今日も元気にメゼポルタ広場からお届けします。【完結】   作:沙希斗

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「フロンティア」に出て来るモンスターは「固有種(オリジナル)」なのにもかかわらずとても種類が多く、多種多様な特徴を持つものも次々に発見されて来ました。
今回はその中でも変わり種と言える、未だに名前すら決まっていない(ギルド側では公式発表されていない)モンスターが出て来る話です。


一万字近いのでかなり長いです。


【総合モンスター】との死闘(変種編)

 

 

 

 その日アルバストゥルは、珍しくいつもの仲間以外の者と狩りに出ていた。

 親しい仲間がいず、厄介な相手で誰も手伝ってくれないと【大衆酒場】で嘆いていた者がおり、『運悪く』アルバストゥルが話し掛けられたのを機に半ば無理矢理参加させられたのだった。

 一応彼だけでなくその時一緒にいたカイも参加はしていたが、やはり主要な武力は二人。

 どちらにしてもカイは彼と行く時はサポートに回る方が多かったため、この構成で上手くいっていた。

 

 ちなみに助っ人を頼んで来た者は【双剣】を使っていた。

 攻撃モーションが【嵐ノ型】なのを見るに、彼もアルバストゥルと同じSRであるらしかった。

 

 

 夜の【砂漠】はしんと静まり返り、降る様な星空と月がいつ見ても美しい。

 けれども夜行性の【モンスター】が跋扈するので灼熱と化す昼間よりもなお危険な場所であり、そんな中で好んで行動する者は【ハンター】ぐらいなものである。

 どうしても【砂漠】を迂回出来なかった行商か、自殺志願者か、命知らずの馬鹿者ならば、あるいは来るかもしれないのだが。

 

 そしてそんな【砂漠】で相手は躍動し、縦横無尽に駆け回っていた。

 

 

「ったくよぉ、硬ぇは速ぇは黒ぇは、こんな奴をよく狩る気になるよなぁ」

「アレク、黒いのは関係ないんじゃないの?」

「黒ぇと威圧感あんだろが。レイアの癖に黒くて硬ぇ甲殻とか、何食ったらこんな進化しやがんだよ? やたら頭良いしよ」

「今までに『見て来た』だろう【モンスター】の攻撃を、全て自分のものにして使うとか、普通の【モンスター】には有り得ませんよね」

「しかもよ、興奮の度合いで赤みを増すだけでなく、更にえげつない攻撃になっていったりよ、どんだけ怒りの段階があるのかっつう話だよ」

 

 そんな事を言い合いながら先程から戦闘している相手。

 それは【ハンターズギルド】でも生態を決めかねるというので名前すら決まっておらず、通称【UNKNOWN】と呼ばれている【モンスター】だった。

 姿は【リオレイア】そのものなので一応【飛竜種】のカテゴリーに入ってはいるのだが、黒く硬い甲殻を持ち、棘や爪など一部が赤紫色をしていて威圧感があり、毒々しい美しさを持っている【モンスター】である。

 

【挿絵表示】

 

 【彼女】は好戦的で、突然襲来して来ては狩場にいるハンター達を翻弄させた。

 

 最初に報告があったのは【樹海】だった。

 なんでも【エスピナス】を狩ろうとやって来たハンターの前に、突然襲来して来たのだという。

 目的の【エスピナス】は予め危険を察知していたのかいつものねぐらで寝ていず、姿も見えなかったのだとか。

 誰もが初めて見る【モンスター】で面食らったものの、体色以外はレイアそのものの姿であったため、大方【リオレイア】が突然変異でも起こして黒くなっただけだろうと居合わせた彼らは判断した。

 

 ところが突進や【サマーソルト】など確かにレイアに似た攻撃方法もあるものの、やたらと硬かったりブレスの色が青味がかっていたりとレイアではないと思わせる部分も多かった。

 しかも大きく身体をしならせながら横タックルして来たり、興奮の度合いで攻撃方法を変えたりしてみせた。

 初期段階で効いていた【閃光玉】は、次の段階では効かなくなった。

 非常に賢く、【落とし穴】の仕組みを知っているようで、掛ったと同時に壊しながらバックジャンプしたり、落ちても暴れ回って近付けさせなかったりした。

 【シビレ罠】が一応有効だという事が分かったのだが掛かっている時間が非常に短く、決定的な打撃を与える間も無く抜けられた。

 

 興奮の度合いで怒り段階が変わるらしく、赤いオーラを纏いながら大咆哮する度に複雑な攻撃方法を取るようになった。

 

【挿絵表示】

 

 それは各【モンスター】から学んだとしか思えないもので、【グラビモス】のような直線ブレスをしたと思ったら次の段階では上位種のように薙ぎ払ってみたり、【バサルモス】であるかのように白いガス状のものを体内から排出してみたりした。

(しかも厄介な事に、そのガスは睡眠ガスや毒ガスなどではなく、防御低下を伴う重酸のガスだった)

 

【挿絵表示】

 

 

【挿絵表示】

 

 怒り段階が上乗せされるに従って攻撃も多彩になって行き、【彼女】オリジナルとしてホバリングしながら翼爪を周囲に飛ばしてみたり(当たると防御低下)、周囲に青味がかった炎が留まるブレスを吐いて、それを利用して翼で打ち付けてみたり、ブレスの塊を【サマーソルト】で煽って風圧と共に範囲を広げてみたりした。

 怒りが募るとブレスの効果を広げたり強めたりする事を好むようになるらしく、薙ぎ払いブレスが特大になってみたり周囲に留まるブレスを吐いた後で狙いを付けた者一人に空中から飛び掛かってみたりするような事もした。

 

 【ベルキュロス】を狩りに行ったハンターが【峡谷】で遭遇したり、他にも【沼地】【砂漠】【密林】【森丘】で遭遇する者も出たりして、どうやら様々な場所で移動しながら他の【モンスター】に闘いを挑み、その攻撃法を学んで自分に取り入れているらしかった。

 その中でも【塔】に出現したものは、【覇種】のカテゴリーに入れる程に手強く恐ろしいものだったという。

 その【彼女】は【エスピナス亜種】に学んだと思われるような攻撃方法が加わっているのみならず、最終段階では青いオーラを纏って地形を壊すような攻撃をし始めたとか。

 

 遭遇したハンターは運が悪いと言えたが、逆に【彼女】を狩る事が出来れば特殊な素材が手に入るとあって、逆に「運が良かった」と豪語する者もいた。

 だが大抵は遭った事も無い上に多彩な攻撃に翻弄され、いい様に弄ばれて命からがら逃げ帰ったり、最悪の場合はPTが全滅する事もあったりした。

 始めは上位の上の方でも狩猟許可を出してそのランクに相応しい狩場で遭遇しても狩る事を許していたのだが、とてもじゃないが太刀打ち出来ないとなってなんとか撃退に持ち込むように働きかけていたものの、やはり犠牲が多いというので【凄腕】ランクでの狩場でしか狩れなくなった。

 なのでもしもHR100以下の者が狩場で遭遇したとすれば、即逃げ帰るか【リタイア】を選ぶかしろという事になっている。

 

 いつどこで遭遇するかも分からないこの【モンスター】に【ハンターズギルド】も手を焼いていたが、かと言って狩場全部を立ち入り禁止にする訳にもいかなかったので、「もし遭遇してもなるべく戦闘は避けるように」という通達を出すしかなかった。

 

 

 

 さて、話は戻るがそんな相手と何故三人は闘っているか?

 それは、「【砂漠】で目撃された」という確かな情報があったのと、助太刀を頼んで来た者が【彼女】の素材を求めていたからである。

 【彼女】から剥ぎ取れる【飛竜の艶膜】【飛竜の黒鱗】などの素材は強化派生によって様々な属性が付く強力な武器になり、防具にしても攻撃系に特化したスキルが多く付いているのでアタッカーには非常に有難いものになるのだ。

 

 ただ、問題は最後まで持ち堪えて討伐まで持って行けるか? だった。

 

 

「カイ、回復系足りてるか?」

「……。調合分でも危ういかも……」

「俺も似たようなもんだ。そっちは?」

「自分もキツイっすね……」

 

 多彩な攻撃だけでなく、体力もある相手なのでどうしても時間が掛かってしまっている。

 【嵐ノ型】の強力な溜め斬りをするには二人に脚を狙ってもらって横倒しになっている間か、もしくは上手い具合に【サマーソルト】を見切って着地付近に移動して溜めるか。

 

 今【彼女】はどうやら怒りの最終段階に入っているらしく、攻撃終りやブレスを利用する時などに【サマーソルト】を追加するようになっていた。

 だが範囲の広い攻撃も多用するようになるので被弾が多く、お互いの回復を優先するために【生命の粉塵】で助け合ったりするのだが、相手の攻撃力がかなり高いので間に合わない場合もあった。

 そう言う場合は個人でどうにか回復していたものの、その隙すらもあまりないので調合するのも忙しい。

 一応【彼女】の予備動作を見てどんな攻撃をして来るかは分かって来た三人ではあったが、だからと言ってそれを回避出来るかは別の話だったため、特に最終形態に入った今では『誰か』が被弾して体力を低下させていた。

 

「こいつ、実は【覇種】だったりしねぇよな?」

「【覇種】なら必ず【エスピナス亜種】の攻撃が加わるはず。それに最終形態になっても青いオーラを纏っていないし地形を壊すような攻撃もして来ない。だから【覇種】じゃないっすよ」

「これ、クリア出来るの?」

 

 長い戦闘で集中力を切らし始めた三人は、そんな弱音を吐いた。

 だが尻尾を攻撃したカイが切断に成功した事により、彼以外が色めき立つ。

 

 何故なら尻尾切断の条件は、残り体力10%以下だからである。

 

「おっしゃ! カイもう少しの辛抱だぜ!」

「そうなの!?」

「カイさんのお陰で【彼女】の体力が残り僅かという事が分かりました。ありがとうございますっ!」

「そっか、なら頑張る!」

 

 しかし瀕死のはずの【彼女】は赤い眼光に残像を走らせ、弱った素振りはまったく見せなかった。

 

 かつて【ユクモ村】で闘った【ナルガクルガ】みてぇだな。

 死闘になっているにもかかわらず、アルバストゥルはそんな事を思っていた。

 

「うがああぁっ!!!」

 

 そんな思考を絶叫が掻き消す。

 ハッとしてその方向を見ると、助っ人を頼んで来た者が煽られたブレスに包まれて、火達磨になりつつ吹っ飛ばされていた。

 それだけに止まらず飛び上がった【彼女】が片翼をしならせたのが見え――!

 

「逃げ――」

 

 そんな叫びも空しく、そして飛び抱える間も無く振り払われた片翼から飛ばされた赤紫色の翼爪が襲い掛かり、彼の身体に刺さってしまった。

 そして勢い良く砂地に叩き付けられたきり、動かなくなってしまった。

 

 上空から飛ばされる翼爪の衝撃、刺さった事によるダメージ、そして追加される重酸の効果。

 風圧でブレスの影響は消えていたようだったが、そして広範囲に散らばるお陰で翼爪が纏まらず、無数に刺さる事だけは免れているようだったが、それを見たアルバストゥルは最悪の状態を想像した。

 

「カイ! 一旦戻るぞ!」

「分かってる!」

 

 カイの返事を聞く前に猛攻を掻い潜り、彼を抱えて【モドリ玉】を叩き付ける。

 キャンプに戻るや否や簡易ベッドに寝かせたアルバストゥルは、慎重に翼爪を抜きつつ鎧を脱がせていった。

 

 既に重酸が鎧だけでなく、体内に食い込んだ部分も溶かしはじめていた。

 

 刺さった個所は鎖骨の下と右脇腹。

 それだけでなく至る所に火傷や深い傷が刻まれている。

 意識は一応ある。

 あるが、意思疎通が出来る状態では無かった。

 

「【リタイア】しよう!」

 

 治療しながらもそう声を掛けたカイに対し、彼は苦悶の表情で目を閉じたまま首を横に振った。

 いや振ろうとする仕草をした。

 

「馬鹿かおめぇは!? 死ぬよりゃマシだろうが!」

 

 すると彼は口を開け、必死で何かを訴えようとした。

 二人が口元に耳を寄せると、こんな言葉が聞こえた。

 

「……この【モンスター】は……、この機を逃すと、二度と遭えない……かも、しれま、せん……。多分、【幻獣】と呼ばれる【キリン】……よりも……、貴重な、【モンスター】の、はず……」

 

 切れ切れな上に擦れて聞き取れないそれを脳内で繋ぎ合わせて正常な文にし、答える。

 

「そりゃ気持ちは分かるぜ? だがとてもじゃねぇが闘える状態じゃねぇのは自分でも分かってるはずだ。持ち前の回復アイテムで回復出来るかどうかも怪しい上に、俺らが自分で回復する分すらも底を突きかけてんだ。それでもまだやるってのか?」

「無茶だ。もうやめようよ!」

 

 それでも、彼は更に訴えた。

 

「……あと少し……あと少し、なんです……。【彼女】はもうかなり、弱って……いる……。だからお願いです……。もう少しだけ……手伝って……っ!」

 

 苦痛に身を捩らせ始めた彼を慌てて押さえ付け、アルバストゥルはベッドから落ちないように半ば抱き止めた。

 彼の容体を考えれば問答無用で【リタイア】するべきである。

 だが、ハラハラして見ているカイの視線を無視し、アルバストゥルは言った。

 

「……。分かった。とにかく今は寝ろ」

「……りが……う……」

 

 安心したかのように寝た(というよりは気絶した)彼を見て、兜の下で不満気な顔をしているだろうカイに向き直り、「やるだけの治療をしてやろう。それで闘えるまでになれるようなら続けようぜ。駄目なら強制【リタイア】だ」と告げる。

 

「……。分かったよ」

 

 案の定ぶすっとした声を漏らしたカイだったが、治療の手は休めなかった。

 

 SRにもなるのなら、アルバストゥル同様HR以上の死線を掻い潜っているはず。

 なにせSR帯で依頼が来るクエストはHC(ハードコア)クエストと言われ、通常種でも違う攻撃方法を取る【特異個体】と呼ばれる【モンスター】を相手取らねばならないからだ。

 下位でも上位種並みの手強さになる【特異個体】を、【嵐ノ型】を伝授されている事を考えると【特異個体】最強と言われる【覇種特異個体】まで狩る実力があるのなら、その凄まじい攻撃力を受けても耐えられる程の肉体及び回復力を彼も持っているはずだ。

 だからそれにアルバストゥルは賭けようと思ったのである。

 

 攻撃力自体は最終形態になっているせいでとんでもなく強いものの、【彼女】は【覇種】のカテゴリーに入っている方じゃないし、【特異個体】でもない。

 今こそ禁止されてはいるが、HR上位の者でもどうにか撃退出来たのだ。

 ならば、SRの【凄腕】が二人いる今のPTで討伐出来ない訳では無いはず。

 

 

 

「……よぉ、具合はどうだ?」

 

 自分達も無傷じゃなかったのもあって、ついでに休もうとベッドで寝て時間を過ごしていた二人は、彼が目を開けたのに気付いてまずアルバストゥルが声を掛けた。

 

「うん。もう動けます。ありがとう」

 

 包帯だらけの身体でゆっくりと上半身を起こし、腕を持ち上げたり手を握ったりして動きを確かめていた彼がそう言うのを聞いて、カイはホッと胸を撫で下ろした。

 

「時間が経ってしまいましたね。【彼女】が回復する前に早くしないと……」

 

 そう言ってベッドを降りようとした彼を止め、アルバストゥルは言った。

 

「もう少し休んでろ。先に二人でダメージを稼いでおく」

 

「馬鹿な。【彼女】は今最終形態なんですよ? 怒りの頂点に達している段階だ。瀕死とは言えその攻撃力の強さはもう体験したはずです。そんな相手に二人で挑むと?」

「ヘイトが向く人数が少ねぇ方が逆に闘いやすいという場合もある。別に俺一人で行っても構わねぇんだが――」

「そんな事出来るわけないだろっ!」

「な? こうなるからよ。少しだけ俺らと闘わせてくれよ。ちと個人的に奴と対等に闘いたくなったもんでよ」

 

 兜の隙間から不敵に笑っているのが見えた彼は、「分かりました」と言った。

 

「逸る気を抑えさせて悪ぃな。希望としては一時間後に来て欲しいんだが、それまで我慢出来ねぇってんなら三十分後ぐらいで良い」

「了解です」

 

 そう答えた彼の肩を軽く叩くと、「んじゃ行くぜ」とアルバストゥルはテントを出た。

 

「オレ達の事は気にせずに、ゆっくり休んで来てね」

 

 カイはそう言ってからテントを出た。

 内心怖いのを隠しているのは内緒である。

 

 

「よぉ【姫さん】、また来たぜぇ?」

 

 先程と同じ広大な砂地に佇んでいた【彼女】に、アルバストゥルは声を掛けながら斬り込んだ。

 鬱陶しいとばかりに吠えた相手に、「気に入らねぇか? 【魔女】と言った方が良いのか? それとも【鬼女(きじょ)】? それか【死を司る女神】様ってかぁ?」などと闘いながら呼び掛けている。

 

「どうでもいいだろっ!」

 カイは突っ込みを気合に変えて足元を切り刻んだ。

 

 その勢いでこけた相手に溜め斬り。

 【嵐ノ型】最大溜めの振り上げが起き上がった直後に足元に食い込み、相手は再び横倒しになった。

 

 【飛竜種】は飛ぶ事に特化しているせいなのか、意外に脚が弱い。

 なので【大剣】の強力な溜め攻撃が決まれば、上手くいけば連続で転ぶ事もある。

 〈火事場+2〉のスキルがあれば尚更で、なので上手い者はこれを相手が死ぬまで続けて『ハメ攻撃』と豪語する輩もいるそうな。

 

 ただアルバストゥルは〈火事場〉では無いし、それ程器用でもないので、せいぜい三連続転ばせるのが関の山であった。

 それでもただでさえ一撃の攻撃力を見れば武器種最強である【大剣】の、しかも溜め斬りを連続で叩き込まれて【彼女】が堪えない訳がない。

 相手は嫌がるように舞い上がり、そのまま逃げた。

 

「待てコラァ!」

 

 逃げたからといって容赦する気はアルバストゥルにはもうない。

 依頼のターゲットになっているというのはもちろんだったが、【彼女】の存在は【モンスター】側から見ても明らかに異質であり、各地を移動しては縄張りを荒らすならば【彼女】のせいで生態系が崩れてしまう。

 恐らく突然変異でこうなってしまったのであろう【彼女】なりに『生きよう』としているのだろうが、その情に負けて個を優先していては、世界全体が壊れてしまう。

 

「悪ぃな。止めをさせてもらうぜ」

 

 なので彼は逃げた先に追い付き、忌々し気に唸る相手に【大剣】を構えた。

 

『迎え撃つ!』

 

 そう言いたげに相手が吠える。

 それに口角を持ち上げながら、彼は真っ直ぐ向かって行った。

 

『馬鹿め!』

 

 そんな声が聞こえるかのように特大の球状ブレスが迫る。

 青味がかった独特のブレスが彼に着弾したかと思いきや、直後に炎がかき消え、【彼女】は驚愕の面持ちで頬を斬られた。

 

 【嵐ノ型】の技の一つ、【ガード斬り】というものである。

 要するにカウンター技で、ガード直後にその反動を利用して溜め斬りに匹敵する強烈な横切りを叩き込むのだ。

 

 怯んだ相手に斬り下ろし。

 頭の甲殻が傷付き、それまでのダメージ蓄積で割れてその部分の肉が剥き出しになった。

 頭部破壊完了である。

 

「流石に肉までは黒くなってねぇのなぁ!」

 

 アルバストゥルは叫びながら追撃しようとして、しかし相手が大きく横ステップしたせいで空振って舌打ちした。

 

 器用な【彼女】は横ステップで逃れる術を身に着けているのだ。

 

 対峙する間も無く特大の薙ぎ払いブレスが来る。

 カイと共に緊急回避で逃れ、起き上がると、【彼女】は飛び上がってから自分に近付けさせないようにするかのようにホバリングしつつ周囲を囲む様に炎が留まる球状ブレスを吐くと、それを風圧で煽りながら捕捉した相手に飛び付いて来た。

 

 狙われたのはカイであった。

 

「てんめえぇっ!!」

 

 怒声をそのまま力にして【大剣】を振り下ろすアルバストゥル。

 短い悲鳴を上げて怯んでいる間に鷲掴みにされていたカイを引き摺り出し、彼の様子も見ずに「早く回復しろ!」と怒鳴りながら注意を逸らす。

 上手い具合にこちらに集中してくれた相手を誘い、カイから離れる。

 

「僅かな間だがデートと洒落込もうぜ【ねぇちゃん】!」

 

 そんな軽口さえ叩きながら、カイが回復して参戦して来るまで一人で相手をした。

 

 

 

 我慢出来ずに三十分程で戦場にやって来た彼は、離れた場所で二人の連携を見てそのまま見惚れてしまった。

 本来ならアタッカーであるはずの【太刀】を使っているカイがサポートに回っている。

 しかし【凄腕】とは言えHRであるカイには今回の狩猟はかなり厳しいはず。

 だから被弾が多いのは頷けるが、それを分かっていて補足しているアレクトロの動きが素晴らしいのだ。

 わざと煽るような動きをして自分に注意を引き付けている。

 いやむしろ、そうした方が自分が闘いやすいからそうしていると言いたげな闘い方をしている。

 

 テントを出る前に「一人で行っても構わない」と言われた事に納得出来る実力だと彼は思った。

 

「自分も、頑張らないと!」

 

 気合を入れて駆け出すと、参戦する前に【彼女】がこちらを向いた。

 直後に直線ブレスが放たれる。

 

 回避が間に合わない――!

 

 そう思ってギュッと目を閉じて顔を逸らす。

 が、衝撃どころか熱さも感じなかった。

 

「……。目ぇ、逸らしてんじゃ、ねぇよ……」

 

 苦し気な声がすぐ近くで聞こえてそっと目を開けると、見えたのは黒焦げ状態でガード姿勢になっている者の背中だった。

 

 【太刀】ではガード出来ない。

 ならばガードしてくれているこの人は――。

 

「アレク、さん!?」

 

 〈ガード性能+2〉のスキルじゃないと、直線的なブレスはガード出来ない。

 だが防具を見る限り、そんなスキルポイントは付いていないはず。

 ならば、それを承知で無理矢理ガードした!?

 スキルがあってもダメージはあるんだ。ならスキル無しで受けた彼の身には、想像を絶する衝撃と苦痛が襲ったはず。

 何故そこまでして……。

 

 そんな事を考えていると、彼は振り向きもしないでこう言った。

 

「……おめぇの、相手は俺だ……。余所見してんじゃ、ねぇ……!」

 

 どうやら「目を逸らすな」と言ったのは庇った相手に対してではなく、【彼女】に対してだったらしい。

 

 が、ぐらりと体を傾けた。

 

「アレクさん!」

 

 支えようとした彼だが手で制される。

 アルバストゥルは【大剣】を杖代わりにして支えて倒れるのを防ぐと、なんとふら付きながらも【彼女】の方へ歩き始めた。

 

「アレク、無茶だ!」

 

 ようやく事の重大さに気付いたカイが駆け寄ろうとしたがそれすらも止め、引き摺っていた【大剣】を思い切り振り上げる。

 【彼女】は一飲みにしようと口を開け――。

 

「おらああぁっ!!!」

 

 その身体のどこにそんな気合が残っていたのかと思う程の雄叫びが響き渡り、踏み込んだ一撃が【彼女】の牙が届く前にその喉元に食い込んだ。

 そしてそのまま振り抜かれる。

 アルバストゥルは、その勢いのまま倒れた。

 

「アレク!!」

「アレクさん!!」

 

 慌てて二人は駆け寄ったが、それを【彼女】が拒む。

 

「【彼女】を倒すのが先です!」

「了解!」

 

 舌打ちしつつ声を掛けた彼に返事したカイは、溜まっていた【錬気】を全て解放するつもりで【気刃斬り】を叩き込んだ。

 彼も【鬼人化】から【真・鬼人解放】へと移行し、自らの命を削りながらも【乱舞・改】と呼ばれる手数は減るが全体的に攻撃力が高くなる乱舞を叩き込んで行った。

 

 喉を斬られた事で文字通り命を刈られたようなものだった【彼女】は、それぞれの最強技が決定打となって、ようやく力無く地に伏せた。

 

 

「はぁはぁ。アレク……」

 

 息を切らせながら半ば這いずるようにしてアルバストゥルの元に近寄ったカイは、動けないまでも大きく息を吐いている彼を見て安堵する。

 だが苦しそうなのは代わりが無かったので、とにかく少しでも回復させようと彼のポーチを探り、ハッとした。

 

 回復系が、まったく無くなっている。

 

 彼は調合分の残りも含めて、全て助っ人を頼んで来た者の治療に使っていたのだ。

 つまり、もう自分を回復させる手段は無かったのだ。

 なのに、それを黙って【彼女】に挑んだどころか、復帰して来た者を庇うためにブレスを受けたのだ。

 

 スキルが無いせいで更なるダメージになる事を覚悟の上で。

 

「なんで……ここまで……」

 

 カイは、意識が無いまま苦し気な呼吸を続けている彼を、歯を食い縛りながら抱き締めた。

 

 

 とにかく今残っている回復系を全部彼に施した二人は、帰ってすぐに医務室に預けて【クエストクリア】の報告に行った。

 

「ようもあそこまで手強い【モンスター】を、三人で仕留められたもんじゃなぁ!」

 

 証拠として剥ぎ取った【飛竜の艶髄】を確認した【ギルドマスター】に感心されて、二人は「いいえ」と口を揃えた。

 

「オレ達は大した事はしておりません」

「そうです。ほぼアレクさんが倒してくれたようなもんです」

 

「まあ謙遜するな」

 そう言って笑った【ギルドマスター】は、「カイよ」と急に話を振った。

 

「はい?」

「あの【モンスター】を倒せるならば、もうSRのランクに昇進しても良いのではないかの?」  

         

「いいえ、今度の事でまだまだ実力が足りない事を実感しました。それに【マスター】もご存知のように、オレはハンターではあっても狩猟に重点を置いているわけではありません。今回もそうですが、オレは自ら好んで危険に飛び込むような、アレクの命知らずな突っ込みを、今のランクの範囲でなるべくサポートしてやりたいだけです。その上のSRではオレの命が持ちません。それを弁えたランクが【凄腕】までだと思っていますので」

 

「ほぉほぉ。じゃがランクの差はどんどん開いてしまうぞ? あ奴はいずれGRも制するじゃろう。【G級特異個体】や【辿異種】などであ奴が死んだらどうするつもりなのじゃ?」

「自分の実力は彼も分かっています。一見無謀に見えますが、それ相応のクエストを受けているはず。……まあ、その分医務室送りになる事が多くなっているのは認めますが……。それでも、キツイ場合は彼に頼っているようですし」

「ベナトールか?」

「はい」

 

 ベナトールという言葉が出たからだろう。

 横で彼が目を見開いている。

 

 彼は、あぁ、だからあんな無謀に見える闘い方をし、あれ程の実力があるのだなと思った。

 

 

 

 

 




昔はHR31(今現在は3)からでも普通のクエストを受けていていきなり登場し、様々な場所に出現しては混乱の渦に巻き込んでいたんですが、今では「凄腕(旧HR100現HR5。ただし覇種が狩れるのは旧300現6)」からしか狩れないようになっており、場所も「秘境」と呼ばれる塔の一角にしか出現しなくなりました。
なので話の舞台は「砂漠」ですが、挿絵は「秘境」で撮っています。

三人PTの話なのに二人しか写っておりませんので、脳内で三人目を再生して下さい(^^;)


あ、途中で「アレクトロ」表記になっているのは間違いでは無く、あの部分だけ助っ人を頼んで来た者の視点に切り替わっているためです。

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