今日も元気にメゼポルタ広場からお届けします。【完結】   作:沙希斗

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エピソードクエスト「竜ガ紡ギシ古キ歌」の最後、「日輪沈蝕編」です。
これで「竜ガ紡ギシ古キ歌」の話は終わりになります。

このクエストでは「旧シュレイド城」が舞台になっているようですが、「フロンティア」では「塔」にしかいませんのでその場所で挿絵を撮影しております。


竜ガ紡ギシ古キ歌(日輪沈蝕編)

   

 

 

 

 同僚達と共に【旧シュレイド王国】に赴いたベナトールは、ただでさえ異様な雰囲気に空が変わっているこの場所が、更に暗くなっているのに気が付いた。

 見上げた一行は僅かに雲間から覗いていた太陽が、まるで三日月のように欠けているのを見た。

 

「日蝕……か?」

 

 更に欠けていく太陽を見ながら、少し怯えたような口調で一人が言う。

 

「そのようだな……」

 

 いかに【ギルドナイツ】といえど、まるで魔界に来たかのような、この場の雰囲気が怖くない訳がない。

 

「と、とにかく【旧シュレイド城】まで行ってみよう!」

 

 そう言って、四人は城まで駆けて行った。

 

 

 城は朽ちかけてはいるがかつての栄華を誇るかのように広大なものなので、ここが中庭に当たるのか頂上に当たるのかは分からなかったがとにかく広い城壁に囲まれた場所に出る。

 兵舎だったと思われる部屋もある事から兵達が鍛錬を行う広場だったのかもしれないが、未だに調査中なので調べるのは後回しにしてなるべく広い場所に移動する。

 

 その頃には、もう辺りは闇に包まれていた。

 

 夜目を利かせて油断無く辺りの気配を探っていた四人は、やがて少しだけ光が戻って来た事に安堵する。

 が、その僅かな光がふと陰った事で見上げた彼らは、恐怖で凍り付いた。

 

 光が生まれるように顔を出した太陽を背にして、まるでそこから生まれ出たかのように巨大な影が現れたからである。

 

 その細長く長大な蛇のような影には、短い四肢が付いている。

 体躯から見れば頼りなく細い様に見えるが、それでも軽く払うだけでこちらはズタズタになるだろう。

 何故ならまだ遠目ではあるが凶悪そうな爪が付いているからである。

 巨大な体躯を浮かせているのは皮膜で出来た幅広の翼。

 あんな馬鹿でかいもので近くで羽搏かれたら、こちらは塵のように吹き飛ばされ兼ねない。

 

 そのシルエットは、御伽話でしか語られない、古の【ドラゴン】そのものであった。

 

 

 ベナトールは始めシルエットだけを見て【黒龍】が舞い降りているのだと思っていた。

 【祖龍】だと聞いていたのでまさか伝説の【古龍】を二頭同時に相手せねばならんのかと絶望していた。

 

 だが城を目指して近付く影の色が分かり始めたのと、元に戻りつつある太陽の光が姿をハッキリと見せてくれるようになったのとで、これは【祖龍】なのだと確信する。

 が、二頭同時という事は無くなっても、絶望感はあまり変わらなかった。

 

 【祖龍】とは、そして【禁忌モンスター】とは、それ程強大な相手だからである。

 

 やがて地響きと共に降り立った相手は、まず値踏みするかのように四人を見回した。

 思わずたじろぐ彼らの様子に、舌なめずりする。

 

【挿絵表示】

 

 あまりにも矮小な存在に嘲笑しているのか。

 それとも取るに足らないが少しは腹の足しになるだろうと思っているのか。

 心意は分からないがべろりと蠢いた血のようなその舌に、四人は生きた心地がしなかった。

 

「おおおぉ~~~!!!」

 

 その絶望感を最初に破ったのはベナトールだった。

 恐怖を無理矢理雄叫びで掻き消し、溜めつつ突っ込む。

 虫けらを払うかのように面倒臭そうに掻い込まれた前足を飛び越え、高い位置にある頭に【嵐ノ型】の溜めジャンプを叩き込んだ。

 着地直後の足をそのまま蹴り出して体を前に運び、面食らったように瞬きしながら顔を引っ込めた相手の胸元へ。

 潜り込むや否や振り上げて、柔らかい腹部を打ち上げた。

 くぐもったような短い悲鳴と共に怯んだ相手に打ち下ろし。

 打ち上げて前足が襲って来たのを見て後転しつつ離脱。

 睨み、忌々しそうに唸っているのを見て残りの三人はようやく我に還り、後に続けとばかりに攻め始めた。

 

 前回闘った時にどうも【剣士】より【ガンナー】の方が有効ではないかという手応えを得ていた同僚は、【弓】と【ライトボウガン】で来ていた。

 ベナトールに集中していて背中を向けている相手に、無数の矢と弾が降り注ぐ。

 だが怯みはするもののこちらに向き直る事もせず、相手はベナトールに注意を向け続けている。

 

 と、後ろ足を踏み出しつつ吠えた。

 

 巨体の割には甲高いその声に応えるように、天から雷が降り注ぐ。

 やや離れた位置から攻撃していた同僚達は慌てふためいて回避していたが、ベナトールは落ち着き払っていた。

 前回の闘いで、前方正面付近には雷撃が無いのを知っていたからである。

 

 当たらないのが悔しかったのか、【祖龍】は翼をはためかせ、飛んだ。

 正面に陣取っているベナトールには風圧の影響が無いし、至近距離では攻撃しない同僚達も多少怯まされるぐらいで幸いにも飛ばされる者はいなかった様子。

 そのまま空中で制止しつつ、相手が息を吸い込む。

 

 が、ブレスが吐き出される前に背中が爆発し、落ちた。

 それと同時に周囲に小規模な爆発が連続する。

 それらをもろに受け、相手は悲鳴を上げた。

 

 【ライトボウガン】を使っている同僚が、どうも【拡散弾】を使ったらしい。

 それを見たベナトールは称賛の意を示すために一瞬親指を立てた。

 気付いた同僚も同じように親指を立てて答える。

 会話は無かったがそれだけで充分にお互いの意思は伝わった。

 

 そこまでやられて流石に無視出来なくなったのか、【祖龍】はとうとう【ガンナー】達の方へ振り向いた。

 その際に細長い尻尾が鞭のように振られたが、ベナトールは回避していた。

 

 爛々と赤く燃える目でまともに見据えられた三人が竦む。

 

「固まるな馬鹿者!」

 

 ベナトールが注意するのと大規模な電撃ブレスが放たれるのはほぼ同時だった。

 

「ぐあっ!!」

 

 二人はどうにか回避したが、一人が掠められた事による放電で吹っ飛ぶ。

 

「おいっ!?」

 

 ベナトールが慌てて駆け寄ると、彼は泡を吹いて痙攣していた。

 

 まずい!

 

 彼はそう思った。

 恐らく電撃のショックで心臓が止まっている。

 直ちに心臓マッサージを施さないと助からない。

 

「すまん一旦兵舎に運ぶ!」

 ベナトールはそう言い残して【モドリ玉】を使った。

 

 

 兵舎に設えた簡易ベッドに同僚を寝かせ、慌てて【レジスト】を脱がす。

 念のために頸動脈に触ってみたが、やはり鼓動は確認出来なかった。

 

 そこで心臓マッサージを施しながら、人工呼吸も行う。

 【キャップ】は顔を覆うタイプになっていない事が多いため、そのまま息を吹き込んだ。

 

 今現在二人の同僚が【祖龍】と闘っている事になってしまっている。

 【ガンナー】とはいえこの者のように、ブレスや雷撃などに当たると再び犠牲者が出兼ねない。

 少しでも早く参戦せねばと焦ったが、かと言って蘇生を疎かには出来ない。

 

 しかし彼らとて【ギルドナイツ】である。一般的なハンターとは桁違いの能力があるのだ。

 だから同僚を信じてこちらはこちらで頑張った。

 

    

「…………」

 

 僅かに息を吹き返した同僚を見て蘇生を止め、少し様子を見てみる。

 一応自力で呼吸を始めたので、安堵する。

 

「聞こえるか?」

 そう聞いてみるとピクリと瞼を動かし、薄目を開けた。

 

「……オレ、は……」

 【生命の粉塵】を掛けるとぼうっとした表情で漏らす。

 

「覚えてないか? ブレスが掠ったのだ」

「そう、か……。避け損ねた……のか……」

「まぁ規模がでけぇからなぁ。放電の端に当たったんだろう」

 

 そこまで聞いた同僚は、ハッとして「あいつらは!?」と起き上がろうとした。

 

「無事だ。まだ起きん方が良い」

 

 寝かそうとしたが「二人は闘ってんだろ!?」と押し退けようとする。

 

「そうだがあいつらを信じろ。お前も含めてそうそうヘマをするようなものじゃないだろう? 俺らはな」

 

 その時、【祖龍】の悲痛な叫び声がした。

 

 それを聞いて「……そうだな……」と彼は目を閉じ、「悪いけど少し休むわ……」と言った。

 

「おう。そうしろ」

 ベナトールはそう言い残して兵舎を出た。

 

 

 外に出ると【祖龍】は移動しており、兵舎のある建物とは反対側の広場にいた。

 やはり二人が活躍してくれていたようで、既に翼がボロボロになっていた。

 

「離れてすまん」

 

 そう言いながら参戦し、彼の無事を伝える。

 二人はホッと息を吐いた。

 

 正面に回って頭を攻撃したベナトールは、弾かれた。

 それで硬化が始まった事を知る。

 

 【紅龍】【祖龍】は怒り段階なのかそれとも残り体力の関係なのか体全体が硬質化する事がある。

 こうなってしまえば【剣士】は太刀打ち出来なくなってしまう。

 何故ならどんなに切れ味の良い武器だろうが〈切れ味+1〉を発動させていようがまったく刃が通らなくなってしまうからである。

 なので【剣士】は弾かれ覚悟で攻撃し続けるか、【ガンナー】に任せるしか手が無い。

 

 ベナトールは、攻撃する方を選んだ。

 

「無理するな!」

「俺らに任せておけ!」

 

 同僚からはそんな声が飛んだが、何もせずにただ硬化が解けるのを待つ事を彼は良しとしなかった。

 弾かれる事で隙が出来るのだが、その隙に攻撃される事は回避する。

 それを当たり前のようにこなすのを見た同僚は、ただ呆れていた。

 

 その内休んでいた者も参戦して来て、怯む事も多くなった。

 

 

 弱った【ミラボレアス】は飛びやすい。

 が、翼をはためかせる度に無数に矢と【拡散弾】が突き刺さり、飛ぶ事を許してもらえない。

 硬化する前に角を折っていたベナトールは、硬化しても強引に溜め攻撃を叩き込み、とうとう片目が潰れた。

 

 胸辺りと目から角にかけてを赤く染め、怒りに任せるように【祖龍】は吠えた。

 体全体からバチバチと赤い放電を始めた相手は雷撃を撒き散らせ始めた。

 

 だが、それすらも四人は躱している。

 

 恐怖が消えた訳では当然無い。

 むしろ相手が怒った事で更に恐怖が増し、一瞬で全員が即死するのではないかという絶望感が支配していた。

 

 しかしそれでも彼らは無理にでも恐怖を押し殺し、背中に嫌な汗を流しながらも闘い続けた。

 心臓が鷲掴まれ、そのまま握り潰されるのではないかと思う程の苦しさを味わいながら。

 一瞬でも止まったらきっとそのまま凍り付いてしまう。

 なので『止まるな! 動け!』と念じながら、例えダメージを負っても体を動かし続けた。

 

 

 

 それは【拡散弾】が引き金だったのだろうか。

 それともベナトールの【極ノ型】が決まったからだろうか。

 とにかく強力な攻撃が決まったその時、【祖龍】は空を仰いで苦し気な悲鳴を上げた。

 そしてそのまま、力無く倒れて行った。

 

 突然の地響きと土煙が上がり、それが消えた時、もう動かなくなった【祖龍】が横たわっていた。

 

 しばしの沈黙の後雄叫びを上げた四人は、お互いに声が出なくなるまで吠え続けていたという。

 

 

 

 

 

 




「祖龍」の話は「祖なるもの(第120話)」でも書いていますが、多分この「祖龍」はこの時の「彼女」ではないと思います。

あ、ハンターの間で呼ばれている通称「ミラルーツ」というのは防具の名前であり、ギルドでは「黒龍」「紅龍」「祖龍」は全て「ミラボレアス」として定義しているものなので、ここでは「ミラボレアス」という表記にしております。
ハンターの間で区別を付けるために便宜上「ミラルーツ」と呼ばれるようになっただけなので。

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