたベナトールが、片方の鋏に付いた結晶を砕けさせる事に成功する。

 

【挿絵表示】

 

 やはりこの場所は部位破壊出来たのだ。

 

 それを見て、もう片方の鋏に【大剣】を振り下ろしたアルバストゥルだったのだが――。

 

「かってえぇっ!?」

 

 弾かれた【大剣】を勢い余ってそのまま飛ばしそうになるくらいに硬かったのだ。

 

「やはりな」

 その様子にベナトールが呟いた。

 

「どういうこったよオッサン?」

「いやな、何となくだが結晶質のものなら【斬】ではなく【打】の方が攻撃が通るような気がしたのだよ」

「そうか。なら結晶破壊はあんたに任せるぜ」

「おうよ」

 

 その会話だけで脚側に回るアルバストゥル。

 

 と、相手が尾を体に添わせるようにして、体全体を丸めながら構えた。

 

「避けろ!」

 

 声を上げた直後に回転攻撃が来た。

 咄嗟にガードしたアルバストゥルだが捲られて跳ね飛ばされた。

 体を回転させながら尾を伸ばして鞭のように振るうので、思った以上に攻撃範囲が広かったのだ。

 遠くに転がされたのをすぐに起き上がって元に戻ろうとしたら、カイも巻き込まれていたようで【回復薬グレート】を飲みつつ慌てて駆け戻っていた。

 

 それを狙うかのように液体ビームが来たが、大きく横に移動しながら避ける。

 S字を描きながら向かって来るためギリギリで避けようとすると当たるからである。

 ベナトールがやられた時に見ていたため、彼の犠牲は役に立っていた。

 

 ベナトールは攻撃を避けつつ、鋏、頭と次々に結晶を破壊していった。

 サソリ型というだけあって尾を振りかざしては刺して来る。

 巻き込まれたハナが痺れたのを見て麻痺の状態異常を持っていると分かったが、【モンスター】自身は麻痺らないらしく、麻痺属性の【片手剣】をいつも使っているハナがいくら斬り付けてもまったく麻痺る様子は無かった。

 

 結晶破壊を済ませたベナトールが、再び同じ場所を攻撃しようとして手応えが変わったのに気が付いた。

 今までよりも明らかに硬くなったのだ。

 彼の武器は総じてかなり切れ味が良く、その上リアルで〈切れ味+1〉が付いているかのようにどんなに硬い場所でも強引に攻撃を通すくらいな腕力があるのだが、それでも攻撃が通りにくくなったと思った。

 

「アレク」

「どした?」

「ちと攻撃してみてくれんか?」

 

 そこで場所を交代し、彼に譲ってみる。

 

 斬り付けたアルバストゥルは、彼が思った通りに「あれ!? 柔らかくなってる!?」と不思議そうに言った。

 

「成程な」

「どういうこったよ?」

「どうもな、手応えからして結晶が剥がれた後、つまり本体は【打】より【斬】の方が有効のようなんだわ」

「へぇ、変わった肉質してるんだね」

「それなら私達も鋏や頭を攻撃出来るって事なのかな?」

「まあそういう事にはなるが……」

「おめぇらはやめといた方が良いと思うぜ。正面に回ると尻尾で刺される確率が高くなるからな」

「それもあるが、ほれ鋏が常に高い位置にあるだろう? だから頭は良いが、鋏は高い位置まで攻撃が届く武器じゃねぇと届かんのだよ」

「縦振りならオレ届くから、その時だけ攻撃してみるよ」

「【打】が通りにくいなら、もうオッサンの活躍は無くなったなぁ」

 

 アルバストゥルは、そんな風にからかった。

 

 

 常に高い位置に持ち上げている鋏は、液体を飛ばす時だけ必ず地面に刺し込むため、ハナも届く。

 なのでこの時とばかりに一斉に三人で攻撃していると、片方の鋏が欠けるようにして抉れた。

 その痛みに耐えかねたのか、相手が悲鳴を上げつつひっくり返り、仰向けのままもがき始めた。

 

【挿絵表示】

 

「なんか痛そうねぇ」

 

 そんな事を言いながらも攻撃を続けていると、やがて起き上がって鋏を付いて踏ん張り、憎しみを吐き出すかのように吠えた。

 

 キュイィイィッ!!

 

 その耳障りな大音量に、耳を塞ぐハナ。

 直後、相手の体に異変が起きた。

 

 体全体に筋のように走り、ゆっくり明滅するように光っていた部分の色が白から黄色に変わったのだ。

 その後、一回で終わっていた尾で刺す攻撃を連続で行うようになった。

 更にもう片方の鋏が壊れ、同じようにひっくり返った後吠えると、今度は筋の色が青くなった。

 そして部位破壊が進むにつれ、攻撃も激しく、多彩になっていった。

 

 一番特徴的だったのは、まるで【ドスファンゴ】であるかのように片方の鋏で地面を掻いて構えた後、大きく体を回転させながら右、左と自分の体を振り回しつつ向かって来る攻撃が加わった事。

 

 この攻撃はその場で回転するよりも攻撃範囲が広く、体全体だけでなく振り回されて伸びた尾までかなりの勢いがあるので避けにくい。

 これをされると大回りに逃げようと思っても食らうため、前掻きの予備動作を見たら直ちに緊急回避の準備をしなければならなかった。

 だが、どうも掻いている鋏の方に逃げると当たらないという事をベナトールが見抜いてからは、緊急回避をしなくとも落ち着いて避けられるようになった。

 

 部位破壊の場所なのか、それとも部位破壊をされた数なのかは分からないが、どうやら筋の色が変わる度に攻撃が激しく、手強くなる【モンスター】らしい。

 

 そしてとうとう頭、つまり結晶が剥がされていた三ヶ所目が破壊された。

 

 ひっくり返った相手は、今度はその場で痛そうにもがくのではなく、悲鳴を上げつつ背中を砂地に打ち付けながら大暴れし始めた。

 攻撃しようにも弾き飛ばされるため、これでは暴れ終わるまで見守るしかない。

 なのに、それすら構わず尻尾に攻撃を加え続けている者がいた。

 

 ベナトールである。

 

「ちょっとベナ、危ないってば!」

「おいオッサンよ、今まで【打】の出番が無かったからっつって、こんな時に『出来る』アピールなんざしなくて良いから」

「馬鹿者アピールなぞしちゃいない。ひっくり返って尻尾が伸びている今の方が尾を斬るチャンスではないか。お前らも早く手伝え」

「斬るって、【ハンマー】でどうやって斬るつもりなんだよ」

 

 カイは呆れた。

 【ハンマー】で尻尾を攻撃しても斬れないのは、彼でも分かる程のハンター界での常識である。

 

「お前らが斬りやすいようにダメージを蓄積してやっているに決まっているだろうが。ほれサッサと来い。起き上がっちまうぞ!」

 

 そう言うので、暴れる合間を縫うようにして、三人は上手く攻撃を加えていった。

 すると、意外な程簡単に尻尾が斬れ落ちた。

 

【挿絵表示】

 

 ギュイィイィッ!!!

 

 起き上がった相手は怒りをそのまま表すかのように筋の色を赤く変え、特大に吠えた。

 全部位破壊が出来たと思われる喜びに浸る間も無く、四人は更なる攻撃の激しさを見込んで身構える。

 そして唖然とした。

 

 なんと相手が『立ち上がった』からである。

 

【挿絵表示】

 

 鋏を除いた残り四本の脚で地面を捉えた状態ではない。

 後ろ二本だけで支えて体を持ち上げたのだ。

 自身の巨体を縦にする事によって更に大きく見せ、相手を威圧するかのように。

 しかし『立ち上がった』のは僅かな間だけだった。

 

 だが、脅威はその後に続いていた。

 

 『立ち上がった』のを合図に、右、左と大きく横歩きしながら向かって来たのである。

 その攻撃は広範囲かつ大ダメージで、轢かれたカイがキャンプ送りにされた程だったのだが、傍から見ればその攻撃動作はまるで酔っ払いが千鳥足で誰彼構わず殴ろうとしてふらふらと彷徨っているかのようで、見るだけなら滑稽にさえ思えるものだった。

 

 ベナトール以外の三人は笑いが込み上げてしまい、相手が『立ち上がる』度に逃げ惑いつつもゲラゲラと笑ってしまっていた。

 

 そんな彼らを腹いせにするように、相手は構えた体を揺らして勢いを付け、なんと飛び上がって圧し潰しに来た。

 

 尻尾を斬る前にはして来なかった攻撃で、やはりこちらもダメージが高く、どうも尻尾が斬れてからが一番攻撃力があるらしいと分かった。

 つまり部位破壊をすればするほどこの【モンスター】は狩りにくくなるらしい。

 

 どの攻撃もダメージが高くなり、厄介なのを我慢しながらもとにかく攻撃を続けていると、筋を赤くしてからすぐに脚を引き摺り始めた。

 という事は、この頃にはもうかなり体力が無くなっているのだと分かった。

 その体力を補うためなのか、斬り落とされた自分の一部であった尻尾を、なんとむしゃむしゃと食べ始めたのには心底驚かされた。

 

「おいおい、どこまでたまがされるんだ? こいつは」

「部位破壊で攻撃が変わる事といい、随分ヘンテコな【モンスター】だよな」

「あんな酔っ払いみたいな攻撃するのを見れるんだから、尻尾を斬る価値はあるみたいだね。かなり手強くなるけども」

「私決めたっ。あの攻撃の仕方、『酔拳』って呼ぶ事にする」

「ぎゃははは! なんだよそれ」

「がはは! だが違ぇねぇ」

「わははは! だよね」

 

 討伐を終えた四人は、そう言って笑い合った。

 

 

 

 帰って報告すると既にいくつかの報告が上がっており、調査の結果【アクラ・ヴァシム】という【モンスター】だと分かった。

 どうやら遥か北の方、【ゴルドラ地方】から海を隔てた極北の島国【アクラ地方】で確認された【甲殻種】らしく、それがどういう訳か【セクメーア砂漠】まで生息地域を広げたらしい。

 

 それから後に【アクラ・ジェビア】という亜種にあたる【モンスター】が【沼地】の洞窟で発見されたとの報告も上がり、定着している様子から、この二種も【ドンドルマギルド】での狩りの対象として正式に許可される事となった。

 しかし二種共に手強い事には代わりが無かったので、狩猟はHR上位、SR、GRの資格者のみとなった。

 

 更に詳しい調査の結果、部位破壊の数で体液の色が変わるという事が分かった。

 それは破壊場所は関係なく、無破壊では白、一ヶ所で黄色、二ヶ所で青、三ヶ所で赤になるとの事。

 明滅していた体の筋は、体液の色がそのまま現れたものだったのである。

 その体液で【アクラシリーズ】と呼ばれる防具の色も決められるとなった。

 そのためにハンター達の間では、四色の内自分の好みの色で【アクラシリーズ】を作る事が流行り、部位破壊も慎重に行われる事となった。

 

 破壊には手順があり、ベナトールが言っていたように、始めは【打】が通って結晶を破壊した後は【斬】が有効だったため、【打】の者が先に結晶を破壊して次に【斬】に譲る必要があった。

 また、尻尾の切断にも先に【打】でダメージを蓄積させておく必要があるらしく、ベナトールがやっていた行為は偶然にも正しかったと結論付けられた。

 

  

 

 

 

  




通称「アクラ酔拳」と呼ばれている尾斬り後の立ち上がり攻撃は範囲が殊の外広い上に攻撃力もかなり高く、実装当時は即死させられては「ごめんなさい」の嵐でした(特に変種やHC)。
しかもこの頃は相手の体力も弱っているため「後もう少しで討伐出来る!」と頑張っている最中に三死になって萎える事もありました。

部位破壊には手順があり、従ってちゃんとした手順やそのためのスキルを身に付けていないハンターは、例え仲間内でも非難されたりしてました。
逆に言えばこれ程PT向きの、協力し合って倒すような「モンスター」はいないとも言えます。
亜種扱いの「アクラ・ジェビア」の方が更に難しく、手順もさる事ながら尾斬りして終わりじゃなくて更なる工程を経て初めて手に入る素材があったりするために、とにかく部位破壊が大変でした。

今回ソロ(パートナー付き)でも尾斬りに挑戦してみたんですがどうしても斬る事が出来なかったため、仕方なく挿絵では超昔のPT戦で成功したものを「アクラ酔拳」の立ち上がりと共に載せています。
(なので、ベナトールが「ハンマー」ではなく「双剣」を使っています)
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