今日も元気にメゼポルタ広場からお届けします。【完結】 作:沙希斗
今年も恐らく配信されるのでしょうが、大抵十月の終わりごろか十一月の始めあたりに始まる様なので去年(2018年11月8日)書いたものを先に投稿しておきます。
挿絵もその時に撮影したものです。
依頼主及びそのセリフ、クエスト内容などは公式サイトと実際にやったものに沿っています。
少し長め(五千字超え)です。
「今年も奇面族たちが暴れまわる季節がやってきたニャ」
【メゼポルタ広場】を徘徊している【怪しいネコ】が、ふと立ち止まって呟いた。
【彼ら】は時折広場で見掛ける【アイルー】で、何をするでも無く現れてはそこを行き来する人々にちょっかいを掛けてみたり、話し掛けた者に秘密の情報を話してみたりしていた。
どこから仕入れて来たかも分からない情報は、素材などのアイテムから【モンスター】の弱点、ハンターの使う武器種についてなど多岐に渡り、明らかに胡散臭いものもあったが中には的確なものもあったりするのでたまに聞いてみると面白かった。
「奇面族って、【チャチャブー】の事よね?」
たまたま近くを歩いていてその呟きが聞こえたハナは、そのネコに聞いた。
「その通りニャ」
話し掛けてくれた事が嬉しかったのだろう。
【彼】はそう言って得意気に情報を提示し始めた。
「ヤツらは最近、とおりかかるハンターに『かくれんぼ』勝負を挑んでいるそうニャ」
「かくれんぼぉ!?」
素っ頓狂な声を上げるハナ。
【彼ら】にもそんな遊びが浸透したのかと思ったからだ。
「うニャ」
【怪しいネコ】は頷くと、「ヤツらはどうやらかくれんぼ対決の挑戦者を待っているようニャ」と言った。
「かくれんぼって、対決するようなものかなぁ……」
「仲間の情報によると奇面族を一定数討伐すれば閉ざされた道が開いて『かくれんぼキング』と謁見できるらしいニャ」
「なにそれぇ」
可笑しかったが、ハナはなんだか面白そうとも思った。
「かくれんぼキング……いい響きニャ」
【彼】は憧れるような表情をすると、「頑張るニャ」と去って行った。
「……。で、何で俺に頼む訳?」
人の家に唐突にやって来たと思ったら【怪しいネコ】から聞いた話をし始めたハナに、いつものように嫌悪感丸出しのような顔でアルバストゥルは聞いた。
「だって、相手は【チャチャブー】なのよ? しかも話によると一定数討伐しないといけないらしいじゃない。そんなの私一人で出来ると思う?」
「んなこた知るかよ。ってか、あいつはどうしたよあいつは」
「カイよりあんたの方が頑丈だからあんたに頼みに来たに決まってるでしょ、【チャチャブー】の攻撃力で集団攻撃されたら、あの人死んじゃうじゃないのよ」
「まぁ、確かにあいつは打たれ弱ぇけどもなぁ……」
「でしょ? 分かってんなら付き合いなさいよ」
「いやもう一人はよ? 殺しても死なねぇのがいるだろうがよ」
「ベナがいなかったからここに来たんだもん」
「かくれんぼみてぇなガキの遊びに付き合ってられっかよ。しかも対決だと? くっだらねぇ」
「そんな事言わずに、付き合ってあげたら?」
「そうですにゃ、付き合いの悪い旦那さんはモテませんにゃ」
「おめぇら余計な事言ってんじゃねぇよ。ってか、大きなお世話だっつの」
「良いじゃないの、対決して勝ったら王様と謁見出来るんでしょ? 凄い事じゃない」
「おいレイン、おめぇ【チャチャブー】の怖さ知ってんだろぉ? あんときゃそれ程いなかったからあんくれぇの傷で済んだが、今度は医務室から連絡来ても知らんからな」
「あなたがそんなヘマする訳ないじゃない」
「信じられてるって、凄い事よねぇ。羨ましい」
「褒めても行ってやんねぇからな」
「意地悪してないで、行ってらっしゃい♪」
「行ってらっしゃいませにゃ♪」
「理解が良い奥様で良かったね、アレク♪」
「いやまだ結婚してねぇし!」
そんなこんなで【密林】まで付き合わされたアルバストゥルは、とにかく各エリアで【チャチャブー】を探す事にした。
が、やはり『かくれんぼ』というだけあって、堂々と姿を現している奴は一匹もいなかった。
といっても普段もキノコなどに擬態してはいきなり飛び出し、時折採取のために近付く者を驚かせたりしていたのでかくれんぼというならそうやって隠れているのだろうと彼は見当を付けていた。
擬態を見付けやすく、また【キングチャチャブー】を出現させる条件を満たすためにも利用される《6》のキノコに近付いた時の事。
案の定ほんの少しだけ大きく、微妙に色の違うキノコが動き出し、下から【チャチャブー】が飛び出した。
「うぇっ、数多くねぇか!?」
いつもはせいぜい一匹ぐらいなのに一気に三匹飛び出したのを見て、彼は少し面食らった。
「いったぁいっ!」
その背後でそんな声が上がったので振り向くと、別の場所のキノコから、やはり三匹程飛び出して来た勢いでハナが尻餅を付いていた。
途端にキィキィ言いながら折れたり錆びたりしたような刃物を振り回し、向かって来る。
「うるせぇな!」
それをなるべく纏めるように、巻き込みながら攻撃する。
ちなみに彼が「うるせぇ」と言ったのは【彼ら】に対してでなく、後ろできゃあきゃあ言いながら攻撃しているハナに対してである。
やっつけられて潜ったので残った奇面から何か特別なものでも取れるかと剥ぎ取ってみたが、こちらは変わらず【ホピ酒】などが取れるだけだった。
単にハンターと『かくれんぼ』を楽しみたかっただけらしい。
再び同じ場所で擬態している事もあるので一応出入りしてみたが、今度は一度きりでもう出ては来なかった。
見付かったら他を探せという事らしい。
そうやって探しながら、見付けたものをやっつけながら周っていると、《3》の地形が少し変わっているのに気が付いた。
離れ小島の《10》へ行く浅瀬に大きく土を盛り上げて、渡れないようにしてあったからである。
ここは夜になると水位が上がってどっちみち渡れないようになる所なのだが、今は昼間なので渡れないというのはおかしい。
「ははぁ、あそこにいるんだな……」
一人合点したアルバストゥルの呟きを耳に入れ、「どう言う事?」とハナは聞き返した。
「かくれんぼキングとやらがな、どうも《10》でお待ちかねらしい」
「そうなの? でもこれじゃ渡れないじゃない」
「ネコの話聞いてたのおめぇだろがよ。何て言ってたか言ってみろ」
「ええっと……。『一定数討伐すれば閉ざされた道が開く』って」
「そういうこった」
「だからどういう事よぉ」
「頭の回転どんだけ鈍いんだおめぇは。要は隠れてる奴を片っ端からやっつけてたらあの通せんぼは消えるってこったよ!」
「そんな怒鳴らなくたっていいじゃないっ」
「おめぇが鈍いからだろぉ!? ……ったく、とにかくサッサと探してやっつけんぞ」
「分かったわよっ。あぁもぉ置いて行かないでよぉ!」
そうやって十匹ぐらい倒したろうか。
そろそろ良いだろうと《3》へ行ってみると、やはり渡れるようになっていた。
「よくこんな短時間でどけられたわよね」
感心して言うハナ。
「まぁちっせぇ割には馬鹿力あっからなぁ。集団でやればあんだけの土を盛り上げるのも退けるのも簡単なんだろうぜ」
「攻撃力もバカにならないもんねぇ」
「さて、御拝謁賜りますか。王様とやらによ」
冗談めかして浅瀬を渡って行く彼に、「そうね」と返してハナも付いて行った。
《10》に入ると正面で、火の点いた【肉焼き機】を頭に乗せた【チャチャブー】が待っていた。
要するに【キングチャチャブー】である。
「御拝謁賜り、恐悦至極……」
わざとそんな事を言いながらかしづこうとしたアルバストゥルは、しかし次の瞬間屈めていた体をそのままバネにして背から【大剣】を外しつつ振り上げた。
斬り飛ばされて絶命した【キングチャチャブー】を見て、初めてハナは周りの現状を知る。
いつの間にか、有り得ない程の数の【チャチャブー】に囲まれていたからである。
「きゃあああぁ!!!」
「目を閉じろハナ!!」
ハナの悲鳴とアルバストゥルの叫び声が重なる。
それに遅れて辺り全体を覆うように閃光が閃いた。
彼が【閃光玉】を投げたからである。
間に合わなかったハナには彼の命令は意味が無かったが、偶然にも手で目を覆っていた形になっていたために目晦ましを受けずに済む。
「だりゃああぁっ!!!」
閃光の名残りがまだ残っている空間を雄叫びが切り裂いて、アルバストゥルが【大剣】を横に薙いだ。
それだけで何匹かが纏めて切り裂かれた。
彼の動きは当然それだけでは止まらず、目晦ましになっているもののみならず、閃光を見ていなかったがためにそのまま向かって来た数匹も、次々に【大剣】の餌食になっていった。
それでもその猛攻から逃れたものが四方八方から攻めて来たが、彼は自身に食い込む刃をものともせずに吠えながら闘っていた。
ハナはその凄まじさに戦慄すら感じたが、こちらもなるべく範囲の広い攻撃で視界を奪われているものから攻めて行った。
それでも閃光から逃れたものがあちこちから向かって来るので、自分の【閃光玉】を追加したりして、何とか凌いだ。
アルバストゥルはもう【閃光玉】はハナに任せるとでもいうように、自身は投げずに攻撃のみに集中している。
【モンスター】には自分もしくは群れにとって脅威と見たものを、より集中的に攻撃する性質がある。
当然【チャチャブー】もそうであり、【彼ら】はハナよりもアルバストゥルの方に攻撃を集中していた。
なぜなら戦闘力の差が歴然だったからである。
なので、アルバストゥルはハナとは比べられない程の数を自分一人で引き付けて闘う形になっていた。
粗方蹴散らした頃、敵わないと思ったのか残ったものが全部潜った事で、一気に静寂が訪れる。
「……。終わった……のか?」
「そう、みたいね……」
肩で息をしながらハナが答えると、アルバストゥルはぐらりと体を傾け、倒れた。
「アレク!?」
慌てて駆け寄ったハナは、彼の身体の至る所に深い傷が刻まれているのを見て息を飲んだ。
彼は、仰向けの状態で苦し気に大きく胸を波打たせている。
「やだしっかりして!?」
慌ててポーチを弄ろうとしたが、彼は手を上げて制止した。
「……大丈夫……。力が、抜けた……だけだ……」
「大丈夫なわけないじゃないっ!」
「……死ぬような、傷じゃねぇ……」
そうは言っても地面には血が広がり続けている。
「早く回復しないと!」
ハナは【回復薬】を、鎧の上から彼の身体に掛けた。
〈広域化+2〉のスキルで強化されているので、直に付けなくても回復アイテムの効果が出るからである。
呻きつつ、荒い息を吐いていたアルバストゥルは、囁くようにこう言った。
「……少し、寝るわ……」
そして、そのまま気を失った。
【クエストクリア】の連絡を受けて迎えに来た【ギルド職員】は、意識の無い彼を見て一瞬死んでいるのかと狼狽した。
それ程酷い傷を負っていたからである。
だが【街】に帰るまでの【竜車】の中で治療を続けていたハナによって意識を取り戻し、報酬を貰う頃には自力で動けるまでにはなっていた。
ちなみに報酬はというと、【チャチャブー】を模した【双剣】【大剣】【太刀】【ランス】【狩猟笛】【ヘビィボウガン】の生産素材と防具であった。
これは毎年の恒例で行われる【ハロウィン】という催し物の、今までのイベントクエストで貰えていた報酬を纏めたものであった。
毎年同じ物では芸が無いというので、今年は【双剣】が新たに作れるようになったんだとか。
【ハンターズギルド】が初めてこの催しを手掛けた頃から参加した事のあるアルバストゥルは、その時に貰った生産素材で【大剣】を作っていた。
なので他の武器の素材はいらないと思っていたため、今回も貰ってそのまま【アイテムボックス】の肥やしにしてしまった。
「私は【双剣】を作ろっと」
そう呟いて【武具工房】に向かったハナは、出来た【双剣(奇王双)】と防具を見て良い事を思い付いた。
「ねぇアレク、あんた防具も作ってるんだよね?」
待つように言われて工房外で待っていたアルバストゥルは、そう聞かれて「いんや」と答えた。
「防具は作ってねぇよ。素材は揃ってっけどな」
「じゃあ作ってよ」
「何でだよ、どうせ倉庫の肥やしになるだけだぜ? 俺あんなもん着ねぇし」
「いいのっ。良い事考えたんだから」
その後もすったもんだ言っていたアルバストゥルだったが、結局作らされて渋々それを着る。
「【大剣】も装備しといてね」と言われ、しばらく使っていなかったがためにたまたま工房に預けていたチャチャブー大剣【奇王剣(悪戯)】を装備すると、ハナもチャチャブー防具【チャチャブ】シリーズと【奇王双】を装備した。
これで二人の外見はカボチャパンツを履いたチャチャブーお化けのようになった。
ただしハナは奇面頭ではなく、御伽話に出て来る【魔女】の被るような、つばがあって先の尖った紫色の帽子を被っていた。
(どうやら女性用はこちらの方も選べるらしかった)
そしてその恰好でアルバストゥルの家に行き――。
「トリック、オア、トリート!」
出て来たレインにそう言ったハナは、二人を見て目を真ん丸にしてから大笑いし始めた彼女にしてやったりという顔をした。
「きゃははは! な、何でアレクまでそんな恰好してるのぉ? お、お腹痛いぃ」
「うるせぇな。付き合わされたんだよっ」
「ね? ね? 可笑しいでしょ!?」
「にゃはははは! だだ旦那さんが【チャチャブー】になってますにゃ、カボチャお化けですにゃ!」
「だからこの防具作んの嫌だったんだよ!」
「期間限定でこの時期になると着てるハンターいるんだし、いいじゃん」
「……。まぁ、スキル的には採取用として使えなくはねぇが……」
「……。とうとう【チャチャブー】に仲間入りしたか……」
突如そんな呆れ声がして、玄関からのしりと大男が入って来た。
「おおオッサン!? い、いやこれはだな――」
慌てて取り繕うとしたアルバストゥルだったが、「わははは! カボチャお化けがいるぅ!」と大笑いしながら入って来たカイに台無しにされた。
「何でてめぇらまで来てんだよ?」
「あら言わなかった? ハロウィンパーティーをするのに呼んだのよ」
「俺まったく聞いてねぇんだが?」
「そうだっけ?」
レインが彼に相談なしで仲間を呼ぶのはしょっちゅうだったので、「……。まぁ良いや」と諦め気味に答える。
「そろそろこれ脱いでも良いか?」
「ダメっ!」
「だぁめっ! 今日一日はそのままね」
女二人に言われたアルバストゥルは、溜息を付きつつそれでも従ったのだった。
「怪しいネコ」の図↓
【挿絵表示】
話の中では「閃光玉」を使ってますが、実際のクエストでは持参忘れで無しで闘ってました。
すんげぇ痛かったです(涙)
あ、「チャチャブーの怖さを知っている」がどうのという下りは、「命懸けの救出劇(第211話)」を参照して下さい。