今日も元気にメゼポルタ広場からお届けします。【完結】   作:沙希斗

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これは「温泉場でアルバストゥルが刺され、カイが助ける」という夢を見たのを基に書いた話です。
風景的に「ユクモ村」だろうと思ったので、今回は「ユクモ村」が舞台になっております。

「ユクモ村」時代の彼は本名が決まっていませんでしたので「アレクトロ」表記です。
そしてカイも昔の自称「おいら」と言ってます。
「フロンティア」では彼は主に「太刀」を使ってますが、この頃は「片手剣」が主要武器でした。


湯煙に紛れて(ユクモ村編)

 

 

緑豊かな【渓流】に寄り添うようにある、小さな村、【ユクモ村】。

 そこには豊かな温泉が沸いており、その村の観光名所にもなっていた。

 それだけでなく、その村に集う【ハンター】達の、傷付いた体や疲れを癒す場所としても機能していた。

 

 その内の一つの、ハンターが集う【集会所】にある温泉の奥の方で、アレクトロは【クエスト】から帰った疲れた体を湯に委ねていた。

 ふと気配がして振り向くと、そこには見知らぬ男がいた。

 どうやら他のハンターが、クエストを受けに来たらしい。

 ここの(特に【ハンターズギルド】管轄内の温泉の)湯の成分には、【体力】や【スタミナ】が最大まで上昇する効能があるとの事なので、クエストに行く前に入っておく者が多いのだ。

 

「よぉ、あんたはこれからクエストかい?」

「……まぁそんなとこだな」

 

 当たり障りのない会話をしようと試みたアレクトロに、ふいに近付く男。

 立ち上がって避けようとしたが間に合わず、気が付くとナイフで胸を刺されていた。

 

「……何……を……!?」

 

 混乱しながらそう問うアレクトロに対し、「あんたは邪魔なんだよ……!」と耳元で囁く男。

 そしてそのまま抉るように更に深くナイフを押し込み、抜いた。

 湯面にバシャバシャと音を立てる程大量の血が溢れ、がくりと膝を付くアレクトロ。

 男が更に止めを刺そうとした時、ガヤガヤ喋りながら、【集会所】に四人のハンターが入って来た。

 咄嗟に湯の中に首から下を沈めるアレクトロ。その者らに状況を知られたくなかったからである。

 が、当たり前だが出血が更に酷くなり、湯の色が見る見る真っ赤に染まっていく。

 男はその様子を楽しむかのように、彼から少し離れた岩棚に腰掛けた。

 

「お、アレク、いたのか」 

 

 我先にと駆け込むように、楽しげな様子で温泉に入って来たハンターの一人が、アレクトロに気付き、声をかけた。

 彼の名は【カイ】。アレクトロとよくつるんではクエストに行く仲間だが、今回は他の仲間とクエストに行く様子である。

 そんな彼にニッと笑って答えるアレクトロ。

 

「なぁ、なんか妙に湯の色が赤くねぇか?」

「だな。それに、どことなく血の匂いもするような……?」

 

 他のハンターが訝しげに言っているのを、先程アレクトロを刺した男がニヤニヤ笑いを浮かべながら、「今日の湯は【血の池地獄】らしいぜ」などと答えている。 

 他の者の存在に気付いたカイは律儀にも頭を下げたが、他の仲間は「血の池地獄か~!」「ギルドも面白い事を考えたな!」などとはしゃいでいる。

 

「ねぇアレク、今日はあの人とクエに行くの?」

 

 そう聞いたカイは、アレクトロが目を閉じたまま口を開け、大きく息をしているのに気が付いた。

 

「――アレク?」

「……ん? あぁ、寝ちまってた……」

「ここで寝てたら茹だっちゃうよ」

 

 苦笑して言うカイに、「……そだな。まぁその内出るわ……」と目を閉じたまま答えるアレクトロ。

 

 なんとなく様子がおかしい。

 

 そう思って更に声をかけようとしたカイだが、仲間に呼ばれて温泉を出た。  

 来た時と同じように、ガヤガヤとクエストに出発したのを見届けたアレクトロは、彼らが去るや否や温泉から転がり出、その場に蹲った。

 

「すげぇ気力だな」

 

 アレクトロを刺した男が半ば感心したように言う。

 常人ならば、とっくに死んでいてもおかしくない出血の量だからである。

 

「……まだ、死ぬ気は、ねぇよ……」

 

 あえぎながら言うアレクトロに対し、「そうかい」と近付く男。

 そして「いいから死ねよ」と彼を蹴り飛ばし、仰向けに転がった胸の上に片足を振り下ろした。

 

「あぐっ!!!」

 

 体重をかけてぐりぐりとねじ込まれ、気が遠くなるアレクトロ。

 だが意識が暗闇の淵に沈む前に、「アレク!?」と言う声を聞く。

 

 ……カイ……?

 

 目を開けて僅かにその方向に首を動かすと、確かにカイがいた。

 

「……なぜ……、戻って来た……?」

 必死で声を絞り出すアレクトロ。

 

「アレクの様子がおかしかったから、おいらだけ【クエストリタイヤ】して来たんだ」

 そして「その足をどけろ!」と男に言う。

 

「ほぉ、【お助けマン】の登場か?」

 男はカイが来た事すら楽しんでいる様子。

 

「聞こえないのか! その汚らしい足をどけろと言ってんだ!!」

 

 男はクククと笑いつつ、こう言った。

「断ると言ったら……?」

 

 その途端、走り寄るカイ。

 

「……ば、かやろ。く……るな……!」

 

 必死の呼びかけにも従わず、男を殴ろうとする彼。

 男はアレクトロを刺したナイフを閃かせ――!!

 

が、倒れていたのは男の方だった。

 

 カイにナイフが届く前に、アレクトロが男の足を掴んで捻りつつ、横に体を回転させながら放り投げたからである。

 

「ぐおぉ!!!」

 

 投げられた勢いで足首が折れたのか、あらぬ方向に折れ曲がっている足を押さえながら転げ回っている男。

 その隙にアレクトロを担ごうとしたカイだが、力及ばず半ば引きずって逃げた。

 

 

 騒ぎを起されたくないと思ったカイは、ギルドの目が届くクエスト受注カウンターのある方へは向かわずに、反対側の【渓流】の方へ逃げていた。

 だが男が残ったままだし、湯の中も外も血まみれだったので、いずれバレそうだ。

 

「少しでも、時間稼ぎが出来るといいけど……」

 つぶやきつつ、アレクトロを見るカイ。

 

 なるべく安全な所へと目指したが、途中で倒れこむように彼と一緒に転んでしまった。

 彼は、意識が無いまま不規則な呼吸を繰り返している。

 腰だけ布を巻いた状態(温泉に入る時に必ずギルドから支給される)だからなのか、血を失い過ぎたせいなのか、時折震えてもいたりする。

 取り敢えず(これもギルドから必ず支給される)手拭いで止血してはみたものの、こんな状態じゃむやみに動かせられない。

 

「だけど、このままじゃ死んでしまう。なんとかしないと……!」

 

 泣きそうになる程の不安を抱えながら、とにかく一旦【村】まで引き上げようと、無理矢理アレクトロを抱えようとすると――。

 

 ガサッ

 ガサガサッ

 

 近くの竹林から、音が聞こえた。

 【片手剣】を構えると、ぬっと垂れ耳の【鳥竜種】が現れた。

 続いてピョンと飛び出したのは、体色は同じだが一回り程小さい、扇形の耳を持つ【鳥竜種】。

 【ジャギィ(扇耳)】と【ジャギノス(垂れ耳)】である。

 

 まずいな……。

 

 だんだん数が増えている。アレクトロの血の匂いを嗅ぎ付けて来たのだろう。

 

 せめて【ドスジャギィ】が来る前に倒さないと。 

 

 そう考えながら牽制して自分に注意を向け、じりじりとアレクトロから離れつつも攻撃の間合いを計っていると、呻き声と共に自分の名を呼ぶ声がした。

 

「気が付いたのかアレク。でもごめん、君の傍にいてあげられない」

「……げろ……」

「――え!?」

 

 微かに耳に届いたその声は、確かに「逃げろ」と言った。

 

「……こいつら……の、目的は、俺だ……。俺を置いて行け……ば……、もう襲って……来ない、はず……」

「なにバカな事言ってんだ! 置いて行けるわけないだろっ!!」

 

 案の定アレクトロに飛び掛って来たジャギィ一頭を、踏み込みつつ横に凪ぐ。

 悲鳴を上げて吹っ飛んだが、攻撃力の弱い【片手剣】ではいくら切れ味が良くても一度切ったぐらいでは倒せずに、すぐに起き上がって向かって来る。

 その一頭を相手にしている間にもう一頭が噛み付いて来たのを、盾で防いで殴り飛ばす。

 吹っ飛んだ先で幸いにも気絶してくれたので、その間に手負いの止めを刺した。

 だが、これではキリがない。

 

「……かやろ。一人であ、相手出来る数……かよ……。一緒に……食われたい、のか……?」

「いいや! アレクもおいらも食わせない!!!」

 

 そう言い放ち、果敢にも立ち向かって行くカイ。

 その間にアレクトロが狙われる事はあっても、辛うじて食われる事を彼が防いでくれていた。

 

 アレクトロは、自分の体が動かないのに疎ましささえ感じていた。

 なにせ起き上がるにも力が出ず、あえぎながらカイが闘っているのを見ている事しか出来ないのだから。

 

 

 どれぐらいの時間が経ったか、それはカイの息が上がってきた頃だった。

 まだ残っていた三頭が、ふと竹林の奥を見た。

 つられてカイが見た影は、【ジャギノス】の大きな固体よりも、更に超えている体躯の【鳥竜種】のもの。

 ゆっくり現れた【それ】は、【ジャギィ】のような扇形の耳を持ち――。

 【それ】は、倒れたままのアレクトロと、傷だらけで息を弾ませているカイを値踏みするようにゆっくり見下ろした後、天を向いて吠えた。

 

 オウッオウッ!

 

 それに答えるように、更に数を増やす【ジャギィ】と【ジャギノス】。

 とうとう【ドスジャギィ】が現れてしまったのだ。

 

「……《絶体絶命》って、やつ……、かな……?」

「う、うるさいっ! そんな事はない!!」

 

 その時、「目を閉じて下さい!」と声がして、突如光で眩まされた。

 無理に瞬きをして視界を取り戻すと、その場にいた【鳥竜種】全部がピヨピヨと目を回している。

 

「今のうちです! 早くこちらへ」

 気が付くと、アレクトロを担いだ男がいた。

 

「【ギルドナイト】!?」

 

 思わずポカーンとなったカイだったが、気を取り直して背中を追いかける。

 彼が呆けたのも無理は無い。【ユクモ村】は【ハンターズギルド】の本拠地である【ミナガルデ地方】や、ハンターが最も多いとされる【ドンドルマ】の街から遠く離れているために、【ギルドナイト】はいないと思い込んでいたからだ。

 

 追い討ちをかける【鳥竜種】共を閃光の如く蹴散らしていく【ギルドナイト】に感銘を受けながら、無事に村に着いた二人。

 当然のようにアレクトロは【ハンター】用の医務室に放り込まれ、カイは【村長】や自分を取り囲んだ【ハンターズギルド】の関係者相手に、しつこいくらいに事の次第を説明しなければならなかった。

 

 その缶詰とも言える部屋からようやく解放された彼。

 しかし今度は【クエスト】をいきなりリタイヤした説明を、一緒にクエストに行くはずだった仲間にする番が待っていた。

 心配されつつも「お前、そんなに【アレクトロ】って奴が大事なのか?」と、まるで恋人と疑われているかのように聞かれ、苦笑いするしかなかった。

 

 

 ようやく全ての事に解放されたカイは、アレクトロを見舞おうと、【ハンター】用医務室を訪ねた。

 部屋に入ると彼は上半身をベッドから起しており、「よぉ」と嬉しそうに手を上げた。

 

「アレク、もう起きてていいの?」

「おう。おかげでこの通りよ!」

 

 ハンターならどの者もやるように、回復系を飲んだ時のようなガッツポーズをしてみせるアレクトロ。

 が、次の瞬間「いででっ!!!」と胸を押さえて悶絶した。

 

「バッカだなぁ、無理するからだよ」 

 笑ってしまったカイ。

 

「まあ、元気そうで良かったよ」

「まだ《元気》っつう程でもねぇけどな」 

 

 苦笑いしたアレクトロは、急に真面目な顔をしてこう言った。

 

「まぁなんだ……。あの時お前がいなけりゃ俺は確実に死んでた。温泉の時も、【ジャギィ】共らに襲われた時も。……ありがとな」

 

 そして、「これからもよろしくな」と、カイの肩を軽く叩いた。

 

 御礼なんて滅多に言う奴じゃなかったので、驚いたカイだが嬉しくて、照れくささもあって「あったり前だろ!?」と、思い切りアレクトロの背中を叩いてまた悶絶させてしまった。

 

 アレクトロを刺した男の行方は、分からない。

 

 

 

 

 




これを読んだ友人には「カイ君が大活躍してる♪」と嬉しそうに言われました。
友人のキャラなので、彼が活躍するのは嬉しい様です(笑)
「まだ犯人が見付かってないなら続きがあるね」などと言われたんですが、多分この後「ギルドナイト」に処刑されたんだろうと思われますので続きはありません。
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