今日も元気にメゼポルタ広場からお届けします。【完結】   作:沙希斗

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前回の「夏の夜に咲く」の続き(というよりは今年配信のイベント)です。
これはHR5(旧HR100つまり「凄腕」)から参加出来るクエストで、GRのものは「ボガバドルム」という辿異モンスター(GR200~)を討伐せよというものでした。

依頼主のセリフは公式サイトに載っていたものです。





荷物が散乱! 警戒せよ!

 

 

 

 今年の【温暖期】には、【サマーボガフェス】という温暖期限定イベントをやるのだそうな。

 だがその主催である【サマーボガフェス委員会】のスタッフが、血相を変えて【大衆酒場】に飛び込んで来た。

 

「大変だぁ! フェス設営準備をしていたらモンスターが襲って来たぁ!」

 

 その場にいたハンターのみならず一般人も騒めく中で、彼はこう続けた。

 

「これじゃ開催できねぇ! ハンターさん! お願いだぁ、何とかしてくれぇ!」

 

 設営現場には荷物が散乱し、花火用の火薬を詰め込んだ【タル】や、イベントを盛り上げるための【罠】が準備途中で放り投げられたままになっているとの事。

 なので「驚きの仕掛けがあるからなぁ、絶対壊さないでくれぇ!」と言われた。

 襲われた事であちこちに落石があるが、「黒い岩と白い岩の間なら安全だからなぁ! 注意して向かってくれぇ!」との事。

 

 たまたまそこで一人で飲んでいたベナトールは、ならばと一人で出掛ける事にした。

 何故なら相手の様子を聞くに、どうやら【ゴアマガラ】という【モンスター】のようだったからである。

 

 

 【ゴアマガラ】は【遷悠種(せんゆうしゅ)】のカテゴリーに入れられている【モンスター】である。

 【遷悠種】とは本来なら【ドンドルマギルド】の管轄内では見られなかった【モンスター】の種別の事である。

 【バルバレギルド】や、【ロックラックギルド】などの管轄で確認されていた種類の総称で、【ドンドルマギルド】管轄で種分けをしていたものと区別するために設けたカテゴリーの事である。

 

 だが【彼ら】は【ドンドルマギルド】管轄の【モンスター】及び劣悪な環境に打ち勝つためか各ギルドから報告されている個体よりも手強くなっており、なので【ドンドルマギルド】では【凄腕】と呼ばれるHR100からしか狩猟許可を出していない。

 

 ベナトールの仲間は全員【凄腕】の資格を持ってはいるのだが、彼の性格上わざわざ誘うという事はしたくなかった。

 ただ、その場に誰かがいて誘われるのなら付き合ってやらんでもないとは思っていた。

 

 

 

 さて、設営現場は【彩の滝】だというのでそこへ赴くと、言われたように各エリアに荷物や【タル】が散乱していた。

 【ゴアマガラ】が襲って来た影響で落石があり、いつもなら通れる場所が塞がっていて通れなくなっている。

 

【挿絵表示】

 

 尚且つ準備中に設置したであろう【大タル爆弾】が落石を免れた形で岩ギリギリに置いてあったりする場所もあったりし、「壊すな」と言われていたのもあって、岩と【大タル爆弾】の間を慎重に通り抜けながら進まなければならない所もあった。

 

【挿絵表示】

 

 【大タル爆弾】から怪し気な放電が出ている物もあり、どうやらそれらは【麻痺タル爆弾】ではないかと思われた。

 

 そんな感じで各エリアを周っていると、相手は地図で言う《5》にいた。

 

【挿絵表示】

 

 こちらに気付いて威嚇の声を上げるのを構わずに近付き、頭に一発。

 バックステップから地形破壊しながら突っ込んで来るのを回避。

 が、この攻撃は背後を取ってブレスで攻める魂胆だという事が分かっているため、飛び掛かりが回避出来たからといって安心していては直後に背後からブレスを受けてしまう。

 ので、振り向く暇も無く再び転がる。

 

 しかも背後を狙うブレスは一発ではない。

 黒い中に青の交じる不思議な気弾が角度を変え、三発立て続けに襲って来る。

 

 【彼ら】には目が無く、つるんとしたのっぺらぼうの顔に口だけがあるような風貌なのにもかかわらず、正確に吐いて来た。

 振り向きに合わせるように転がってそれらを回避し、相対すると、今度は体を引き、首を横に曲げるようにして構えた。

 

【挿絵表示】

 

 長めの溜めに合わせて体全体から黒青いオーラが放たれる。

 それを解放しつつ体全体を回転させると、周囲に無数の気弾が現れた。

 

【挿絵表示】

 

 一泊を置いてそれら全てがベナトール目掛けて襲って来、爆発する。

 時間差で向かって来るこの気弾は、ガード出来る武器でもガード直後に捲られて集中攻撃される。

 従って緊急回避が望ましい。が、なんと彼は気弾の合間を擦り抜けつつ逆に近付いた。

 

 既に溜めている状態だった彼は、その力を解放しつつ飛び、頭に叩き付けた。

 堪らずひっくり返り、もがく相手に数発。

 頭の甲殻が剥がれ、傷が付いたのを感じてか、忌々しそうに吠える。

 吠える度に体全体から黒青いオーラが放たれる。

 

 そしてそのオーラを吸い込む度に、ベナトールは体内から蝕まれるような違和感を感じていた。

 

 

 【ゴアマガラ】及びその成体の【シャガルマガラ】は【狂竜ウイルス】と呼ばれているオーラのような物質を出す、もしくはブレスとして吐く事が知られている。

 それを【モンスター】が吸い込むと文字通り『狂いだす』。

 そしてそれだけにとどまらず、対象を死に至らしめる。

 しかも、その『死んだ個体』がウイルスに操られ、さながらゾンビのように再び襲って来る。

 

 それは『狂竜ウイルスを植え付け、そこから新たな【ゴアマガラ】を生み出す』という、いわば【彼ら】の繁殖行動によるものという事が分かっている。

 

 それを【人間】が吸い込むとどうなるか。

 

 

 ベナトールは気だるさに襲われていた。

 なのでいつもよりも動きが鈍り、避けられる攻撃が掠ったりしていた。

 そして悪い事に、その傷が治りにくくなっているのを感じていた。

 が、同時に彼は自身の攻撃力が上がっているのも感じていた。

 これは【怪力の種】や【鬼人薬】などを飲んでいるからではない。

 衝動的に襲いたくなるような、誰もが心の奥底に隠している攻撃衝動を解放されたかのような気分になっているからである。

 恐らく今『誰か』に話し掛けられたら、例えそれが仲間であっても襲い掛かってしまうだろうと彼は思った。

 

 要するに、【人間】が吸うと死にはしないが傷が治りにくくなり、ウイルスに取り憑かれたように攻撃衝動を抑えられなくなるのである。

 

「はあぁあ……」

 

 だるい吐息を吐くと、息が黒くなっていた。

 体内を完全にウイルスに侵されたらしい。

 そしてその頃、相手にも変化が現れた。

 

 大咆哮しながら更にウイルスのオーラを撒き散らせ、エリア内が黒青い霧で覆われたようになってしまった。

 同時につるんと丸まって今まで何も無かった頭から、紫に明滅する二本の角が現れた。

 

【挿絵表示】

 

「嬉しいねぇ……。本気に値すると認めてくれてよぉ!」

 

 ベナトールはだるさを振り払うように吠え、向かって行った。

 

 

 

「…………」

 討伐を終えた瞬間に、ベナトールは座り込んだ。

 

 流石の彼でもしんどさには勝てなかった。

 【ウチケシの実】を食べ、体内からウイルスが抜けるまでそのまま倒れ込みそうになる程の倦怠感と闘いながら、やはりあいつらを誘わなくて良かったと彼は思った。

 

 自分の攻撃衝動すら抑えられないのに仲間がそうなったら、多分対処出来ない。

 いや襲って来られても俺は構わんが、巻き添えで殺したくない。  

 何より、仲間内で殺し合うような事には絶対にさせたくない。

 

 そう思った彼は、【ゴアマガラ】及び【シャガルマガラ】の依頼は例え誘われても受けないようにしようと誓った。

 

 

 

 

 




今回ベナトールだけだったのは、クエスト参加条件に「NPC同行不可」となっていたためです。
ですがG級のものではなかったとはいえ、「凄腕」扱いのモンスターを一人で狩るのは少々きつかったです。

「狂竜ウイルス」についてなんですが、他の世界では「モンスターを狂わせて死に至らしめ、尚且つその死体を操る」とされていますがこっち(フロンティア)の世界ではそれは無く、ただハンターの攻撃力が上がったり傷が治りにくくなったり(尚且つ体力が徐々に低下していったり)して、「モンスター」ではなく「ハンター」に影響を及ぼすものになっているようです。

一応ゲーム内のベナトールは「辿異種」が狩れる資格を持っていますが、ここ(話の中)ではまだGR200には上がっていないので辿異種のクエストには行けない事になってます。

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