今日も元気にメゼポルタ広場からお届けします。【完結】   作:沙希斗

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「ユクモ村編」を投稿したついでに「MH2(ドス)編」も投稿する事にしました。
ただし古いもの(2016年12月20日作成)ですし、読み返すと「アレクトロ」が今(フロンティア)の性格と違っておりました(年齢も恐らく三十代だと思われる)ので、MH2世界でのみ存在するパラレルワールドのアレクと思って読んで下さい。

こちらも「アレクが刺されて殺されかける」という夢を見たのを基に書いたものですが、書いている内に「助かった場合」と「助からなかった場合」があるのが分かり、そのパターンを二つとも書いたんですよ。
なので今回はその「助かった場合」を投稿します。


八千字を超えておりますので、長いです。


妬まれ役でもいいと思った(助かった場合)~ドス世界編~

   

 

 

 

 

狩りに行く前のアレクトロが自分の部屋で、胴と頭だけインナー、後は【リオソウル】シリーズという中途半端な格好でくつろいでいると、ドアをノックする者がいた。

 

「開いてるぜ」

 

 声だけかけるとドアが開き、「ここがアレクトロの部屋だと聞いて来たんだが、あんたがそうか?」と男が入って来た。

 【ハンターレジスト】などの一連を身に着けているところを見ると、どうやらガンナーのようである。

 

「そうだが、【下位ハンター】が何の用だ?」

 

 防具が【S】【U】と呼ばれる上位物じゃないのを見て取った彼は、ベッドで仰向けに寝転んだくつろぎ姿勢のまま、億劫そうに言った。

 まあこれは下位だからというわけでもなく、【上位ハンター】でもそうしただろうが。

 

「くつろいでるところ申し訳ないんだが、目が悪いんでもう少し近付いてはくれないだろうか?」

 

 部屋の中央付近まで進みつつ、男が言う。

 どうやらベッドまで進むのは失礼だと思ったようである。

 

「目が悪いって……。それでよくハンターが務まるもんだな」

 

 アレクトロは苦笑しつつベッドから下り、目の前まで歩いて行く。

 

「いやすまない。自分はもっぱらスナイプの役で、スコープを覗いている事が多いもんで……」

 

 と、ふいにすれ違うように男が動いた。

 怪しい動きにハッとした召使のアイルーが、「旦那さん、あぶな――!」と言いかけるも間に合わず、アレクトロはナイフで胸を刺された。

 実は彼には手元のナイフが見えていた。にも関わらず、彼は避けなかった。

 刃元まで深々と刺さっているのを確認してから、男を見るアレクトロ。だが【ハンターキャップ】で隠れていて、目元はよく見えない。

 「だ、旦那さんに何するにゃあぁ!!!」と叫びつつ健気にも向かって行ったアイルーは、「邪魔をするな!」と蹴り飛ばされた。

 

「悪いな。あんたは少しばかり活躍し過ぎなんだよ」

 耳元で囁くように男が言う。

 

「……かな……」

 

 苦痛に擦れた声が聞き取れずに男が「何?」と聞き返すと――。

 

「愚かな、と言った……んだよ。……こんな事……をしたら、上位、どころかハンター資格……も……無くなる、んだぞ……」

 

 右手で男の肩をきつく掴み、上半身を預けるようにしながら、あえぎつつ切れ切れに言葉を繋ぐアレクトロ。まるでこうされる事を知っていたかのような口ぶりだった。

 

「ほざけ!」

 

 男は空いていた左手でアレクトロの上半身を押しのけると、憎しみを込めるようにナイフをひねり、抜いた。

 たちまち大量の血がほとばしり溢れたのを片手で押さえつつ、数歩後ろによろけたアレクトロは、壁に背中が当たったのを感じてそのままズルズルと床までずり落ちた。

 それでもう助からないと見て取ったのか、ニヤリと口元を歪める男。

 

「愚かだって? ……要はバレなきゃいいんだよ」

 不敵に言い放った男は、ゆっくりとした足取りで去って行く。

 

 

「……フィリップ、怪我、ないか……?」

 

 男の足音が遠ざかって行くのを耳だけで確認しつつ、アレクトロは言った。

 

「にゃあぁ! 旦那さん!!!」

 

 家具の隅でガタガタと震えていた召使アイルーは、弾かれた様に彼の元へと飛び出して行く。

 笑みを返そうとしたアレクトロは、苦痛に大きく仰け反った。

 

「だ、旦那さん! しっかり! しっかりして下さいにゃあぁ~~!!」

 

 歯を食いしばって痛みに耐えようとした彼の周りを、うろたえてただ走り回るアイルー。

 

「……回復……」

「にゃ!?」

 

 あえぎつつ必死で言おうとしている主人の言葉に飛び上がるようにして止まる。

 

「……回復を、……なんでもいい。回復出来る物を……!」

「分かりましたにゃ! 旦那さん死なないで下さいにゃあ!!」

 

 慌てて【アイテムボックス】に駆け込んだ彼は、中に飛び込まんばかりの勢いで、【緑色の瓶】をかき集めて戻って来た。

 主人が狩りの準備をしている時に、調合しているのを見ていて覚えていたからである。

 アイルーが手渡すのを待ち切れないかのように、奪うように手に取るや否や封を開けたアレクトロは、一口飲む。

 

「くっ……! ふうっ……!」

 

 むせそうになるのを堪えつつ、後はゆっくり流し込んだ。

 一瓶飲み切った後で【回復薬】の方だったと気付いたが、改めてもう一瓶【回復薬グレート】を飲むのが精一杯である。

 だが、これぐらいでは出血を止める事も出来ない。

 そこで【生命の粉】を取って来させ、苦しい息の下でなんとか【回復薬グレート】と練り合わせて即席の軟膏を作ると、呻きながら傷口に塗り込み、アイルーに手伝ってもらって、どうにか胸にきつく布を巻いた。

 これで少しの間は出血を抑えられそうである。

 

 

 応急処置を終えたアレクトロは、不安定な呼吸のまま体を【アイテムボックス】の方に引き寄せると、なんと胴鎧を引き出して身に着けた。

 

「旦那さんやめて下さいにゃ! このまま狩りに行けば死んでしまいますにゃ!」

 

 泣きながらしがみ付いて、激しく首を横に振っている召使アイルーを引っぺがすと、軽く彼の両肩に手を置きながら、アレクトロは言った。

 

「……フィリップ。よく聞け……」

 

 召使アイルーは、えぐえぐと嗚咽を漏らしながらも大人しくなった。

 

「俺は……。俺は【ハンター】だ」

「そ、そんな事分かっておりますにゃっ!」

「まあ聞け……。俺は……ハンターである以上、【フィールド】で死にたいと思う……」

「そんにゃの……。そんにゃのって、あんまりにゃ……」

 

 死を受け入れたかのような主人の言葉に、召使アイルーはショックを隠せない様子。

 涙でぐしゃぐゃになっている、ただでさえ大きな目を更に大きく見開きながら、ゆっくり横に首を振った。

 

「ボ……! ボクがどんにゃに旦那さんをお慕いしているか、分かっておりますかにゃ!? ……どんにゃに、どんにゃに旦那さんが狩りから帰って来て下さるのが嬉しいか。……どんにゃに今まで旦那さんのお世話が出来ていた事が誇らしかったか……。旦那さんは分かっておりますかにゃ!!!?」

 

 【街】に来たばかりの頃は頼りない駆け出しハンターだった主人が、【上位ハンター】として名を上げるようになったどころか、街を襲撃して来る【古龍】をも屠るまでになった事が、そしてそんな彼を陰ながらサポートしているという事が、どんなに誇らしい事だったか!

 

 一生懸命伝えようとした召使アイルーだったが、それ以上言葉にならずにわんわん泣くだけになってしまった。

 

「……俺が分かってないとでも?」

 

 優しく笑おうとしたアレクトロ。だが呼吸が苦しくて、目を閉じてしまう。

 

「だんにゃさん……!」

 

 うなだれた格好になってしまった主人にかけられた、震える声に気が付いた彼だが、そのまま大きくあえぐ事しか出来ないでいた。

 両肩を掴まれていて動けない召使アイルーは、頭を下げたまま苦しげに息をしている主人の、激しく上下している肩や背中をただ見守る事しか出来ない。

 

 

「すまん……。痛かったろ……」

 

 少しして顔を上げ、掴んでいた手を緩めたアレクトロ。

 だが笑ってくれた主人の顔は、蒼白になっていた。

(褐色の肌をしているので傍目には分からないが、長年仕えた彼には顔色が分かった)

 

「いやにゃ……。旦那さんが死ぬのは、いやにゃ……!」

 

 しゃくり上げながら何度も首を横に振っているアイルーに、「すまんフィリップ。聞いてくれ……」と再び促すアレクトロ。

 

「……このまま俺が帰って来なくても、俺を待たなくて良い……。お前は、他のハンターに仕えてくれ……」

「お断りしますにゃ! ……ボクは、ボクは旦那さん付きの召使アイルーですにゃ! 旦那さんに一生お仕えいたしますにゃ!!」

 

 ぐしゃぐしゃな顔で言い放つアイルーに、「ありがとな……」と言いながら、ゆっくり立ち上がる彼。

 かなり苦しいはずなのに、清々しい表情にすらなっているのを見た召使アイルーは、もうそれ以上すがり付くのをやめた。

 

 ふら付きながらベッドまで行き、脇に立て掛けていた大剣を背に負う。

 その重みで体がぐらりと傾いたが、なんとか倒れるのは堪えた。

 そしてサイドテーブルに置いていた兜を手に取り、覚悟を決めたように、それを被る。

 それから「じゃあな……」と、上にスライドさせていた目を護る金属部分をカシャンと下ろした。

 それを合図に、今度はゆっくりだが確かな足取りで、部屋を出て行く。

 

「待っておりますにゃ!! ボクはずっと帰りをお待ちしておりますにゃ!!」

 

 声を限りに叫ぶ召使アイルーに対し、アレクトロは背中を向けたまま、去り際に一瞬手を上げた。

 

 

「……やっぱ、【上】は無理だよな……」

 

 【マイハウス】を出たアレクトロは、そこから見える【大長老】がおられる大老殿の、大階段を見上げてつぶやいた。

 【上位】のクエストを受けるには、大長老の許可が必要なのだが……。

 

 今の体力じゃ階段の途中でくたばっちまうだろうし、そもそも階段に差し掛かった途端に、上り口で陣取ってる守護兵団のオッサンに捕まりそうだ。

 そうなりゃ異変を察知されて、クエに行くどころじゃなくなっちまう。

 

 そう考えた彼は、「【下】に行くしかねぇか……」と【大衆酒場】に向かった。

 そこでは【下位】のクエストが受けられるからである。

 

 酒場の扉を開けると、途端に喧騒に包まれた。

 

 それを懐かしく感じつつも、その音圧や人の熱気だけで倒れそうになった。

 が、どうにか耐えてゆっくり歩みを進める。

 今人にぶつかったら二度と起き上がれそうにないと思ったが、幸いにも誰にもぶつからずに済んだ。

 カウンターのいつもの場所に腰掛け、紫煙を燻らせている【ギルドマスター】が、「ほ、珍しいの」と煙を吐き出しつつ声をかけて来たのを会釈をして通り過ぎ、依頼書が貼り付けてある掲示板に向かう。

 今のアレクトロには長々と挨拶を交わす程の、体力の余裕が無かったからである。

 【上位ハンター】が下位のクエストを受けに来るのはそれほど珍しい事ではなかったのだが、それでもたった一人で【祖龍】をも屠ると噂される彼の姿を見た者数人が、多少ざわついた。

 

「――おい! あれアレクトロじゃねぇのか!?」

 

 その一角の片隅で酒を酌み交わしていた一人が、驚愕の声で囁いた。

 「何!?」ともう一人が振り向く。

 最終強化している【リオソウル】シリーズ。

 その使い込まれた蒼い鎧と同様に鈍く光る、背に帯びた【大剣】――。

 顔は兜で見えないが、おそらく間違いないはず。

 

「まさか……!? この手で心臓を抉ってやったんだぞ……!?」

 

 一番奥にいたガンナーと思しき一人が、わなわなと震える自分の右手を見つめた。

 

「おめぇ、仕損じたんじゃねぇだろうな?」

 

 最初に囁いた者に訝しげに問われ、「ま、間違いねぇって!!」と慌てて囁き返す。

 「んじゃなんで死んでねぇんだよ!」「こっちが聞きてぇよ!!」と囁き合っている間に、件のリオソウルハンターはクエスト受付カウンターに移動した。

 

「あら? 珍しいですね。アレクさんが【採集クエスト】だなんて」

 

 カウンターに差し出された依頼書を見て、受付嬢が面白気に言った。

 アレクトロといえば狩猟クエスト! と決まっているかのように、ほぼ狩猟クエストを受けるからである。

 

 しかも【リオレウス】とか【古龍撃退】とか、下位でも厳しいものばかりを好んでいたし。

 そういえば「裸で挑戦する!!」とか豪語して、本当に討伐してのけた事もあったっけ。

 

 受付嬢が懐かしく昔を思い出してクスクス笑っていると、「……まあ、たまには基本に戻ろうと思ってね……」と、静かに言われた。

 珍しい事もあるもんだと受付を済ませようとした彼女に、「待て」としわがれた声がかかる。

 その方向を見る二人。

 

「……心臓の鼓動が乱れておる。そんな身体でクエストに行けば、【ランポス】でさえ太刀打ち出来ぬ事ぐらい分かっておるじゃろうに、なぜ受けようとする?」

 

 その言葉に驚愕したように、アレクトロを見る受付嬢。

 

「……御許し下さいギルドマスター。……俺は、大自然に(いだ)かれて眠りたいのです……」

「【上位ハンター】が【下位ランポス】に食い殺される。という、汚名を晒してもか……?」

 

 黙って俯くアレクトロ。

 受付嬢は不安気な面持ちで、ギルドマスターと彼とに忙しなく視線を移している。

 

 

「ふ~~~~~っ」

 

 しばしの沈黙の後、ギルドマスターは今肺にある空気を全て吐き出すように、長い溜め息と共に紫煙を吐き出した。

 そして、「なぜ、生きる努力をせん?」と諭すように言った。

 

「……【(せい)】に、執着しておりませんので……」

 

 静かな口調で言うアレクトロ。それを聞いたギルドマスターは、顎鬚に手を添えつつキセルを灰落としに打ち付けた。

 

 コーーーーーーン

 

 小気味良い音が辺りに響いた。

 と思ったら、その音が止まぬ内に、アレクトロはその場に崩れ落ちていた。

 ギルドマスターが灰落としにキセルを打ち付けると同時に跳躍し、キセルの柄で彼の胸を小突いたからである。

 本来ならば立っているのも難しい状態で、気力でなんとか持ち堪えていたに過ぎなかったアレクトロは、たったこれだけの事で気絶してしまったのだ。

 

 ガシャーーーーーン!!!

 

 鎧が石の床にぶち当たった派手な音が響き渡り、飲んで騒いでいた連中までもがギョッとして、音がした方に首を向けた。

 

「ギ、ギルドマスター。何を……!?」

 

 狼狽する受付嬢を無視し、ギルドマスターは首だけカウンターの奥に向けて「この者を、直ちに医務室へ」と告げる。

 

「――はっ!」

 

 奥から出て来たのは【ギルドナイト】と思われる男。

 重装備をしているアレクトロを一人で軽々と担ぎ上げると、速やかに再び奥へと消えた。

 それを合図にしたかのように、シンとなっていた酒場の連中が騒ぎ出す。

 

「マスター!今のは!?」

「い、今の人アレクさんですよね? 何があったんですか!?」

 

 ギルドマスターに詰め寄り、それぞれにやいやいと騒ぎ立てる連中。

 

「なにたいした事はない。あやつが生意気にも『フィールドで死にたい』などと抜かしおったから、その根性を叩き直したまでよ。……さあ行った行った!」

 

 キセルを振って追い払いながら、ギルドマスターは「問題は、あやつを殺そうとした者がここにいる、という事じゃな」と、聞こえぬように一人ごちた。

 彼がもし【上位クエスト】で瀕死の重症を負って死を覚悟したとしても、帰った後でわざわざ【下位クエスト】を受けてまで、死にに行こうとする事は考えられないからである。

 

「あやつがクエストで死を覚悟したならば、そのまま帰らずにフィールドの奥で密かに死のうとするじゃろうからな……」

 

そして、そのまま屍を【モンスター】共に食われたとしても、それを良しとするどころか、逆にそうされるのを彼ならば望むだろうという事を、ギルドマスターは充分知っていたからである。

 

「アレクさん死ぬ気だったんだ……!」

「弱ってたんかな?」

「見た感じはまったくそうは思わなかったけど……」

 

 アレクトロを知る者は、それぞれ話しながら元いたテーブルに帰って行った。

 

「おい、どうするよ!?」

「どうするって……。こうなったら逃げるしかねぇんじゃね?」

 

 アレクトロ殺しを企てた者たちが、先程からヒソヒソと囁き合っている。

 

「……ば、バレなきゃ平気だって!!」

 

 実行した本人である【ハンター】シリーズを身に着けたガンナーは、強がりを言いつつも生きた心地がしなかった。

 

 

 

 ふと、目を開けたアレクトロは、ここが大自然の中ではない事に気が付いた。

 

 どこだ? ここは……。

 

 見回しつつ起き上がった彼。その様子に気付いた医療係が驚いたような顔で覗き込むと、「ギルドマスター! 気が付かれましたよ!!」と嬉しそうに叫びながら、パタパタと駆けて行った。 

 少しして「よぉ、気が付いたか!」と言いながら、ギルドマスターが入って来た。

 

「ここは……。どこです……?」

「【ギルドナイト】用の医務室じゃよ」

「俺、まだ死んでないんですか……」

 

 確かめるように自分の体を見たアレクトロは、そこで初めて清潔な【インナースーツ】で寝かされていた事に気が付いた。

 

「んむ。残念ながらそのようじゃ。――もっとも、治療中には二度ほど心臓が止まったようじゃがな」

 

 「それを聞いた時には流石に焦ったわい」などと長々と話し続けようとするギルドマスターを制するように、アレクトロは言った。

 

「――なぜ、死なせてくれなかったんですか?」

「たわけ」

 

 ギルドマスターは、今度はキセルの火皿の部分で彼の額を小突いた。

 当然のようにジュッと音がし、額が焦げる。

 

「うあっちっ!!!?」

 

 アレクトロは額を押さえて悶絶し、「け、怪我人の扱いがちと酷過ぎやしませんか?」と涙目で言った。 

 

「お主のような【上位ハンター】を、みすみす見殺しにする訳がなかろうが! お主のような者がおらねば【老山龍】(ラオシャンロン)が攻めて来た時に砦がいくつあっても足りんわい。【黒龍】や【祖龍】が来た時も、【旧シュレイド城】の場所だけではとても食い止められんじゃろうしの」

 

 自分の扱いが特別なのは、わざわざ【ギルドナイト】用の医務室に寝かされている事で分かったのだが……。

 

「しかし、何も俺でなくとも他にも沢山いるのでは?」

「またこいつで小突かれたいのか? お主は【大長老】様も買っておいでなのじゃ。『【祖龍】を一人で屠れるような者はそうはおらん』と」

「【大長老】様までそう言って下さるのならば、喜んで御奉仕つかまつりたいのは山々なんですが……」

 

 「不満か?」と問われて「とんでもない!」と返すアレクトロ。

 が、俺のような者で本当に良いんだろうかと思っていた。

 

「浮かない顔じゃの。――さては殺されかけた事を気にしておるな?」

「分かっておられたんですか!?」

 

 驚いて聞く彼に、「分からいでか!」と答えるギルドマスター。

 

「大方、お主の活躍を妬んだ【下位】の者の仕業じゃろうて」

 

 あまりにもの図星に、返す言葉が無いアレクトロ。

 

「【下位ハンター】が【上位ハンター】を妬むのは、まあよくある事ではあるがの。じゃが上位ハンターが活躍する事で自分が【上位】に上がれないと思うなぞ、愚かな事を考えたもんじゃ。……しかも上がれないのなら妨げた者を殺そうとまで企てるとは! まったく【ハンター】の風上にも置けん奴等じゃわい!」

 

 憤るギルドマスター。そしてそれが治まると、「じゃがお主、分かっていながらなぜ避けなんだ?」と聞いた。

 

「やっぱマスターにゃ敵わねぇな……」

 アレクトロは苦笑いしながら頭を掻いた。

 

「そりゃそうじゃ。お主ならば避けるどころか簡単に返り討ちに出来たじゃろうに。そうしなかったのは、相手が【モンスター】ではなかったからか?」 

「――それもありますが、あの時は『妬まれ役でもいい』と思ったんです」

「なぜじゃ?」

「俺がいる事で、……つまり俺の存在が【下位】の者の妨げになると奴が考えたのなら、あのまま奴の思いを遂げさせてやっても良い、と……」

 

 【ハンター】シリーズを着たガンナーが「目が悪い」と告げた時、嘘をついてまで自分を近付けさせたいんだなと分かった。だから手元にナイフが見えた時点で、全て悟ってあえて受けたのだ。

 

「たわけじゃの~お主は。そうする事で、その者に降り掛かる運命も分かっておったじゃろうに!」

 

 ギルドマスターは心底呆れた! という顔をした。

 なぜなら、たとえどんな理由があったにせよ、【ハンター】が人に(やいば)を向ける事は固く禁止されているからである。

 

「……では、やはり奴は……」

「――無論、【ハンター】資格剥奪じゃ。その者だけでなく、殺人を企てた仲間全員な」

「そう、ですか……」

 

 ギルドマスターの言葉は、単に彼らがハンター資格を剝奪されただけでなく、殺人担当の【ギルドナイト】によって消された証拠を物語っている。つまりそれほど厳しい掟なのだ。

 それが分かっていたからこそ、アレクトロは、奴の思いを遂げさせた後で自分も死ぬつもりでいたのだった。

 

 

 

 

 それから数週間ほど経った頃、とある【マイハウス】を掃除していた召使アイルー【フィリップ】は、ドアをノックする音を耳にして振り向いた。 

 

「すいませんが、ここは【アレクトロ】さんのお部屋ですにゃ。部外者はお断りですにゃ」

 

 そう声をかけるも、カチャリと開くドア。

 

「ですから部外者は――!」

 

 追い出すつもりで強い口調で言いかけた彼は、入って来た者を見て、思わずほうきを落としてしまった。

 それが、【リオソウル】シリーズを着たハンターだったからである。

 

「……旦那さん?」

 

 おずおずと聞いたフィリップ。

 そんな彼に対して「……よぉ」と口を開いたハンターは、「一応念のためにノックしたんだが、本当に待ってくれてたとはな」と言った。

 

「……ホントに、ホントに旦那さんかにゃ……?」

 

 まだ疑っているフィリップを見て、兜を脱いだハンター。

 それを小脇に抱えると、「ただいま。――死に損ねちまったよ」と頭を掻きながら、バツが悪そうに笑った。

 

「旦那さん、旦那さん~~~!!!!」

 

 弾かれたように駆け寄って行くと、兜を放り投げてしゃがみ込みながら抱き締めてくれた。

 

「待っていましたにゃ! ボクはずっと、ずっと、お帰りを待っていましたにゃ!!!」

 

 むしゃぶり付いて、もう離すまいとわんわん泣いていると、「待っててくれて、ありがとな……」と言われた。 

 

 彼の泣き声が、更に大きくなったのは言うまでもない。

 

 

 

 

 




「ギルドマスター」がいつも嗜んでいる煙草は、恐らく「パイプ」で吸っているのだと思います。
ですが、演出上この話の中では「キセル」の方で吸っているという事にしています。

今(フロンティア)の世界でもそうですが、アレクのイメージ鎧は「レウス系」なのでこちら(MH2)の世界でも「リオソウル」がトレードマークになっていたようです。
ちなみに「無印(モンスターハンター)」「G(モンスターハンターG)」でもレウスシリーズの形が好きすぎて私はレウス系の防具ばかり着ていました。
てか、その当時(オフラインでしかやれなかったので村専用)のスキル的にも最強の部類でしたし。

「MH2」では「ドラゴン」が最強(ただしオンラインのみ)で、ですが作るのが超大変だったので通称「ドラガレ」と呼ばれていた「ドラゴン」に一部「ガレオス(胴系統倍化)」を組み合わせたもので私は妥協しておりました。
だけど「ドラゴン」の外見が「黒いレウス」という色違いのレウス系だったため、その形が変わる「ドラゴンS」と呼ばれる上位防具にはしたくなかった思い出があります。
「S」にすると防御力が跳ね上がるのでかなり助かるんですけどね(笑)

あ、ただし私が好きなのは携帯機シリーズでの形ではなく旧型(PS2型)のレウスシリーズです。

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