今日も元気にメゼポルタ広場からお届けします。【完結】   作:沙希斗

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この「モンスター」が実装された時、当時は「剛種」らしい攻撃力の高さで剣士までもが一撃死させられては阿鼻叫喚になったものですが、闘い慣れて来ると私は「大剣と相性の良いモンスターだな」と思いました。



砲撃と砂塵の狭間で

 

 

 

 その日、【砂漠】の一角で突如広大な砂が盛り上がった。

 たまたま狩場に来ていたハンター達が何事かと驚愕している目の前で、【それ】は砂塵を巻き上げながら姿を現した。

 新種であるらしいその【モンスター】を調査すべく狩猟を試みた彼らは、相手の攻撃で仲間が砂塵に飲み込まれて砂地深くに消えた事で戦意を消失し、辛うじて生き残った者だけが命からがら帰って来たという。

 

 報告を受けた【ギルドマスター】は【古龍観測隊】など他の者からもいくつか上がって来たものと照らし合わせ、【剛種】のカテゴリーに入れてその【モンスター】を【飛竜種】と認定した。

 

 

 

「――おいおい、これのどこが【飛竜種】だよ?」

 

 調査の対象になったその【モンスター】を見に来たアルバストゥルは、砂塵を巻き上げながら現したその姿を見て呆れたように呟いた。

 

【挿絵表示】

 

 普段は砂地に潜っていると言うので【ディアブロス】のような姿を想像していたのだが、とても【飛竜】とは思えない。

 何故なら翼の痕跡すら無かったからである。

 【アカムトルム】がそんな感じなのでそれに近い進化をしたのかとも思ったのだが、どう見ても巨大な亀にしか見えないのだ。

 

 赤茶けた色の甲羅の縁は白くギザギザになっていて、全体的に刺々しいので厳めしくは見える。

 一番目立つのは甲羅の正面で縁からそのまま真っ直ぐ尖っている大きな角のようなもので、その上の二段構造の甲羅になっているように見える正面には何故か大きな穴が空いていた。

 体に比べて比較的になだらかな顔には目立った角や棘は無いものの、目の上にまるで眉のような張り出した部分があって、なんだか人間臭い顔付きになっていた。

 

 相手は彼を見止めると、威嚇して吠えた後息を吸いつつ横を向き、大きく息を吐き出しながら薙ぎ払った。

 それに口元の砂が巻き込まれ、まるで砂を吐き出すブレスのようになっている。

 自分に迫って来たものを落ち着いて側面に回り込むように走ったアルバストゥルは、なんだ随分と緩慢な【モンスター】だなと思った。

 首の動きが遅く、上位【グラビモス】のように慌てて緊急回避で避けなくとも簡単に回り込めたからである。

 

 やっぱ亀は亀か?

 

 そう思った彼だったが、自身がのろいのを知っているらしい相手は、それを補う攻撃を持っていた。

 突如緩慢な動作で立ち上がった相手が吠えた時、ざわざわと周囲の砂地が湧き立ち始めたのだ。

 

「なな何だ!?」

 

 慌てて離れた彼の目に映ったのは、沸騰するかのように湧き立った砂が声に応じて一気に爆発した様子だった。

 どうやら音波で周囲の砂を操っているらしい。

 

 更に面食らったのは甲羅の上に並んで空いていたいくつかの穴から、粘液で砂を固めたようなものを撃ち出した事だった。

 

【挿絵表示】

 

 甲羅の上に穴があるのは立ち上がった際に背中側が見えた事によって分かったのだが、という事は正面にある大きな穴からはもっとデカい砂の塊が撃ち出されるのかもしんねぇなと彼は思った。

 背中から撃ち出したにもかかわらず正確に自分に向かって落ちて来た塊の一つを避ける。

 それは落ちた勢いで砕け、元の砂に戻るらしかった。

 

 他の【モンスター】のように離れるとブレスを誘うようなので近付こうとすると、潜った。

 が、すぐに甲羅部分だけを上に出し、振動が起こったと思ったら思った通りに正面の穴から特大の砂の塊が撃ち出された。

 

【挿絵表示】

 

「まるで大砲だな」

 

 大穴が自分を向いている事で狙われた事を察知した彼が避けながら呟く。

 完全に楽しんでいる口調である。

 

 ややあって勢いよく出て来た相手に切り掛かろうとした彼だったが、追い掛けられて慌てて逃げた。

 人間がクロールで泳ぐかのようにジタバタと砂をかきながらいつまでも追い掛けて来る相手に、「しつけぇなおいっ!」と突っ込む。

 ようやく追うのをやめて止まってくれたのを切り掛かると、反動を付けて前足を薙ぎ払うようにして体全体を半回転させた。

 払われた砂と巨体が繰り出す勢いで、思いの外攻撃範囲が広い。

 巻き込まれて吹っ飛ばされた彼に向かって頭ごと上半身を砂に突っ込んだ相手は、勢いをつけて砂を放り上げた。

 

「ぐお、ちょ……!」

 

【挿絵表示】

 

 相手が砂に突っ込んだ衝撃で周囲の砂が何本かの円柱状に盛り上がった事でそれに取り込まれ、そこから逃れようともがいていた最中だった彼に大量の砂が降り注く。

 その圧力たるや全身が潰れるかと思う程で、彼は気が遠くなってしまった。

 

 

 目を開けて【ベースキャンプ】に運ばれた事を知ったアルバストゥルは、全身砂まみれになっているのを見てよく助かったなと思った。

 恐らく救助担当の【アイルー】は大量の砂の中に埋もれて気絶していた彼を掘り出してここまで運んだはずで、となると圧死の危険があったからである。

 体の具合を確かめると吹っ飛ばされた事による打撲以外は特に損傷は無く、流石SR用だぜと自身の鎧の丈夫さに感心したのだが、しかしそれ程頑丈な鎧は圧力がかかると自分の身を潰す事に成り兼ねないため、内臓が潰れなかった事に安堵した。

 

 

 調査を兼ねているのでそれまではあまり攻撃せずに様子を見ながら観察していた彼だったが、相手の攻撃方法がある程度分かったため、復帰したのを機に積極的に攻撃を加えていく。

 

 ブレスは遠くまで届き、なおかつ薙ぎ払うので非常に範囲が広いのだが、動き自体が緩慢な上に首元に陣取れば溜め放題だったため、『溜め四』と呼ばれるSR特有の横に構えて溜めるやり方(嵐ノ型)で切り込む。

 

【挿絵表示】

 

 溜めるのはこの最中が一番やりやすかったので、ブレスが来る度に「いらっしゃいませぇ♪」などと軽口を叩いて溜めた。

 甲羅を出して【大砲】を撃っている時も溜められるが、これは気を付けないと出て来る勢いで吹っ飛ばされる事があった。

 

 立ち上がって小さな(といってもあくまでも大砲よりは、という意味だが)砲弾を撃ち出している時は、適当に弾をばら撒いているように見えて最後に確実に自分に落ちるようなので、タイミングを見て『ガード斬り(天ノ型)』で弾いて凌いだ。

 音波と巨体を生かした周囲を薙ぎ払うような範囲の広い攻撃が多いようなので、そういう時は無理せず逃げたり『ガード斬り』で凌いだりした。

 だが『ガード斬り』はガード直後に溜めに匹敵する程の強力な斬撃を加えられるカウンター攻撃なので結構怯んでくれ、溜め攻撃を追撃出来たりしてかなり相手が嫌がっていた。

 

 破壊ヶ所は眉に見える目の上の小さな角、甲羅(いずれも欠ける)、尻尾(斬り落とせる)、前足の爪であるらしい。

 

 【剛種】のカテゴリーに入っている割には体力はそれ程無い様で、彼一人でも討伐まで持って行けた。

 思ったよりも簡単にさえ思えて拍子抜けした彼だったが、確かに攻撃力は【剛種】だったなと思った。

 

 

 帰って報告すると更に強い【覇種】【特異個体】【G級個体】もいるという報告があったとの事。

 ならば【剛種】は言わば入門編のような存在なのかもなと彼は思った。

 

 幾度かの調査の後で正式に名称が決まり、この【モンスター】は【弩岩竜(どがんりゅう)オディバトラス】と呼ばれる事になったという。

 

 

 

 

 




話の中で「剛種の入門編のような存在」という文が出て来ますが、実際にそのような扱いらしく、「凄腕」になって初めて「剛種」に挑むハンターはまず「彼」を相手に訓練するようです。

実装された時に流れた「彼」専用の戦闘BGMが私は好きになり、たまに聞きたくなると「彼」に会いに行ったりしてます(笑)
「G級特異個体」は「覇種特異個体」より更にえげつない広範囲攻撃が増えているんですが、それでも私は闘いやすいと思いました。

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