今日も元気にメゼポルタ広場からお届けします。【完結】   作:沙希斗

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「竜ガ紡ギシ古キ歌」の続き、「霞這古都編」です。
前回でも書いたように「フロンティア」風に書いていますので、実際の「エピソードクエスト」とはやや異なっています。
ですがエピソードの内容は情報サイトに載っていたものです。

「フロンティア」の街門(戦闘街)には「オオナズチ」は来ない(クエストが無い)ので、通常クエストで挿絵を撮影しております。
「森丘」のクエストもあったんですが、雰囲気的にあんなに能天気な明るさは相応しくないと考え、「沼地」の方を選びました。


竜ガ紡ギシ古キ歌(霞這古都編)

 

 

 

 街門に突進する程の勢いで向かって来たベナトールを見て、そこを護っていた【守護兵団(ガーディアンズ)】は慌てて街門を開けた。

 彼が激突する前に開いたので、そのままの勢いで外に出る。

 戦闘中の外壁に近付くと、もう後一歩で破壊されるという所まで来ていた。

 

 だが対峙していたハンターは、既に抗う力を残していなかった。

 

「俺が代わる!」

 

 叫びながら滑り込むのと、【猫車】がやって来るのはほぼ同時。

 ぐったりしたままのハンターは目を閉じていたが、運んでいた【アイルー】達と目配せして交代する。

 

「おらこっちだ透明トカゲ」

 

 透明化している【オオナズチ】の気配だけ読んで正確に角に【ハンマー】を当てると、相手は怯みつつ向き直った。

 

【挿絵表示】

 

 周りに黄色っぽい唾液が撒き散らされ、地面の所々がまるで毒沼であるかのようにポコポコと泡を出し続けている。

 通常個体ではこんな特殊な唾液を撒き散らさない。

 この状態を知っているベナトールは、普段は飲まない【狂走薬グレート】をポーチから出し、呷った。

 

 何故ならこの唾液に触れるとスタミナをごっそりと奪われるからである。

 

 最初疑っていたベナトールは、相手が反動を付けて体を一回転させたり、舌攻撃の後すぐさま舌を二回振り回したりした事で、【特異個体】であると確信した。

 

 成程、狂暴性が増しているはずだ。

 

 攻撃する時にだけ姿を現す相手を見て、通常種と比べて角が発達しているようだし心成しか派手目な体色をしているなと思っていたので、やはりなと納得した。

 外壁への破壊力から察するに、どうやら【剛種】であるらしい。

 そうと分れば【特異個体】用の攻撃に切り替えるだけである。

 

 いきなり大きく飛び退った相手は、直後に突進して来た。

 攻撃が単発ではなく素早く次の攻撃に移るのは、【特異個体】の特徴でもある。

 なので多彩な攻撃に思え、慣れないと翻弄されやすい。

 しかもその一つ一つの攻撃力が高く、怒っている時は防御力の高い剣士用を着ていても即死に繋がる場合がある。

 

 突進は追尾性があるが、突進終わりを見極めて溜めつつ待ち構え、止まった直後に【極ノ型】の強力なダブルスタンプを角にお見舞いした。

 【極ノ型】の溜めは長いので相手の一連の攻撃の間に溜める事は不可能なのだが、〈集中+2〉というスキルを身に着けている彼は溜めを短く出来るのと、相手の出方を見抜いて予め溜めたり出来るのとで長い溜めでも使いこなせるのだ。

 

 角が砕かれ、堪らずひっくり返った相手は、目を回しながらもがいた。

 その間にも攻撃の手を休めなかった彼は、悔し気に唸りながら起き上がった相手が白い涎を垂らしたのを見逃さなかった。

 

【挿絵表示】

 

 素早く大回りしながら横に離れたのと同時、相手が前方広範囲に舌を伸ばして連続で振り回した。

 その直後に今度は広範囲に毒ガスを排出させながら飛び上がった。

 

 これは【特異個体オオナズチ】の最大の技で、舌攻撃で打ち上げ、直後に毒ガスで吹っ飛ばしながら毒らせる脅威の攻撃であった。

 

 例え打ち上げられる舌の衝撃を耐え切っても、毒ガスの衝撃とその後の毒の効果で想像を絶する苦痛を味わわされる。

 舌攻撃自体がかなりの威力なので、【剛種】の怒り状態の攻撃を受けてしまうと舌攻撃の段階で即死する事もあり得る。

 攻撃に移る前の白い涎を見極められない者は、いや見極めたとしても前方広範囲に連続で薙ぎ払われる舌に捕らえられた者は、もうその時点で絶望的だと思った方が良い。

 仲間がいれば打ち上げられた時点で誰かに【生命の粉塵】を投げ掛けてもらえれば助かる事もあるが、その後の毒の対処を怠れば、これも死んでしまい兼ねない程の恐ろしいものであった。

 

 更にえげつない事に、舌攻撃に当たると回復系を盗まれる。

 

 これは通常の舌攻撃、三連続の舌攻撃でも盗むので、あまり舌攻撃を受けてしまうと回復系がどんどん無くなってしまう。

 【オオナズチ】は回復系の効力を分かっているらしく、一番効力のある【秘薬】を積極的に盗んだりするので余計にタチが悪い。

 そう言う事もあってか、【HCクエスト】に出向くことの多いSRハンターの間でも【特異個体オオナズチ】は謙遜される【モンスター】であった。

 

 威力の高い攻撃は他にもあり、〈声帯麻痺毒無効〉のスキルでないと防げない黄色味掛った霧状のブレスの範囲がやたらと広かったり、これを口からだけでなく体全体から広範囲に発生させ、ボディープレスで追撃する。(霧発生時の衝撃を逃れた者がいたとしてもその後のボディープレスでかなりのダメージを負う)

 

【挿絵表示】

 

 もう一種類の痰を吐くかのようなブレスが三方向に広がって着弾する。

 単発のボディープレスをする事があるのだが、これを連続で行う事がある。など、とにかく気を付けなければならない、または食らわないようにしなければならない攻撃が多かった。

 

 

 外壁がかなり弱くなっているので外壁の方へ向けないように、そこから離れるように誘導しながらベナトールは闘っていた。

 一本目の【狂走薬グレート】の効力が切れて二本目を飲み直す頃、騒ぎを聞き付けて参加して来るハンターが出始めた。

 

 が、ソロ狩りに慣れている彼にとって、ヘイトが他に移るPT狩りの方が、逆にやりにくかったりする。

 怯ませてくれる分手数が稼げるし、溜めチャンスも多くなったりもするのだが、何より頭が他に向いて攻撃しにくくなるのが嫌だった。

 だが彼らも【街】を護ろうとする志は同じである。

 有難いとも思っているので、彼らと協力しながら闘った。

 

 

 

 案の定というのか多数の犠牲者が出、医務室へ送られる者らを尻目に討伐完了の報告をしようと【大老殿】にいるという【ギルドマスター】の元へ赴くと、他の【竜人族】が来ていた。

 彼の顔には見覚えがあった。

 

「おぉ、久しいのベナトール!」

 

 彼はベナトールを見るや、嬉し気に声を掛けた。

 その小さな【竜人族】の老人は、かつてここ【ドンドルマ】に時折ふらりと立ち寄っては特別な武具を製作してくれていた、【伝説の職人】だった。

 

「お久しぶりです。お元気でしたか?」

「おうよ。この通りじゃ!」

 

 紺色の丸帽子を被って力瘤を見せる様はかつてを思い起こさせるが、やはり引退して久しいので若干筋肉は衰えているようだ。 

 

 彼は現役の頃、【古龍】が近付いているという噂を聞き付けては【街】に来ていた。

 【竜人族】のみに伝わる秘伝の加工技術を習得している人物であり、工房の【親方】では作れない武具を製作出来る者だった。

 【古龍】ともなると特別な武具が必要だろうという事で、【古龍】迎撃に向かうハンター達のためにわざわざ来てくれていたのだった。

 そんな彼だったが引退して今は隠居の身のはず。

 

 そんな事を考えていると、その心を読んだかのように「ちと、ハンターに用があっての」と彼は切り出した。

 

「村長に呼ばれて来たのじゃがの。彼が解釈した石板の解読が間違っておったようなのじゃよ」

「と、言いますと?」

「お主、今まで【オオナズチ】と闘っておったのじゃろう?」

「はい。その討伐報告をしようとここへ赴いたのですが……」

「それがの、石板に書かれている『霞、古都を這いて』の部分は【霞龍】の事では無かったんじゃよ」

「……。なんですと?」

 

「つまりじゃの、【オオナズチ】がここを襲って来たのはどうも偶然じゃったようなのじゃ」

 

 【ギルドマスター】の発言を聞いて、彼は「では、無駄足を踏んだと?」と言った。

 

「そうは言っておらん。現に外壁が破壊され、後一歩の所で【古龍】の侵入を許す所じゃったのじゃ。聞けば【剛種特異個体】じゃったというではないか? そんなものが入って来たらいかに【古龍】に備えた設備があっても未曽有の被害が出てしまう。ハンターの犠牲は多かったが、辛うじて侵入は阻止出来た。彼ら共々お主には感謝しておるよ」

「……。それは、ハンターとしては当たり前の事で――」

 

「謙遜せずともよい。ともかく大儀であった」

 上から【大長老】の声が厳かに降って来たので、ベナトールは「ははっ!」と平伏した。

 

「――で、解釈が違っていたとは?」

 

 【ギルドマスター】が話を戻したので、【伝説の職人】は続きを話し始めた。

 

「実はの、儂も同じような石板を【天空山】で見付けて保存しておったのじゃよ」

「ほう」

「それがどうも、丁度村長が見付けていた石板の半分部分じゃという事が分かっての。先程合わせてみたらこのような文に繋がったのじゃ」

 

『災厄、天を覆いし時  黒闇、青を呑まん

 霞、古都を這いて  日輪、蝕に沈む

 王亡き玉座は猟の庭  いざ顕れん祖なる者』

 

「これは、つまり――」

「そうじゃ。この石版は青空が闇に呑まれ、日蝕が起きた日、今は亡き都に這い寄る霞とともに王亡き玉座、つまりシュレイド城に【祖龍】が現れることを予言したものだったのじゃ」

「……。まさか【祖龍】とは……!」

「【祖龍】は【黒龍】と並ぶ禁忌の【モンスター】じゃ。例えどんなに腕があろうがランクが高かろうが、ハンターに募集をかける訳にはいかん」

「行ってくれるな? ベナトール」

「承知つかまつりました!」

 

 【大長老】に期待を寄せられたベナトールは、身を引き締めながら答えた。

 

 

「やあ、遅れてしまった」

 

 ベナトールが引き下がろうとすると、【大老殿】に村長がやって来た。

 

「どうだい? 石板は解読出来たかい?」

 

 そう言って【伝説の職人】を見た村長は、その神妙な顔つきを見て「ワハハ! まるで伝説の瞬間にでも立ち会おうかって顔してるよ!」と笑い飛ばした。

 

 

 

 

 




「剛種特異個体」が出て来る話なので、実際に「剛種オオナズチ」の「HCクエスト」を受けて撮影しています。

「伝説の職人」は「MH2」の「街(ドンドルマ)」に古龍が襲撃して来た時のみやって来ていた竜人族で、その当時は彼にしか古龍の武具が作れなかったため、当時では最強と言われていた古龍の武具は彼が滞在している間にだけでしか製作出来ませんでした。
なので欲しい者は期間限定の古龍迎撃クエストに赴き、苦戦しまくって古龍を倒した上で彼に注文して初めて古龍の武具を手に入れられたのです。

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